ミシェル・ウエルベックのレビュー一覧
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センセーション、キッチュ、醜悪、美を自在に配合して縦横無尽に文学するウェルベック。主人公ダニエルはそのコメディアン版という感じ。彼もまた人心の歯車を知り尽くし、観客の笑いをタイミングから加減に至るまで完璧に掌握している。
しかし、そんなダニエルにさえ人生はままならない。中盤のみっともなさがすごすぎて笑ってしまうくらいだがーーそれもコメディアンゆえなのかーー後の人生記の読者となる未来のダニエルを笑わせにいってるような、自虐的な記述におかしみと共に切実さも感じさせる。生への執着と虚無との間をグダグダしているように見えるのは、実は誰よりも真剣に人生に取り組んでいるからに他ならない。その姿もまた、ウェルベックの鏡像のように思えてくる。
才能も知識も意味を持たない地獄のなかで、それでもニヒリスティックになり切れない主人公の苦しみが、遠く離れた未来の自分自身に変容をもたらし、根拠のない可能性へと向かわせるーーそんな一筋縄ではいかない“希望”の小説として読んだ。
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ネタバレミシェル・ウェルベック「地図と領土」
今何かと話題のミシェル・ウェルベック、ついに手に取ってみた。結論、猛烈に面白い。以下、微妙にネタバレを含む。
母親を自殺で亡くした内向的な青年が写真、さらには絵に打ち込む。その才能を見出すのは手練れの「芸術のプロフェッショナル」たち。ミシュランの広報という絵にかいたような業界エリートである美女との恋をきっかけに作品にはいつのまにかすさまじい高額がオファーされ、主人公は目もくらむような高みに導かれていく。
テーマはずばり「芸術に値段をつけられるか」。著者のビジネス視点がいかにも正確で、通俗的な「金儲け悪徳論」とは一線を画す。そしてそれ故になおさら個人の感性がマーケティングされていくことへの違和感も同時にあぶりだされる。文章のあちこちに「当然知っているよね」的な小ネタ(実在の芸術家やらフランスの有名なニュースキャスターやら)が飛び出す中、作者本人(「超有名作家のウェルベック氏」)が登場してきてからのミステリーも強烈。
「親の愛を知らない内向的な青年が精密で写実的なものに引かれ黙々と筆写するうちいつのまにかビジネスとして成功し、理想の女性と出会う。そして最後にもっと孤独になる」というプロットについて、村上春樹の「トニー滝谷」を思い出す人もいるだろう。
偶然なのか、作家の間で何らかのインスパイアがあったのか(発表は村上が先)、そもそもある種古典的なモチーフなのかは分からない。
割と寡作な作家だが、少なくとも数冊和訳が出版されている。ウェルベック、全部読むぞ確定。 -
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"2017年に行われたフランス大統領選では、中道政党であるアン・マルシェのエマニュエル・マクロン候補と、極右政党である国民戦線のマリーヌ・ル・ペン候補の決選投票となり、39歳のエマニュエル・マクロン氏が選ばれ、フランス大統領となった。
本書「服従」では、極右政党と移民系イスラーム政党の決選投票となり、イスラーム政権が誕生するシナリオ。2022年でも極右政党党首は、マリーヌ・ル・ペンさんであり、現実感あるストーリー展開。中盤のパリを離れる主人公の周りで起こっている出来事は、現在テロが頻発するフランスの様子を見事に描き出している。
一つの可能性を提起した小説で、世界中で翻訳され、話題になっているらしい。" -
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ウェルベックはすでに何冊か読んでいるが、この作品でようやくウェルベックの愛に対する執着の凄さが分かってきた。思い返してみると、いままで読んだ作品にも愛への執着は十分あったと思うのだが、それよりもペシミスティックさの方ばかりに注意が行っていた。これを読んだ後では作者の印象が少し変わった。単なる先鋭なペシミストではなく、自由主義的な現代の風潮を否定するその態度の根底には、愛こそが唯一求めるべき価値のあるものであるという熱烈な価値観があるのではないか、というふうに思えてきた。ペシミストが愛を熱烈に肯定する。面白いではないか。しかもその愛は、精神面よりも肉体面を強調した愛である。実に挑発的だ。それでいて、現代人の不幸を冷静に分析して得られた妥当な結論という趣もある。さらにそこから未来予想が大胆に展開されるとなれば、興味を掻き立てられないはずがないという感じである。
さて、その未来予想であるが、最後に複雑な気持ちになってしまった。ネオ・ヒューマンの生活は、私からすればほとんど理想である。歓びを代償にしたにしても、せっかくあらゆる社会的束縛と多くの精神的束縛、肉体的束縛からも解放されたのに、それなのに……。けれども一方で、融合・自己消滅への欲求が人類の最も根源的な欲求なのだろうという想いもある。意識を持ってしまったことの宿命なのかもしれない。その欲求を第一にどうにかしないと結局は幸福になれず、人は、そして種は、自ら滅んでいくということなのだろう。それはそれでとても納得できるのである。
結局のところ、どちらも自己消滅への欲求なのであり、束縛からの解放よりも愛への欲求の方が、人間の根源的欲求としてより高次にあるということなのだと思う。ウェルベックの自由や個人主義への批判は、そういう観点から来ているのかもしれない。以下本文より。
「愛は個人の自由や、自立の中には存在しない。あるとすれば虚構である。思いつくかぎり最も見え透いた虚構のひとつだ。愛は、無への、融合への、自己消滅への欲求の中にしかない。」 -
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作者の掌の上できれいに転がされた感じがする。一本の小説の中で何回、不幸と一瞬届きそうになる幸福の間を行ったり来たりしただろうか。これでもかというくらい振り回され、同情を誘い、もはや「素粒子」というタイトルが匂わすSF的結末への期待をも忘れて、途方もなく哀愁漂うなけなしの性愛物語として十分満足だ、と観念しかけた頃、ついに結末がやってくる。そのカタルシスたるや、圧巻である。一切の苦悩から解放されたときのような浄福を自分は味わった。自由と進歩主義に対するにべもない唾棄には思わず笑ってしまったが、このとき、登場人物たちに対する自分の数々の共感と同情も一緒に笑い飛ばされてしまった。それがまた爽快。ウェルベックの最高傑作と呼ばれるのも納得。作者の思想に同意しない人でも楽しめると思う、というかそれを狙いに行ってるだろうな。
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フランスにて極右政党とイスラム穏健派政党が首班を争うことになったら、
という設定のもとに、
大学で教授を務める主人公の姿が描かれる。
政治の動きを実名政治家も用いながら説明しており、
フランス人にとってはかなりリアリティの高い作品なのだろうと思わされる。
正直なところ、読後感はすっきりしない。
これが実際に起きる出来事なのか、
といわれるとかなり確率が低いのでは、とも思う。
しかし本題は、その政治・社会的な混乱の中、
「服従」を選択するエリート層に対する批判なのではないだろうか。
日本だとここまでの思考実験は難しいのだろうな、とも思う。
左だ右だという形式にとらわれて、
本質的な危機があることに気付けない。
申し訳ないが、エンタメ・純文学を望むのであればお勧めしない。
ヨーロッパ圏での危機感やイスラムに対する不安感を感じたい方に教養の本としてお勧めする。
フィクションながらもノンフィクションのように感じさせる、
なんとも言えない小説。 -
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ネタバレアーティストのジェドの一生の話。世界そのものを表現するために「工業製品の写真」→「ミシュランの地図の拡大写真」→「職業人の肖像画」と表現が変遷していくが、ジェドその人は、単なる鏡としての人なのか、空虚で、情熱のようなものがあまり伺えないように見えた。晩年の圧倒的な諦念・孤独の中で制作された作品群にようやくエモーション、想いのようなものが感じられたような気がする。とかいって、すべて芸術作品を文章で読まされているわけですが。エビローグの、寂寞さがすごいのと、ウェルベックのテーマがてんこ盛りなのが、なんだか微笑ましい気持ちにさせられた。でも、自分の人生における交友関係も先細りだし、最後はこんな状態になるのかな、なんて思ったり。
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ネタバレ人間・ダニエルと、彼をクローニングして生み出され、何十代もクローンとして再生を繰り返したネオヒューマン・ダニエルの手記が交互に語られる変則的な構成。
『素粒子』の続編的な作品と聞いて読みだしたけれど、読み終わってみると、『素粒子』よりドライでハードな物語だった。続編というよりも、訳者あとがきで説明されているように、『素粒子』の本編とエピローグの中間に位置する作品。
数多くの、真実に見えるフレーズが散らばっているけれど、総体として見たときには、やはりこの主題―性欲のみが人間の持てる唯一の欲望かつ喜びであり、若者のみがそれを享受し、それ以外の人間はその欲望の向こうに作り出した愛という概念に引きずり回されている―は無味乾燥すぎて賛成はできない(ヨーロッパ文明自体の衰退が、人間の生物学的な老いに重ね合わせられている、という解説に納得はできるが)。けれど文章は美しく、構成は技巧が凝らされている。 -
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ネタバレどうしても惹かれて、本当は本を買っている余裕がなかったのに、一冊なら!と購入。
呼ばれたなー。
というのも、直前に萩耿介『グレイス』を読み。
その前にフリードマン『新100年予測』を読んでいたんですねー。
フリードマンの方は読み終えていたので、ドイツとフランス間のアレコレが気になって手に取ったのは間違いない。
ただ、『グレイス』に出て来たデュルタル神父が、まさかユイスマンス経由でこの作品に繋がってくるとは。呼び本、恐ろしや!
そんな訳で運命的に手にした一冊なのだけど、なかなかすごすぎる。
国民戦線とイスラム党の決選投票。
そこから目まぐるしく変化するフランス内部。
主人公が車で移動するときの、情報から断絶された静かな狂気のシーン。かなり怖い。
選挙ってこんな暴力的に破壊出来るのか!そりゃそうだわ!という発見。
ユダヤ人の彼女はイスラエルへ引っ越してしまうし、女性達は服装もキャリアも穏やかに退去させられることになる。
主人公の最後の決断がまたエグい。
私はユイスマンス読んでないから分からないけど、『グレイス』で感じたデュルタル像から安易に対比させるのに抵抗がある。
なんだかんだ右往左往して、彼が守ったのは女性達が「信仰上」心から捨てなくてはならないものだった訳で。
つまりは孤独を貫くではなく、孤独を癒やしてくれる救いが欲しかったわけですか……。
他の方のレビューにもあったけど、描写が村上春樹に似ているからか、飄々とエグかったわ。
なのに、ディストピア小説って言えるほど、かけ離れた嫌悪感がないこともまた怖し。
これをディストピアと感じる人は、マジョリティかマイノリティか。
選択することで、放棄しなくてはならないものの存在がある。
それは一人一人が自発的に行えることが理想なのだろうけど、国や宗教といった集団に属する限り、個人は時に無視されてしまう。
そうした世界に溶け込み、無視されたものを敢えて見ないようにする力に服従することは、幸福なのか。
何かと考える。ユイスマンスも読みたくなる。
フランス選挙の結果も気になる。 -
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ネタバレ人間存在の孤独についての物語が、どこまでも個人的なエピソードを通じて、しかし普遍的な確信をもって語られる。
小説の主軸になるのはふたりの異父兄弟。兄は女にもてず、不惑を超えても性的な彷徨を続けている文学教師。弟は、相手が男であれ女であれ、他者と人間関係を築き難い天才科学者。
西欧文明の終焉を背景に、兄弟と彼らを取り巻く人間たちを透かして、孤独の絶対性が描かれる。
ラストで明かされる物語構造と人間存在への視点は超越的で、冷徹でありながら甘美だ。それはニーチェの超人思想を思い出させる。人間は生まれながらに重荷を背負ったものであり、人間の先に続いて現れるもの(があるとして)への架け橋でしかない、と。つまりは超人的な存在を仮定して初めて、人間は人間を肯定できるのかもしれない。
超人が存在せず、人間が人間でしかない現実においても、ひとは生きていくしかない。孤独と死とともに時間に押し流され、どこかにある愛を信じながら。
読後の呆然とした余韻の中で、そんなことを思わされた。 -
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ネタバレ「服従」がベストセラーとなっているミシェル・ウェルベックの長編2作目。彼の作品は初めて読む。現代のフランス(を中心とした西欧社会)において、彼の視点はただただ人間の欲望というものの発露の仕方に向けられているようだ。露悪的ともいえる文体で、「普通の」人間の中にある欲望、殊に性欲についての描写がしつこくまとわりつくようで、濃密である。どこかで開高健が「作家の善し悪しは食事とセックスをきちんと書けるかどうかでわかる」というようなことを書いていたが、この作品では(フランスが舞台でありながら!)食事の描写はわりあいさらりとしていて、その分すべての技巧やレトリックをセックスとそれにまつわる哲学に費やされているようで、その徹底ぶりには執念すら感じさせる。
主人公はパリに住む公務員。ぱっとしない独身の中年男だ。仕事にも恋愛にも熱意はなく、特に趣味と言えるものもなく、日々をただ淡々と過ごしていて、セックスに関してははそうしたサービスを利用してすませている。
父親の遺産を相続した彼は、タイへのツアーに参加してある女性と出会い、人生が大きく変わっていく…。
…と書くとずいぶん陳腐なストーリーのようだが、まったく退屈させることなく読ませてしまうのはさすがの筆力。帰国して彼女と再会した彼は、彼女の仕事である旅行産業に大きな一石を投じることになり、すべてが思いのままに進んでいくが、やがてくる破滅に彼は気づくはずもなく…。
現代社会の欲望とセックス。異文化との衝突と暴力。それらが交錯する瞬間こそが、現代という時代を象徴していることを書きたかったのだろうか。
それが予言していたかのように、今まさにフランスを舞台にそうした悲劇が繰り広げられているのには驚かされる。 -
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難解な内容。終始ストーリーの方向性が見えない。全体的に叙事的かつ客観的描写が多い。感情論に頼らない文体は孤独な、あるいはシニカルなニュアンスを強めると同時に人類の本来の姿・性質(動物性)を想起させる。観念論や唯物論、更にはヒューマニズムの歴史に関する言及が多く、「今後人類の思想はどう展開してゆくか」といった壮大なテーマを含んでいるよう感じた。
その答えは十人十色。
いろんな読み方があります。とにかく近代西洋史や思想史に興味がある方はきっとインスパイアされるだろう問題作だと思います。物語として読むより思想本として読むことをおすすめします。 -
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邦題「素粒子」。フランスで最も物議を醸す作家、ミシェル・ウェルベック。初めて読んだ。入り込むまでに時間がかかるのは、その作家の世界観を知らないせい。入り込んでからはのめり込むように読み耽った。これほど悲しい物語を読んだのは久しぶりかもしれない。ガツンとくる物言いと悲しきストーリー展開。読んでいて、こんなに悲しい最後が待ち受けているとは思わなかった。最後だけが悲しいわけではない。後半は常に悲しい。怠惰。頽廃。擦り減っていく感触。現代性をここまで確実に捉えている作品て、そうないと思う。この人はすごい。。。なんといってもアナベルに心捉えられてしょうがなかった。(07/8/20)
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ネタバレイフ兄弟のミシェルとブリュノ
ブリュノは寮で同級生に虐められ冴えない学生生活を送る
祖母だけはブリュノに優しく、大学を卒業する迄は昔したように唯一の友人のように架空の祖母にその日の話をした
昔デブで性的魅力がなかったブリュノは弾けて万年セックスのことを考え続ける
学生時代にも同じく冴えない女性とセックスし、後年再会したが、その女性は死んだ
もう若くないブリュノはそうした日常の絶望に接しながら徐々に衰弱していく
そんな中自由主義者のヒッピー集う裸村でセックス中毒の教職者と出会った
初めて愛情を育み互いを思い合い、2人でいろんな種類のセックスをするも、突然彼女は病気になってしまった
車椅子生活になった彼女はブリュノに遠慮して、シングルマザーをしていた家庭に赴く
そして息子に惨殺された
ブリュノは精神病院に入ったり出たりしながらたまにミシェルと会い、母親の臨終に立ち会った
そして二度とミシェルと出会うことはなかった
ミシェルは科学に人生をささげて俗世をただ目の前で通り過ぎていた
祖母が死んだ時には涙を流した
幼少期からブリュノと共に仲の良かった美少女の幼馴染が死んだ時にも涙を流した
幼馴染との再会後愛を知ったミシェルは遺伝子科学を発展させて人類を万年発情期にしたり改造した新人類を生み出すことになった、おしまい
ストーリーは薄いが、村上春樹やユイスマンスの様に文章そのものが味わい深いので一度ハマると定期的に読みたくなってしまう
絶望的な気持ちになってる時には同じニヒリズムに寄り添ってくれる