辻邦生のレビュー一覧

  • 背教者ユリアヌス(四)

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    私はこの本は、本知人が「思春期の青少年にぜひ読んでもらいたい」と言っていたので(思春期ではないけど)読みました。
    確かにその推奨の言葉の通り、古代ローマ帝国時代の話ではあるけれど、困難な人生に投げ出された若きユリアヌスが迷ったり苦しみながらも自分で進んでゆく姿は、現代の読者も彼の気持ちに沿いながら読んでいけます。
    だからこそこの4巻は、ユリアヌスの危機、もどかしさ、空回り感が息苦しかった…(T_T)

    青少年の皆様、ぜひユリアヌスと共に人生の道のりを体験してください。
    私のような青少年をとっくに過ぎている皆様(笑)にもおすすめです!


    ※※※以下ネタバレしています※※※




    皇帝コンスタ

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    2025年03月27日
  • 背教者ユリアヌス(三)

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    副帝としてガリア地方(現在のフランスとかベルギーとかのあたり)統治を任されたユリアヌスは、現地の兵士たちからの圧倒的な指示を得ていた。
    だが皇帝コンスタンティウス二世の宮廷の高官たちはユリアヌスの失脚を謀る者たちばかり。唯一の味方は、皇帝コンスタンティウス二世の皇后で、ユリアヌスと愛し合うエウセビアだ。本来は明るく、唯一皇帝コンスタンティウス二世を説得することができ、政治的目線も優れているエウセビアだが、ユリアヌスへの愛に苦しみ衰え、ついには密かな大罪を犯し、病に伏せていた。
    ユリアヌスはルテティア(パリ)を本拠地として、ガリア地方では圧倒的な指示を得た。だがそれはローマ帝国の正当性を訴え、皇

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    2025年03月21日
  • 背教者ユリアヌス(二)

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    前巻で、粗野ながら皇帝の親族としての誇りを見せ、性格の違うユリアヌスとは妙に気の合った異母兄ガルスは、副帝となってアンティオキア(現在のシリアとトルコの国境あたり)に向かう。巨大なローマ帝国の反乱を抑えるのだ。
    しかし冒頭は、ガルスと、その妻コンスタンティア(コンスタンティヌス大帝の娘で、皇帝コンスタンティウス二世の妹)の残虐行為が並べられてげんなりする…_| ̄|○
    現在のローマはキリスト教を国教としているが、ガルスとユリアヌスの父はローマの多神教を信仰していたために殺された。ガルスもユリアヌスも、キリスト教に開教しているが、ローマ帝国での立場はかなり悪い。ちょっとしたことで反乱を疑われるし、

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    2025年03月16日
  • 背教者ユリアヌス(一)

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    読書知人に大変とても熱心にお勧めされた本。といってもその方がお勧めする相手は「青少年」なのですが、周りにこれを読む青少年がいないので私が読んだ笑 皆さんの周りに青少年がいましたらおすすめしてくださいませ。

    まずは歴史背景。
    主人公ユリアヌスの父は、ローマ皇帝コンスタンティヌスの弟のユリウス。
    コンスタンティヌス大帝(在位306年〜337年)は、それまで迫害されていたキリスト教を容認して自分も帰依した。ローマ帝国の首都もローマからコンスタンティノポリス(現イスタンブール)に遷都されている。
    しかしその弟ユリウスはキリスト教よりもローマの多神教を信仰していた。
    なお題名の「背教者」はキリスト教を

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    2025年03月12日
  • 言葉の箱 小説を書くということ

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    とても読みやすい。かつて小説を書くことに対して、これほど熱意あるメッセージを伝えられる方がいた事を知れただけでも感謝。

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    2021年11月23日
  • 安土往還記(新潮文庫)

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    西欧人が語る大殿(シニョーレ)織田信長は、きっとこのような人物だったのだろうと思わせる。
    好奇心高く芸術家を敬い西洋の技術に深く関心を持ち、道理を求め「事が成る」ことをもって自身の道を貫くために非情となり、それは周囲の理解を得られず孤立していく。
    宣教師らには人なつこく冗談に笑うほど心を許したと言うのも安土城下にその城郭と同じ青瓦のセミナリオを建立させた事からも本当だったのだろう。
    宣教師ヴァリニャーノがヨーロッパに帰国する事になった際、見送る為に催した夜の祭典で、安土城が一斉の篝火で浮かび上がった情景は素晴らしく、黒装束で信長自らがたいまつを掲げ宣教師に言葉を送ったと言うのも、西洋の宣教師ら

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    2021年11月06日
  • 言葉の箱 小説を書くということ

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    これはぼくだけしか見られない、ぼくだけが見ている、ぼくの世界で、ぼくが死んでしまうと、だれもそのなかに入って知ることはできない。だから、この世界をだれかほかの人に伝えるためには、その感じ方、色彩、雰囲気を正確に書かないと、ぼくが死んでしまったら、もうこの地上から消えてしまう。       作者の、切実な、印象的なフレーズ。
    ……ついでながら、私が、辻邦生氏の作品の中で、一番好きなのは、短編、 献身 です。アルチュール.ランボオの生涯と彼の妹の、ランボオへの献身 をえがいた、ランボオの独白がすごい迫力で読んでいると、ゾクゾクして、くらくら感動します。…シャルトル幻想 という本の中に入っていて、 

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    2020年07月18日
  • 春の戴冠4

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    フィオレンツァの、壮大な叙事詩を読み終えた。

    サンドロ(ボッティチェルリ)で始まり。
    ロレンツォ(メディチ家)に継がれ。
    ジロラモ(サヴォナローラ)で終わる。

    芸術家(サンドロ)が生まれ。
    パテント(ロレンツォ)が育み。
    宗教家(ジロラモ)で影を落とす。

    そんな4部作であった気がします。

    今の世の中、ここまでの長編を読むに耐えれる読者が少なくなっている事もあるとは思うし、同じ言い回しを感じることも遠ざける理由かとは思いますが、やはりここまで長時間読むことに付き合うと、心に残る残像も、全然違ったものになるなーと思いした。

    ただ、求められるからかと思いますが、長編やこんな叙事詩を書ける(

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    2020年04月20日
  • 西行花伝(新潮文庫)

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    花の季節に、西行墳のある弘川寺を訪ねようと思っていた。今年になって鳥羽の城南宮を尋ねた帰り、桜の季節までに評伝を読んでおこうと思いたって、辻邦生著のこの本を選んだ。

    藤原鎌足を祖とする裕福な領主の家に生まれたが、母の願いで官職を得るために京都に出た。
    馬術、弓道、蹴鞠、貴族社会の中で身につけなくてはならないものは寝食を惜しんでその道を極めた。
    流鏑馬では一矢も外さない腕を見せ、蹴鞠は高く蹴り上げた鞠を足でぴたりと止めて見せた。
    当時の社会で歌の会に連なることも立身出世の道だった。武芸が認められて鳥羽院の北面の武士になり、歌の道でも知られてきた。

    鳥羽上皇の寵愛を失った待賢門院を慕ったことや

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    2020年01月20日
  • 西行花伝(新潮文庫)

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    読書って、出会った時の体力と精神力の充実度で、読める・読めないということに繋がる時がある。
    辻さんの本は、気力充実、且つ、心に遊びがある時に手に取れると、スゴく良い時間になってくれる。

    その意味で、いいタイミングで読めて大変楽しめました。

    【たとえば鳥が空を飛んでゆく。それは日々気にもとめずに見る平凡な風景である。だが、なぜ〔その〕鳥が〔その〕とき〔そこ〕を飛んだのか、と考えはじめると、平凡な風景が突然平凡ではなくなり、何か神秘な因縁に結びついた「現象(あらわれ)」に見えてくる】


    西行法師、として生き切ったのではなく、佐藤義清として自身の生涯と格闘していたのだな~と、とても身近に感じれ

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    2018年07月14日
  • 嵯峨野明月記

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    今年の夏の長編読書は辻邦生の嵯峨野明月記.しばらく前に買ってあったのだが,まったく,改行のない文章の密度に,なかなか読み始める機会が来なかった.
    さて,実際に読み始めてみると,小説世界にすっかり入り込み,電車の中で,あるいは夜の時間に,本を開くのが楽しみでならなかった.

    一の声が本阿弥光悦,二の声が俵屋宗達,三の声が角倉素庵.この三つの声が,交互に語り合うことで話が進む.信長の時代から,秀吉を経て,江戸初期に至る時代を背景に,自分の芸術,学問の獲得に格闘する三つの声.はじめは全く違うテーマを奏でているのだが,それに少しずつ響き合う様子が生まれてきて,三人の力で嵯峨本とよばれる豪華な装丁の活字

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    2017年09月19日
  • 石川淳/辻邦生/丸谷才一

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    面白い小説でした。
    石川淳氏 焼跡のイエス。紫苑物語。小林如泥。鈴木牧之。江戸人の発想法について
    辻邦生氏 安土往還記。
    丸谷才一氏 横しぐれ。樹影譚
    特に、安土往還記。丸谷才一氏の2つの小説。紫苑物語が
    とても面白い傑作だと思います。モダニズムという感覚が
    湧き出してくる感じがします。
    丸谷氏は、旧かな使いを積極的に使われる作品が多く
    あまり好きではありませんでしたが、特に随筆系の作品は
    読みづらく、わかりづらい内容が多くて好みではありませんでした。ただ、この2つの小説はとても面白くよめました。

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    2017年04月01日
  • 安土往還記(新潮文庫)

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    辻邦生の安土三部作のうちで最も有名であろう。鬱屈する事情を抱えたジェノバ出身のある船員の書簡の形で、信長の周囲の人物たちの思考と行動とが、一種突き放した観察の乾いた描写で書かれ、そのことによって、孤高のシニョーレ信長が鮮烈に浮かび上がる。そういうしかけの物語。

    数十年にわたって再読三読している本(焦げ茶の単行本)だが、若いときには、その物語性、圧倒的に美しく知的な文章、ライトアップされた安土城に松明持つ馬を駆けさせる、といった耽美的ともいえる情景創造に驚き、正に耽溺しつつ読んでいたように思う。

    今、再読して特に思うのは、「理に適うことを持って事を成す」という西欧的思考を1960年代後半に既

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    2016年07月05日
  • 石川淳/辻邦生/丸谷才一

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    さすがにこのメンバーになるとはずれが少ないのか、収録作品が選りすぐりなのか、どれもひきこまれた。ベストをえらぶとすれば、「横しぐれ」だろうか。小説としてのプロットの巧みと文学論の両方がバランスしていて素晴らしい。

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    2016年06月19日
  • 石川淳/辻邦生/丸谷才一

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    記載されている諸作品はほぼ初読み。
    全集になっていなかったら読むことがなかったろう。
    誰も誰も熟達した文章力!
    解説や挟んであるパンフが読みの助けになった。

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    2016年05月07日
  • 西行花伝(新潮文庫)

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    花に染む 心のいかで 残りけん 捨て果ててきと 思ふわが身に

    身を捨つる 人はまことに 捨つるかは 捨てぬ人こそ 捨つるなりけれ

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    2015年02月04日
  • 西行花伝(新潮文庫)

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    10数年ぶりに読み返してみた。「利休にたずねよ」があまりにもつまらなかったので、もう歴史小説は自分には合わないのかと思ったが、読み返した本書はやっぱり面白かった。辻邦生作品の中でも「背教者ユリアヌス」と並ぶ傑作だろう。

    物語は歌人西行の生涯を弟子の藤原秋実が、西行その人や、さまざまな周辺の人から聞き取っていくという形で進む。

    前半は恋物語が基軸。終盤は保元の乱がクライマックスとなる。

    歴史的事実からは踏み外さず、そこに小説としての肉付けを丹念にしていく姿は素晴らしい。大著だが多くの人に読んでほしい。

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    2013年08月17日
  • 春の戴冠4

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    序盤から破滅を予感させる物語でしたが、むしろその破滅の予感があったからこそ、美しさを感じ続けることができたように思います。

    引用の、無駄と思える美しさをかみしめたのなら、無駄を排すという考え方は賛成できるが、ただ頭ごなし、非寛容に排斥するというのはよくない、というのには共感しました。

    最終巻、栄華を極めたフィオレンツァが破滅していく様、その時の人々の様子は、どこか今の日本を彷彿とさせます。
    なんとなく心に立ち込め、世の中全体を覆っているひっ迫感、不安感。それを感じているとどうしても極端な、わかりやすいことを言って人々を導いてくれる「英雄」を求めて熱狂してしまう。どこかに敵を求めて、潔癖な感

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    2013年06月28日
  • 西行花伝(新潮文庫)

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    西行の歌の弟子藤原秋実が記す形を取った西行の物語。序の帖に始まり二十一帖に至るまで、西行を時代の流れの中心におき、彼の秀歌と併せて語ってゆく。//前半は物語の筋が読めず少し退屈感を覚えた。中ほどから、平安末期の乱れた世の激変を活き活きと描き面白くなる。皇族・女性・僧侶・源平の武士達が、史実にフィクションを織り交ぜて西行と係ってゆく。西行の人生観も深みを示す。//西行は十五帖で、「我を捨て、この世の花とひとつに溶ける」と説き、二十帖で「歌こそが真言、森羅万象の中に御仏の微笑を現前するもの」と現す。この生き方の基本は終生変わらない。しかし西行は浮世を捨てたわけではない。我を捨ててこの世の花に染み込

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    2013年05月19日
  • 西行花伝(新潮文庫)

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    初めてのレビュー。記憶に新しい去年を振り返って、2012年は辻邦生を知ったのが大きな収穫。
    「西行花伝」を読んで、それよりずっと以前に書かれた「背教者ユリアヌス」も知った。
    平安末期から武士社会に移る時代に「もののあはれ」の美意識を求めた西行と、キリスト教が台頭し始めた時代、純粋さゆえ裏表を使い分けるキリスト教を受け入れられず古代ギリシャ・ローマに美を求めたユリアヌス。勝ち負けで片付けるなら、どちらも時代を生きる中で易くない道を選択したようにみえる。
    「西行花伝」の最終章近くで、平家を倒し後白河院から権勢を奪い勝ち進む鎌倉殿の幻影を夕刻の大磯で西行の夢に現れさせている。その時の西行のつぶやきが

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    2013年04月28日