第17回メフィスト賞受賞作として2000年に刊行。2001年版本格ミステリ・ベスト10第2位。当時、話題になっているのは気づいていたが、手に取ることはなかった。
著者の古泉迦十氏の第2作が出ないまま23年が経過し、本作『火蛾』が文庫化された。解説によると、2017年に電子書籍化されている。どうにか読み終えて思う。電子書籍で読んでいたら、最後まで読み通せなかったのではないか?
これは手強い…。読み始めてすぐに覚悟する。苦手な苦手な宗教ネタなのだから。イスラームにシーア派とスンニ派があることくらいは知っているが、神秘主義などもちろん知らない。文章は平易だが、すっと頭に入ってくるかは別問題だ。
かなりざっくり言うと、師に従い修業の旅に出た行者が、殺人事件に遭遇する話である。現場の不可解さに一抹の本格らしさを感じるものの、正直地味。時代設定は西暦1100年代後半らしいので、そもそも本格という概念が存在しないのだが。
ハウダニットとしてはパッとしない。フーダニットとしては意味がない(内容を素直に受け取るなら)。ホワイダニットとして価値を見出せるかどうか。本ミス第2位なのだから業界人受けはよかったのだろうが、一般向け娯楽作品とは対極にある。
身も蓋もない言い方をすると、これは「夢オチ」の一種だ。一読者に過ぎない自分が、信仰心が薄い人間であることを差し引いても。これほどまでにイスラームに造詣が深い古泉迦十氏。信仰心の持ち主でなければ、こんな作品は書けないはずだ。
本作に描かれた信仰の究極形の凄まじさは、一読に値するだろう。世俗に塗れた我々はもちろん、メッカへの巡礼者も、カトリックもプロテスタントも、あらゆる宗教の信者たちも、このような境地に達することは決してないのだから。
古泉迦十氏の第2作が、近々星海社より刊行されるそうである。また宗教を背景にした作品なのだろうか。手を出すべきかどうか悩ましい。