元京都府警の刑事だった実相浩二郎は、京都御苑の近くに「思い出探偵社」を構える。
依頼人の話を聞き、わずかな手がかりから思い出を探す仕事だ。
62年前、梅田の闇市で助けてくれた少年にを想い続ける老女。
43年前、集団就職で出てきて働いた会社がつらくて飛び出したときにコーヒーを飲ませ、諭してくれたお
...続きを読む姉さんに、今の自分があることを知ってほしい。
10年前の忌まわしい事件を乗り越えたい。
7年前、自殺として処理された、浩二郎自身の息子の死の真相を突き止めたい。
5日前、清涼寺の境内でなくした愛猫の思い出の品を拾ってくれた人にお礼を言いたい…
独立した短編集ではなく、いくつもの事件は平行して進み、依頼されたものではなく、スタッフ自身の心に抱えた問題もある。
思い出はいいものばかりではない。
相手にとって、どういう形で心に残っているかわからない、人間の心の複雑さもある。
62年前、43年前という、遠すぎる戦後日本の思い出も、作品の特徴かもしれない。
わずかな手ががりを追って飛び回る姿は、時効間近の事件に執念を燃やす刑事そのものだ。
温かい解決、切なく懐かしい解決、苦い解決…いろいろだが、依頼人の気持ちに寄り添いたい、というのが浩二郎の一番の願い。
第一章 温かな文字を書く男
第二章 鶴を折る女
第三章 嘘をつく男
第四章 少女椿の夢