竹宮ゆゆこのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレとても美しいのに、遠ざけられ、放置されてヒビ割れた壺と
ガラスの膝で悪夢(よる)を駆けるカレーの王子さま。
そんな壺と王子が、互いに振り回されつつ、救い救われ、心の穴を確認しながら、
いつしか唯一無二の相方になっていく物語。
表紙に描かれた美しき壺こと「ツラのいいイキリ陰キャ」景都に惹きつけられて、完全なるジャケ借りで手に取った本書。
クールで尖った美少年が主人公の、スタイリッシュな学園ものかな?と思いきやそこは全然違って、しかし想像の斜め上を行く面白さだった。
何てことのない2人のやりとりが、くだらなくて笑えて愛おしく(さえないコンビが加わると尚良し)会話劇としての魅力にも溢れ、更に場面転換の順序がユニークなので、続きが気になってサクサク読めてしまう。
かと思えばところどころに不穏なフラグが立ち、突然シリアスになったかと思えば怒涛のカタルシスが押し寄せる。
この作品の心臓とも言える「カレー」と「熱中症(悪夢の中身)」のシーン(二つのシーンは鏡合わせになっている)で押し寄せるソレは特に凄くて、ここから最大の不穏フラグである「放火魔」問題に突入する事がいまいちピンと来ない。
しかしラストにやっぱりもうひとカタルシス来て、もうすぐ読み終わってしまうという時に、今すぐ記憶喪失になりたいと切望する程の寂しさが押し寄せるのだが、ラスト1行で思わず「ヨシッッ!!!」と言ってしまう。
そしてすかさず再読すると、二人の事情や秘密を全部分かっているだけに、初回とは別の面白さがある。
記憶を失う必要性が全くなくて、読み返すほどに沼ってしまうのが凄い。
何度か読み返した今、景都の「一体いつからこんなに温められていたのだろう」に答えるなら、それは間違いなくあの「全裸の変」からだ。
「人の心に土足で踏み込むな」という言い回しを借りるなら、シバは景都の心にまさかの全裸で踏み込んで、凍り付いていた心の深部にいきなり触れた。
そして『わかった、信じる』の放熱で溶かしてしまった。
しかし、この段階ではシバも景都自身もその事に全く気付いていない。
そして、「悪気無く人を傷つける」という言い回しを借りるなら、シバは「他意なく景都の心を揺さぶる」天才だ。
景都の用意していた心の防御を、予想外の方向からタックルで突き崩してしまう(さすがはアメフトのプリンス様)。
「うまいカレーを食わせてやりたい」ただそれだけの理由で、景都を泣かせてしまう。
景都が子どもの頃から求めてやまかったもの…だけど自分が欲しがってもいいと思えなかったものを、惜しみなく差し出してしまう。
嘘と本当の境目が分からなくなっている景都の、本心が向かってきた瞬間を、景都よりも先に受け止めてしまう。
カレーと鏡合わせになるシーン、つまりは熱中症の日。
今度は、景都がシバの涙を見ている。
桐島への復讐計画で磨いた情報収集スキルをフルに活かして、シバの膝を潰した相手について調べ上げた景都。
シバが自分でも言葉に出来ず、無理矢理に切り離し、誰にも見せずに抱えていた激情(怒り・殺意)を、今度は景都がシバより先に悪夢ごと見つけて受け止める。
そして、本気度120%の殺害計画で自分も一緒に引き受けようとする。シバにひとりきりで抱えなくてもいいと思わせる。
この後に続く「未来が変わった。勝手に救われた。」が本当に良い。
それを敢えて口には出さないところも良い。
あいつを一緒にぶっ殺すとかそういうのはもうどうでもいいから、
「ただ一緒に『いる』。……それだけにしねえ?」
ここだけはしっかり口に出して伝えるシバに泣いてしまう。
景都は景都で「おまえが大切だ」「おまえに救われた」なんてセリフは口が裂けても言わない。
代わりに、「おやすみ」からの「おまえが教えてくれたんだ」のくだりがある。
ここで景都は、シバに対する自分の気持ちを、物凄く不器用な形で差し出しているように思える。
おまえからちゃんとすべて受け取っているし、自分もそれを返したいという気持ちが伝わってくる。
「今は俺がおまえの相方だ」宣言をした時点で、景都自身がもう、最初に思い描いていた計画の外側に出てしまったんだと思う。そしてその事に景都だけが気付いていないから、私は最終章の出だしにピンと来なかったのだ。
敵意や悪意に晒されたり、
自分の存在価値が分からなくなったり、
ひとり暗闇に取り残されているように感じている時、
たったひとりでも自分を信じてくれる誰か・見つけてくれる誰かがいるだけで、人はこんなにも救われる。
ただそれだけで、生きていける。
そう思わせてくれる作品が私はとても好きだ。
失ったものを抱えたままでも、
時にどばっと泣くことがあっても、
くだらなくても、意味なんかなくても、
大笑いして一緒に走り出した二人をずっと見ていたい。
続編か番外編が出たりしないかな?と密かに期待している。 -
Posted by ブクログ
ふっかふかの、胸の谷間にシュート・イン!
何を言ってんだって?けどそれが読み終わって一番初めに頭に浮かんだワードなんだからしょうがないでしょうが。
物語冒頭から全裸の男が誰かを待ち構えているという不穏な幕開け、そこからしばらくは雲を掴むような、というか寮暮らしをする男子大学生達のわちゃわちゃとした会話劇をひたすら追う展開。
中々パンツを穿いてくれない巨躯マッチョと、世紀の顔整いだけど迸る陰キャ感が全部台無しにしてる白モヤシ君との、だいたい3ヶ月間くらいの出来事のはなし。
マッチョの名は〈紫波央士〉、元・高校アメフトのスター選手、「一九〇を超える身長も、現役時代からは減ったがそれでもまだ八十キロある体重も、七パーセントの体脂肪率も」(p9)備えた体躯で且つ「ミラクル入学バカ」(p20)。「スポーツしかしてこなかった自分は、この大学に入れるような学力レベルにはまったく達していない。」「スポーツ推薦で進学したのに、いざ入学した時にはそのスポーツすらもうできなくなっていた」(同)男。
モヤシの名は〈丹生景都〉、上述したように「とにかく目に見える情報のすべてが叫ぶみたいに陰キャ感を主張している。のに、顔が。顔面が。とんでもなく、整っている」「筋肉量は少ない」(p13)男。表紙の絵を参考にされたし。
この対照的な二人が学生寮でなんの因果か同室となるところから物語は回り出していく。
全6話で構成されているうちの大部分がいわゆる大学生同士の不毛なじゃれ合い、だらけた中にも微妙に知的なジョークを織り交ぜる会話の感じ(個人的に「ペプシンの刑」(p181)が凄く好き)とか、生活全般に漂う気だるさの一方で日々の課題とかはなんだかんだでちゃんとうまくやる要領良さとかがいかにも大学生っぽい。友人や先輩と誘い合わせて行く深夜の工場バイトとか、わたしも経験があるからあの道すがらの雰囲気はめちゃくちゃよくわかる。
ずっとこうした群像日常劇を読むだけなのかと思いきやそうはどっこい、序盤から各所に散りばめられている不穏な要素・伏線が意外なまでに緊張感をキープしてて、後半でのそれまでと打って変わるシリアス展開を経てからの無上のカタルシスがすっごく気持ち良い。目がカッと開く爽やかさ。
まさか「地球を一周したい」(p389)なんてひとフレーズがラストで効いてくるとは思わないし。
ちなみに、この感想の頭に書いた胸の谷間とは「大胸筋」(p20)のことで、実体もそうだが精神の胸が盛り上がっていればいるほど人徳者であるということ。胸の深さは徳の深さなのだよ。
オビやら公式などで掲載されている内容紹介文の「夢の中だけでも王子様に会いたい。」というフレーズが上手い。物語を読めばこの「王子様」がダブルミーニングだという事は自明で、ぜひとも作中に登場する某カレー商品のパッケージを眺めつつ、頭上に広がる星空にも目を向けてみて下さい。
ダンベル持ちながらね。
1刷
2026.9.11 -
Posted by ブクログ
ネタバレこのお話が映画化されていることを最近Filmarksで知りました(なんでか、普段のホラーのラインナップに紛れ込んでた)。
映画を先に観た方がいいか、先に小説読む方がいいか、結局読む方を先に選んだんだけど…
良かったです、一気読みしてしまったし、泣いてしまって翌日おばあの顔は大変なことになってしまいましたし〜^_^
清澄くん…
名は体を表すって、まさにこの子のような人なんでしょうね。
玻璃ちゃんの場合は、
清澄くんにとっては「瑠璃も玻璃も〜」なのかもしれないから…やっぱり名は体を表してるのかな…
UFOが撃ち落とされたせいで死んだのは二人
読後すぐは、それぞれ別のUFOがあるのかなって思っていました。二人が高校生時代のあの一件と、川での一件、それをUFOとしてるのかと。
でも違うね、同じだ、もうひとりは期せずして犠牲になった。
玻璃ちゃん、あの環境で育ったのに、よく持ちこたえられて…そこに涙しました。
現実の世界だと、父親と同じような道を歩むことを周囲は望む、というか、何か規範から逸れたことをする人の背景に生育環境を結びつけるとこがあると思う。
それで「でしょうね」と型にはめて、私達とは違う存在はああやって生まれるんだよって変に安心してしまう面があると思うの。
清澄くんについても、この子のこの心持ちはどういう経緯から来たんだろって、色々思い返してみたけれど…やっぱり生育環境が大きいとは断定はできない気がする。
本人の生まれ持った何かも大きいような。
個人的に、性格を形成するものの因果関係に興味津々なとこがあるので、どうしても小説には描かれてない部分を勝手に想像してしまうとこがあり。
そういう面でも楽しめました(楽しめたは変かな)。
それから、父親が隠す場所に選んだのが「沼」という設定が絶妙で良かったなと思ってます。
埋めるのではなく、沈めるというところに、父親の性格の一端が垣間見られてそれが良かった。
あと、タイトルも良かった。
玻璃ちゃんの、あの場面での腹の括りようが見えた、そこを表してる言葉なのかなって解釈してます。 -
Posted by ブクログ
面白くてすぐに読み終わった!
笑いあり、友情あり、でもシリアスな場面もある。一冊でとっても楽しめました。
柴波と丹生という正反対の2人の友情物語。2人がそれぞれ抱えている過去を主軸に物語が進んでいきます。
前半は、思わず笑ってしまう場面が多くコミカルな展開だったのですが、後半につれ、笑いも残りつつのシリアスな場面も増えてきます。そんな感じで物語が進むので、こちらも飽きることがなく物語に入り込むことができ読む手が止まりませんでした。
また、2人の他にも登場する寮生達がいいキャラをしていて、より一層2人が引き立てられていたように感じます。
熱い友情物語を読むと、なんだかとても羨ましい気持ちになります。
個人的には、終始、早く続きが読みたい!となる小説でした。手に取って良かった!また時間が経ったら読み直したい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレえ、あの、びっくりするくらいおもしろかった。
元々ラノベ書いてる人だし読みやすさ重視の軽めの文章感なんだろうなとかドドド偏見のもと読み始めたところ、取っ付きやすい読みやすさかつテンポの良さと普通に面白い人物たちのやり取りに全然ページをめくる手が止まらなくなってた。ラノベ感なんて、3人のわたなべくらいなもんな気がする。それくらいちゃんと物語としておもしろかった。
あともうひとつだけ言うとしたら、これは偏見とは関係なく、千葉さん大丈夫かな…ってところ。お母さんに託されたわけではまぁなかった思うけど、お母さんが死んじゃった時鋼太郎はそばにいなくて、千葉さんは一人で大丈夫だったんだろうか。あでもそうか。クラスメイトとはわだかまりも溶けてるし、お母さんの事情知ってる人たちだから、誰かしらと友達になってたらその子が支えになってくれたのかもな。
であとねー、心情描写が良すぎるんだよな。抽象的なものなのに相変わらず読みやすくて、分かりやすくて、そのうえ熱がずっとこもってる感じ。悲しみとか怒りとか孤独とか絶望とか恐怖とか、それらがそのまま理解できる、くらい、文章から伝わる。
小間田さんの脅しのシーンとか読んでるこっちが「こんなん無理だ」「こわい」「逆らいたくても、口でなんと言っても、絶対に逆らえない」って思っちゃうくらい怖いし、神威に殴りかかってる鋼太郎の「どこまでも徹底的に、完膚なきまでに、絶対に相手を傷つけてやる」のその惨い怒りは簡単に自分の記憶からも呼び起こさせたくらいだった。『計画』のときの鋼太郎のあの無感情かつ、どこか自分以外を冷めた目で見ている感じは、神威を奪われた憎悪と一緒にどうしようもなく歯車の狂ったおかしさが伝わる…。
それに神威の、車に乗せられて爆発を起こすまでに思っていたこと感じていたこと。自分自身未だかつてあんなふうに何かに対して思えたことはないけど、でもそんなふうに思えてしまったら、ここまで突き進んでしまえるんだなってそう思えちゃうくらいに全身全霊で熱を伝える文章だった。
あと意識が途切れる時にあの行間めちゃくちゃな感じになる表現、わかるよ、私も表すならこうだなってちょっとうんうんもした。
いやーーーいい。読みやすくて、ふつうにめちゃくちゃ面白い。あとめちゃくちゃおもしろくて、つらくて、めっちゃ泣いて、自分に重ねてまた泣いて、えげつない衝撃にウッてなって、ちゃんと辛いってなって、最後の救いのためのご都合的展開にさえ感謝した。
ひねくれ者だからどうしても穿った目で見ちゃうけど、これは絶対こうであるべきだった。こうじゃなきゃだめだった。特にこれを読んだ私の精神のために。
あの爆発の中でどうやって生き残れるっていうの?臓器も散々抜かれて、数年も生きていけるの?そう思えてしまうけど、でもいい。いいにきまってるこれで。生きていた、たったそれだけを匂わせる描写だけで私は今日泣き腫れた目で出社できていますありがとう。