深水黎一郎のレビュー一覧
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事件の中に芸術趣味が違和感なく溶け込んでおり、物語を構築する巧さが光ります。
事件の謎自体は、凶器の入れ替わりという地味なものですが、それがオペラの舞台上で行われたことにより、印象深くなっています。
そのオペラに関する蘊蓄の量は膨大ですが、前作同様読みやすく、興味すら湧きます。
第二の殺人ではダイイングメッセージという謎が紛糾しますが、二つのメッセージに関連性が見られず、つかみ所のないものになっています。
この二つの殺人の真相は、芸術探偵の言う通り、根っこの部分では繋がっているもので、よく出来ていると思います。
とりわけ第一の殺人での、犯人の出入りに関するトリックは、膝を打つこと請け合いでしょ -
Posted by ブクログ
前に『人間の尊厳と800メートル』を読んだとき、ミステリ的な驚きというよりは、謎に満ちた雰囲気で魅せる作風なのかなと勝手に思い込み、その雰囲気はすごく良かったのですが、何となく読むのを後回しにしていた1冊。
しかし、いざ読んでみるとやっていることは本格ミステリそのもの。雰囲気ですら古き良き時代のものを感じました。
芸術に関する蘊蓄も、リーダビリティを損なうことなく、門外漢のぼくにも興味を抱かせるようなもので、作者の教養の高さが伺えます。
事件自体は地味ながら、ダミーの解決ですら伏線が張られているなど、丁寧に作られている印象。犯人については、当て推量で見当がついてしまう向きもないではないですが、 -
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ネタバレ何故、見ず知らずの相手と夜中に競争しなければならないのか?
100メートルでも1キロメートルでもなく、中途半端な800メートルを指定する理由は?
これらの根拠を、量子力学を基に医学や文学にまで言及しながら説明していくのですが( ^ω^ )
読んでる最中は、「成る程ね〜突飛な発想だけど一応筋が通ってるわ〜」と感心しきりだったのですが、よくよく読み返すと牽強付会も甚だしいですな(笑)。でも、初読の時は凄く鮮やかな論理展開に感じられたんですよね〜( ^ω^ )
男が持論を述べる上記の部分が面白かったので、賭けの対象に話が及び始めた後は、若干失速したような印象でしょうか。ラスト付近で出て来た人物が -
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ネタバレチョットした小話が5つ(各話40ページほど)
「人間の尊厳と800メートル」
義足の人に5万円を賭けた800m競走を持ちかけた男が、ゴツイ人も参加すると言われ退散する。(ゴツイ人も実は障害者だった)
「北欧二題」
1.おもちゃ屋でカード決済出来ない国王が、お札の顔で本人確認する。
2.館員が閉館後に友人と会う約束のせいで、博物館から閉め出される。
「特別警戒態勢」
お盆に皇居を爆破すると予告した犯人の目的は、父が警官でお盆に家族旅行したくなかったから。
「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」
善人すぎる夫を投薬で殺害するが、夫が死後全身を医療提供する契約をしてたのでバレる。
「蜜月旅行 -
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日本のルビって凄いなーと本作を読んで改めて痛感。建物の構造とか良く分からなくても、漢字表記だけで大体のイメージはできちゃうもんな(穹㝫天井とか、尖塔拱頂とか)。
で、ルビに振られた本来の発音表記(日本語では限界あるだろうけど)でお仏蘭西なカホリが漂うし、読み始めの取っ付きにくさを乗り越えれば意外にスルスルと読めます( ^ω^ )
明治の文豪達の偉大な功績を実感しながら、ルビ文化について熱く語る芸術探偵の語りに、うんうんと思わずうなずくのでした。
さて、「芸術探偵が書いた、フランスを舞台としたにも関わらず、一切片仮名が出てこない野心作」の体裁を取った本作。
いつもは伯父の海埜刑事相手にこれで -
Posted by ブクログ
ネタバレ芸術ミステリーシリーズ第4弾。
<あらすじ>
オペラのテノール歌手・藤枝和行は、同業者で恋人の遠山有希子に連れられ
良く当たると評判の霊感師に会いに行く。
そこで霊感師に”有希子は幸せの絶頂で命を落とす”と予言される。
その後、藤枝は、ワーグナーの『ニーベルングの指環』4部作の第2夜、
『ジークフリート』のジークフリート役に大抜擢され、
有希子も同じ舞台の脇役として出演することになった。
2人で共演することが夢だった有希子は、藤枝のプロポーズを受け婚約する。
そんな矢先、有希子が乗っていた列車が事故に遭い、有希子は死んでしまう。
有希子の葬式に赴いた藤枝は、遺骨から大腿骨を遺品として受け -
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ネタバレ読者を犯人にするために、超えるハードルは二つ
→読者と作中人物を同じ次元におくこと
→読者が作者に『手を下した』と言える状況を作ること
作者は小説を新聞小説という形で書くことで、読者に「新聞小説の読者」という役割を演じさせ、一つ目のハードルを越えた。実は新聞小説でした〜っていうネタバレのタイミングが良かったし、そこに一つのミステリ感をちゃんと出しているので、こちらはさほど文句は無い。しかし後者のハードルを超えるために持ち出した「自分の文章をよまれると死ぬ」っていうのはいかがなものだろうか。このオチのためにいろいろ超科学的なものを丹念に説明したり、この殺される人の繊細さを強調してあるので、最後ま -
Posted by ブクログ
ネタバレたまたま病院の待ち時間のために手に取った一冊。
初めてこの著者の作品を読みました。
主人公の和行は、才能あふれるテノール歌手。
日本人初のジークフリート役に抜擢され、公演を目前にしたある日、婚約者が突然の事故死を遂げる。
失意ながらも公演に向けて準備は進む。
そして公演の日。彼はある真実を知ることになる。
「失意ながらも」とは書いたものの、
和行は、天賦の才能に恵まれたゆえの、ある種傲慢な人。
女性の視点から読むと正直時にいらっとします。
その彼が恐れを知ることになるというのが、
もう一つのクライマックスになります。
オペラの講釈の部分とか、結構知らない単語ばっかりで、
若干退屈な部分も -
Posted by ブクログ
ネタバレタイトルは、日本語訳だと「最後のトリック」…らしい。
で、そのタイトルのとおり、読者を犯人に仕立て上げるという、本格ミステリーにおける「最後のトリック」を目指した(?)もの。
トリックは…微妙?
確かに、他にすでにある「読者が犯人」ものとは趣は違うし、「読者全員にそう思わせられる」という点では、まぁ理屈上そうかなって感じだけど、まず前提に納得いかないからなぁ…。
てか、ただでさえ小説はみんなフィクションだと知ってて読んでいるのに、手法にまで現実味がないと、(100歩譲って)理屈の上ではあたしが犯人だとしても、「マジで?! あたし犯人?!」的な、驚きも感慨もなくって…。
微妙です。
どちら -
Posted by 読むコレ
「ウルチモ・トルッコ~」を当時読んで以来だなー。
思ったほどトリッキーな作品じゃなくて意外と拍子抜け。
被害者も動機も明かさないまま、容疑者である少年と
家裁調査官とのやりとり、そして少年の辛い日々の
回想...という2つの場面が交互で展開され、
ラストには予想しなかった結末が...。という
全体像ですが、やはり「いじめ」が描かれている
作品はなんだか読んでいて落ち着かない...。
自分の少年期が被害者でも加害者でもなく、傍観者
だったという負い目を晒されるような痛みを伴う。
昆虫が自然界のパワーバランスを生き抜くために
手にした擬態という進化。人間界のパワーバランス