カミュのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
読み出してすぐに不安定さを感じる。それは別に冒頭でママンが亡くなったことから話が始まるからではなく、その周辺を淡々と描写していくムルソーの一人称がそう思わせたんだと思う。判決まではどこか他人事のような一人称だけれど、判決後はある種の興奮状態のように思考が鋭くなっていく。判決がでるまで、愛するママンが亡くなったことを受け入れられず、ずっと彷徨っていたのかもしれない。
ムルソーの人間性は、証人尋問が終わったあとに彼が捉えた街の様子にあるんじゃないかなと思って思わず涙が出てしまった。
ママンのこともマリイのことも絶対大好きだったよね。言葉で表現されなくても伝わってきたよ。愛する表現が一般的な人と違 -
Posted by ブクログ
作中のペストの災厄は、経験したコロナパンデミックとよく類似していて驚いた。
そして、そのリアリティ、解像度の高さに感嘆。
パンデミックの不条理の中で、様々な人が何を感じ、あるいは感じなくなっていくか、本当にコロナで見た光景だった。
文体は、原著は読めないですが、本訳を読んで感じるところは、正直まどろっこしい感じで好きではないです。これがフランス文学流?
ただ、主人公医師のリウーの倫理観、というより作者カミュの誠実さ?は大好きです。どうしようものない不条理、絶望や虚無、無意味が取り巻く中で、愛や倫理を失わず、生きようとする様は、そうあるべきだと深く共感できるところです。
その観を、パンデミ -
Posted by ブクログ
アルジェリアの太陽と海の描写が美しかったです。
ムルソー氏の思想も、最後の司祭の思想も、あるいは検事や陪審員の思想も、それぞれの実存により形成されたものなので、本来的には、宇宙的に見れば優劣はない。
あくまで、私の価値観から見れば、ムルソー氏には、太陽や海を愛し、友や彼女、隣人を、そしてママンのことも大事していたように思えるし、誠実な面も多いにあった。だから、殺人は犯して欲しくなかったし、犯すべきでなかった。しかし、彼にはそうしてしまうような危うさが常に付き纏っていたように感じた。それは虚無感や気怠さであり、希望の欠如でもあると思う。
作中の最後に彼が見た希望は、出来れば、私的には、別の形 -
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深い小説だ。そして人間存在に対する深い救済の小説だ。
そう思った。
アルベール・カミュ『異邦人』を読んだ。よく読後の感想で語られるように、確かに不条理といえばまことに不条理な話である。アラブ人殺しの罪ではなく、ママンが亡くなった時に涙ひとつ見せなかったことを理由に有罪、しかも死刑を宣告される主人公。死刑執行の方法は公衆の面前での斬首刑。被告人の主張はろくに聞き入れられず、国家によって罪を一方的に作られ、彼はただただ執行の日を待っている。
不条理といえば、殺人の動機を「太陽のせいだ」と主人公が主張するのもまた、不条理なのかもしれない。誰かを恨んでいるとか、仕返しをするとか、そうした明確な殺意 -
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ペスト
著:カミュ
新潮文庫 か 2 3
ペストは、14世紀、東アジアで流行が始まり、中央アジアを経由してヨーロッパで猛威をふるった。
人類の歴史史上、14世紀は、唯一人口が減少した世紀であり、その原因はペストであった
現在もマダガスカルをはじめ、散発的にペストの流行が発生している
本書のように、ペストが突然、大都市を襲うというようなことはあながちあり得ない話ではない
一方、作者のカミュは、「シーシュポスの神話」、「異邦人」といった、不条理を扱う作家である
ペストの初期から、都市がロックダウンしたあとの人々の生活と、その心理をリウーという医師の目で描いたのが本書である。ある意味で、「 -
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物語は簡単に言うなら、『ペストが流行した町に閉じ込められた人々の奮闘記』
ただ、『奮闘』するのはペスト退治だけではなくて、町からの脱出や、町の外との連絡手段など……闘うものがそれぞれ違う。
名前が似てるので、誰が何でなんだって??と分からなくなるキャラクターも。
主人公は、医者のリウー……このキャラクターだけは、何とか追いかけたけど、他のキャラクターは誰が何で、どんな背景があったかを覚えてられない。
キャラは出てきては消えて、立ち替わり別のキャラが出てきて……時々、死んで……という感じだった。キャラクターごとの物語を覚えていられない。
ネコに唾を吐きかけたのは誰だっけ?名前は -
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アルジェリアのオランという町でペストが発生、その後町は閉鎖され、たまたまオランにいた別の町の人間は外に出られなくなり、反対にオランの住民でたまたま町外に出た人は、町に戻れなくなります。別離と死の恐怖のなか、人々はどうふるまうのかについての興味深い本でした。2020年7月時点で新型コロナウイルスの猛威は世界的に終わっていませんが、そのようななかで自分自身がどう変化したかを「ペスト」の登場人物に重ね合わせることができると思いました。
医師リウーは自分の責務を全うすることに全力を傾けます。そして死の恐怖など超越し、むしろ息子の過労が唯一の心配というリウーの母親。善良な小役人グラン、オランの外からや -
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定期的に本作を読み返しており、今回新訳が出たということで早速手にしてみた。
この新訳版には適度に注釈が付け加えられ、文章も従来の訳書より読みやすくなった様に思う。
しかし最も新訳の恩恵にあずかっているのは、本書を通してたった一人の語り手であるクラマンスである。彼を露悪的かつ魅力的に、そして親しげに表現することは、本書の仕掛け(罠)上で欠かせないからだ。
話の大筋は以下の通りである。
語り手であるクラマンスは、かつてパリで名を馳せた弁護士で、私人としても善行やその振舞いから評判であった。
当時の彼は順風満帆な人生を送っており、自身が「高みにある」ことを信じて疑わなかったが、あるきっかけか