深水黎一郎のレビュー一覧
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『どんなに追い詰められても自供さえしなければまだいくらでも戦い方はあるのだ。』
自信過剰で自己中の最低な犯人。
倒叙はこういうしぶとくて嫌なヤツであればあるほど面白い。大好きな倒叙の短編4篇。
綿密に準備をして、シュミレーションもバッチリだから、刑事にどんな嫌な質問をされても逃げ切るのが上手い。
やっぱり粘りに粘って観念する方が面白い。
倒叙だと古畑やコロンボなどキャラクターの濃い刑事がお決まりだけど、この本の海埜刑事は普通の生真面目な性格。
『あなたはとんでもなく重大なミスを犯したのですが、まだ気づいていないんですか?』
逃げ切れると思いきや刑事のこのセリフ。
ヒントもなしにこれを -
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いやー面白かった!
小説を読んでて、初めて声を出して何度も笑った。ミステリーで笑える本。
でも本当に好みが分かれる作品だと思う。
正直ミステリー初心者の方や王道ミステリーが好きな方にはおすすめできないです。
誰もやってないことに挑戦するユニークな作品が好きなので、私はめちゃくちゃ好きだった。
毎日本格ミステリーばかり読んでいたので、こういう変化球ミステリーはすごく楽しい。
クローズドサークルあるあるが、これでもかというほど詰まった作品。
作中作の「クローズドサークル」と、ミステリー読みのプロ達が集まった「推理闘技場」が交互に読める。
クローズドサークルを読んでいる時に、おや?と引っかかる -
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ネタバレ深水黎一郎さんの新刊は、多重解決ものだという。深水作品で多重解決ものといえば、『ミステリー・アリーナ』が即座に思い浮かぶ。
『ミステリー・アリーナ』は、多重解決もののジレンマに真正面から挑んだ作品だったが、本作も同じくらい、もしかするとそれ以上の傑作だ。本作は、7つの選択肢から犯人を投票で決めるという企画のために書かれ、「問題篇」がネット上で無償公開されていた。
自分はその企画の存在は承知していたものの、面倒くさがりなので参入はしなかった。単行本化を機に手に取ったが、読んでびっくり、そして投票した読者の多くが、ちゃんと推理していたことにまたびっくり。このジャンル、まだまだ捨てたもので -
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ネタバレ井上陽水の名曲と同じタイトルを持つ本作。深水黎一郎という作家の芸風の広さは、承知していたつもりだったが、なるほどこれは意外だった。
全3編中、最後の「鎧袖一触の春」が全体の約半分を占める。この聞き慣れない四字熟語が入った中編こそ、本作のメインに違いないが、最初の2編があってこそ、クライマックスが盛り上がる。本作は、順に読んでこそ意味がある。
「天の川の預かりもの」。僕はチンドン屋を見たことがないが、昭和世代として、つい冒険したくなる少年の心理は、よくわかる。「ひょうろぎ野郎とめろず犬」。昔は大抵の家庭がこんな感じだったな。言葉遣いが多少汚くても、根底には愛情がある。何だかいい話だなと -
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ネタバレ薀蓄シリーズのファンには、待望の新刊と言えるだろう。海埜と瞬一郎のコンビが登場する表題作を始め、全編音楽の薀蓄に彩られた作品集だ。
「ストラディヴァリウスを上手に盗む方法」。国際コンクールで優勝した、気鋭のヴァイオリニストを招いたコンサート会場から、忽然と「名器」が消えた。居合わせた海埜と瞬一郎が、消失の謎に挑むという表題作。いわゆるハウダニットだが、なるほど、音楽素人には、こんな手口は盲点であった。
僕に名器の良し悪しはわからないだろうが、ストラディヴァリウスという名と、億単位の価値については聞いたことがある。だからこそ、名器にそんなことするんかいっ! と仰け反ってしまった。瞬一郎 -
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初めて読みます、深水黎一郎。戦後まもない時分の回顧とおぼしきシーンから始まる小説にミステリー要素はなさそうで、終盤まで普通の文芸小説か、はたまたファンタジーへ展開するのか判断つかず。終わってみれば堂々のミステリーでした。
提出した論文に駄目出しされ、これでは進級を認められないと担当教官から言われた大学3年生の総司。フィールドワークの体験に基づいたレポートを追加提出すれば認めてくれるそうで、仕方なく弁当配達のボランティアをすることに。配達先のほとんどは孤独な老人。そのうちの一人、片目の視力を失った老婆カエは84歳。最初は面倒なだけだと思っていた弁当配達だったが、カエの身の上話を聞く機会があり… -
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ネタバレ「十角館の殺人」や「殺戮に至る病」など、一行で物語世界の全てがひっくり返る、という仕掛けの施されたミステリは今日では決して珍しくありません。
今作はそんな「今までの展開が覆る」というものではありませんが、最後の一文を目が追い終わった瞬間、涙が溢れました。何という愛。何というフィナーレ。
舞台上で窮地に追い込まれた主人公が咄嗟に選んだ対策も鳥肌が立ったし、その結果現れた思わぬ現象にも驚愕したしで、最後の一文に至るまでの舞台の様子も読んでいてゾクゾクしたのですが、圧巻なのはやはりこの一文です。これはすごい。このラスト数ページだけでも、五つ星評価に値します。文句なし、久しぶりのミステリでの星五つ -
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ネタバレ面白かった。
読者が犯人である。
というトリックの出来具合はともかく、文章力がある。非常に読まされる文章だ。はっきり言えば、あり得ない。微妙じゃないか。と言うネタを筆力の力でねじ伏せている豪腕だ。
謎によって先が気になる。そのような手法ではなく、文章力によって引き寄せられていく。一冊分、そこそこの文章量があるはずなのに、一直線に読み進むことが出来る。比喩とか細かな知識の総量など知識欲を程よく満たしながら少しずつ進んでいく。
ただ、それらのことより、一番好きなのは、香坂の覚書だ。非常に魅力的で、藁半紙に水を垂らした時の様に、ゆっくりと、そして確実に心の中に染み込んでいく。この男の生き様を肯定 -
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ネタバレ各賞で大注目
本格ミステリ界期待の新鋭による
芸術探偵シリーズ第一弾!
呪われた画家たちの作品が、不可解な密室殺人事件を引き起こす――。
「エコール・ド・パリ」というのは定義することのできない、第二次世界大戦前にパリで活躍した「一人一派」の画家たちの総称を示す。
彼らの残した絵に魅せられた有名画商が密室で殺害された。
事件にあたるのは海埜刑事と、彼の甥・神泉寺瞬一郎。
めちゃ面白い傑作です。
それは「あとがき」でも触れられているように、作中作が美術評論として優れているだけにとどまらず、
事件の謎を解く重要な手掛かりにもなっていることや、
二重に塗りこまれた絵画の手法、また事件も二重の構造に