ミシェル・ウエルベックのレビュー一覧
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ネタバレウエルベック2冊目は、芸術家(美術家)を主人公としたこの『地図と領土』。
最初写真家として個展デビューし名声を博した後しばらく沈黙し、今度は古典的な油彩に戻って有名な職業家の肖像を手がける。すると2度目の個展で大ブレークする。
やはり、芸術家小説というものは、このように成功談がいい。努力をしても最初から最後まで誰にも認められずに淋しく死んでいく芸術家のストーリーは、リアル(世界中で大多数)ではあるが、話としては退屈だし悲しすぎるのだろう。
肖像画もまた止めて、主人公は晩年は動画作品を作るようになる。
急激に変転する技法を通して、芸術家の世界観が徐々に成長していくことは読み取れるから、全編が芸術 -
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ずっと前に書店で『素粒子』というタイトルの文庫本を見つけ、物理学系の読み物かと思ったら小説らしかった。変わった題のを書く作家だなと思い、その後もあちこちでウエルベックの名を見かけたが、ついぞ読まずに過ごしてきた。
やっと初めて読んだのがこの本。
現在のフランスの大統領選で、極右政党とイスラム教系の政党がぶつかることになり、フランス国民がイスラム教の方を選択することとなって、結果、女性のスカートがなくなったり、一夫多妻が一般的になったり、大学等の教員はイスラム教徒でなければならなくなる、という話。
いま世界中で「あまり頭の良くない極右」が台頭しているので、それを受け入れない場合の選択肢は何が残る -
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「前例のない水準の繁栄と健康を確保した人類は、過去の記録や現在の価値観を考えると、次に不死と幸福と神性を標的にする可能性が高い。飢餓と疾病と暴力による死を減らすことができたので、今度は老化と死そのものさえ克服することに狙いを定めるだろう。人々を絶望的な苦境から救い出せたので、今度ははっきりと幸せにすることを目標とするだろう、そして、人類を残忍な生存競争の次元より上までアップグレードし、ホモ・サピエンスをホモ・デウスに変えることを目指すだろう」ー 『ホモ・デウス』ユヴァル・ノア・ハラリ
不死をテーマにしたミシェル・ウエルベックの小説。遺伝子のコピーを世代を超えて記憶とともに引き継ぐことによって -
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ウエルベックの処女作。冒頭のデブス二人がミニスカートは男の気を引きたくて履いているわけではないと高らかに宣言するのに対し「くだらない。粕の極み。フェミニスムの成れの果て」と主人公が毒づくのは苦笑してしまった。ウエルベックは相変わらず差別的だが、ある種の絶望した男性を描くのは本当に上手い。
自由主義が経済市場や恋愛市場に行き渡ること=すなわち闘争領域の拡大が本作のテーマである。Twitterでよく論じられるキモカネ論(キモくてカネのないおっさん)にも通じる内容で、それは主人公の観察対象であるティスランを見ているとよく分かる。彼は経済的には成功しているものの、性的行動は満たされていない。性的行動 -
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センセーション、キッチュ、醜悪、美を自在に配合して縦横無尽に文学するウェルベック。主人公ダニエルはそのコメディアン版という感じ。彼もまた人心の歯車を知り尽くし、観客の笑いをタイミングから加減に至るまで完璧に掌握している。
しかし、そんなダニエルにさえ人生はままならない。中盤のみっともなさがすごすぎて笑ってしまうくらいだがーーそれもコメディアンゆえなのかーー後の人生記の読者となる未来のダニエルを笑わせにいってるような、自虐的な記述におかしみと共に切実さも感じさせる。生への執着と虚無との間をグダグダしているように見えるのは、実は誰よりも真剣に人生に取り組んでいるからに他ならない。その姿もまた、ウ -
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ネタバレミシェル・ウェルベック「地図と領土」
今何かと話題のミシェル・ウェルベック、ついに手に取ってみた。結論、猛烈に面白い。以下、微妙にネタバレを含む。
母親を自殺で亡くした内向的な青年が写真、さらには絵に打ち込む。その才能を見出すのは手練れの「芸術のプロフェッショナル」たち。ミシュランの広報という絵にかいたような業界エリートである美女との恋をきっかけに作品にはいつのまにかすさまじい高額がオファーされ、主人公は目もくらむような高みに導かれていく。
テーマはずばり「芸術に値段をつけられるか」。著者のビジネス視点がいかにも正確で、通俗的な「金儲け悪徳論」とは一線を画す。そしてそれ故になおさら個人の -
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"2017年に行われたフランス大統領選では、中道政党であるアン・マルシェのエマニュエル・マクロン候補と、極右政党である国民戦線のマリーヌ・ル・ペン候補の決選投票となり、39歳のエマニュエル・マクロン氏が選ばれ、フランス大統領となった。
本書「服従」では、極右政党と移民系イスラーム政党の決選投票となり、イスラーム政権が誕生するシナリオ。2022年でも極右政党党首は、マリーヌ・ル・ペンさんであり、現実感あるストーリー展開。中盤のパリを離れる主人公の周りで起こっている出来事は、現在テロが頻発するフランスの様子を見事に描き出している。
一つの可能性を提起した小説で、世界中で翻訳され、話題にな -
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ウェルベックはすでに何冊か読んでいるが、この作品でようやくウェルベックの愛に対する執着の凄さが分かってきた。思い返してみると、いままで読んだ作品にも愛への執着は十分あったと思うのだが、それよりもペシミスティックさの方ばかりに注意が行っていた。これを読んだ後では作者の印象が少し変わった。単なる先鋭なペシミストではなく、自由主義的な現代の風潮を否定するその態度の根底には、愛こそが唯一求めるべき価値のあるものであるという熱烈な価値観があるのではないか、というふうに思えてきた。ペシミストが愛を熱烈に肯定する。面白いではないか。しかもその愛は、精神面よりも肉体面を強調した愛である。実に挑発的だ。それでい
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作者の掌の上できれいに転がされた感じがする。一本の小説の中で何回、不幸と一瞬届きそうになる幸福の間を行ったり来たりしただろうか。これでもかというくらい振り回され、同情を誘い、もはや「素粒子」というタイトルが匂わすSF的結末への期待をも忘れて、途方もなく哀愁漂うなけなしの性愛物語として十分満足だ、と観念しかけた頃、ついに結末がやってくる。そのカタルシスたるや、圧巻である。一切の苦悩から解放されたときのような浄福を自分は味わった。自由と進歩主義に対するにべもない唾棄には思わず笑ってしまったが、このとき、登場人物たちに対する自分の数々の共感と同情も一緒に笑い飛ばされてしまった。それがまた爽快。ウェル
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フランスにて極右政党とイスラム穏健派政党が首班を争うことになったら、
という設定のもとに、
大学で教授を務める主人公の姿が描かれる。
政治の動きを実名政治家も用いながら説明しており、
フランス人にとってはかなりリアリティの高い作品なのだろうと思わされる。
正直なところ、読後感はすっきりしない。
これが実際に起きる出来事なのか、
といわれるとかなり確率が低いのでは、とも思う。
しかし本題は、その政治・社会的な混乱の中、
「服従」を選択するエリート層に対する批判なのではないだろうか。
日本だとここまでの思考実験は難しいのだろうな、とも思う。
左だ右だという形式にとらわれて、
本質的な危機があ -
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ネタバレアーティストのジェドの一生の話。世界そのものを表現するために「工業製品の写真」→「ミシュランの地図の拡大写真」→「職業人の肖像画」と表現が変遷していくが、ジェドその人は、単なる鏡としての人なのか、空虚で、情熱のようなものがあまり伺えないように見えた。晩年の圧倒的な諦念・孤独の中で制作された作品群にようやくエモーション、想いのようなものが感じられたような気がする。とかいって、すべて芸術作品を文章で読まされているわけですが。エビローグの、寂寞さがすごいのと、ウェルベックのテーマがてんこ盛りなのが、なんだか微笑ましい気持ちにさせられた。でも、自分の人生における交友関係も先細りだし、最後はこんな状態に
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ネタバレ人間・ダニエルと、彼をクローニングして生み出され、何十代もクローンとして再生を繰り返したネオヒューマン・ダニエルの手記が交互に語られる変則的な構成。
『素粒子』の続編的な作品と聞いて読みだしたけれど、読み終わってみると、『素粒子』よりドライでハードな物語だった。続編というよりも、訳者あとがきで説明されているように、『素粒子』の本編とエピローグの中間に位置する作品。
数多くの、真実に見えるフレーズが散らばっているけれど、総体として見たときには、やはりこの主題―性欲のみが人間の持てる唯一の欲望かつ喜びであり、若者のみがそれを享受し、それ以外の人間はその欲望の向こうに作り出した愛という概念に引きずり -
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ネタバレ人間存在の孤独についての物語が、どこまでも個人的なエピソードを通じて、しかし普遍的な確信をもって語られる。
小説の主軸になるのはふたりの異父兄弟。兄は女にもてず、不惑を超えても性的な彷徨を続けている文学教師。弟は、相手が男であれ女であれ、他者と人間関係を築き難い天才科学者。
西欧文明の終焉を背景に、兄弟と彼らを取り巻く人間たちを透かして、孤独の絶対性が描かれる。
ラストで明かされる物語構造と人間存在への視点は超越的で、冷徹でありながら甘美だ。それはニーチェの超人思想を思い出させる。人間は生まれながらに重荷を背負ったものであり、人間の先に続いて現れるもの(があるとして)への架け橋でしかない、