幻想文学のような雰囲気の、これはホラーの分類かな。
邦題がいい。これは「お城」だよね。「城」じゃだめだ。
家族が殺された屋敷で暮らす生き残りの姉妹とおじ。
閉塞した村で村八分にされているからお金はあってもほとんどのことは自給自足。
おとぎ話のような敷地内と悪意渦巻く村の境界をこえて従兄弟が入り込んできたときからバランスが崩れていく。
登場人物はみんな、理解できる程度にどうかしてる。
ブラックウッド家はそれぞれ自分の領域に閉じ籠ることで自分の内側の世界を安定させている。
語り手のメリキャットは自分の決めたルールを守る。その姿は強迫的だけどこだわりの強い人にはままあることだ。
姉のコンスタンスは台所に執着する。外には出ずに家の中を居心地良く整え続ける。
おじは「その日」のできごとを綴り続け、「その日」の中を今も生きている。
俗っぽさが丸出しで小者臭ただよう従兄弟チャールズは、がめついだけで詐欺師の才能すらない。
冷酷な悪役になるだけの器もないから、この中にいるとまともに見えてくる。
だから、凡庸なこの人が入り込むと、閉じた村の閉じた屋敷の閉じた世界の均衡が崩れてしまう。
資産家たちと村人たちは分断されている。
「違う」から。
村人の何人かは「わざわざ」ブラックウッド家に憎しみを向けるけれど、たいていの人は習慣でなんとなく嫌っている。
おじさんは罵倒の言葉に「私生児」を使う。
実際の生まれにかかわらず、いけ好かないやつをそう呼ぶのが男たちの決まり文句。
両親が村人を嫌がったのも、メリキャットの好き嫌いも、村人たちが雰囲気で炎上したり気に病んだりするのも、みんな同じ。そういうものだからそうしてる。
こんな因縁があって恨んでいますとかそんな説明はない。
理由はない。感情があるだけ。
そこが怖い。
カタカナ語を極力排した翻訳は昔風で読みやすい。
でもテーブルを雑巾で拭かないでほしい。
村人はともかくコニーは布巾を使おうよ。そこはこだわってほしいところ。
解説は桜庭一樹。
この人がシャーリイ・ジャクスンを大好きだというのはわかる気がする。