【感想・ネタバレ】俘虜記のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年08月31日

敗北がもたらす堕落を端的に示した作品で,まさに戦後文学を代表するものと言える。これぞ去勢だなと。後半になるにつれてユーモアが増して弛緩していくにつれ,前半の不殺のテーマが張り詰めるといった構成を感じた。

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Posted by ブクログ 2023年07月11日

太平洋戦争。フィリピンのミンドロ島へ出兵した筆者。そこで米軍に捉えられ捕虜となる。その体験を記した本書。殺せたはずのアメリカ兵をなぜ撃たなかったのか?なぜ自殺ができなかったのか?その問いをつぶさに、自分自身にぶつける誠実な手記。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2017年09月20日

 戦争を内から見つめた文学。渦中にいた著者が見た、「戦争」とは。読み始めるのが少し怖かったけど、意外なことに、凄惨な描写はほとんどない。どこまでも冷静な筆致で、主に俘虜収容所で考察した日本社会、現代の文明に関する批評が書かれている。

 この本は、大きく捉まるまでと捉まったあとに分けることができる。...続きを読む
 捉まるまでの情景や心理描写は、戦場で紙とペンを持っていたわけではないだろうから、彼の記憶によってのみ書かれたものだ。しかし、その生々しさはズシンとくる。死につきまとわれると、人はどうなるのか。目の前の米兵を打たなかった心理。緊迫感を持ってページを繰り続けた。
 捉まったあと、つまり俘虜になってからは、一気に弛緩する。豊かな国アメリカの俘虜になるということは、毎日2700kcalの食事をとり、煙草を喫み、博打に興じ、文化・芸術を求め、同性愛者においては自己を主張できるということだ。不正はあっても犯罪はない。このような生活で著者は、人間を、日本社会を、戦争を指揮した軍人を、現代の文明を静かに見つめている。頭の良さに感服してしまう。
 これこそ次世代に読み継がれるべき本なのでは。今の社会のおかしさを考える上でも、この本のどこかにヒントがある気がする。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2017年08月07日

また新たな視点で「戦争」についての示唆を得られた1冊。

「米軍が俘虜に自国の兵士と同じ被服と食糧を与えたのは、必ずしも温情のみではない。それはルソー以来の人権の思想に基く赤十字の精神というものである。人権の自覚に薄い日本人がこれを理解しなかったのは当然といえば当然であるが、しかし俘虜の位置から見れ...続きを読むば、赤十字の精神自体かなり人を当惑さすものがあるのは事実である」(p80)

「天皇制の経済的基礎とか、人間天皇の笑顔とかいう高遠な問題は私にはわからないが、俘虜の生物学的感情から推せば、8月11日から14日まで四日間に、無意味に死んだ人達の霊にかけても、天皇の存在は有害である」(p323)

「我々にとっての日本降伏の日附は八月十五日ではなく、八月十日であった」(p323)

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Posted by ブクログ 2015年07月18日

大岡昇平さんの小説はテレビドラマを見て読んだ「事件」以来かな。俘虜の心理を自ら分析してみせるくだりが秀逸です。俘虜となってから日本に帰るまでが描かれているのでけっして楽しい展開ではありませんが、戦時中の日本人の考え方など理解できました。

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Posted by ブクログ 2015年04月15日

『野火』以来の大岡作品を読もうと思って本作をチョイスしたら、結果的に戦後70年にふさわしい読書となった。まずはこのタイミングで読めたことを喜びたい。さて、肝腎の内容についても、もちろん優れているのだが、なかでも白眉は冒頭の「捉まるまで」。著者が米兵と遭遇し、なぜ銃を撃たなかったかについて冷静に考察し...続きを読むている。もちろんのちほど「潤色」した部分も多少はあるのだろうけど、戦時下の前線において、生死のはざまを前にして繰り広げられる「哲学」には、月並だが考えさせられるものがある。その他の部分も示唆的な内容に満ちていて、あまり注目されにくい俘虜というものの存在について、あるいはもっと広く日本人というものについて、そのすべてを浮き彫りにしている。負けたのもさもありなんという気がする。また、単なる文学としてのみならず、貴重な戦争の資料としても眼を瞠るべき部分は多い。捕虜の扱いはハーグ陸戦条約で明確に定められているが、そのことについて触れたくだりもあって、当時からすでにそのことが意識されていた――つまり、それに背く扱いがなされた場合は、意図的に条約を無視していた――ことがわかるし、また、いまだに論争のやまぬ「南京事件」についても、もちろんそれをメインに描いた小説ではないから多くは語られていないが、南京占領のさいに旧日本軍においてなにかしらの残虐な行為があったという記述もあり、この時期ですでにそういうウワサが広まっていたことを考えると、ネトウヨの一部にみられるような事実無根という主張は無理筋であることもわかる。わたしはふだんから歴史認識問題についてもある程度関心があるので、その点からいっても本作を読むことができてとてもよかったと思う。

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Posted by ブクログ 2013年08月09日

著者がフィリピン・ミンドロ島で従軍し、収容所で日々を過ごした頃の記録。
鋭い人間観察と心理描写。
緊迫した塀の外とは裏腹にコミカルに描かれる収容所内部の様子。
多彩な人物が織り成す一種の密室劇は純粋に面白く、ページをめくる手が止まらなかった。
一小隊が飢えのあまりにフィリピン人を撃って喰おうとして、...続きを読む逆にアルミ缶をドンドン叩かれて集まった仲間にグルグル巻きにされて米軍に突き出されるシーンと、田辺哲学を信奉する学生との煙草の箱をめぐるやり取りが特に好き。
あと自ら投降した兵士達のエピソードの数々。

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Posted by ブクログ 2010年08月01日

久々にものすごく時間をかけて読みました。

戦場での強姦に関する場面など(従軍看護婦なのに実際は従軍慰安婦という感じの、ということや)は正直吐き気がしましたが。

うまく感想がいえません。こういう戦争モノを読むと何も言えません。

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Posted by ブクログ 2009年10月04日

これは小説?「野火」の方が有名な気がするし、野火の方が小説らしい形。でも、私には俘虜記の後になぜわざわざ野火を書いたのか分からない。文体も内容も完成度が高いと思う。いや、ぜんぜん別物なのかもしれないが・・・。

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Posted by ブクログ 2022年12月10日

戦争文学の傑作。
戦争の最中に起きた筆者自身の心情や自分の行動を緻密に分析、客観視している。
 本書の特徴は筆者の冷静さである。感情的な言葉で表せられることが多い戦争の事実や心情を彼は冷静に見つめ直し、表現している。
 私のような戦争未経験者が戦争に触れるとき、"必ずしも"激しい...続きを読む怒りや悲しみを感じるわけではない。「直接経験していない」ことが常に我々に一定の冷静さを与える。本書における筆者の態度は戦争の悲惨さに対してある程度冷静にならざるおえない私の心情に近く、それが本書を読みやすくしている。激情や悲しみ、怒りを伴わずとも我々は置いてけぼりを食らわなくて済む。

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Posted by ブクログ 2022年01月25日

太平洋戦争後に"戦後派"と呼ばれる作家が登場しました。
その内、一般的に、戦争体験を通して感じたことや、その意味を論じる文学者たちを第一次戦後派と呼び、戦争体験如何に依らず、戦前の文士たちによって培われた小説技巧を昇華させ、新たな手法を取り入れることで優れた小説を生み出していった...続きを読む作家たちを第二次戦時派と呼びます。

大岡昇平氏は、第二次戦時派として真っ先に挙げられる作家だと思います。
本作『俘虜記』は、氏の戦争体験を元に書かれており、小説というよりも体験記に近い内容です。
ただ、他の戦争小説とは異なり、戦争の理不尽の中に置かれた人間の感情吐露などの批判や訴えかけを行っているものではなく、ユーモラスでシニカルな内容になっています。
文章は堅苦しくなく、読者に読んでもらうことを念頭に書いているような感じがありました。
今の大衆小説に通じるサービス精神のようなものが感じられ、そういったところが第二次戦時派として第一次と分けられる部分だと思います。

米軍俘虜(=捕虜)になった主人公・大岡が、俘虜収容所の様子を思うままに書いたような作品です。
大岡は比島のミンドロ島で作戦行動中、米軍兵士に捉えられ、俘虜として連行されます。
米軍の姿は大岡が先に見つけていたのですが、彼を撃たなかったことに関する心情描写がリアルで是非読んでいただきたい箇所です。
その後、マラリア治療のため野戦病院に入り、俘虜収容所で同じように連行された俘虜たちとの生活が描かれます。
そこでの生活は制限された食事、虐待に近い米軍兵士の扱い、病に冒されても治療はされず、生きたまま腐っていく仲間たちの姿が待っている、わけではなく、条約に基づいて丁重に扱われた、それなりに人間らしい日々が描かれるものとなっています。

戦争文学というと、生き地獄のような行軍や、銃弾行き交う凄まじい戦場を駆け巡る戦争ドラマを想像しますが、本作で描かれるのは、食事は残飯が出るほど与えられ、俘虜にも仕事を与えられ給金も発生し、芸術も培われや遊戯も行われる、想像していた戦争中とはちょっと違う内容です。
これはこれで一つの真実だと思いましたが、戦争が終了した後とはいえ、この内容を出版するのは大胆というか、当時、批判があったんだろうなと思いました。
ただ、切り取られた空間に押し込められた人々の本来の姿があぶり出されていて、文明批判のようなものを感じました。
また、作中の大岡は戦争に負けることはもはや自明であると途中で考えていて、天皇制に対する思いのようなものも書かれています。
そういった点で、広く一般的に読みやすい小説でありながら、これからの社会の旗振りを担おうとする、第二次戦後派の文学的傾向が感じられます。

俘虜になってから日本へ帰るまでの、大岡昇平が経験したタイトル通りの"俘虜記"が、装飾されずに淡々と詳細に書かれています。
結構厚く、通読には根気が必要と思いますが、戦争ものとして紛うこと無き名作です。

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Posted by ブクログ 2020年03月24日

戦争に関する著書は、ノンフィクション、小説問わず数多くある。特に第二次世界大戦(太平洋戦争)に関する本は、星の数ほどあるだろう。その戦争の意義や勝敗の意味、その後の社会に与えた影響を分析する著作も枚挙にいとまがない。では、それらの著作の中で、戦争の最中に敵軍の俘虜となり、虜囚として過ごした日々を克明...続きを読むに著したものがどれほどあるだろう。

戦いの記録は山ほどあり、我々はそれらによって日本も諸外国もいかに苛烈を極めた戦闘を繰り広げてきたかということを程度の差こそあれ知っている。だが、翻ってみると、戦争で捉われの身となった俘虜が収容所でどんな生活を送ったのか、ということについては意外なほど無知である。

著者がいうように、俘虜という身分はもはや「兵士」ではない。不謹慎を承知の上で戦争をゲームと例えるならば、俘虜はすでにゲームオーバーとなったプレーヤーが、ゲームそのものが終了するのを待つ身ということになるだろう。捉えられ、閑暇を貪る身となった者たちの日常を描く作品が極端に少ないのも、そう考えれば当然と言える。

俘虜となった者たちにも、しかしながら等しく日常は存在する。戦闘に明け暮れる兵士たちの日常がすなわち戦争であるが、俘虜となりもはや戦争への参加を許されない身分となった者たちが、ただひたすらに戦争が終わり、帰還できる日を待ちわびる日常もあるのだということを、『俘虜記』は教えてくれる。

俘虜の一人に大岡昇平という人物がいたことの幸運を、我々は喜ぶべきかもしれない。大岡氏は俘虜という閑暇に満ちた生活を、冷徹に観察し、つぶさに記憶し、静謐に描いたのだから。こうして内部に身を置いた者以外にはほとんど知り得ない俘虜の生活が、本作によって詳らかにされたのである。米軍以外の俘虜となったり、他の収容所に幽閉されたりすることでの違いはあっただろう。それでも、俘虜の生活という一見怠惰にも見える日常を生きいきと、克明に描き、その中から米軍と日本軍の、つまりは米国と日本の(当時の)考え方の違いは浮き彫りになる。

大岡氏はさらに、俘虜の生活を描く中に、自身の省察を挟み込む。例えば俘虜生活の観察を通して、日米の違いを感じ取り、日本軍の敗戦について確信に近い予感を得ていた。俘虜となった絶望、あるいは怠惰に流された生活を送っていただけでは、これらの洞察は得られない。虜囚の身となりながらも、自己を含めたあらゆるものを客観視して、分析できる冷静さを備えていた大岡昇平に対して、だから私は快哉を叫びたい。

抑制の効いた文章は、ドラマティックな展開を期待することなどできようはずもない俘虜の生活がテーマゆえ、時に退屈を感じる人もいるだろう。それでも、「俘虜」という戦争がある以上、おそらく永遠に残り続ける身分とその生活をつぶさに記録した作品として、『俘虜記』を読むことは貴重な経験となったと思う。

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Posted by ブクログ 2019年09月17日

◯俘虜の時代の生活を通して、当時の日本社会を風刺、と解説にあるが、俘虜の生活自体が風刺を意図としたフィクションなのかと考えた。
◯しかし、およそフィクションとは思えず、といって著者の実体験を基にした、記憶を思い起こした記録と考えても、想像していた俘虜の生活とは異なるものであることに驚かされた。
◯俘...続きを読む虜になるまでの極限状態と思考は、野火でも見られるように、その客観的な描写により真に迫る。
◯そこから場面が変わって俘虜の生活に入ると、その生活に慣れていくように、徐々に俘虜ということを忘れさせるように、一種モラトリアムな生活が見えてくる。殺されない限りはとにかく野性的に自然に見える。当然ながら、我々の生活とも全然異なっている。
◯それは戦時下の、ともすれば命を脅かされる異常な緊張から、突然解放された人間集団だからなのだろうか。

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Posted by ブクログ 2017年11月09日

長い…とにかく長かった。
それに加えて記録を語るのが敗戦色濃厚となった頃にかき集められた年嵩のいった補充兵なのだから軍隊特有の昂りも荒ぶりもなくまるで傍観者のような目線であり読んでいても退屈極まりない。
個人的には「捉まるまで」だけで十分だと思うのだが当時の生きた資料として、そして識者の眼で見詰めた...続きを読む戦争の実態と愚かさを知るためにもやはりこの長さは必要であって耐える読書も決して無駄にはならない。
俘虜の記を通して思うことは兵士とは単なる戦争の道具にしか過ぎないということ…そんなもののために捧げる命とはいったい何なのだろうか

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Posted by ブクログ 2015年05月23日

 太平洋戦争末期、南方で俘虜となった日本軍兵士たちの歪んだ心理状態をつぶさに書いている。

 大岡昇平の著書を読んだことがなかったので、彼の作品の中からこの「俘虜記」を選んでみた。暗号手として任務についていた由である。とにかく大岡氏の学識の豊富さには驚いた。特に外国文学には精通しているようだ。当時一...続きを読む般の兵士で、英語が読め話せるということはかなりのインテリと言っていいだろう。軍隊ではこういう人物が訳の分からない上官からイジメを受けやすいそうだ。俘虜になってからは別だが。

 私の叔父は海軍の航空機の整備兵だったと聞いている。あまり詳しいことはわからないが、やはりガダルカナル方面へ向かう途中、米軍機の爆撃にあって撃沈され帰らぬ人となったという。菩提寺には彼の出征当時の写真が収められており、お盆などお参りに行くたびその写真を見て手を合わせたものだ。だから当時兵隊さんたちは戦場でどんな生活をし、どんなことを考えていたのか知りたいと思っていた。大岡氏はこの作品の中で極めて冷静に周りの俘虜たちを観察し記録している。小説というよりは記録文学である。

 奇しくもちょうど今、NPTの国際会議が開かれ紛糾している。全体会議の合意が出来ないらしい。核保有国と非保有国との足並みが揃わないのだ。日本は唯一の被爆国として、世界のリーダーたちが被爆地を訪問することを明記するよう提案したが、中国の反対で実現しなかった。私はやむを得ないような気もする。

 大岡氏はこの中で面白いことを言っている。原爆投下の報に接した大岡が驚いたのは、原子爆弾という新しい兵器の登場であり、しかもそれがあまりにも破壊的であったからだと書いている。しかし反面「戦争の悲惨は人間が不本意ながら死なねばならぬという一言に尽き、その死に方は問題ではない。」とも言っている。

 私も概ね同様に考える。確かに原爆により亡くなった広島、長崎の人々は大変気の毒だが、例えば東京大空襲で亡くなった東京市民とはどんな違いがあるのだろう。亡くなった人にしてみれば、大岡の言うように死に方は問題ではないのかもしれない。

 核兵器は無くして欲しい代物だが、現実問題として可能なのだろうか。これまでのように広島、長崎に固執した感情論は世界ではもはや通用しないのではないのか。悲しいが中国には日本は戦争の被害国ではないと言われる始末だ。

 もう一つどうしても記しておきたい。それは、もし飢えたら人肉を喰うかという問題である。ある一人の上官がそんな提案をしたそうだが、結局大岡の部隊は幸い最後までそんなシチュエーションにはならなかった。だから大岡はそんなことはなかっただろうと思っている。

 しかし最近でも山中に墜落した旅客機の生き残った乗客たちが、亡くなった他の乗客の肉を喰って飢えを凌いだという噂があった。また昔の中国では人喰い風習が実際にあったらしく、これについては魯迅も書いているし、有名な小説水滸伝には度々人を喰う場面が登場する。博学な大岡はそんなこと百も承知だろうが、人喰いなんて想像もしたくなかったのに違いない。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2015年02月21日

収容所における俘虜の営みを冷徹な目で観察し、その観察が思考を支えている。また、装飾を排した硬質の文体が観察という行為には相応しい。著者は日本の新聞社が在外俘虜のために作った四つ切版の新聞で「我々は今度の戦争が「敗戦」したのではなく「終戦」したのであり、その結果日本に上陸した外国の軍隊が「占領軍」では...続きを読むなく「進駐軍」であることを知った。」と語ることにより、事実の隠蔽と曲解を暗に非難しているのだ。日本の戦後はまさにこの隠蔽と曲解からスタートしたのだ。

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Posted by ブクログ 2013年02月25日

とても客観的に戦争、そして俘虜というものを論じている一冊。生と死の間で、ここまで冷静に客観的に自分を見つめていることに驚いた。
そして、さらに著者が俘虜と言う立場に置かれてからの人間観察。目上の者に阿諛し、目下の者にはえらそうに振舞う人。男ばかりの収容所で女形を演じるようになった俘虜。米雑誌を見てい...続きを読むたためか、日本人女性の姿に魅力を感じなくなっていた自分。
戦後に生まれた私には計り知れないことばかりだけれど、この本を読んだことで、俘虜と言うものに対する考えがいい意味でも悪い意味でも少し変わった気がする。

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Posted by ブクログ 2012年01月26日

冒頭の「捉まるまで」を読み、その余りにも緻密で分析的な文体...
まったく新鮮な感覚。

今までに読んだ小説とは明らかに違った文体で、どちらかと言えばノフィクションや思想書的な感じにも思えました。

大岡昇平さんは、大戦末期の昭和19年にフィリピン・ミンドロ島の戦地へ送られます。

そして米軍の俘虜...続きを読むとなり、収容所で約一年間過ごすことになる...

本書はその収容所での体験記が大部分を占めていますが、そこでは私達がイメージする収容所の過酷さや悲惨さは殆んど無い。

俘虜には、十分過ぎる量の食事を与えられたために次第に肥えていき、喫煙しないものにも配給される煙草を賭博に用いたり、干しブドウから酒を密造したり米軍の物資を盗んで貯め込んだりしている。


そういった俘虜達の強かさや堕落した姿がリアルに描かれています。


読後、著者はいったい何を一番伝えたかったのだろう...
俘虜生活の実態?
戦争の悲惨さ?
軍隊の不条理?
通訳として米軍と俘虜の間に入った辛さ?


それらの事もあるのでしょうが、やはり一番は『俘虜という状態が彼らに与えたものが解放後もなお、彼らを支配しているのではないかという指摘』だと思います。

これはあとがきによれば俘虜収容所の事実をかりて、占領下の社会を諷刺するという意図もあったようである。

「我々にとって戦場には別に新しいものはなかったが、収容所にはたしかに新しいものがあった。第一周囲には柵があり中にはPXがあった。戦場から我々には何も残らなかったが、俘虜生活からは確かに残ったものがある。そのものは時々私に囁く。『お前は今でも俘虜ではないか』と」

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Posted by ブクログ 2011年11月20日

 著者の太平洋戦争従軍中の体験である、マラリアに罹り倒れていた所を米兵に囚われ俘虜収容所に送還されて終戦・帰国を迎えるまでの一連を記した自伝的小説。
 冒頭の「なぜ自分は米兵を殺さなかったか」という問いを、安易なヒューマニズムに帰着させることなく鋭利なまでに自己の内面を掘り下げていく叙述も凄いのだけ...続きを読むど、何より驚かされるのは中盤以降淡々と述べられている俘虜収容所での生活模様。それは、皆が思い浮かべるような「戦争時における非人間的で悲惨な」ものでは全くなく、清潔な住居と被服と2700キロカロリーの食事と非喫煙者にも無差別に与えられる煙草。会田雄次 『アーロン収容所』が書いたのとは異なる、もう一つの収容所の姿がここにある。
 印象に残ったのは、俘虜について語るときに度々使われる「阿諛者」という言葉。あゆ?つまり、相手の顔色を伺い、相手が気に入るように振る舞おうとするような事だ。分不相応に快適な生活を与えられた者は、相手に対して自ずから卑屈になってしまうのだろう。そして、そんな卑屈な人間は自分も含めて今でも、どこにだっている。だからこそ、以下の一文には痛みを覚えずにはいられなかった、

戦場から我々には何も残らなかったが、不慮生活からは確かに残ったものがある。そのものは時々私に囁く。「お前は今でも俘虜ではないか」と。

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Posted by ブクログ 2011年09月09日

前半と後半で違う人が書いたように雰囲気が違っている。

前半は俘虜になるまでの戦闘と慣れない俘虜生活。
一文一文に無駄なく意味が込められ、とても男性的な、硬質の文章であった。

後半は慣れ切った俘虜生活から帰国まで。
なんというか長過ぎる林間学校のようである。
俘虜達がユーモラスに描かれている。
...続きを読む虜って暇だったんだなぁ…
戦前の日本人はそこまで綺麗好きではなかったようで意外だった。


筆者が自らをインテリと称し、大衆を見下していると明言する書き方も意外であった。
読んでいて気持ちがよい。
もちろん一小市民としてのインテリであることには度々言及されているが。

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Posted by ブクログ 2011年07月21日

結構読むのに時間がかかった。割と好きな文体だと感じた。全く未知の世界について描かれていて、ある意味SFよりも非現実的に思えた。

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Posted by ブクログ 2024年04月17日

第二次世界大戦中にフィリピンで戦い俘虜になった作者が、自身の経験を綴った体験記

大まかな構成としては、俘虜として捕まるまでと捕まった後に大きく分けられ、俯瞰的な視点から、教養に溢れた文体で自身が観た光景とそこから作者が得た解釈を記載してます。私の視点からすると差別的な表現が一部入っているのは気にな...続きを読むりましたが、当時としては、これが一般的な感覚だったのでしょう。
ネットで見た情報では、大戦中の日本兵俘虜の死亡率は10%程度と書かれていましたが、とてもそんな過酷な感じはしませんでした。俘虜になった場所で待遇が違ったのか、それとも通訳を行っていた作者が恵まれた場所に移送されたのか分かりませんが、想像するに、これより遥かに過酷な収容所もあったでしょうし、これが一般的な対戦中の俘虜の状況かは疑ってもよいかもしれません。
何にせよ、作者の筆の力は凄く、その文体だけでも引き込まれるものがあります。作者は特別に才能があったのでしょうが、戦前•戦中のインテリ層の教養の高さを思い知らされました。
個人的には俘虜になる前の描写が、最も印象的で、些細な判断が自他の命運を分ける場面や、死を確信した後に撃てる敵を撃たないと決めたときの心情描写などが、読後も心に残りました。

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Posted by ブクログ 2022年09月09日

なかなか難解な小説である。泥水を啜り、人肉を食しながら生存した兵士の戦争体験物語を想像するなら、全く見当違いである。
作者は会社員を経て、京大卒のスタンダールやドストエフスキーの研究者であり、批評家でもあった。
本作品は、氏の鋭敏な感性で自己の戦争体験を細密に分析した戦争文学である。
大岡昇平は、昭...続きを読む和19年7月に応召し、フィリピンのミンドロ島で暗号手となり、その後前線要員となった。
戦闘中マラリアにかかり朦朧としてジャングルを彷徨う中で米兵と遭遇した際、「米兵を撃てなかったことに対する緻密かつ誠実な省察」は名高い。
戦争と言う異常な体験記が、しばしば誇張に陥りがちな中で、大岡の眼は事実を客観的に捉えており、批判的に考察する姿勢を失っていない。
米兵に捕らえられ、その後の病院そして収容所における生活は日本軍で受けた教育とは異なり民主的な扱いで、ニューギニア方面で玉砕した多くの日本兵と比べれば幸運であった。
しかし、収容所のなかでの俘虜同士の関係や支配者である米兵との関係は、大岡の眼には「米軍占領下に虚脱した日本の縮図」として映る。大岡は収容所で英語力を活かして通訳も買って出ていたので、米兵に阿諛せざるを得ない相剋を感じていたようである。
本書は、生々しい戦闘場面よりも、戦場や俘虜収容所における兵士の心情に力点が置かれている。そういう意味では、極めて哲学的な文学作品と言え、やや難解な部分が随所に見られる所以である。

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Posted by ブクログ 2018年05月26日

旺文社文庫版で読んだ。

自分が期待していたのは、捕虜という特殊な立場に置かれた人間の内面だった。
この作品は当時の状況を俯瞰的に眺める立場をとっているので自分の期待していたものとは違っていて読むのがしんどかった。地名とか人名がどんどん出てくるのでよく分からなくなってしまった。

当時の記録として読...続きを読むむ分には価値があると思う。実際、これまでの捕虜収容所のイメージと変わったところは多々あったし。

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Posted by ブクログ 2017年10月28日

大岡昇平については、私は完全に食わず嫌いをしていた。
よく見かける、生きて帰った途端、軍はだめだって言い出す人の作品だと思っていたのだ。

ところがどっこい(死語?)、全然違う。
戦争、というより日本人ということを突きつけられる。厳しい、との一言。

今でも俘虜ではないか、という一文がねぇ…言葉もな...続きを読むい。
これいつ書いているかと考えると、この時代、そして軍を経験した人が、ここまで冷静にあの時のことを、厳しい目で書けるってすごいよなぁ。
戦争の残虐さなんじゃない、人間の恐ろしさ。

日常でも見かける人々がいる。
だからこそ、読み進めていてどこか居心地が悪い。私もその中の一人なのだから。

私も俘虜だ。

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Posted by ブクログ 2014年12月27日

20141227 スラスラは読めない戦争の記録。戦う事には悲惨な現実も伴うという事を知っておいてもらいたい。ゲームとは違う生身の生を理解するために若い人に読み続けてもらいたい。

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Posted by ブクログ 2011年07月15日

朝日新聞100年読書会の課題。ようやく読み終えた、という感が強い。フィリピンに出征した著者が米軍に捕らえられ、捕虜生活を送り、終戦後に送還されるまでの記録。ときに第三者的に、透徹した視線で綴られている。白眉はやはり冒頭作の『捉まるまで』であろう。水を捨てたがゆえに自分は助かったのだが、それはどういう...続きを読むことなのか、また捕虜となる直前に出会った米兵を撃とうと思えば撃てたのだが、なぜそうしなかったか、細部にわたって執拗なまでに分析を加えている。以下、私見だが。途中までは、その「思考の基礎体力」の高さに圧倒されていたのだが、ある元兵士が中国の女性が暴行に対してまったく抵抗しなかったと語ったことに関連するくだりで、私は気持ちが離れてしまった。著者は「暴行を是認するのではない」とは言っているのだが、生理的嫌悪に加えて、客観的視点を離れてしまったように感じたためかと思う。このくだりがこの作品のメインでないことは重々承知の上で、ここに引っかかってしまった後はすいすいとは読めなかった。

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