ポール・オースターのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
なんということか、ついにこの大作を読み終えてしまった!深夜2時半の読後とにかく感想を新鮮なうちにおさめたい!
まず、本屋さんで手に取ったその時の重みと期待は忘れられず、読み進めるほどに考えが深まるこの経験はとても貴重だった。今この時代に20代で、主に60年代波乱の時期を書いたこの作品を読めたこと、著者のポールオースターには感謝しかありません。なんたる贈り物。
10代後半から20代へと差し掛かる時期に、いつどこでだれがどのようなことをしたのか、自分自身の出来事、社会の出来事、全ての要素が織り込まれて人は成長していくのだなと、俯瞰的に人生を眺めるに至りました。今現在の私に深く深く突き刺さってきます。
特に出会いと別れ。どれも生きているその世界の環境が強く作用していて、深く愛した人もまた別の方向を見て去ってしまうことがある。はたまたどんなことが起きていつ誰がどうなるかなんてわからないという事実。当たり前だけど、忘れてしまうよな
それから文化。戦争、社会運動が生活を包んでいると同時に、文化は常にそこにあって人を導くのだと改めて痛感。文学をはじめ、音楽に映画など様々なそれが力強くあるんだと感じた。これもまたいつどんなものに触れるか、言葉を得て呼吸するかで、人生は変わっていくんだな。現にこの『4321』を読んだ私は、それ以前とは違う!
さらにこの構成。初めは、なんてことしてくれるんだ読みにくい〜と思っていたけれど、最後の終わり方よ、秀逸すぎる。もう一回読もかなとか思ってしまう。
時折、こういった物語に出会うと混乱してしまうのが必然と偶然の差異。違うようで同じなのではないかなんて思ってしまいます。どんな出来事も必然でありながら偶然のような。
ありがとうポールオースター!!!あなたについていきます -
Posted by ブクログ
クインの失われた息子と妻の話は最後まで語られない。その説明の不在こそトラウマの証拠だろう。
ピーターとヴァージニアは、おそらく彼の失われた家族を暗喩している。
ダニエル・クインのイニシャルが、ドン・キホーテと同じであるように、これは狂人、あるいは狂人に見える人の物語であり、孤独に陥っていく「浮浪者」あるいは「狂人」の内面を描いた物語だろう。
最初は、ピーターの父である教授がそのように見える。しかし次第にクイン自身がそれと同じ境地に陥っていくのである。
教授と同じ顔をした(立派なみなりをした)別の人間は、おそらくそうではなかった別の人生を生きる自分の暗喩である。クインにとってのオースターも同じであった。 -
Posted by ブクログ
探偵ブルーはホワイトから、ブラックを見張ってほしいという依頼を受ける。
ブルーはブラックの真向かいの部屋に住み観察を始めるが、彼の行動はといえば、何か書きものをしているか、散歩しているかのどちらか。
事件らしい事件も起こらず、ただブラックを見張り続けるほか何もすることのない日々に、ブルーはじりじりと焦燥感を募らせる。
無機質なニューヨークの街の中で、物語は色彩を失っていく――。
『書くというのは孤独な作業だ。それは生活をおおいつくしてしまう。ある意味で、作家には自分の人生がないとも言える。そこにいるときでも、本当はそこにいないんだ。』
『また幽霊ですね。』
『その通り。』
『何だか神秘的だ。』(引用)
書くということとアイデンティティをテーマに据えた、煙に巻かれるようなお話。
柴田元幸氏の訳が大変素晴らしく、何度も読み返したい。 -
Posted by ブクログ
買ってから5ヶ月寝かせていたけれどもGWに意を決して読み始め、2週間かけて読み終わりました。
とにかくすごい作品としか言いようがない(語彙力)。
今になってポール・オースターで好きな作品ベスト3に入るものを読むことになるとは思わなかった。
解説や帯にも書かれているけれども文字どおりオースター文学の集大成でした。
オースターが生まれた1947年から1970年代にかけてのNYにおける野球チーム、バスケットボール、ベトナム戦争と反戦運動、公民権運動、文学や音楽、大学生と学生運動、アメリカ政治などオースターが何度も題材にしてきたテーマや、人にはコントロールできない偶然性(と死)についてオースター本人も言う「私の知る限り、この形式で小説を書いた人は誰もいない As far as I know, no one has ever written a novel with this form.」とおり大袈裟に言うと驚愕の作品でした。
ちょうどトランプがアイビーリーグの補助金を打ち切るというニュースがあったころに本作を読んだので、より作中のコロンビア大学やプリンストン大学でのエピソードによりリアリティを感じたりもしたし、戦後アメリカの光と陰を追体験したような気がしました。
790ページで7150円という大学の教科書か辞書かくらいのボリュームなので気軽には勧められないけれどもとても面白かったです。最後の章の終わりを読んで不覚にも涙が出ました。読み終えた方と語り合いたい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ熟年離婚の後に死に場所を探してブルックリンへと帰ってきた老人が甥のトムとの再会を機に、冒険に詐欺に逃避行の手助けと家族を取り巻く人生最後のドタバタ騒ぎに巻き込まれる物語。オースターの作品の中で恐らく最も読みやすいコメディタッチのストーリーであり、相変わらずその「語り」の巧さに敬服してしまう。
登場人物に対しての作者の「まなざし」に非常に温かみがあり、たとえば主人公のネイサンは切れ者で老人特有の知恵と落ち着きがあるが、行きつけのダイナーにいる女性店員にデレデレしたりと、いくつになっても男であることの愚かさが描かれているわけだが、それが決して否定的でなく、至ってフラットに描かれている。さりとて肯定的に描かれているわけでもなく、送ったネックレスが旦那の嫉妬を呼ぶという悲劇的な結末を迎えてしまい、都合よく物事が転ぶわけでもないのだ。
登場人物の一人であるゲイの古書店主であるハリーが一番人間臭く、稀代の詐欺師でありながら、愛した男の復讐と嘘を見抜けずに信じ込んでしまったり、かと思えば主人公の忠告を聞いて遺産の送り先を決めておく抜け目のなさがあったりと、人間は多重的で一側面では語れないことをよく表している。転じてそれは人生そのものでもあり、人生は簡単に結論付けられない。酸いも甘いも、喜劇も悲劇も、善も悪も、全てをひっくるめて人生はただ続いていく。最後の9.11への言及は楽観的な諦観を覆すだけの無常感があるが、その影もまた今までの日常があっさり崩壊する可能性の指摘と、それ以前の断絶のない明るい時代の切り取りでもあるのだろう。 -
Posted by ブクログ
一ヶ月半をかけてようやく読み切りました!
ネタバレになってしまうため内容はあまり詳しく言えませんが、一章の途中から違和感を覚え、二章を読み始めると「これってまさか...」と慄き、さらに読み進めて、この本の構造そのものに気づいたとき「とんでもない本に手を出してしまった...」とかなり驚愕しました。
しかしこの構造自体が今まで人生の可能性について、あり得たかもしれない出来事や人にはコントロールしようのない偶然を何度も題材にしてきたポール・オースターならではであると思いました。まさしく集大成の作品です。
一滴の水滴が水面に落ちて波紋がゆっくり広がっていくように、少年の頃のある人との出会いが考えの礎となり、その想いが成長するにつれて大きくなっていつの日かの決断に至る。逆に大切な人との別れが足枷となりその後の人生の幅を狭めてしまうことになる。あのときあの選択をしていなければどうなっていただろう。考えても仕方ないことなのだが、考えてしまうのはやはり人生が一度しかないから。今いる地点と僅かにズレただけで人生は大きく変わってしまう。無限の分岐点とかけがえのない一つの道。人生は不確かであるから日々は奇跡である。そんなことを思いました。