あらすじ
時には〈日常〉を脱して、魂の目くらむ昂揚を経験することも、人生を豊かにする大切な方法なのだ(本文より)。一九五七年の留学以降、第二の生活拠点となったパリ、創作への啓示を受けたアテネ、作品の舞台となったフィレンツェ、アルジェ……生涯を通じ旅を愛した作家の多幸感あふれるエッセイ集。
目次より
I 地中海幻想の旅から
中部イタリアの旅
フィレンツェ散策
私の古典美術館
アッシリアの眼
ポンペイ幻想
廃墟の教えるもの
地中海幻想
力ルタゴの白い石
友をもつこと
II フランスの旅から
ヨーロッパの汽車旅
恋のかたみ
モンマルトル住い
海辺の墓地から
早春のパリ
昔のパリいまのパリ
変ったパリ変らぬパリ
フランスの知恵
パリの雀のことなど
回想のシャルトル
近い旅遠い旅
パリ――夢と現実
風塵の街から
回想のなかのゴシック
III 北の旅 南の旅から
ロシアの旅から一
ロシアの旅から二
森の中の思索から
北の海辺の旅
南イングランドから
ハドリアヌスの城壁を訪ねて
大いなる聖樹の下
インド変容
旅立ちの前に
南の遙かな青い海
中国の旅から
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
辻邦生のエッセイ集。
表題の地中海世界だけでなくフランスやロシアその他の国々(日本も含む)を巡る旅で作家 辻邦生が感じたことが綴られている。
フランスの滞在が長かったせいかフランスに関する記述が一番長かった。
しかし、稲妻のように辻の心を打ち彼の創作への衝動を目覚めさせたのはギリシアの美術であった様だ。
辻氏のギリシア美術の持つ独特の光と闇を描写した一文がこの美術の性質を見事にとらえており、彼の感性のただならない鋭さを感じた。
曰く「真夏の盛りにいて、すでに死をはっきり予感している憂鬱」
彼の作品については「背教者ユリアヌス」しか読んでいないが、作者のことを知るにつれ他の作品も読んでみたくなった。