春日太一のレビュー一覧
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『週刊ポスト』の連載「役者は言葉でできている」を書籍化。
本書のインタビュー相手は、いずれも"名優"と称されるようなベテラン俳優ばかり。だがそのような彼らにも新人・若手時代はあり、当時の苦労・苦悩は現代の我々にははかり知れない。
当たり前だが、彼らは最初からスターや名優ではなかった。俳優としてよりよく在ろうとする彼らの話は興味深く、含蓄に富む。「日々鍛錬し、いつ来るともわからぬ機会に備え」(註:朝ドラ『カムカムエヴリバディ』より)てきたからこそ、現在があるのだろう。同時に現在の俳優業界や作品(殊に時代劇)制作現場に対する彼らの憂いや不満は、観客/視聴者の我々以上に痛切な -
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古今東西のシネアストの中で、最も妥協なく映画制作に臨んだのはチャップリンという見解がある。本書を読む限り、勝新太郎も負けていない。
出演交渉を断ったのだから、カツシン版『戦場のメリークリスマス』は夢の夢として、カツシン版『影武者』ならフィルムが何尺か残っている気がする。いつか観られる日に期待したい。
ブルース・リーとの共演が流れたのは惜しまれる。『ドラゴン怒りの鉄拳』を観た勝の感想は「紙芝居みたいな映画だな」だと聞き及んでいたが、本書によれば「これはマンガだよ」
マンガといえば、私の中では手塚治虫『火の鳥 鳳凰編』映画化の際、我王は勝新太郎が演じるべき、という想いがある。
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メチャクチャ面白かった。たぶん今年のベスト1だと思う。
東映の黎明期から時代劇、任侠、実録路線までを膨大な量のインタビューと資料を駆使して活写している。
東映映画ファンでない人はどうなんだろう。少し割引いて考えなくてはならないのだろうけど、それでも楽しめると思う。固定的な映画館を持たなかった東映は普通の映画会社の倍の映画をものすごい熱気で作り続ける。東映撮影所では皆走っていると言われていたとか。
できあがった作品より現場が面白い。東映は今まで何本の映画をつくってきたか知らないが、この本を映画化できたらそれが一番面白いものになるだろうと思う。見る人は限られるかもしれないが。
『例えば、侍 -
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ネタバレNHK『ねほりんぱほりん』の「腐女子」回で、現役腐女子たちが赤裸々にその生態を語っていたが、それをさらに掘り下げた印象を受けた。<腐女子の視点とは、作品をよりディープに楽しむハイレベルな知的遊戯である>とのポジティブな観点から、腐女子的な思考が、おじさん2人によって徹底的に腑分けされていく。
著者2人の萌え語り(=人生語り)が、楽しい上に興味深いものばかりで、読むこちらまでも内省的な気持ちになり、思考がクリアになった。新たな発見が数多いという意味で、これはもはや学術書のレベルに達している気がする。
あとBL・やおいに限らず、「関係性に萌えを見出す」「描かれていない部分を、能動的に想像力で補 -
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「本格ミステリは映画に向いてない」という話が面白かった。
《犬神家の一族》について、『この映画は本格的ミステリ映画として製作されたのですが、本格的ミステリ映画として製作されてここまで大ヒットした上に、後世まで評価されている作品というのは、実は日本映画史上この映画だけだと言っても過言でない。』と書いている。
クリスティ作品といった本格ミステリは、殺人が起きて、後は、犯人探しのための関係者の尋問シーンが延々と続く。小説でもこの部分はたいがい退屈なんですね。最後の解決編で、その退屈な部分が見事に再構成されるところが快感なので、我慢して読むしかない。
しかし、それを映画でするのはさらに退屈だとい -
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日本映画が一番元気の無かった時代、邦画を観るのがダサいなんて思ってた時に、奥山さんが日本映画を復興し良い作品を作ろうと闘っていたとは知らなかった。映画会社が自分の劇場で上映する映画を作ってチケットの売上で興行を上げようとする時代。読んでいて懐かしさを感じながらも、松竹のカラーに合わないと自分の会社の出資を得られず、他で資金集めに奔走する様は、大変な時代だったんだなあと思った。自社の改革に奮闘しながら作った作品は、当たるのもあればそうでないのもあって、最期は松竹を追い出されてしまう。奥山さんがいなければ、監督北野武も生まれなかったのに。「その男、凶暴につき」の製作エピソードは非常に興味深かった。
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奥山和由がプロデューサーとして活動していた90年代、ぼくはほとんど映画を見ていなかった。それでも彼の名前は悪い印象とともに知っているのだから、当時、相当ネガティブな報道がされていたのだろう。2002年に高田馬場の名画座「早稲田松竹」が閉館したとき、早稲田の学生の間で「あれは奥山のせいだ」という噂がたったこともあったなあ。そういう色眼鏡のもと読み始めたら、奥山和由の映画やクリエイティブにかける思いがとても熱くピュアで驚いた。印象が180度変わったと言ってもいい。
中で出てくるエピソードが、どれも濃い。特に深作欣二や北野武とのエピソードは、それ自体が映画になるような内容だった。「ハチ公物語」を撮