あらすじ
カバー・ネーム
今日の決戦こそが諸君の名をローマ戦史のなかに不朽のものにするだろう――皇妹を妃とし、副帝としてガリア統治を任ぜられたユリアヌス。普遍の真理を地上に顕然させようとする真摯な彼の姿は、兵士たちの心を打ち、ついにゲルマン人の侵攻を退ける!【全四巻】
〈解説〉須賀しのぶ
〈巻末付録〉『背教者ユリアヌス』歴史紀行
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Posted by ブクログ
副帝としてガリア地方(現在のフランスとかベルギーとかのあたり)統治を任されたユリアヌスは、現地の兵士たちからの圧倒的な指示を得ていた。
だが皇帝コンスタンティウス二世の宮廷の高官たちはユリアヌスの失脚を謀る者たちばかり。唯一の味方は、皇帝コンスタンティウス二世の皇后で、ユリアヌスと愛し合うエウセビアだ。本来は明るく、唯一皇帝コンスタンティウス二世を説得することができ、政治的目線も優れているエウセビアだが、ユリアヌスへの愛に苦しみ衰え、ついには密かな大罪を犯し、病に伏せていた。
ユリアヌスはルテティア(パリ)を本拠地として、ガリア地方では圧倒的な指示を得た。だがそれはローマ帝国の正当性を訴え、皇帝コンスタンティウス二世の元での統治と心得ていた。だが唯一の味方エウセビアがいなくなった宮廷には、ユリアヌスを失脚(そして処刑)しようとする者たちばかりになった。彼らからの讒言に、皇帝コンスタンティウス二世はユリアヌスとその軍隊に向かって無茶な命令を次々に送る。ガリア地方の住人、軍人たちは我慢の限界に達し「我らがユリアヌスを皇帝に!」との叛乱を起こす。
彼らに担ぎ上げられる形で、ユリアヌスは「皇帝」を名乗ることになった。
…このあたり史実ではどうなんでしょうね。小説ではあくまでも「ローマ帝国の正当性を訴え続けたが、皇帝コンスタンティウス二世の宮廷からあまりにも軽んじられ命を粗末にさせられるので、民衆から担ぎ上げられた」という形です。
幼い頃は幽閉され、青年時代(今も若いけど)は哲学や古代文学に親しむユリアヌスは、軍略や政治に優れ、演説もうまかったことは書かれます。
財政
「財源不足対策として一般農民に追加税は反対する。まずは無駄な支出を抑える。支払いも延滞(リボ払い)を制限して一括払いにさせよう。なんといっても、一般人民のための国家財政なんだから、その財源を確保するために一般人民を苦しめるなんてもってのほか」
…現在にも通じるんだけど!!!
戦争略奪
「婦女暴行禁止」というのは、兵士たちも「まあ自分の母・姉妹・娘がそんな目にあったら嫌だから、敵の女性にそうしてはいけないというのは納得しましょう」だったけど、「略奪禁止」には「だって給料もらえないんだからしかたないじゃん!略奪できるからこそ徴兵に応じてるんだけど!!」という声を抑えるのには苦労している。
キリスト教司祭「神の前にはみな平等。ローマ帝国は支配者と被支配者を作っている。人間の力を神の前に委ねるのだ。」
ユリアヌス「人の世には統制が必要。人々それぞれの幸福はただ平等だけでは実現できない。秩序を持って統治者が全体への配慮を行うという意味での階級は不可欠。」(P107あたり)
ユリアヌスは、哲学も政治も軍事も同じ根底は精神が流れていると考えている。そして広大なローマ帝国には、多くの民族、多くの市民、多くの宗教、多くの風習があることも分かっている。そこで秩序のための根底として、哲学による統治を望んでいる。ユリアヌスははっきりと「このローマ帝国の基盤となった古代の神々の復活」を命じるのだった。
3巻の終わりは、ただ守っているだけでは皇帝コンスタンティウス二世には声は届かないとして、首都コンスタンティノポリス(コンスタンティノープル)へ進軍する。
ガリヤ軍の熱狂的な支持とユリアヌスの戦略により戦況は順当だった。しかしローマ帝国宮廷には敵だけのユリアヌスは他の将軍たちの協力を得ることは難しいうえ、宮廷からの密偵にも裏をかかれて…。