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生誕百年を迎える、日本映画界の巨匠・市川崑。その作品は現在も色褪せない。『ビルマの竪琴』『黒い十人の女』『炎上』『東京オリンピック』『細雪』など、実に多彩なジャンルの名作を撮り続けたその監督人生をたどり、“情”を解体するクールな演出、襖の映り方から涙の流れ方まで徹底的にこだわり抜いた画作りなど、卓抜な映画術に迫る。『犬神家の一族』の徹底解剖、“金田一耕助”石坂浩二の謎解きインタビューも収録。 ※新潮新書に掲載の写真の一部は、電子版には収録しておりません。
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Posted by ブクログ
市川崑監督と妻・脚本家和田夏十、触発する互いのキャリアが積み重なるも、和田の闘病、市川監督作品「東京オリンピック」のバッシングという悲運から名誉挽回となった「犬神家の一族」今作の制作過程や物語構成を筆者が様々な引用や取材を通して解説する。この筆致がわかりやすく、そして明確に浮かび上がる市川崑監督の演...続きを読む出法に唸らせる。主題に対する作り手のポジション、下手すれば退屈させてしまうミステリーの解体・再構築の過程は面白い。幾度となく鑑賞してしまう傑作の裏側は映画好きならずとも一読の価値がある。
「本格ミステリは映画に向いてない」という話が面白かった。 《犬神家の一族》について、『この映画は本格的ミステリ映画として製作されたのですが、本格的ミステリ映画として製作されてここまで大ヒットした上に、後世まで評価されている作品というのは、実は日本映画史上この映画だけだと言っても過言でない。』と書い...続きを読むている。 クリスティ作品といった本格ミステリは、殺人が起きて、後は、犯人探しのための関係者の尋問シーンが延々と続く。小説でもこの部分はたいがい退屈なんですね。最後の解決編で、その退屈な部分が見事に再構成されるところが快感なので、我慢して読むしかない。 しかし、それを映画でするのはさらに退屈だというのです。 ヒッチコックは娯楽映画の三大要素として、ミステリーとサスペンスとサプライズをあげている。謎があて、それを解いていくのが「ミステリー」となるが、『隠された事実というのはサスペンスをひきおこさない。謎解きにはサスペンスなど全くない。一種のち的なパズル・ゲームにすぎない。そこにはエモーションが欠けている。殺人事件が起こって、あとは、犯人がだれかという答えが出るまでじっと静かに待つだけだからね、エモーションがまったくない。』 『犯人探しのために調査する、聞き込みをするという場面は、情報の交換をしているだけなので、感情が動かない。つまりミステリーは映画だと動きや感情表現しにくいし、推理の主だった部分も頭の中だけれで行われるから画にならない。観ている側としては、退屈なものになってしまう。』 テレビだと、ニ時間ドラマ、刑事ドラマでは、会議室などで事件のおさらいを延々説明するシーンをいれてます。それができるから、テレビドラマの世界ではミステリが成り立っている。テレビは「ながら視聴」が基本なので、説明的な場面を作って、画が死ぬことになっても、視聴者は音声だけ聞いていることもあるので、長々としたダイアローグも許される。しかし、暗い中でスクリーンに釘付けにされる映画だと、画が死ぬことは許されない。なので、ミステリの謎明かし自体をクライマックに持ってくるということは、基本的にまずやらない。 コメディ・リリーフの起用(インタビュー的な捜査、事情説明のシーンには喜劇的な芝居を入れる) 徹底した誇張(登場人物はことあるごとに「キャー」と叫ぶ) 短いショットの積み重ね 不自然な会話(日本語の解体) 傍観者としての探偵=観客の視点の探偵 なるほどね。かなり考え抜かれた作品なんですね。もう一度見たくなる。 『力強い健康的なヒーローは一人もいません。みんなウジウジ・ナヨナヨしているか、飄々としている。熱い友情とか正義感を前面に出すことは決してない。』 『人間にも景色にも躍動感がない。「動」的なものを全て解体して、一枚の画として「静」的に提示している。』 『映像に対しての根本的な発想としてあるのは、「ありものを撮る、映す」という感覚ではありません。「一枚一枚の画を描いて、それを繋ぎ合わせていく」という発想なんです。』 『徹底的に三人称の視点から世界と人間を客観的に捉え、決して熱くなることなく冷めたタッチで描く。』 『「情に訴える感動」をさせないというのが、市川崑の美学でした。』 『市川崑の映画に登場する人物たちは主張を高らかに語ったり、感情を大きく爆発させたりするようなことはしません。また、感情が発露する場面になるとカメラが引いたり、カットを細かく割ったりと客観的な視点に転じ、容易に感情移入させてくれません。』 『市川崑がやろうとしたのは、日本人特有の性質に根ざした、伝統的な日本映画の技法に対する挑戦でした。その象徴として「ハート」つまり「情」があり、その非近代性をなんとか現代的に解体しようとします。』 『《細雪》を分岐点にして天使が去ってしまい悪魔に魅入られたということができる。天使はもちろん和田夏十ですが、悪魔とは誰か-それが「監督クラッシャー」と言うべき吉永小百合です。吉永小百合と組むようになると、ほとんどの監督が駄作を連発するようになり、評判を落としていく。そんな彼女の現代にまで連なる「監督クラッシャー伝説」の生贄の一人が、市川崑でした。』 『アップの時に瞬きすると、そこでカットがかかる。「スクリーンに大きく顔が映るのに瞬きなんかすると、それで一つの芝居になって新しい意味が生まれる。だから、だめなんだ。』
前提知識があれば、楽しめます。市川監督がアニメをやっていたことに、静へのこだわりみたいなのの根拠としていました。アニメといってもディズニーなので、動かすことにこだわる作品群ですけど。
巨匠といわれる市川崑監督の作品がもう一つしっくりしていなかった理由が少しわかった気がする。 巨匠の映画製作の裏には奥様の強力な後ろ盾があったという事、そしてミステリーを映画に本格的に導入して成功したのは犬神家の一族が最初なのではないかという視点がもの凄く興味を引いた。
嘘偽りなく、市川崑監督の映画「悪魔の手毬唄」は日本映画、ミステリー映画の最高峰だと思う。 そして、その最高峰を生む基礎となったのが一作目の「犬神家の一族」。 「犬神家」の面白さ、映像の美しさ、市川崑監督映画の秘密はどこにあるのか?を明らかにする。
春日さんの評論ものは分かりやすい。映画を見た疑問やトリビアを徹底的に解明しようという姿勢は特筆もの。映画を背景にした市川崑論。
竹取物語…映画館に観に行ったなあ…(遠い目) 市川昆は石坂浩二の金田一耕助を生み出した!この一点で全てオッケーです 金田一シリーズについてたくさん書いてあったので満足
市川崑は脚本家の奥様、和田夏十の内助の功に支えられていた。 監督は奥様の没後は迷走…。和田夏十さんのすごさももっともっと検証されるべきでしょう。 「木枯し紋次郎」の主題歌、上條恒彦「だれかが風の中で」の詞まで書かれていたとは。すごいね。 吉永小百合を「監督クラッシャー」と断言するのもツボ。...続きを読む 戦後の日本の映画界の駄目っぷりも露わに。「東京オリンピック」は人選ミスって駄目じゃん。 角川が仕掛けた金田一耕助ブームがミステリへのめり込むきっかけだっただけに、石坂浩二インタビューは嬉しいおまけ。 見たくなる映画やTVが一杯出て来て、それだけでお釣りが来る一冊ですね。
筆者の春日太一氏は最近、書籍も多く、ラジオなどの出演も多い若手の時代劇研究家だ。 私は彼の「あかんやつら」を読み、かつてあった日本の時代劇の凄みにはまった一人だ。 ラジオにもよく出演し、語り口も分かりやすく聞きやすい信頼できる批評家の一人だと思う。 たまたま、角川シネマで市川崑特集をやっており、ちょ...続きを読むうどこの本の存在を知った事と被り、この本を読んで市川崑の「破戒」を見た。 筆者が本書で評価している様に非常に画の綺麗な美しい映画であり、ある部分の会話ではコメディ的な皮肉もありつつ、そしてクールな、非常に客観的な人物が配置されていたり、確かにその評価の通りだと感じた。 特に、弱い男と強い女という対比は「破戒」でもそうだった。また、その女性に「歴史は傑出した個人が動かすのではなく、大衆が動かしていくものでいつの日か自然と変わっているものだ」と言わせるシーンには主人公を突き放すような女性の強さとクールさが現れているように思った。 本書は「犬神家の一族」の分析と主演の石坂浩二のインタビューがその半分を占めており、機会があればぜひ観たいと思わせられる内容だ。手軽に読めて、市川崑の映画を観たくなる少し厚いパンフレットの様な本だった。
市川作品をそんなに観ている方ではないものの、それでも著者と同じく市川崑を自分の中でどう整理していいかわからず、もやもやしていたのですが、おかげでだいぶ晴れました。非常に読みやすくファン以外でも楽しめると思います。作品を未見でも大丈夫ですが、「犬神家」はさすがに詳細な解説が入るので観ておいたほうがいい...続きを読むです。
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市川崑と『犬神家の一族』
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