迷える人たちをよき方向に導くという不思議な能力を持つ犬・マジックの1年を描くハッピーファンタジー。
春夏秋冬の4編からなる連作短編集。シリーズ2作目。
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各話の登場人物にうまく関係性を持たせるなどよくできた構成で、1作目よりさらにおもしろかった。
個人的に気
...続きを読むに入ったのは「夏」編。ヤンキー崩れの不器用な男がマジックの絶妙なレッスン( 調教⁉ )によって次第に人間ができてくる話で、マジックの賢さがよくわかります。
自分を客観視して適性を知ること。そしてその適性を活かした仕事に力を尽くすこと。それらは自立するための大切な要素です。
それらができて初めて人から信頼されるようになり、信頼されるとその信頼に応えようと努めるようになるのです。
この好循環が軽快なタッチで描かれていました。このテンポよくことが運んでいく心地よさこそ山本甲士ファンタジーの真髄でしょう。
ひとつ気になるのは、最終話のラストシーンです。
本話の「迷える人」であるチヨが孤独から解放されて前向きに生きられるようになっても、マジックはチヨの元を去らないまま話が結ばれています。これは1作目から続いてきたエンディングパターンと大きく異なります。
もしかしてマジックは、チヨの古家を自分の終の棲家と定めたということなのでしょうか。(マジックもいいおトシみたいなので。)
特定の飼い主を持たず、神懸かり的な賢さで迷える人を救い助ける犬・マジックの活躍。まだまだ読みたく思うので、この見立てがどうか外れますように……。