辻邦生のレビュー一覧
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ネタバレ初期から晩年までの作品から「人生の陰翳を描き出す精選六篇」を、編者堀江敏幸が、著者の生誕100年を記念して選出した、全二巻の、まずは前篇とのこと。
堀江が心がけたのが、「できるだけ幅広い時期から選出すること」と、「相通じる要素のある作品を二作ずつ組んで流れをつく」ること、「その色合いと感触で陰と陽にふりわけること」だったとか。
前篇にあたる、本書『鳥たちの横切る空』は、陰のほう、翳り「Ombre」だとか。
自分的には、おそらく次の陽の「Lumiere」のほうが好みかなと思うが、さて、どうなるか。
戦争の陰、影響を受ける時代の作品が並ぶのは、単なる偶然ではなかろう。
「しかしおれたちは本当に -
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著者が、小説を書くことを志す人びとに向けておこなった講義を収録しています。
著者は小説とはなにかという問いに対して、「フィクションによってつくられた架空の事柄を言葉によって構築し、「言葉の箱」のなかにそういうものを詰め込むという作業」だとこたえています。そのうえで、著者は夏目漱石の「文学論」における「凡そ文学的内容の形式は(F+f)なることを要す」という考えを参照し、近代以降のロマン(小説)における内面性を重視する立場から、小説のありかたについて議論がなされています。
本書の冒頭で、著者はアメリカの大学では創作科が存在するということに触れていますが、本書はシナリオ・ライターを養成するための -
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「嵯峨本」と呼ばれる豪華本の制作にたずさわった本阿弥光悦、俵屋宗達、角倉素庵の三人の物語です。
三人の登場人物が交替に語り手を務めて、戦国時代から江戸時代にかけての激動の時代を彼らがどのように生き、それぞれの立場から芸術に対してどのようにかかわっていったのかということがえがかれています。
現実の事象をえがきとるのではなく、みずからの心のなかに生じるかたちを筆によってえがきだすことをめざす天才肌の宗達と、実業家として学問や芸術へのみずからのあこがれを抑えつつ、優れた芸術をこの世界にのこすために力を尽くした素庵の物語がわかりやすいのに対して、光悦の物語はすこしむずかしく感じました。土岐民部の妻 -
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長崎で通辞を務める上田与志(うえだ・よし)という男が、ポルトガル人の血を引くコルネリアという女性との愛をえがくとともに、朱印船貿易家と糸割符仲間との抗争が二人の運命を引き裂く顛末を語る歴史小説です。
しだいに鎖国体制が整備されていくことになる江戸時代初期の長崎を舞台に、さまざまな人びとの思惑が入り乱れるさまがえがかれています。主人公の上田はやや地味な人物像ではありますが、激変する時代の波に翻弄されながらもコルネリアへの純愛をつらぬき、物語を読むことのたのしみをあじわえる作品です。
著者のもうひとつの歴史小説である『安土往還記』では、キリスト教の布教のために海を越えて日本へやってきた南蛮人と -
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短編五編を収録しています。
第一話「ランデルスにて」は、明確なオチをもつ怪奇潭仕立ての作品で、純粋な愛(の不在)をテーマにしています。第三話「風塵」も、やはり怪奇潭のような雰囲気をもつ作品です。
表題作となっている第二話「北の岬」は、婚約者の直子を日本にのこして二年間パリですごした留学生の男が、修道女のマリ・テレーズへの愛を棄てることができず、帰国後彼女のもとを訪れるという話です。
第五話「叢林の果て」は、叔父夫婦の家を出てタバコの売り子となったマリアナという女性と、革命軍の兵士であるラウルの語りが交互にならべられるという、風変わりな構成の作品です。 -
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この本は、イタリアジェノバ出身の船員の目を通して、信長という時代の変革者の人物像と安土という時代の様相をとても知的な文体で描いている。
私はこれまで延暦寺焼き討ちなどに見る徹底的に非情なやり口に信長のことがどうしても好きにはなれなかったが、本書で描かれる「事がなる」ために自己を抑制し「理に適う」方法を徹底的に追求するという人物像に、近代的な人間の先駆者としての孤独と時代の変革者としての強い覚悟を感じて見る目が変わった。
彼がキリスト教の布教に寛容で、西洋の文化にとても強い好奇心を抱いたのは、布教のために命を賭けて海を渡る宣教師等の使命感と、その「事を成し遂げる」ための「理に適う」行動に自分と同