あらすじ
忘れ得ぬ人と映画の思い出を叙情豊かに描く。
岩瀬修は63歳。今は文具会社の経営陣に収まっている。彼には、昔夢中になった任侠映画にまつわる忘れられない思い出があった。初めて観たのは中二のとき。すぐに高倉健のファンになった。映画を観たいがために稼業の飲み屋を手伝うようになり、周囲からはヤクザと煙たがられている中間のおっちゃんと仲良くなる。そして、心臓が悪い従姉妹の弥生が、近くの県立病院に入院してきた。学校に通えない弥生のために、修はプリントなどを届けに行くようになった。弥生は優秀で本好き、しかも絵を描くのが抜群に上手い。ケンカもしながら、親しくなっていく。任侠映画と二人との出会いを経て、修は大学進学のため東京へ――。人生の荒波に漕ぎ出し始めた。
任侠映画に、そして主人公達に夢中になった青春時代。たかが娯楽映画、でもそうではなかった。あの頃の出会いがあって、今の自分がいることを、切ないエピソードとともに感じるのだった。
ノスタルジックでハートウォーミングな、小説版『ニュー・シネマ・パラダイス』!
※この作品は過去に単行本として配信されていた『銀幕の神々』 の文庫版となります。
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Posted by ブクログ
主人公のオサムは63歳。今は小さいながらも会社の役員をしている。
この彼の任侠映画に夢中になった少年時代の回想の物語。懐かしい昭和感の漂うちょっといい話でした。高倉健、鶴田浩二、藤純子…銀幕の中のスターたちは、潔くてカッコいい。こんな風に生きていきたい…そう思っていた青春時代をオサムは送っていた。そして何人かのキーパーソンが登場して、彼の人生と交わっていく。その接点がそれぞれ味わい深い。
その一人は中学時代に出会う従姉妹の女の子。彼女は心臓の病気で入院している。
まだ恋も知らない二人は病室でお互いを意識しながらも他愛無い話をして、夢を語り合う…しかし彼女は病に勝てずに居なくなってしまう。これがせつない。
そしてもう一人は、元ヤクザで今はもう足を洗い、小さな焼きそば屋を営む『中間のオッちゃん』との運命の出会い。
中学時代、高校時代、大学時代…そのオッちゃんに人生の節目でオサムはお世話になるが、エピソードが何とも心地良い。オサムの人生を共に体験した感覚になる。
タイトルでもある『運命の人』はこの従姉妹の女の子であり中間のオッちゃんであり、高倉健でもある。彼らはオサムの人生において羅針盤のような存在だった…そしていま、オサムは懐かしい場所をたどり、当時の記憶に想いを馳せる…ちょっと目頭が熱くなったなあ。
昭和の任侠映画のエピソードが随所に出てきて、若い読者には全くわからないだろうけど、僕の年代には結構ハマったなあ。作者の山本甲士さんは同年代だし。
Posted by ブクログ
私は、高校・大学の頃、高倉健の任侠映画にはまっていました(^-^) 山本甲士さんも同じだったのではないでしょうか。「運命のひと」(2018.1 文庫)で、主人公の岩瀬修をして、高倉健に憧れ、任侠映画に惚れて大きくなっていく少年の姿を描いています。高倉健のような昔気質のテキ屋(焼きそば屋)の中間(なかま)のおっちゃんがとてもいい味をだしてます。また、修の従姉の岩瀬弥生、心臓病で中学の時急死しますが、二人の純愛ぶりに昭和を感じます。この本は「銀幕の神々」(2015.1)を改題・文庫化したものだそうです。「銀幕の神々」は2年半前読んでますが、再読しても、初めて読んだような感動に近かったです。加筆改稿されてるような気がします。