鏑木蓮のレビュー一覧
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鏑木蓮『見えない階 心療内科医・本宮慶太郎の事件カルテ2』潮文庫。
京都という古く落ち着いたしっとりした土地を舞台にした心療内科医が探偵役という異色のミステリーシリーズ第2弾。タイトルにある『階』は『きざはし』と読むようだ。
患者を第一に考えながら、複雑に絡み合った糸を丹念に解きほぐすかのように難事件を解決に導いていく過程が面白い。スピーディなアクション、サスペンスも好みであるが、このくらいのゆっくりした調子のミステリーも面白いものだ。
そして、素晴らしい結末。この世もまだまだ捨てたものではない。
物語は『第一章 現在』と『第二章 過去』と『第三章 未来』の三つの章に加え、『プロローグ -
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「思い出探偵」シリーズ、第三弾。
今回は、じっくり書き込む長編。
物語は、重く暗い、冬の海の轟きを思わせる。
長年のパートナーとともに大きな居酒屋チェーンを築き上げた、高齢の女性。
籍を入れようとしなかった彼女を、なさぬ仲の子供たちも慕っている。
認知の症状が進んでしまったことを残念に思い、過去を思い出すことが脳の刺激になれば、弱ってしまった父共々元気になってくれるのではないか、と沈黙を守る継母の過去探しを依頼される。
調査は、戦前戦後の過酷な人生を生き続けた「女の一生」を辿るにふさわしい、長い旅路だった。
傍目には成功者と見える女性の、人に言えない過去の苦難と悲しみ、流転と贖罪の人生。
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恐らくは他の方とは評価の基準が違うため 参考にはならないとは思いますが 私にとって この一冊が今年最高の一冊となりました。
表面だけを見ていてもわからない人間の善意。
日々を暮らす人の数だけ 異なる善意の形があることを この作品から知りました。
「数値は嘘をつかない。でもそれは過去を示すものとしての正しさであり 大多数のニーズは拾えても ひとりひとりの思いに答えるものではない」
自分が追い詰められてきた仕事のこととも重なり 大いに励まされた言葉です。
支えながら支えられる。人を思いながら思われる。
ここに登場するすべての人の心がつながり お互いに寄り添 -
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元京都府警の刑事だった実相浩二郎は、京都御苑の近くに「思い出探偵社」を構える。
依頼人の話を聞き、わずかな手がかりから思い出を探す仕事だ。
62年前、梅田の闇市で助けてくれた少年にを想い続ける老女。
43年前、集団就職で出てきて働いた会社がつらくて飛び出したときにコーヒーを飲ませ、諭してくれたお姉さんに、今の自分があることを知ってほしい。
10年前の忌まわしい事件を乗り越えたい。
7年前、自殺として処理された、浩二郎自身の息子の死の真相を突き止めたい。
5日前、清涼寺の境内でなくした愛猫の思い出の品を拾ってくれた人にお礼を言いたい…
独立した短編集ではなく、いくつもの事件は平行して -
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鏑木蓮『P・O・S キャメルマート京洛病院店の四季』ハヤカワ文庫。
書き下ろし作品。正直に言えば、変わったタイトルに若干の不安を感じながらも、珍しく書店に取り寄せてもらい、読み始めたのだが、やはり鏑木蓮らしい良い作品だった。もしも、このタイトルで他の作家の作品だったら読まなかったに違いない。ミステリーの要素もあるハートウォーミングなコンビニ小説。
コンビニのスーパーバイザーを務めていた主人公の小山田昌司は京都の病院内にあるコンビニの店長を任される。昌司は売上増を目指し、POSデータを活用するが、なかなか思い通りはいかないのが院内コンビニの宿命だった。院内コンビニに訪れる奇妙な客、奇妙な依頼 -
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ミステリーは苦手な人です。
推理は大好きなのですが、私にとっての読書は
あくまでも心のオアシスなので、殺伐とした
シーンが言葉で表現されているのを読むのは
辛いのです。
ミステリーは映像として楽しむ方が
気持ちにあっているのです。
この作品はしかし。別格でした。すごい。
かつて殺人事件の公訴時効までの15年は
たくさんのミステリーで扱われてきたテーマ
ですが、この作品にこめられた「生きる」こと
の意味にリンクした事件解決に至る衝撃的な
展開は予想もしませんでした。
そうして心の中で喝采を贈りました。
生きることの意味ではなく
生きることそのものに既に意味がある。
高藤警部のこの言葉が秀 -
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どれほどの善意を
他人に振り向けても
だからといって幸せな日々を
過ごすとは限らない。
穏やかな日々を
過ごしているように見えていても
だからといって凄烈な過去を
持たぬとは限らない。
人のあたたかな思いが
それだけで人を幸せにするとも限らず
善意を振り向けたからといって
必ずそれが報われるとは限らない。
人の世のやりきれない矛盾が
この本には詰め込まれている。
なのに…どうしてこんなに安らぐのだろう。
真実を伝えることも伝えないことも
相手の心のためだけに選択する人たちが
この探偵社にはいる。
どの事案もすっきりとは片付かない。
必ずどこかに翳りを残しながら終わる。
探偵たちの人生 -
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宮沢賢治を探偵に見立て、宮沢賢治とその親友・藤原嘉藤治の活躍を描いた連作短編集である。時は大正、舞台はイーハトーブ…岩手県である。これまで鏑木蓮が描いて来た作品にはかなり高い確率で岩手県が登場するのだが、鏑木蓮の出身地は京都であり、非常に不思議に思っていた。ある時、鏑木蓮が宮沢賢治を信奉している事を知り、謎が氷解した。従って、この作品は鏑木蓮の本領が如何無く発揮されるものなのだろう。
まるで宮沢賢治が目の前に居るかの如く、ワクワクするような短編ばかりである。我が郷土の誇る宮沢賢治が探偵として大活躍を繰り広げるのだから、たまらない。よほど宮沢賢治と岩手県を研究したのか、宮沢賢治の詩とストーリー -
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シベリア抑留、俳句、自費出版、老人自活施設と
団塊の世代以上の読書好き年配者を
想定読者に据えたかのような骨太の社会派ミステリー。
たぶんそんな意図はないんだろうけど。
戦後の動乱期、ふとしたことから大罪を犯したが
罪が露見せずに数十年が経ち、今では地位もある
名誉もある自分がやるべき仕事もある身になり
過去の過ちを隠すためにまた罪を重ねてしまうという作りは
松本清張の名作、あるいは『飢餓海峡』のそれに近い。
俳句をトリック解明のキーに据えた試みは
物理トリックやアリバイなど理詰めの思考とは趣きが違っていて
575の文字から情景を想像しながら考える面白さがあった。
イルクーツクの俘虜収容