辻邦生のレビュー一覧
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信長を題材としているが、その主旋律は「宿命とそれに対する処し方」。主人公は、人殺しの過去を肯定するために、あらゆる宿命に打ち勝とうとする。信長、そしてヴァリニャーノは、事を成すことに生命をかけその宿命としての孤独に震える。そのなかで信長はキリシタンに全幅の共感を覚える。孤独さこそが唯一の友の条件だという、逆説的だが腑に落ちる説を展開している。こうしたテーマはもちろん、抑制のうちに洩れる美しい描写もすばらしかった。特に、信長とヴァリニャーノとの別れのシーン。光と闇が交錯し、「また会いたい」(が、もう逢えないだろう)という悲しみが浮かび上がってくる。
いささか冗長な部分もあったが、じっくり読むに堪 -
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西行に歌の道を学んだ藤原秋実が、師の亡きあとそのすがたを思い起こし、また生前に交流のあったさまざまな人物のもとを訪ねて、西行の生涯をたどるという形式で書かれた歴史小説です。
待賢門院との恋や、崇徳院の悲運などをくぐり抜けて、西行が歌の世界になにを求め、現世(うつしみ)とどのように切り結んだのかというテーマが、全編にわたってえがかれています。
西行が崇徳院に「歌による政治(まつりごと)」の道に入るように説得しながらも、けっきょく院は重仁親王を王位に就けたいという思いを振り切ることができず、恨みにとらわれたまま崩御することになります。「歌による政治」の具体的な内実は、院の崩御のときまで読者に明 -
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イエズス会の宣教師たちとともに、戦国時代の日本にやってきた船員の視点から、織田信長のすがたをえがいた作品です。
遠いキリスト教文化圏からやってきた主人公のまなざしで、日本文化の異質性が叙述されるなかで、信長の「意志」(ヴォロンタ)の普遍性がきわだたされています。それは、海を越えて日本にやってきた主人公たちの行動を支える原理でもあり、この普遍的な「意志」によって文化的なへだたりを越えた共振が成立しています。
彼のような強い「意志」をもたない仏教徒たちに対する残虐な行為に対する非難をくぐり抜けて、傑出した行動力と合理的な知性に裏打ちされた英雄の精神が印象的でした。 -
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辻邦生 「 西行 花伝 」
小説形式の西行論。ストーリテラーが 西行や西行に関係する人々の声を集めて西行像を作っていく構成。傑作。
今まで読んだ 西行論(白洲正子氏の恋愛側面、山折哲雄氏の宗教側面、吉本隆明氏の政治歴史側面)が 全て盛り込まれている。ただ 連歌「地獄絵を見て」の解釈が入ってないのが残念。
著者の人生観や芸術観が 西行像に組み込まれており、正義と不条理、雅な心、歌とは、運命とは、旅とは、権力論批判など 名言が多い。
この世に正しいことは存在しない
*全ての人は、自分は正しく生きていると思っている
*自分が正しいことをしてると思ってはいけない〜そんなものは初めからない〜正 -
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辻邦生 「 嵯峨野明月記 」
面白かった。
著者の人間観、事業観、死生観を 素庵、光悦、宗達の人物設定に取り込みながら、三人の精神が 近づき、結びつき 嵯峨本の創作に至る物語。
権勢者の移り変わりに 虚無を感じた 創作者や民衆の 華麗、荘厳、簡素な世界を求める心が 嵯峨本につながった事を示唆
著者の人生観(今という虚無感、存在感)
*日の光〜今日あって明日は もう消え果てて存在しない
*自分の生命に充実があれば それでいい
一の声=私=本阿弥光悦
*もう十分生きてきた〜戦乱に生きた人達を思い出す=自分の生涯をもう一度生きること
*刀剣の鑑定〜代々の家訓を畏れ謹んで生きてきた〜政略軍 -
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辻邦生のエッセイ集。
表題の地中海世界だけでなくフランスやロシアその他の国々(日本も含む)を巡る旅で作家 辻邦生が感じたことが綴られている。
フランスの滞在が長かったせいかフランスに関する記述が一番長かった。
しかし、稲妻のように辻の心を打ち彼の創作への衝動を目覚めさせたのはギリシアの美術であった様だ。
辻氏のギリシア美術の持つ独特の光と闇を描写した一文がこの美術の性質を見事にとらえており、彼の感性のただならない鋭さを感じた。
曰く「真夏の盛りにいて、すでに死をはっきり予感している憂鬱」
彼の作品については「背教者ユリアヌス」しか読んでいないが、作者のことを知るにつれ他の作品も読んでみたく -
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辻邦生 「 夏の砦 」
生命力ある美を創作するまでの 主人公の精神的な遍歴を描いた小説。創作の基本様式が 個性となるまでの心理過程とも読める
精神的な遍歴
*母の作品の世界を 私なり(私の情感を入れて)に完成
*自分の作品にへの倦怠感→様式が意味のない存在
*無名の精神〜職人の虚栄、自惚れ、自意識のない精神
*物狂いし〜織地を 苦痛と甘美な思いで 織りつづける
*自ら考えた世界だけが 存在する世界→自分の世界=家族との幸せの日々〜かって在った 自分の世界に還る
「芸術は〜生活に密着しなければいけない」
*美は人間の魂の温みにより 生命力をもつ
*美は人間の魂、生の陰影、哀歓と結びついてい -
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元亀天正の信長の勃興から、本能寺の変、関ケ原をへて徳川の御代へと大きく揺れ動いた時代、日本書誌上、もっとも豪華と言われる本が出版された。「嵯峨本」とも「角倉本」とも称される書物。恥ずかしながらこの小説を読むまでまったく存在を知りませんでした。
本書はその嵯峨本の成立に深くかかわった三人の男たちの物語。
流麗な書をものした本阿弥光悦、下絵は琳派の俵屋宗達。二人の天才を結びつけた版元は高名な企業家を父にもつ角倉素庵。
物語は、三人の男たちの独白で織りなされる。一の声は「私」こと光悦。二の声は「おれ」の宗達。三の声は「わたし」素庵。
私たち読者は、闇につつまれた一室で、彼らの声に耳をかたむけることで -
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かなり異色な小説。1人のキリシタン宣教師から見た信長像を追っているんですね。
この設定によって、まるでその場にいて信長に接しているような気になってきます。絶妙な距離感なんですよね。信長がどのような人物なのか、宣教師は掴みかねていて、一緒に探っていく作業のようでもあります。
実際、著者は歴史史料から信長像をたどっているそうで、そのあたりも史実を重視しています。
信長像も新鮮でした! 宣教師に分からないことを素直に質問していて、当時の日本人には理解できない考えをしていたことも分かります。
同時代にいるかのような不思議な感覚を味わえます。おすすめです! -
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「小説の書き方教えます」といった本は
スティーヴン・キングの「小説作法」しか読んだことがない。
だが当時、マジメに小説を書く気などさらさらなかったので
内容が記憶にない。
だが最近、職業作家の方々がなぜこんなに次々と
小説を書き続けることができるのか知りたくなったので
数ある中から辻邦生氏のこの本を選んでみた。
創作学校での講義をまとめたものだが
小説のベーシックな部分が丁寧に語られていて
実にわかりやすい。
辻夫人によると、辻氏にとっての小説との関わりは
自ら書くこと、そして小説とは何かを探索すること
であったと言う。
とにかく「いつでも書いていた」そうだ。
それが、職業作家が小説を -
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ネタバレ理にかなう事を成し遂げる為に、自分自身をもまた理通りに思考し、孤独が刻み込まれているかのような織田信長。この様な視点はやはりヨーロッパ的なのだろう。翻訳本のような導入も、これを色濃くしている。
日本人の情に流されていくあいまいさからでは、理解しがたい信長だが、自分が良しと思える基準、掟を生を捧げて貫き通した大殿として描いている。とても哲学的と思える。
現実にかえって、自分の中での理、と考えるとやはり定まらない。それだけに宗教の力が怖い。自分の道理とその宗教が一致してしまえば、生をも捧げることにもなりかねない人々の誕生、と派生して考えてしまった。