市田泉のレビュー一覧

  • いずれすべては海の中に

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    思うに短編小説というものは、何を語るか、と同じくらい、何を語らないのか、が大事なのだ。背理法を用いた美しい証明のように、不在の薄闇を重ねて輪郭を描く、その技術が。
    この作者はその何を語らないのか、を熟知している。

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    2025年08月26日
  • ずっとお城で暮らしてる

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    メリキャットとコンスタンス、ジュリアンおじさんの暮らしにうっとりしながら読んだ。彼女たちなりの生活の秩序はとても美しく、メリキャットが大切な物を土に埋める場面がとくに好きだった。城が破壊されても「とってもしあわせ」に暮らせるふたりだけの世界は、もう外部の人間の接触も無い為メリキャットがよく語っていた〝月の上〟のような、理想の場所そのものになったのだと思う。彼女たちの生活は埋められた大切な物で キッチンは彼女たちを隠すやさしい土だから、このまま誰にも掘り起こされずに美しいまま守られていて欲しい。とても好みの文章と物語。この作品に出会えて本当にしあわせです。

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    2025年08月20日
  • ずっとお城で暮らしてる

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    最初から最後まで気味の悪さが漂う異質な、ヒビ割れたガラスのような物語。

    外界から鎖された箱庭。その箱庭の周囲を絶えず節足動物が這いずり回っているかのような嫌悪感。

    このガラスは最初から割れていたのかもしれない。最高だ。

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    2025年07月30日
  • ずっとお城で暮らしてる

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    閉鎖空間ヤンデレ姉妹百合〜謎の一家殺人事件を添えて〜。
    タイトルにもある「ずっとお城で暮らしてる」感というか、おとぎ話感というか、キラキラ感というか、そういうものが、逃れがたい時間経過、自分たちの成長、当たり前に起こる周囲の変化という風化に伴って、話の展開とともにぺりぺりと剥がれていく様が本当に気味が悪くて最高だった。おとぎ話のようなお城に暮らしていても、おとぎ話の住人にはなれないのだと、まざまざと見せつけてくる作品。読者である私が何気なく1ページをめくるごとに、きっと「お城」のどこかでタイルや壁紙が剥がれているのだろうと思わされる。コンスタンスとメリキャットの姉妹の生活を壊したのは、ページを

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    2025年07月06日
  • 地下図書館の海

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    わけわからず始まってわけわからず終わっていった。
    放心して笑いが込み上げてきて満足のため息で落ち着く感じ。
    ものすごいハイファンタジー(と言えるかは現実とも繋がってるから微妙だけどぶっ飛んではいる)の世界を覗き込んだ感じ。

    誰か大金注ぎ込んで映像化してくれ頼む。
    絶対ものすごい物になると思う。
    しばらく余韻がすごいけど、読むの大変だったから再読はしんどいな笑

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    2025年03月31日
  • ずっとお城で暮らしてる

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    ネタバレ

    読んでいて村人からブラックウッド家に向けられる過剰なまでの悪意は純粋に不快だと感じる。けれどそれが幼い精神のままここまで過ごしてきたであろうメリキャットの視点からしか語られないから、どこまでが本当で現実はどの程度のものなんだろう、とここまで考えて悪意の許容の程度について自分が考えてしまってるのに気付いて物語の外から見透かされてるような気分になった。
    情景がすべて美しい風景で思い浮かべられるのでより悪意が引き立って村人たちの事が本当に嫌だなと感じた。

    この作品を踏まえて、ミツバチのささやきをもう一度見てみたいなと思いました。

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    2025年03月13日
  • 地下図書館の海

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    物語はあらゆるものの中に息づいていて、それは私たちのすぐそばにある。
    素敵な物語でした。

    物語の中に物語が展開されているような入れ子構造で、すべての物語が詩的、幻想的で、やがてひとつの大きな物語に収束していき、そこからまた新たな物語を予感させる。
    主人公のザカリーが同性愛者であることも自然に表現され、それが悩みの種として物語を阻害していないところも素敵でした。

    悪夢を書いた紙で折った星
    物語が詰まった瓶
    耳元で物語を囁くストーリーテラー
    物語味のキャンディ
    星のない海
    蜂蜜

    紡がれる言葉や物語のすべてが美しく、頭の中に浮かぶ情景に酔いしれ、ずっと読み続けていたい物語でした。

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    2025年01月03日
  • 地下図書館の海

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    ネタバレ

    構成が独特で、都度都度別の話が挿入される。この挿入話も様々な、重要な伏線を持っている。初めての構成で少し読みにくいけれども、こういうの結構好き。頻繁に出てくる「蜂蜜」と「蜜蜂」が若干字面的に読みにくいのが玉に瑕かも。
    構成もあってなかなかに難解で、伏線は多分一度で全部把握はできない。何回も読み返したくなる本だと思う。
    ファンタジーとしても少し変わっていて、一度異世界(?)へ行くチャンスを掴みそこねたところから始まる。そして、そのファンタジー世界も全盛期ではなく、既に寂れた忘れ去られつつあるものになっていて、少しもの悲しい。例えるならハリポタ世界に来た!と思ったらホグワーツはほぼ廃墟だった、みた

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    2024年12月24日
  • いずれすべては海の中に

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    なんて言うか、もう、10冊分くらい読んだようなエネルギーを使いましたし、そのくらいの満足感に満ち満ちた読書でありました。

    13篇収録。

    話それぞれにみんな違ってみんな良い、想像力をフル稼働させないとあっという間に置いてけぼりにされそうな、とにかくひとつひとつの話にギュムッと想像の海が押し固められていて、その寒天状の海を分け入って分け入って、どうにかようやく理解が追いついた時にパァッと視界が開けるような、繰り返してばっかりですが、とにかく密度が高い一冊でありました。

    以下、13篇全部の感想を書きたいのですが私の不徳の致すところ、ピックアップして記載致します。


    《一筋に伸びる二車線のハイ

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    2024年10月24日
  • ずっとお城で暮らしてる

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    ネタバレ

    生活の描写がとても好みだった。お屋敷の中でルーティンの様に細々と暮らす様子は、私の理想の生活そのままだった。家族が死んでいるのは寂しいかもしれないが、作中で未練に思う様子が無かったので、私は、いない方が静かで良いのではないかと思った。
    チャールズがやってきて生活が今まで通りでなくなった時は、私も怒りを覚えたし、早く出ていってくれと思った。静かで美しい生活を邪魔しないで欲しかった。
    しかし最後には、様子は随分変わってしまったけれど、小さく静かに暮らし始めてくれたので、心底嬉しかった。私も静かに、家のやるべきことだけを熟して生きていきたい。
    ホラーとかゾッとするとかの前評判をうっすら聞いていたので

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    2024年10月19日
  • いずれすべては海の中に

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    ネタバレ

    好きなYouTuberさんが「海外SF」として紹介していて、表紙も素敵だったので読んでみた。

    作者がまさかのシンガーソングライター。音楽の話が多数あって嬉しかった。ラッキー。

    1話目はなんだか気持ち悪かったけど、2話目からは大体ずっと好きな世界観だった。

    そしてわれらは暗闇の中
    記憶が戻る日
    いずれすべては海の中に
    深淵をあとに歓喜して
    孤独な船乗りはだれ一人
    風はさまよう
    オープン・ロードの聖母様
    イッカク
    そして(Nマイナス1)人しかいなくなった

    が良かった。(ね、本当に大体全部でしょ。)

    すごく引き込まれて「で、どうなるの?どうなるの?」と思いながら最後まで読むと、これといって

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    2024年06月30日
  • いろいろな幽霊

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    『いろいろな幽霊』
    奇妙なゴースト短編集。なんと100の物語が収録されている。バリエーションに富みどの話も飽きずに読めた。「あなたの靴が好き」はある日自分に向けられた不思議なメッセージが現れる話。「数」は生後間も無く聞こえてきた数字を唱える声に関する怖い話。
    この本では非常に色々な幽霊が登場します。その1つひとつの描写がとても自然なのでまるで本当にあるかのように感じます。冒頭の一文がまず面白い。魔法のランプを描く「願い事」もお気に入りの話です。

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    2024年05月21日
  • 九月と七月の姉妹

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    ネタバレ

    九月生まれのセプテンバーと七月生まれのジュライ。十ヶ月違いの姉妹である二人は、母親すら入り込めないほど互いに強く結ばれていた。学校で起こしたある事件がきっかけで母娘は海辺に立つ〈セトルハウス〉に引っ越してきたが、塞ぎ込んで部屋に籠る母をよそに姉妹は遊ぶ。だが、なにもかも二人一緒の季節は終わりを迎えようとしていた。姉妹の絆と共依存、母と娘たちの物語。


    ブッ刺さった。読みながら言葉が全身に突き刺さってきて、その痛みで読むのを何度か中断したくらい。いきなり結末の話をしてしまうが、この小説はジュライにセプテンバーの喪失を克服させない。「これは現実じゃない」とくり返すパートが挟まれるので、現実には大

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    2024年03月15日
  • いずれすべては海の中に

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    ネタバレ

    13編の短編が収められている。うち3編はやや長め。
    ほとんどがSF的な設定となっているが、SFを全面に押し出すのではなく、SF的世界の中における人間の感情や生き方が描かれているという感じ。
    丁寧に静かな文体で書かれていてじっくりと浸りながら読める。
    特に後半の4編はそれなりの長さがあることもありテーマに深みのある力作でとてもよかった。

    1. 一筋に伸びる二車線のハイウェイ
    事故で腕を失い機械義手をつけるが内部のチップに使われているソフトウェアがコロラドのハイウェイで使われていたもののリサイクルだったため、自分の腕がハイウェイと一体化したように感じる。手術でチップを交換するが、ハイウェイの記憶

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    2024年03月10日
  • ずっとお城で暮らしてる

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    ネタバレ

    ユニコーンは処女にしか懐かない、翼の生えた馬もきっと同じなのだろう。なぜなら、清らかなふたりを月の上へ連れて行ってくれたから。

    家族を毒殺した理由は書かれていなかったが、サマーハウスでの記述を見ると家族の一員として大切にされていなかった様子がうかがえる。これがひとつの大きな原因なのだろう。

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    2024年01月16日
  • 九月と七月の姉妹

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    ネタバレ

    読み始めた段階で、姉妹の結びつきが限りなく強固なものであることは察せられるのだけれど、ここまでとは。恐れと憎しみ、身を捧げるほどの愛。
    10ヶ月違いで生まれた姉に支配され、眠りに飲み込まれて心を病んでいるのかと思っていたら、あの日のショックを受け止めきれないまま日々を過ごしていたのだと分かって、一気に切なくなった。
    最初の詩の意味が理解できてくるのが面白かった。ジュライにとって姉はすべてのことに関係してくるから、どこにいても何をしていても姉の姿がチラつくのだ。もはや自分そのものである。
    セプテンバーが甲斐甲斐しくジュライのお世話をするから勘違いしそうになるけれど、横からなんでも取り上げていくの

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    2023年10月31日
  • 地下図書館の海

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    詩的で美しい文章のファンタジー。

    ストーリーはそれなりに深刻な状況を語るのにどこか昔話的。
    物語がタペストリーのように模様を描いていて、読んでいると別世界に行ったような気持ちになれる。

    読み終わってみて、物語というものの怖さみたいなものが透けて見える感じがする。語られ、広まり、さまざまなものの下地になるような物語は、それそのものとして力を持ってしまうような気がする。語り手の意図を離れて、もっと大きな力となってしまうのだ。その力がつくる世界は必ずしも幸福だろうか? 私は頷けない。

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    2023年08月27日
  • 創られた心 AIロボットSF傑作選

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    SFってやっぱ面白い、と思わせてくれる16編と盛りだくさんの短編集。文庫も物価高騰のあおりを受けてこんなに高くなったか・・・と思いつつ買ったが、元は取れたと思う。

    どの作品も味わい深いのだが、意識を持ったAIは物理的につながりさえできれば、ハード(シャーシ)を乗り換えていけるって設定が興味深い。人間が求めてやまない不死不老をAIなら実現できるという夢。
    究極は「罪喰い」の世界で、人間はみな仮想空間(天国)に旅立ち、荒廃した地上にはロボットだけが残る。遺していく記憶を選べるってとこが業だ。

    一方で、製品が成長したり、メンターがいたり、ロボット同士のいじめがあったりって世界の作品もあって、自意

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    2023年06月30日
  • いずれすべては海の中に

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    朝焼けを迎える宙なのか、それとも夕暮れに向かう海なのか、淡い彩色の装丁に包まれた物語の世界に浸ると空気の組成が少し変わり始める。忍び込んだ異質な空気が肺を満たすとき、追憶の中の未来- 辿り着くことのない、いつかどこか ーがゆらゆらと立ちのぼってくる。
    それは旅先で目にした知らないはずの風景に感じる懐かしさと、それと同時に決してその風景に含まれることはない哀しみにも似て、心をさざなみが通り過ぎていく。
    失われたものへの哀惜と失ったものを語るときの優しさが、“今”を生きる真っ直ぐな力強さと溶け合って余韻を残す、美しい作品が集められた短編集だった。

    『一筋に伸びる二車線のハイウェイ』
    オートメーシ

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    2023年06月11日
  • いずれすべては海の中に

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    ネタバレ

    普段あんまりSFは読まないんだけど、これはかなり好き。最初の「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」から、突然の事故で付けることになったハイテク義手が「自分は道路だ」と脳内で主張してくる…という突拍子もない調子で始まり面白いし、オチが秀逸。
    「深淵をあとに歓喜して」の老夫婦の看取りの話も良かったし、「風はさまよう」の、人間と地球が何のかかわりもなくなったら、歴史とは、音楽とはいったいどういうもので、何の意味を持つのか、という重い問いかけに突っ込んでいくのもすごかった。それぞれの短編で設定は全部違うし今の現実とは乖離しているけど、出てくる人間の感情や行動に手でさわれるようなリアリティがあるから面白くな

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    2023年06月08日