歌野晶午のレビュー一覧
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歌野晶午さんの小説を読むのは二冊目。
マラソンランナーのジェシカと、もう一人のランナー・アユミが主人公。彼女を中心に、ある事件が起こる。しかも軸となる事件が起こるのは物語の中盤。
著者は昔マラソンをやっていたことがあるようで、その経験も生かされているようだ。
1冊目に読んだ「葉桜の季節に君を想うということ」が傑作だったため(ご存知、我らがSMAP中居正広がスマスマでオススメしてくれて読んだ一冊だ)、期待値が自分の中で上がりすぎてたかな・・・。「分身」というのが大きな伏線となって物語のキーになると思いきや、大きな山場がなかったように感じてしまった。 -
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現実社会と仮想社会。
リアルな自分とインターネットなどを含む媒体の中で生きている自分。
どんどんその境目があやふやになっていき、本当の自分を見失っていく・・・。
妄想の果てに待っている世界は、たぶん自分が一番楽で生きやすい世界なのだろう。
有り得ない世界への境界線を越えてしまったとき、人は壊れていく一歩を踏み出しているのかもしれない。
結末は中盤でおおよそわかってしまうけれど、最後まで飽きずに読ませる力量はさすが。
とくに12歳の来未のキャラクターが見事すぎて圧倒された。
読者の錯覚を利用し、考え抜かれた構成によって不思議な世界に引きずり込み、そして最後には「またやられた!」が待ち受けている。 -
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ネタバレ前作から併せたシリーズとして見れば,そこそこ楽しめる。前作のラストとのズレ,今作のキャラクターとの関係性が明らかになる中盤までは楽しく読めたが,今作のキャラクターの正体が,前作のキャラクターを真似ている別人と分かった後はダレた。
最後の,意外な被害者というトリックを実行するために自分を殺すという意外性も,ここまで読みすすめてきた展開を踏まえると,ふーんという印象にとどまってしまう。下手にメッセージ性を持たせようとしないが失敗の原因だと思う。トリックはバカミス的だし,構成上,個々の人間のキャラクターも人間関係も描けないのだから,前作のキャラクターとのズレをオチに使った衝撃だけを狙ったエンター -
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ネタバレ西崎和哉という無名の作家が「白骨鬼」という江戸川乱歩が主人公の小説を,作者が分からない小説として発表する。細身辰時というミステリ作家は,西崎に対し,「白骨鬼」を自分の名前で発表したいと告げる。西崎が首肯しないと,裏から手を回し,最終回に当たる第三回を雑誌に掲載させないという手段を取り,自分の名前で発表するように,西崎に迫るというストーリーの話。
作中作の「白骨鬼」は,江戸川乱歩がワトソン役で,萩原朔太郎が探偵役になっている。この作品は,江戸川乱歩好きなら楽しめるのかもしれないが,そういった加点要素がないと,全く楽しめないというレベルではないが,及第点以下の作品でしかない。
真相は,「白骨 -
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ネタバレ誘拐モノ。便利屋のもとに,「夫の愛を確かめるために,私を誘拐してください」という依頼がされる。物語の前半は,便利屋による誘拐。1991年当時の最新の通信技術を使った誘拐が展開される。伝言ダイヤルやダイヤルQ2を使ったトリックであり,今となっては,「これって何?」と感じてしまう。最新の技術を使ったミステリは,すぐに古臭くなってしまう…どころかわけがわからない作品になってしまう。
短編ミステリだったら,単なる誘拐モノになるのだろうが,この作品には続きがある。むしろこちらがメイントリック。便利屋に誘拐を依頼した「小宮山佐緒理」は,「津島さと子」であり,狂言誘拐ではなく,死体遺棄をさせるために,狂 -
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ネタバレ連続する誘拐殺人事件。富樫修は,息子「富樫雄介」の部屋から,息子が誘拐殺人事件に関与していたと思われる被害者の名刺,銃などを見つける。
「世界の終わり,あるいは始まり」は,誘拐殺人事件を,犯人の視点,被害者の視点,刑事の視点のいずれでもなく,犯人と思われる人物の父親の視点から描かれている。
物語は,中盤から富樫修の妄想が繰り返される。
最初の妄想は,富樫雄介の犯罪が明らかになり,補導されるというストーリー。二つ目の妄想は,一家心中を図るが,死にきれないというストーリー。三つ目は,修が雄介に全てを告白するように仕向け,雄介が告白するというストーリー。四つ目は,連続誘拐殺人事件の一つと偽装 -
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ネタバレ雪の山荘,孤島などの密室小説を集めた短編集。歌野晶午の作品は,本格ミステリらしい本格ミステリが多く,好きな作家の一人である。
「そして名探偵は生まれた」では,関わった事件について書いた小説によって損害賠償を請求されたことがあり,関わった事件について語ることすらしなくなった卑屈な探偵役が登場する。なんともひねくれた作品。真相を解明するのではなく,犯人をゆすろうとし,ワトソン役に殺されるという真相。ワトソン役が,名探偵になろうと誓うラストシーンが「そして名探偵は生まれた」というタイトルと相まって印象に残る。
「生存者,一名」は爆発テロを行った新興宗教団体のメンバーが無人島で希少な食料をめぐっ