辻邦生のレビュー一覧

  • 嵯峨野明月記

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    信長・光秀・秀吉・家康への権力の移行期に本阿弥光悦、俵屋宗達、角倉素庵という美を追求した3人の文化人の心の内面が語られる。そのゆえに現代に生きる芸術家のような親近性を感じるのが不思議。3人は別々の語りをしながら、彼らの書・絵・そして装丁の才能が美しい本の実現に結びついていくお洒落な作品である。京の人々の権力に対する恐れが噂を通してリアリティに富む。光悦が月の明るさに誘われて池の畔で出会った土岐民部の妻、そして光悦自身の妻が魅力的。彼女たちの描写に日本語の美しさを堪能する。

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    2014年10月06日
  • 安土往還記(新潮文庫)

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    ジェノバ出身のある航海士が語り手となり、彼が一時期親交を持った大殿(シニョーレ=信長)について書き記すという体裁をとった小説ですが、まずその設定がとても斬新に思えました。読み進めていくとあたかも目の前に当時の出来事が展開しているかのように語り手の視点を追体験することができるくらい豊かな描写力をもって書かれています。非情・残忍なイメージが一般的に定着している信長を「理に適うものを追求することに命を懸ける」戦略家として捉え、くっきりとその人物像を浮かび上がらせることに成功しています。歴史小説として読み応えにある作品だと思います。

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    2011年12月06日
  • 言葉の箱 小説を書くということ

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    文章を書くとはどういくことななのか、そもそも小説とは何なのかを記した本。小説家を目指している人は一度は読むべき。自分が書いているものは何なのか、と考えさせられる。

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    2010年08月12日
  • 西行花伝(新潮文庫)

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    平安時代の僧侶 西行の「みちのくひとり旅」。
    「願わくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」という最期の和歌に込めた西行の気持ちがわかる故・辻邦生さんの名著です。
    一度、読んでみてください。

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    2009年10月04日
  • 霧の聖マリ ある生涯の七つの場所1

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    西行花伝、背教者ユリアヌスなどの宗教小説で有名な辻邦生未完の短編集。壮大なプロットで縦横に連鎖する短編集を作ろうとしたがあまりにも壮大すぎて2巻で終わってしまった代物です。ただ個々の短編はどれも辻邦生らしい静謐な文体で秀作ぞろい・・・だと思います。特に好きなのは冒頭の「亡命者たち」。この話のヒロインである「盲目のレモン売りの少女」は今まで読んだ小説の中で1,2を争うほど印象に残っています。
    ほとんど容姿の描写やセリフがないのにこれほどまでに心に残るのはさすが文豪の文章といったところでしょうか。私が盲目とか話せない系の女の子の話が好きなだけだろうって?そうだよ。

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    2009年10月04日