ポール・オースターのレビュー一覧
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ネタバレそれは人類がはじめて月を歩いた夏だった。という美しすぎる書き出しがいい。音楽的とも評される文章は比喩表現含めてとても綺麗かつ、自嘲と自虐の目立つ語り口ながらニューヨーカーらしい軽快さもあるアメリカ現代文学らしいオシャレさがあった。
内容としては自伝的な青春小説でありながら、これは家族小説でもある。特に第二部の余命いくばくもない富豪の老人と、第三部の息子がそれぞれ主人公の父であり祖父だったという「偶然」と、それが連なって物語となる「必然」は非常に面白く、いずれも互いが関係性を自覚して双方向になったのは束の間で、死による離別となるのはたまらなく切ない。結局ひとりぼっちとなるラストも含めてかなり薄 -
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妄想と現実が入り混じり、
探偵小説の体から始まるが、途中から
己の狂気に閉じ込められた人間像について、
リアルに描かれていて文学作品のよう。
途中、ドンキホーテ論を交わす場面があるが、
最後に主人公のクインの赤いノートだけが残り、またそこで初めて、物語の作者が、
ポールオースターの友人なる『私』の存在が、
明らかになる。
まさにドンキホーテのように、4番目なる人物が
ストリーテラーだったというオチ
同胞たる人間たちの信じやすさを試す愉しみ
とあるように、幾十にもなっている入れ子の
小説になっている。
読書後も、登場人物のあの人は、夢か現実か
はたまたクインの妄想か、不思議な余韻が残る
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Posted by ブクログ
訳者が後書きの最後で書いたように、この途方もない物語に耽溺、はした…
まぁ、大分的が外れてるかもなのだが、途中、まるでアメリカの大河ドラマのようだなと思った。
日本の大学紛争はニュースや小説等で触りだけの関わり方しかしていないものだから、あちらのそれの描写のシーンでは、ファーガソンに感情移入しているものだから、かなりの迫力と無惨さをもって伝わってきたように思う。
それにしても、そういうことをする年になってから以降は、女も男も相手にするセックスの話も多く、これはこれで興味はあるのだが、寧ろそういう時代を、もう、振り返るだけしかできないような年代になったファーガソンが、回想ではなく、そこからまた何 -
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遂に、読み終わった…
1947年生まれのポール・オースターによる自伝的小説
戦後史において恐らく最も激動だった60年代を若者として生きることは、自らの可能性が何通りにも分かれパラレルワールドの如く並行して存在するように感じるのかもしれない
面白かった!
自伝的小説というより、彼の世代の大河ドラマと言うべきか
青春の戸惑いと喜びを書かせたら彼の右に出る者はいない
身体と精神の変化、神との関わり、性愛、クィア、闘争、死…
辟易しないのは、この小説のスタイルと、彼の「小説と思弁的な散文のあいだの微妙な線を歩く術」のおかげだ
そして、
今の制度がダメだからと革命を起こそうとして失敗したのが6 -
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面白い!790ページの物語に一週間どっぷり浸かって、まずはそう言い切れる。が、いやー疲れたってのも本音。
ひとたびファーガンソン君を好きになってしまえば、横溢する詩、書物、音楽、そして映画の固有名詞も、ファーガンソン君を形成していく重要なピースとして愉しく読める。
しかし、教養といってしまえばそれまでだが、誰の本に感銘を受け、どの映画が最高かを論じるのが友情を築く土台だとすると、僕などは全く資格に値しないのは残念なところ。ファーガンソン君は1960年代アメリカの空気を胸いっぱいに吸いこんで青春を駆け抜けていく。
“これまでファーガンソンはいつも、人生は一冊の本に似ているとあらゆる人から言わ -
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オースター初期、ニューヨーク3部作のうち「孤独の発明」と「幽霊たち」は読んだ記憶があるのだが本作は未読。追悼特集で平積みになっていたところでついに手に取った。
探偵小説のような体裁で書かれているが、探偵小説のような謎解きも、事態の進展もない。
馴染みがありそうな例えをするならば、村上春樹的な不思議空間に迷い込み、探偵のようなことをさせられた男の物語といったところだろうか。
いささか実験的小説のような印象も受け、いろんな手法とテーマが混ざり合っているのだが、敢えて軸となるテーマを探し出すとするのであれば「言葉」と「狂気」と「認識」だろうか。
虐待を受けて育ったクライアントが用いる違和感のある言 -
Posted by ブクログ
ニューヨーク3部作~「ガラスの街」「鍵のかかった部屋」「幽霊たち)
1985年~1986年に執筆されたこの傑作揃いは、全く、互いに関連するものはない。
なのに、読書中、読後感が同じ匂い、感触に包まれる。
どれも読んだのは20年余前、仕事の合間に読んだ事もあり、あんまり記憶に残らなかった。
年齢もあるのか・・と今回、まずこの本を再読してみて感じた。
共通するモチーフは「孤独」そして無色ではないとしても没個性的「存在の」人物・・ブルー・ブラック、ホワイト、レッド、ヴァイオレット・・・
ブルーがブラックの指示に従い、歩き走り行動して‥現実と虚構のはざまが薄れ消えていく感覚がこちらにも伝わってくる -
Posted by ブクログ
「それは人類が初めて月を歩いた夏だった」
主人公マーゴの物語が始まる。
敬愛するビクター伯父さんを亡くしてから、隙間から見える「ムーン・パレス」のネオンサインを、ただ眺め、思い浮かべるだけの生活を彷徨う……やがて、友とキティという女性に助けられて、無為の果てから生還する。
そののちに出会ったエフィングという人物が、主人公に生き様を見せる。
「……どこでもない場所のど真ん中の、何もない荒野に、独りぼっちで何か月も……わしはどこへもいく必要なんかないんだ。ちょっとでも考えれば、とたんにもうそこに戻っているんだから。このごろじゃ一日の大半はそこにいるのさ……」
物語は次に主人公マーコとエフィン