映画化された怪作「チャーリーとチョコレート工場」など、特に児童文学で有名なイギリスの作家・ダールの短篇集。
素朴なユーモアストーリーと見せかけて、毒と恐怖をほんのり混ぜてくる所が素晴らしい。幼少期からこんな人のこんな話ばっかり読んでりゃ、そりゃイギリスジョークもバリバリになるわな。感想を読んで興味を惹かれた方は、ぜひお子様に読み聞かせていただきたい。
1.女主人
下宿を探しにやってきた小さな町で学生の少年が出会った女主人。台帳に書かれた失踪者の名前と動物たちの剥製が嫌な展開を想起させるが、想起させるところで終わりの掌編。
2.ウィリアムとメアリイ
難病で死んだウィリアムが妻メアリイに残した手紙には、脳を取り出し生き長らえる実験に参画するまでの経緯が記されていた…。脳だけになった夫を前に、抑圧され続けた妻の歓喜が溢れるラストは、自分が「どちら側」にいると思っているかで感想が変わる。自分がウィリアムの立場なら発狂モンだなー。
3.天国への登り道
「待ち合わせ時間に間に合うか」を必要以上に気にする神経過敏の妻に対し、主人が嫌がらせを働く話。読みきったときにタイトルの皮肉に気づく。この作者は本当に亭主への意地が悪いな。
4.牧師のたのしみ
こち亀ばりのベタなコント。田舎で掘り出し物の骨董品を買い叩き高値で売りさばく男がど田舎のボロ屋で見かけた極上のアンティーク箪笥。朴訥フェイスな住人と口八丁で何とか購入契約を結ぶが…。主人公の灰化シーン直前で物語を打ち切る構成がクール。
5.ビクスビイ婦人と大佐のコート
大佐との不倫を楽しんでいた妻が、手切れにと貰ったミンクの高級コートを我が物とするため四苦八苦する、これまたジョーク心満載のいいコント。「アメリカは、女性が恵まれている国である。」から始まる、アメリカ人男性の悲哀を淡々と語る冒頭のシークエンスが最高。この話は夫勝利エンドだが、それも基本的には「酒場で男同士で語られる空虚な慰め話」であると釘を刺されているのが辛すぎる。
6.ローヤル・ジェリィ
ミルクを飲まない赤ちゃんに、養蜂研究が趣味の夫が与えたものとは…。今じゃすっかり有名なローヤルゼリーだけど、調べたら栄養補助食品としての効果を裏付ける科学的研究は発表されていないらしい。へー。そもそも赤ちゃんにハチミツ与えちゃダメ、ってのも、当時はあまり知られてなかったのかなぁ。現代だとそっちへのツッコミが入って物語趣旨へのノイズになっちゃうんで、さすがに「賞味期限切れ」の物語かなぁ。
7.ジョージイ・ポーギイ
超奥手な若神父(でもムッツリ)の苦闘。シュールなオチより、彼の幼少期のトラウマ「お母さんから授かった性教育でウサギの出産を見てたら母ウサギが生まれたての子ウサギを食べちゃって絶叫」のハイレベルさが際立っている。そりゃ心折れるよ。
8.誕生と破局
「ある男」が産まれた直後の病室を切り取った数ページの掌編だが、実在人物である「ある男」の正体が明らかになるシーンは戦慄。
9.暴君エドワード
迷いネコの前世が大作曲家のリストだと言い張るプッツン嫁と、そのネコを火にくべるプッツン夫とのやりとり。これまた「貴方はどっちに感情移入できる?」が試される。
10.豚
不条理ノワールの傑作にして、グリム童話の新作として子供に読ませたいけど読ませたら絶対ヤバい大問題作。くっだらない事故により生後数日で両親を失ったレキシントンは、田舎に住む超ベジタリアンの叔母の元で料理の才能を開花させていく。彼女の死後都会に出たレキシントンはレストランで初めて豚を食し…。それまでの写実的な展開から一変、ラストの不条理さはぶっ飛び過ぎて何度もページを読み返してしまうほど。
11.ほしぶどう作戦
領主の禁猟区で雉を大量ゲットするべく、冴えない2人組が一大作戦に挑む。干しぶどうを使ったこの作戦、実際に効果ってあるのかなー。