空木春宵のレビュー一覧
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脱出
脱出をテーマにした短編ミステリー集
阿津川辰海 屋上からの脱出
とあるカップルの結婚式。友人として招かれた一ノ瀬。結婚式に参加しながら、二人の馴れ初め、そして彼らと共通の部活で起きたとある事件について、同じく招かれていたハルと話しながら詳細を思い出していく。
性格柄か、何をそんなに驚いているのか、事件の真相と隠された事実について、微笑ましいとまで読み取ったのだが、現代の読み手はこの様な事は想いがねじ曲がっていると感じるのだろうか。僕にはとある二人の行動は普通だと思うし、されたら嬉しいのだが。阿津川辰海は歴代短編も漏れなく面白いのだが、今作は登場人物のバッグボーン含めあまり楽しめなかった。
こんな設定でも密室にできるんだなあと感心した。
織守きょうや 名とりの森
ノスタルジーを感じる舞台設計に森に入ると出られなくなると言うオリジナリティ。唯一、自身の名前を呼ぶ事が森の外に出る為のルール。
現実的な要素では無いファンタジー的な要素の組み込みがうまく、あっという間に読み終えてしまった。各キャラクターがまだまだ確立されておらず、それぞれの登場人物の背景を広げながら長編でも読んでみたいと思った作品だ。(ほんの少しだけ、スパイス的にホラー要素があっても良いなぁと思った)主人公の年齢設定とそれに見合った友情が素敵だ)
斜線堂有紀 鳥の密室
魔女狩りをテーマにした作品は、大体が壮絶で聴くに耐えないストーリーになるのだが、今作も例に漏れず胸糞悪い背景の作品だ。
魔女と言われ捕まえられたマリアがあれだけ多くの拷問に耐えた理由に衝撃を感じ、彼女がどの様にして密室から消え去ったのかはある意味ミスリードされたトリックだと思う。僕はそうなっているだろうと予想はしたが、動機は全く違った理由で捉えていたため、動機がわかってからも衝撃は醒めなかった。
空木春宵 罪喰の巫女
文体が難しく読むのが大変な作品だった。その分、雰囲気が充満しており、知らず知らず世界に飲み込まれそうになった。ストーリーも幻想的で、戦後の設定なのでそれ程時代設定が古い訳では無いはずだが異様さに満ちている。
トリックは異様で、そして最後は驚きの結末になっており、この文体で物語を進行させた理由が読み取れる様な気がした。
罪を犯した人々とその罪を喰らう巫女、その巫女を書こう神社と謎に満ちていたが短いなかで見事に伏線を回収している。読みやすければ長編でも面白そうな作品。
井上真偽 サマリア人の血潮
今作で一番面白いのはこの作品だろう。作風へ暗くヒリヒリするが、きちんと物語が完結されており、正しく短編として面白い作品だ。
世界観は最初は理解できないが、徐々に解明されていき、それでも最後の最後まで謎を提供し続けて見事に回収までしている。トオルとカズトの関係性そのものが物語のベースだが、最後とある事実で一気に事件がひっくり返る印象だ。今後、どの様に作中の人々が生きていくのか。久しぶりに余韻に浸れた作品だ。 -
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今回のアンソロジーは読みやすい作品が多かったように思える。あくまでも個人の感想であるが、世界観をぱっと理解できる短編揃いなのだろう。個人的に印象に残った作品は2つ。「メタモルフォシスの龍」(空木春宵)は個人的にはあまり好きではないジャンルなのだが、恋に破れると蛇化する女性と蛙化する男性、特に蛇化する女性の描写が生々しくも切ないのが良い。「されど星は流れる」は系外流星を流星同時観測の手法で探索する物語。科学を一生懸命やる話は私の好物である。遠くにある流星の母星と少し離れた観測者の男女の物語が接触しそうでしなさそうな、流星が地球をかすめていくような感じでよい。
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ネタバレどの話も設定が面白く、ワクワクしながら読めた。
◆天駆せよ法勝寺
最初から世界観に驚愕させられ、そのままの勢いで最後まで読み切ってしまった。最後、大人が大人であるがため苦渋の選択し、それでも前へ進まないといけないのに対して、主人公の意識が子供から大人へと変わる様子が危うげながらも、頼もしく清々し感じられた。世界観は奇抜だけど、共感できる。
◆家の外なくしてみた
扉や窓の外が家の中と繋がっている設定は四畳半神話大系と似ているかと思ったが、こちらはだいぶポップ。2人の会話が丁寧なのにテンポが良くて読みやすかった。
◆この光が落ちないように
これも世界観がすごい。
「感情は火と同じ。」と、感情の否定に向かい、すべて焼き払い必要なバックパックだけを持ってサクラに会いにいく様子は今までのウトウ博士との思い出も否定しているようで悲しい。この話が一番印象に残っている。
◆星から来た宴
主人公達が受け取ったものは、消えた文明が最後に放った音楽で、老師の「滅びた生物の遺言」という言葉が残る。文明はいつかは滅びるものなのかもしれないけれど、最後の声を受け取る人がいることはせめてもの救いになっていて欲しいと思った。
◆さよならも言えない
これは最後、悲しい。結局、ミドリと少女は真逆の人生を歩む。少女が去った後、今まで幸せで美しかった思い出と、残って冷めてしまったコーヒーの味が重なる。最後、ミドリが猫のブローチを自分でつけることで、自分の中で少女にさよならを言っている気がした。
◆風になるには
最後、ハコの「消えたくないな」という、心の底から無意識にふと漏れたようなセリフにどんな思いがあるのか考えると切なくなる。「死にたくないな」と私たちが思うのとは、違う何か複雑なものがあるのだと思う。
体の貸主と借主の分かりあおうとする気遣いがすれ違ったり、かみ合ったりするところも面白い。ハコの、「あたしの目」をとおして見た物の表現も活き活きしており、目に浮かぶようだった。 -
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ネタバレ元々、制作する楽曲の多くが、過去の文学作品を礎にしている人間椅子、彼らの作品が今度は小説のモチーフになったということで、いわば音楽界から文芸界への逆輸入、という発想がまず面白い。
そして、そのような出自であるからして、彼らの楽曲がノヴェライズのベースとして馴染まない訳がない。
まず選ばれた5曲を見てみると、1つは筋肉少女帯との共作だが、残り4作はすべて和嶋慎治氏の手による詞、ということに少し驚いた。
また、著名な代表曲ばかりということはまったくなく、むしろコアなファン以外にはすぐにピンとこないであろう作品も。
口火を切る大槻ケンヂ氏の「地獄のアロハ」、イカ天をリアルタイムで観ていた世代にとっては、その時代の空気感が生々しく甦ってくるかのような描写の数々が妙に懐かしく、史実ないまぜのふわふわとした感覚がまた心地良い。
どこまでが実体験ベースで、どこからが完全なフィクションなのであろうか。
「なまはげ」という題材にふさわしく? 教訓めいた民話のような雰囲気をまとう伊東潤氏の噺は、まるでテレビドラマ「世にも奇妙な物語」の小話のような結末を迎える。
歴史小説家という印象が強い著者なので、こうした展開もあるのか、とやや意外だった。
空木春宵氏のチョイスはまさかの「超自然現象」、中身を読んで思ったのは、「大予言」でもハマったかも? なんて。
ちょうど旧統一教会を巡る問題が論じられている昨今、偶然か必然か、タイムリー性も抜群だった。
巻末の一言解説で、和嶋慎治氏が「『新青年』収録の作品」と書いているが、正しくは「異次元からの咆哮」なので、この勘違いを誰も正さなかったのは一体どういう了見なのだろうか。
芥川賞作家である長嶋有氏の「遺言状放送」は和嶋氏が述べている通り、まさに青春こじらせ小説と呼ぶべき、シリアスと見せかけて実は軽やかなタッチの一作。
受賞作の「猛スピードで母は」も、純文学というカテゴリーにしては読み易かった印象があるが、さらにエンタメ性がトッピングされた感じか。
主人公の少年は恐らく私と同い年であるはずなので、作中へのシンクロ感は個人的に大きく増した。
また、これも和嶋氏が触れているが、長嶋氏は実は筋金入りの人間椅子フリーク? と思うぐらいに小ネタがこれでもかと散りばめられていて、古いファンとしては嬉しくなる。
プラクティカル・ジョークという言葉をここで目にするとは!
思わずベスト盤「ペテン師と空気男」のライナーノーツを読み返した。
掉尾を飾るのは和嶋慎治氏による「暗い日曜日」。
雑誌「怪と幽」で一足先に読んでいたが、自分で書いた詞を下敷きにして小説にまで膨らませる、という行為はさぞかし難しかっただろうと想像する。
結果、産み出されたのは、曲中の各世界とはまったく異なるものであった。
恒川光太郎氏が書く世界に通じる匂いが感じられたり、あるいは藤子・F・不二夫のSF作品を彷彿とさせたり。
まさしく最後は、暗い、憂鬱な幕引きであった。
もちろんミュージシャンの両氏が綴る文章も商業作品として充分に足るクオリティではあるが、その他の3名が職業作家たる地力をしかと見せつけてくれたな、というのが全体を通して得た印象。
あと、鈴木研一氏の一言があっさり過ぎて、思わず苦笑、で本を閉じたのであった。 -
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なんか最近、アンソロジーばっか読んでるような…。
2019年12月刊行の日本SFアンソロジー。短編7編とエッセイ2編が載っています。
第1集の『一万年の午後』のレビューで書いたのですが、ちょっと良いレストランで頼む「おまかせコース」がまさにアンソロジーだと思います。
「おまかせ」とは言え、オードブルからデザートまで全てパイ包み焼きだったらイヤだし、全部がココナッツ風味だったらもっとイヤな訳です(笑 たとえ、どれも単品としては超美味しかったとしても!
その意味では編集者(本著エッセイで言うところの「アンソロジスト」)の役割は非常に大きく、しかも料理とは違って、「これはケーキだからデザート」的な情報は当然無い訳ですし、そもそもデザートが最後とも決まっていない訳です。
本著は、何と言うか…そこらへんの並びが非常に良く、飛び抜けた1皿は無くても、バランスの良いコースで、そこにまずお見事感がありました。
その上で、個人的に好きな1編を挙げると、「痩せたくないひとは読まないでください。」でした。
※第1集のレビューで挙げた1編と同じ著者さんだったコトには今見返して気付いたので、自分はこの著者のスタイルが好きなのかもしれません。長編読むか…。(というコトに気付けるのもアンソロジーの良いところですね(気に入った著者の名前くらい覚えとけというツッコミもありますが…))
99%あり得ないだろうと思う未来の社会。でも、1%くらいあり得るんじゃないか、と思わされるのが面白いところ。本編では、「太ってると会社を辞めさせられ、殺されかける社会」という、恐ろしいながらも完全にあり得ないとは言い切れない気がするもの。
文章に通底する雰囲気がどうにもユーモラスで、少しブラックユーモアっぽい感もあるのですが、同時に考えさせられるというのが、個人的にツボでした。
続巻も読んでいきたい、良質なアンソロジーだと思います。 -
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ミステリーからホラーやSF…5人の作家による様々なシチュエーションからの脱出劇。
「屋上からの脱出」阿津川辰海
中学時代の仲間の結婚式。『一ノ瀬』は二人のなれそめとなった出来事に想いを馳せる。天文学部の合宿中、極寒の屋上に閉じ込められたことを。
一番現実的で想像しやすい舞台。脱出方より理由を解く方が本題。青春物の皮を被っていながら少し後味はよろしくない。ミスリードを狙っているのだろうが、2歳差を歳の差婚というのはちょっと違和感。
「名とりの森」織守きょうや
夏至から十日の間に入ると出られなくなると言われている町はずれにある森。名前を忘れてしまうらしい。一人で森に入り行方不明になってしまった友達を探すため、『夕陽』は森に入る。
ファンタジーよりかな。名前を思い出せば戻れるらしい。ラストは二人で戻れてめでたしめでたし。
「鳥の密室」斜線堂有紀
これは何と言えばよいか。中世の魔女狩りがテーマ。拷問シーンが辛過ぎる。
「罪喰(つみばみ)の巫女」空木春宵
民俗学を調べている男が興味を惹かれたのは、罪を喰ってくれる特別な能力を具えた巫女がいるというもので、ようやく探し当てたその神社を訪れる。
ホラーかな。祈祷や念力ではなく、文字通り肉体を食べる美貌の巫女。なんだか『進撃の巨人』を思い浮かべてしまった。二人の視点が入り混じって複雑な構成。
「サマリア人の血潮」井上真偽
記憶をなくし研究所で目を覚ました『トオル』は、血を吸うゾンビのような人間に襲われる。絶体絶命の彼を助けたのは『カズト』と名乗る声。 一体奴らは何なのか、そしてカズトは本当に味方なのか?断片的に思い出す記憶を頼りに、トオルは上を目指す。
SFかな。薬となる希少な血液を持つが故自由を奪われた少年の脱出劇。人類が滅んでも構わないと思う一方で、親身になってくれた一人を見殺しにはできない。パニック映画のようでいて、意外と奥の深い話だったのかも。
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ネタバレ斜線堂有紀の本を探してたどり着いた。脱出をテーマとした5編のアンソロジー。ミステリー小説集とあるけど、正直全部ミステリーではないと。いや最初の阿津川辰海「屋上からの脱出」はまぁミステリーか。織守きょうや「名とりの森」はファンタジーだし、斜線堂有紀「鳥の密室」は魔女狩りについての話でかなりグロい。空木春宵「罪ばみの巫女」もよく分かんなかったし、井上真偽「サマリア人の血潮」も何か人物像が二転三転してあんま好みじゃなかった。初読みの人が多かったけど、あんまはまんなかったな。名とりの森だけ最後ちょっと泣きそうになったわ。これは良かった。
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5人の人気作家が贈る、5つの脱出をテーマにしたミステリアンソロジー。
脱出をテーマにしたアンソロジーです。閉ざされた空間から脱出する、というテーマは同一でも、閉じ込められた屋上から脱出する学園ものから、魔女として処刑される前に繋がれた等から脱出する、だったり、記憶喪失の主人公が謎の研究所の出口を目指したりと、ミステリだけでなくファンタジーやホラー要素のある話まで、幅広い意味での脱出を扱い、バリエーション豊かな作品が収録されています。
阿津川さんの『屋上からの脱出』は学校に閉じ込められた生徒が抜け出す方法を探す話。一番スタンダードに脱出がテーマ、という感じがします。期待通りに面白い。
織守さんの『名とりの森』と空木さんの『罪喰の巫女』がホラー味が強く、『名とりの森』は少年たちの冒険を描いた神隠しのような話。『罪喰の巫女』は美しくも悍ましい巫女を祀る神社の話。こちらは少しグロテスクですが、怪しく幻想的な雰囲気が個人的には好きです。
斜線堂さんの『鳥の密室』も、痛々しい描写など多いですが、ロマンシス? シスターフッド? の要素も感じる魔女狩りの話。こちらも好きでした。
最後の井上さんの『サマリア人の血潮』は、謎の研究所からの脱出。記憶喪失の主人公がだんだんと記憶を取り戻し、謎が明らかになっていく過程が、ゲームのようでワクワクします。