鏑木蓮のレビュー一覧
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鏑木蓮『疑薬』講談社文庫。
新薬開発をテーマにした医療ミステリー。
今まさに新型コロナウイルスのワクチンが世界中で使われ始めようとしている。普通なら数年掛けて行われる治験を数ヵ月に短縮し、副作用の懸念もある中で、言わば見切り発車での使用となる。本作で描かれるインフルエンザ治療薬の『シキミリンβ』はまさに薬の副作用の怖さをテーマにしており、決して他人事とは思えない。そんな興味深いテーマの作品なのだが……
鏑木蓮は好きな作家の一人だったのだが、これまで読んだ作品の中では低評価となる。余りにも薬医療に関して専門的な記述が多く難解な上に、ストーリー展開のテンポが悪く、途中何度か投げ出しそうになっ -
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ネタバレ何気ない描写やキャラのしぐさで、登場人物に深みを与えてくれるところが鏑木蓮の強みの一つだと思ってるのですが、序盤に怜花が近所の高校生相手に変顔を見せるという何気ない描写に「あ、この本良さそう」と予感しました。
こうした描写って、読み手にキャラの人物像をさりげなく、かつ深く伝えてくれてる気がして、読み進めれば進めるほどキャラが生き生きしてくるように感じることが多いです。そういう作品が好きな傾向が自分にはあるので、先に書いたような予感がしたわけです。
なので、感覚的には惹き込まれる点がいくつかありましたが、論理的には理解できなかった点もありました。
特に三品の目論見について。高齢者医療や老年 -
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終戦間際に実際に存在した、馬鹿馬鹿しいほどの作戦。その一つ「人間機雷」を題材にしたドラマ。
老人の孤独死と誰も引き取らない「遺品」から、確かに生きていた証を探っていくうちに、終戦間際に特攻作戦の実験中に起こった事故にたどり着く。
戦闘機によるいわゆる「特攻」、人間ロケット弾「桜花」、人間魚雷「回天」など、有名なもの以外にも、信じられないほど冷静さを失った作戦が実際に計画されていた。
同じ敗戦国のドイツと比べても、実に幼稚な「負け方」で、当時の政治レベルの低さが伺える。
でも、笑えないよ。
今でも「日本人がコロナに強いのは、民度が高いから」なんて、堂々と発言する政治家に、同じ匂いがするのに、そ -
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ネタバレ緻密に淡々と、これぞまさしく
刑事捜査の描写なのだと思った。
その捜査も片岡真子のひらめき抜きでは
成立しなかったわけで、そこが唯一の
フィクションなのだとすら感じた。
ここに描かれた犯人像も、伏線となる
カップ麺のイナゴ混入画像の捏造と拡散も
すべてがノンフィクションであるとしか
思えない…そんな世の中になってしまったのだ。
事実は小説より奇なりというが…確かに
もはや事実を超えるほどの奇想天外を
小説には求められないのだろう。
今の世にない奇想天外…もしかしたらそれは
「穏やかな日々」「幸せに生涯を全うする夫婦」
「大切な人を心から愛おしく思う恋人たち」
…そんなものなのかもしれな -
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ネタバレ東京ダモイ/鏑木蓮:第52回大賞受賞。2006年。
シベリア抑留だというから読んでみた。シベリア抑留の時の中尉殺人事件が現代の殺人事件を呼ぶのだ。ヒントは、元シベリア抑留者の高津が自費出版しようとした句集。
シベリア抑留のことはとても調べてる。何故かシベリアのことは語らない経験者が多いので、こういう本は必要だと思う。で、その部分はやはり心を打たれる。
だのに★が4つなのは、自費出版会社の男女とか、刑事とかいまいちなんだよなぁ。推理は俳句に詳しくないもんで、そんなもんかなぁと思ったり。
ちなみに「ダモイ」とは、ロシア語で「帰郷」のこと。抑留者は「トーキョーダモイ」と言われてたのに、シベリアに連れ -
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ネタバレ病院のコンビニに求められるサービスは、他と違うのか。
キャメルマートのスーパーバイザー小山田昌司はその手腕を買われて京洛病院に入っている系列のコンビニの店長となる。前店長の経営方針を疑い、POSによる徹底管理を信条とする昌司が京洛病院の日々で気付いたことは。
お仕事モノだが、ポイントは病院の中のコンビニであること。そこの常連客は病院関係者、売れるものは何だろう、と考えるところから始まった。突然の入院で必要なものが売れるのじゃないか、怪我で入院して暇な人がいるから雑誌とかはどうだろう、それくらいしか考えられなかった。しかし、話は色々な方向に転がり、コンビニや病院の常識からいったん離れてみるよ