市田泉のレビュー一覧
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火星探査機ローバー「レジリエンス」は、心を持つローバーだ。人間とはデータやコードのやり取りしかできないから、レジリエンスの気持ちを知る人はいない。でも、同じローバーの「ジャーニー」や相棒のドローン「フライ」とは言葉を交わすことができる。自分に期待して送り出してくれた研究者、ザンダーとラーニアのため、そして、自分が地球に帰還するため、レジリエンスは火星で自分が価値あるローバーだと証明しようと走り続ける。
心を持つローバーという題材が、決して擬人化され過ぎず科学の話と融合していた。レジリエンスの成長の物語であり、ロボットたちの友情の物語であり、ローバーに人生をかけた科学者たちの挑戦の物語でもあり……とにかくとても読み応えがあり、ページをめくる手が止められず一気に読んでしまった。
レジリエンスが搭載している「脳」は、もしかしたら今で言うAIなのかもしれない。レジリエンスが科学者たちの指令を上書きして自分の意思で進路を決めていることが話の筋として成り立つのも、今の時代だからこそではないだろうか。
火星に着いてからの冒険は本当にドキドキわくわくして楽しかった。人工衛星「ガーディアン」やジャーニーが、だんだんとレジリエンスの持つ「心」に染まっていくのも微笑ましい。
終わり方も現実的で良かった。ファンタジーと科学のバランスがとても良い物語。 -
Posted by ブクログ
この終わり方は全く予想できなかった。
文字を持たない島で育ったお坊ちゃんは、父が連れてきた教師から文字をならい、本を読むようになる。
父が突然死んだため、商売のために都に行って幽霊に取り憑かれる。幽霊が見える、と言うことが宗教と結びつき、その争いに巻き込まれる。争いの中で友人が死にかけ、友人を助けるために幽霊と交流を始める。
幽霊の話を聞き、人生に寄り添い、深い愛情を抱くようになるが、成仏して別れが来る。
幽霊の話が切なくてやるせない。恵まれない環境で傷ついた話、若くて幼くて危うい思い出、語られる美しい風景は、読んでいる自分が泣きたくなる。主人公と同じように幽霊に恋をし、失恋する。
そこそこ恵まれた主人公が自分なら、幽霊は今の社会の中の弱者なのか。ファンタジーであり、社会風刺の面を持ち、素晴らしい恋愛小説でもある。
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最高に面白いSF短編集でした。
出版区というYouTubeチャンネルにて、池澤春菜先生がご紹介をされていた本。
そこでは「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」という作品について話されており、その内容は
ある日、「サラ・ピンスカーが研究者となった平行世界」にてサラ・ピンスカーが発明した、他の平行世界のサラ・ピンスカーを呼び出す装置により、様々なサラ・ピンスカーがひとつのホテルに招待される。結婚して苗字が変わったサラから性別を変えたサラ、とにかく数多くのサラ・ピンスカーが集まる中、一人のサラ・ピンスカーが殺されてしまう。容疑者はたくさんのサラ・ピンスカー。主人公はこの短編集を書いているサラ・ピンスカーではなく探偵のサラ・ピンスカー。
そんな紹介を聞いてしまったらミステリー好きは読まないわけにはいかないと。
しかしこの短編集、全部が良かった。めちゃくちゃ面白かった。
SFも最近嗜むようになったのもあるけど、それにしたって読みやすい。
科学の専門用語がたくさん並んでいるとか、平行世界とか難しいこと書いてるとか、そういうことは全く感じずに
ちょっと人類がスマホを使えるようになったよね、それくらい便利なもっと凄い技術が将来うまれてもおかしくないよね、くらいの感覚だったりとか
Vチューバーさんとかたくさんいるし、VRでゲームできるようになったよね、とか
大災害っていつ起きてもおかしくないよね、その時に宇宙に逃げるって選択肢が身近にあってもおかしくないよね、とかの
少し先をいった現実の中だからかもしれない。
その中でやっぱり人間関係ってこうだよね、気持ちってこうなるよね、若い子って反発するし年寄りは懐古にとらわれるし頭が固い。恋愛するし友情も仲間もあるし自分自身を見つめ直すし。
爽やかさも希望もある作品ばかりでとても心が落ち着く時間が過ごせました。
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Posted by ブクログ
人生ベスト入り作品に出会ってしまった。アルケミストとか遠い声、遠い部屋に並ぶくらいの感情を今抱いてる。
あ〜〜〜この作品を表現するための語彙力がないのが悔しい!!!!
信用できない語り手によって語られる、この2人の世界からしか見えない閉ざされた“お城”の中の世界の美しさ。その世界は狂っていて、恐ろしくて、暗くて、静かでとても美しい。その一方で、その外界には、普通で、明るくて、うるさくて醜い世界が広がっている。
幻想的で独創的な美しい表現と2人だけの秘密をずっと垣間見ているドキドキに何度も鳥肌がたった。そして絶妙に予想できない展開にもずっとわくわくさせられた。
メリキャット、コンスタンス……この愛おしさ言葉にできない……なんか激重感情。いつかちゃんとした言葉で残せるといいな
この作品なぜかホラー小説ってカテゴリに入れられてるみたいで、そっち系の読者のすごい客観的な冷めた視点で読んでる感想何個か見たんだけど、うーーん
これってもっとメルヘン小説(っていうのかな)というか幻想的で童話に近いような…そんなタイプの物語だと思う。そこにちょっと怖い要素が入ってるのが最高なの。童話もそうでしょ?
最近私生活これしかなかったけどそれはそれで濃厚で幸せだったかも。ページの写真で埋まったカメラロールすらも愛おしい。
「あたしは魔法の言葉を忘れない。メロディ、グロスター、ペガサス」
「いつかあたしは夏の芝生の上の朝ごはんになるの。いつかあたしはろうそくの火に照らされた正式なディナーになるの。いつかあたしは──」
「メリキャット、わたしとても幸せよ」
「月の上が気にいるって言ったでしょう」
とりあえず残しておきたいのは……好き!!!!!! -
Posted by ブクログ
メリキャットとコンスタンス、ジュリアンおじさんの暮らしにうっとりしながら読んだ。彼女たちなりの生活の秩序はとても美しく、メリキャットが大切な物を土に埋める場面がとくに好きだった。城が破壊されても「とってもしあわせ」に暮らせるふたりだけの世界は、もう外部の人間の接触も無い為メリキャットがよく語っていた〝月の上〟のような、理想の場所そのものになったのだと思う。彼女たちの生活は埋められた大切な物で キッチンは彼女たちを隠すやさしい土だから、このまま誰にも掘り起こされずに美しいまま守られていて欲しい。とても好みの文章と物語。この作品に出会えて本当にしあわせです。
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Posted by ブクログ
ネタバレ閉鎖空間ヤンデレ姉妹百合〜謎の一家殺人事件を添えて〜。
タイトルにもある「ずっとお城で暮らしてる」感そのままというか、おとぎ話感というか、キラキラ感というか、そういうものが、逃れがたい時間経過、自分たちの成長、当たり前に起こる周囲の変化という風化に伴って、話の展開とともにぺりぺりと剥がれていく様が本当に気味が悪くて最高だった。おとぎ話のようなお城に暮らしていても、おとぎ話の住人にはなれないのだと、まざまざと見せつけてくる作品。読者である私が何気なく1ページをめくるごとに、きっと「お城」のどこかでタイルや壁紙が剥がれているのだろうと思わされる。コンスタンスとメリキャットの姉妹の生活を壊したのは、ページをめくり話を進め、停滞していた空気を動かした私なのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
物語はあらゆるものの中に息づいていて、それは私たちのすぐそばにある。
素敵な物語でした。
物語の中に物語が展開されているような入れ子構造で、すべての物語が詩的、幻想的で、やがてひとつの大きな物語に収束していき、そこからまた新たな物語を予感させる。
主人公のザカリーが同性愛者であることも自然に表現され、それが悩みの種として物語を阻害していないところも素敵でした。
悪夢を書いた紙で折った星
物語が詰まった瓶
耳元で物語を囁くストーリーテラー
物語味のキャンディ
星のない海
蜂蜜
紡がれる言葉や物語のすべてが美しく、頭の中に浮かぶ情景に酔いしれ、ずっと読み続けていたい物語でした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ構成が独特で、都度都度別の話が挿入される。この挿入話も様々な、重要な伏線を持っている。初めての構成で少し読みにくいけれども、こういうの結構好き。頻繁に出てくる「蜂蜜」と「蜜蜂」が若干字面的に読みにくいのが玉に瑕かも。
構成もあってなかなかに難解で、伏線は多分一度で全部把握はできない。何回も読み返したくなる本だと思う。
ファンタジーとしても少し変わっていて、一度異世界(?)へ行くチャンスを掴みそこねたところから始まる。そして、そのファンタジー世界も全盛期ではなく、既に寂れた忘れ去られつつあるものになっていて、少しもの悲しい。例えるならハリポタ世界に来た!と思ったらホグワーツはほぼ廃墟だった、みたいな…?
ちょっと恋愛要素もある。終わりごろにえ!なんか伏線あったっけ!?っていう感じで。
ここ数年の一番のヒット。買います。 -
Posted by ブクログ
なんて言うか、もう、10冊分くらい読んだようなエネルギーを使いましたし、そのくらいの満足感に満ち満ちた読書でありました。
13篇収録。
話それぞれにみんな違ってみんな良い、想像力をフル稼働させないとあっという間に置いてけぼりにされそうな、とにかくひとつひとつの話にギュムッと想像の海が押し固められていて、その寒天状の海を分け入って分け入って、どうにかようやく理解が追いついた時にパァッと視界が開けるような、繰り返してばっかりですが、とにかく密度が高い一冊でありました。
以下、13篇全部の感想を書きたいのですが私の不徳の致すところ、ピックアップして記載致します。
《一筋に伸びる二車線のハイウェイ》…農場で働く21歳の〈アンディ〉は不慮の事故で右腕を喪ってしまう。目が覚めたときには、彼の腕は「ロボットアームで、頭にはインプラントが埋め込まれていた。」(p8)。痛みと発熱に耐えた後に彼が視たのは「自分の腕がハイウェイだという夢」(p13)だった。「アンディは道路になりたがっていた、というか、彼の右腕がなりたがっていた。」(同)のだ。どうです、訳わからんでしょう。そんな「道の手」(p16)と同居することになったアンディが過ごした青春のひととき。
これが出会い頭の一篇目ですよ。
《そしてわれらは暗闇の中》…捉えどころが少ない話。「夢のベビー」(p28ほか)、ひいては「わたしたちのベビー」(p36)を追い求めて海岸へ集まって来て「岩の上の子供たち」(p33)を見つめる人々。マスコミなどの好奇の目に晒されても飢えても屈せず、ただただ海の向こうに目をやる人々。〈わたし〉を含めたこれらの人々は、おそらく同性愛者のカップルであったり不妊に悩む夫婦であったり、何らかの事情で子宝と縁が結べないでいる人達であろうと推察できる。子どもを持ちたくても叶わない、そんな遣り場のない懊悩はまさしく闇の向こうを睨むかのよう。他者からすれば「集団幻覚」(p36)と映るかもしれないが、当事者からすればとにかく必死で懸命で、雑音に耳を傾けているゆとりなどない。
《深淵をあとに歓喜して》…老夫婦のあゆみと、増築だらけのツリーハウスが垣間見せる家族の断景。建築家として大成する事を志した夫が若かりし頃に子ども達の為にこさえた「蛍のようにちらちらと光る」(p148)ツリーハウスはまさに老いと共に薄れゆく記憶の象徴、そして諦めざるを得なかった夢を標する灯台のよう。夫が軍に属していた頃に設計した建物は人々が生き生きと暮らす街並みではなく、人を押し込めて望みを奪い去る「刑務所みたいなもの」(p145)だった。以来、固まってしまった夫の心をほぐしたのは妻が重ねた手だった。
《イッカク》…個人的に一番好きな話。疾走感と不思議。「クジラのシルバーブルーのボディはファイバーグラスのようだった。ステーションワゴンのシャーシに載っているらしく、幅広な後部から尾が弧を描いてはね上がっている。」(p331)とある通り、例えとかでなく本当にクジラの見た目の車に乗った、ヨガインストラクター風の女〈ダリア〉に助手として雇われたわたし〈リネット〉。女ふたりの奇妙な旅は目的もよくわからないまま、寂れた小さな町へ辿り着く。その町の博物館に展示されているジオラマにはなんとあのクジラの車が…!全体的に気怠い感じが漂いつつもどこかコミカルな一篇。ボタンを押したら車からツノが生えてきてイッカクになるシーンは笑っちゃった。読み返せどよくわからん、妙ちきりんな話。「事件」とはなんなのか。
拡がるイマジネーションの中へ。
これ以上難解だといよいよもって疲労と不完全燃焼感しか残らない気がするので、心地よい塩梅の作品集でしたね。
3刷
2024.10.24