ミシェル・ウエルベックのレビュー一覧
-
-
Posted by ブクログ
『闘争領域の拡大』に次ぐウエルベックの二作目。フランスでベストセラーになったらしい。
ウエルベックは博識な作家だが、本書もごたぶんにもれず数学、分子生物学、はては哲学まで盛り込まれていた。ド文系な自分にはさっぱり理解できなかった箇所も多かった。難しすぎる小説ははっきり言って苦手だ。
性欲に囚われた国語教師の兄ブリュノと、天才分子生物学者である弟ミシェル。この異父兄弟を主人公としてその一生が描かれる。前半の幼少期の話は好きだったが、後半になるにつれわけがわからなくなり、あまり物語に入ってゆけなくなった。
ブリュノは性欲をこじらせたまま大人になり、ニューエイジ風のキャンプに参加したり、乱交専 -
Posted by ブクログ
ネタバレ現代フランスの作家ミッシェル・ウエルベック(1958-)の第一作品、1994年。資本主義的な「自由」が到り着いている地点を描く。
資本主義社会では、すべてが同一平面上に並置させられてしまう。すべてがフラット化してしまう。超越的なものが引きずりおろされてしまう。即物的無価値(金、力、快感、効用)へと還元されてしまう。世界がひとつの巨大な商品陳列棚、ランチプレートに成り下がってしまう。則ち、一切のものが貨幣という統一の尺度で比較され計量化される商品と化す。コミュニケーションは互いに商品ラベルと値札を貼り付け合うだけ。外部はありふれた商品として内部に繰り込まれ、消費されるだけ。一切の出口は予め塞が -
Posted by ブクログ
ウェルベックの作品は和訳も多く出版されていて、かねてより興味を持っていました。フィクションですが、フランスの政治や社会情勢については、かなり現実を反映しており、実在の政治家も登場します。ここに描かれるのは、イスラム政党のフランスでの台頭ですが、ウェルベックが描きたかったのは、「ヨーロッパの自死」ではなかったかと思います。
西欧文明が、キリスト教支配の頚城から逃れ、理性・啓蒙主義を軸に文明の発展を図ってきたものの、アナーキズムとニヒリズムが社会と精神の停滞を招き、この小説の舞台である近未来のフランスで、イスラームの信じる神とその世界観に「服従」していく。ウェルベックは、フランスが精神のバックボ -
Posted by ブクログ
フランスを代表するベストセラー作家であるミシェル・ウエルベックのデビュー作。フランス現代思想のような衒学的なタイトルであるが、その意味するところはシンプルであり、痛切なものだ。
近代の資本主義は、企業やそこで働く個人を市場という絶え間ない闘争領域に追い込んでいく。最初は生産・販売などの経済的活動が闘争領域で繰り広げられたが、止む事のない資本の自己増殖能力は徐々に闘争領域を拡大させていく。その結果、恋愛そしてセックスまでもが闘争領域に飲み込まれていく。
身の回りを見渡してみれば良い。良いセックスができる人間はますますそのチャンスを増大させる一方で、そうした機会が与えらない人間はますますそのチ -
Posted by ブクログ
やっと読み終わったー。がんばった。
最初はSFと思っていたのです。ネオヒューマンがいかな人生を送っているのかという興味から購入したのです。でも実際は、ネオヒューマンに至る新興宗教に肉薄した皮肉を扱うコメディアンの人生記に対して、ネオヒューマンたるが為にその人生記につけた未来人の注釈を読む物語だった。
ゆえにネオヒューマンの生態というより、コメディアンの皮肉、人生や戦争、なにより老いと性生活への皮肉と批評がメイン。この辺は読み手の読み間違いもあるのでなんとも言えない。
ただ主人公は本文中で指摘されてるとおり、感性が特別豊かなわけではない。ただただ正直なんだ。この世の欺瞞に対して。そうしてその欺瞞 -
Posted by ブクログ
往来堂書店「D坂文庫2015冬」から。選んだ理由は選者の「日本にこんな意地悪な小説家は絶対いない!」というコメント。
さして取り柄のない仏人公務員ミシェルは、親の遺産でタイ行きのパッケージ・ツアーに参加し、少女を買う。そして、周囲のひんしゅくを買いつつ、そのツアーで知り合ったヴァレリーと恋に落ちる。帰国後はヴァレリーと一緒に彼女が勤める旅行会社で売春ツアーを企画するが、最後は…。
この小説の中でミシェルとヴァレリーは、もう数えきれないくらいセックスをして、その度にミシェルは西洋の性の退廃を、ひいては西洋文明の没落を嘆く。
少々乱暴なつかみ方ではあるけれど、西洋の高度資本主義への批判・警告を性を -
Posted by ブクログ
これがウェルベックのデビュー作らしい。テーマというか作者の姿勢は本当に一貫していて清々しさすら感じる。これと後の作品を比べると(全部読んではいないが)、変えていっているのは読者層を広く取り込むための工夫の部分だろうか。遡ってデビュー作が文庫化されるくらいなのだから、その努力は上々の成果を上げている。この作品自体は、面白いのだけど、まあウェルベックの作品として一番に薦めることはないかなという感じ。
最後はあの後、自殺したのかな?してないのかな?どちらもあり得ると思うが…。雄大な自然の中にいてもむしろ虚無感を感じるというのは自分にも覚えがある。個人というものの枠組が根源的には「死によって世界から -
Posted by ブクログ
2022年のフランスでイスラム主義政党が国政を掌握するという、一見あり得ないだろうそんな事、と思いがちだけど、よく考えるとあり得なくもないのか実は、と思ってしまう、現在のフランス及びヨーロッパ諸国の激動を描いた作品でした。
著者はこの本の中で、ヨーロッパは資本主義を推し進める中でヨーロッパの良さを自ら放棄してヨーロッパを自殺に追い込んでいる、そしていまそこに残っているのは疲弊だけだ、と語っています。
そのヨーロッパの大国フランスで行われる2022年の大統領選で、移民の完全排除を掲げ内向きなフランスを目指す極右政党と、穏健派のイスラム主義政党との一騎打ちとなり、疲弊した国民がイスラム主義政党を勝 -
Posted by ブクログ
フランスの政治状況について全然知識がないため、読むのが難しかったです。もっと知識があれば、もっとこの本の魅力を味わえるのだろうなと思います。
フランス大統領選挙で、国民戦線とイスラーム同胞党が決選投票に挑み、イスラーム同胞党が勝利します。イスラーム同胞党は、フランス人の子弟がイスラーム教の教育を受けられる可能性を持たなければならないとしています。イスラーム教育は男女共学はあり得ず、ほとんどの女性は初等教育を終えた時点で家政学校に進み、できるだけ早く結婚することが理想とされます。教師もイスラーム教徒でなければなりません。
そんな社会になっても、思っていたよりは反乱、暴動が描かれていないように