漆原友紀のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
生命の原体に近い「もの」である蟲。その蟲が人間に影響を及ぼした現象を解決する蟲師ことギンコの物語。
僕がこういう妖怪のような存在が出現する和風ファンタジーでいいなと思うのは、結構理屈っぽいところだ。きちんと現象に対して原因を示す。その前提を踏まえて各作品の色が出ているように思う。
現象を人間に限りなく近づけ、かつその「理屈」を強くフォーカスしたのが『当て屋の椿』ならば、この『蟲師』は現象を引き起こす側に焦点を当てている。最大の特徴は蟲たちを「生き物」として見せている点だ。前者が人間同士の関係ならば、後者は人間と蟲、つまり現象を引き起こすものの関係。そんな見方をすると、自分の好みがどちらかわかるかもしれない。 -
Posted by ブクログ
“ばあちゃんの始めた この店で 私は育った
岬の端 バスの終点そばの 一軒家
遊ぶ相手も 近くにおらず たいてい店で過ごした
二時間に一本 岬を巡る バスが来る
やる事のない 休日には バスの客を 数えて 退屈をしのいだ
他に 交通機関も なかったから バスで来た人は バスで戻るのが ふつうだった
けれど 時折 降りた数より 乗った数が 少ない日があった”
ショートストーリの詰め合わせ。
個人的に少し内容が読み取りにくいのもあった。
虫師良かったなー。
漆原さんの作品の空気が素敵。
“「それで虫師に なったんだろうが 普通の昆虫じゃ 食ってけんだろ」
「ん ......うん」
「つーわけでな これやるよ 俺は全部 暗記したから」
「何ですか?」
「図鑑だ 俺も昔 先輩虫師から ゆずり受けた
虫を友達に育った お前でも 知らない虫ばかり のはずだ」
「...... これ これが 「三戸の虫」?
おれに 何これ 「疳の虫」に 「本の虫」に 「浮気の虫」 .........?
どこまで 本気なの この本」
「それは 自分で 調べる
捕獲法から 処方から 書いてある だろ」
「本当かなぁ......」
「さてな でも
「不思議な事」 には 大抵 つまらないからくりが あったりするが
普段 当たり前と 思ってる事には 面白いからくりが あるもんだ」” -
Posted by ブクログ
ネタバレダムに沈んだ村に住んだ一家の時間軸が微妙に乱れた不思議なノスタルジーのお話。
渇水でダムが干上がったことをきっかけに、爺さん婆さんと、龍神の祠で神隠しにあった長男と、妹、妹の娘が沈んだはずの村で多分に重層的な邂逅を果たす。
神域、村、時代、そういったものにとらわれたり、決別したり、それでも別れ難かったり。忘れ難い思いを静かに書いている印象がある。長男の神隠しと、彼の囚われた時空に紛れ込んでしまう孫娘が中心になるが、長男を捉えたと思しき龍神の直接的な描写はなく、なんとなく焦点の定まらない、霞のかかったような話になっている。
蟲師の頃から、読者の捉え方は読者次第というような、ある種突き放した書き方をする作者だが、それが更に進んだような印象もうける。雰囲気変わってないし、好きな人は好きだと思うが、穏やかすぎてなかなか迫らない、とも思えた。
もののけ姫みたいな感覚、かもしれない。 -
Posted by ブクログ
“「無理に動かない ほうがいい かなりの 疲弊のようだ
蟲師のギンコ と申します この山を 通り抜ける由 ごあいさつを
それは 滋養の薬 です ヌシ殿にも おそらく 効くものかと
――あんたは 一体 何故 ここでヌシを やっている……?
ヒトが ヌシに選ばれた という話は 古い記録でしか 知らない
それも皆 長くは生きて いない あんたも…… ずいぶんと衰弱 しているようだが」
『去ね』
『――あまり 深入りすべき じゃないか……』”
ギンコの旅を見れるのがもう終わりかと思うとすごく悲しい。
でも、ギンコはきっとどこかで今も旅を続けている。
蟲師として、気が向くままに人を助け蟲を助け。
そんな彼の旅路と彼に関わった人々の今後が、温かい陽の光で照らされることを、願う。
「光の緒」
「常の樹」
「香る闇」
少し、こわい。終わらない日々。
「鈴の雫(前編・後編)」
ヌシに選ばれた少女の行く末。
“「じゃあな」
「もう 行くのかい」
「ひとまわり してからな きっと もう 大丈夫だろうが また 何かあったら 呼んでくれ」
――山と 命と 理の間に流れる “約束”の中に――
「……さて 行くかね」” -
Posted by ブクログ
“「――どうやら ヒトの子では あるようだな 緑の目玉に 白い髪
お前の噂は 聞いてるぞ “蟲を寄せる 体質を持ち 歩く地に 災いをもたらす 異形の子”
何度か蟲師に 拾われたと 聞くが また 厄介払いでも されたか
――何故 蟲を 寄せるままに しておく ひとつ所に 留まらなければ 災いは防げる だろうに」
「……食ってく ためだ 俺が蟲を寄せて 蟲師が治す
……それが時々 手に負えねぇ 事になる」
「…… お前を拾ったのは そういう輩ばかり ……ってわけか」”
「残り紅」
珍しく老人のお話。切ない。
「風巻立つ」
「壷天の星」
帰ってこれて良かった。
「水碧む」
これも、切ない。
「草の茵」
ギンコの昔の話。
ちょっと泣ける。
“「……だが… 忘れるな
この世に 居てはならない 場所など 誰にも無い
お前もだ 理に 戻る事を 許されたんだ
この世のすべてが お前の居るべき 場所なんだ」” -
Posted by ブクログ
“『……ヌシ どころか けもの一匹 いねぇ
しかし よく見れば あちこちに 山崩れの跡が あるな おそらく秋頃 台風に遭った 跡…… かなりの 規模だ
……その傷を 癒すため ヌシは 山を閉じて 山ごと冬眠 させているのか
……だが 弱った生物に とって 冬眠は そのまま 死んでしまう 事もある 賭け――
となりの山じゃ もう春 なのに まだ 息を吹き返さない という事は……
……もう この山は 死を待つのみ ――――』
「このままじゃ 俺も 巻き添えか」”
「潮わく谷」
「冬の底」
自然の深さとか。
「隠り江」
「日照る雨」
ちょっと辛いかと思ったけど、いいエンドだった。
「泥の草」
後味が、苦い。
“「ヒトとヒトの 意識の間には 見えない 通路が あると言う
ちょうど この町に 張り巡らされた 水路のように 裏庭で すべての水路は つながっていて
そこには 五識を補う モノ…… 我々の言う “妖質”というモノが 流れている
だが 水かさが 少ない所も多く おまけに 入り組んでいて 地図もない
それでも水路は つながって いるので 望む相手に 会える事も たまにある
すると お互い同時に 相手の事を 思い出すような 事……
いわゆる “虫の知らせ”が 起こるわけです」” -
Posted by ブクログ
“「……」
「どうかしたか」
「……今まで 気が付かなかった けど あんた よく見ると 男前だね……」
「…………は?」
「髪の色とか ヘンだけど 血筋? 卿里は どこ?」
「…… 本当に もう治った みたいですな」
「さようで……」
「じゃ 俺は この辺で」
「えーーっ も少しゆっくり していきなよ お礼も したいし さあ……」
「真澄!! お前 少しは 懲りんかっ」”
「花惑い」
真相が少しえぐい。
「鏡が淵」
「雷の袂」
どこの時代でもどんな場所でも。
「棘のみち(前編・後編)」
淡幽再び。可愛い。
“「うまい か?」
「……さあ」
「うまくない わけ ないだろう ほれ お前も」
「どーも」
「これは うまいと いうものだ」
「……お前 そんな無理やり」
「うるさいな」
「それにコレ ……うまいか?」
「お前は ほんと 貧乏舌だな」
「……失礼な 好みの問題だ 好みの」
「ほーお」” -
Posted by ブクログ
“「ほら これを 飲め」
「……」
「……それ飲んで 早く治って くれねえと いつまでも 面倒は 見れねえぞ
お前だって 早く元に 戻りたいだろ」
「…… 元……に?」
「何も 覚えて ないのか」
「……」
「――お前はな 強い蟲の気 帯びて ひどく 曖昧なモノに なっちまってる
おそらく 今 他のヒトに お前の姿は 見えはしない
その 手に生えた 白い糸 それに 触れちまった せいだろ
放っておけば どんどんヒトから 離れてゆく」
「あなたは 私を 助けて くれてるの ……?」
「さてね 自分の したいように してるだけだ」”
「天辺の糸」
ハッピーエンドで良かった。
「囀る貝」
「夜を撫でる手」
少し、おぞましい。
「雪の下」
この二人、結構好きだ。
「野末の宴」
“「―――― 訊いていいか あの 光酒……とは 一体 何なんだ?」
「生命 そのものの姿 蟲患いには 万薬の長だ」
「……蟲とは?」
「まあ…… 世を構成してる ものの一部さね
それ以上でも 以下でもない」” -
Posted by ブクログ
“『……くそ これは とても 敵わねぇ……
……このまま コイツに喰われれば 俺も 胚にまで 戻してくれるんだろうか
全てが始まる その前まで ……ああ そりゃあ
たいそう悪い 冗談だ』”
「沖つ宮」
この島はもうこのままで、そしてこの二人はこれからこのままで。
それが一番良いのだと思う。
「眼福眼禍」
視えすぎた瞳。
「山抱く衣」
「篝野行」
「暁の蛇」
最後は思わず泣いた。
少し切ない。
“「…… 何故 そんなに 助けたがる ……? その左眼を 失したせいか」
「千里眼なら 視えるだろ」
「あんたのは 子供の頃が 真っ暗で 視えない」
「…… ……俺の 一番 古い記憶は 十の頃 どこだか知らねぇ 真っ暗な所を 一人で歩いてる ってもんだ
何も 視えない 手探りで 歩き続けて いると そのうち 月が出た
真っ白い 偽物じみた その月が 沈んでも また昇って くるのは 月――
そんな所を 長いこと 歩いて ある時 ようやく 陽の昇る 所に出た
その陽の光の ありがたさは 今でも よく 覚えている
あんたは 永久に 光を失うのが 恐ろしくは ないのか」
「…… 恐ろしいよ でも 光しかない 世界も 恐ろしい
何もかも 視えちゃいるのに 何も動かせない 事と 闇の中でも 自由に生きられる 事……
どっちが 恵まれてると 思う……?
私は 闇の中で 光を思い出し ながら 生きていくのも 悪くはないと 思うんだ……」”