ミシェル・ウエルベックのレビュー一覧

  • H・P・ラヴクラフト 世界と人生に抗って

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    ネタバレ

     『クトゥルフ神話』の創造者として今日まであらゆる分野で影響を与えている怪奇幻想作家のH.P.ラヴクラフトの作品と生涯を独自の目線で語った、小説家ミシェル・ウエルベックのデビュー作。
     1991年に発行した本文に、作者本人による「はじめに」(1999年)とスティーヴン・キングによる序文「ラヴクラフトの枕」(2005年)を加えた普及版を底本にしているとのこと。

     怪奇幻想文学を読む上でラヴクラフトは外せないとのことで、最近発売されていた新潮文庫のシリーズを読んでみたがいまいちノリが掴めず断念していた。魅力を知る人の感想は作家の世界に入る足がかりになるものなので、ラブクラフトを「熱烈な偏愛で語る

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    2025年11月29日
  • 素粒子

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    愛をテーマに書かれる異父兄弟の物語。美しい幼馴染と相互に惹かれながらも結局は愛への興味を持たず、研究に没頭する天才科学者の弟ミシェルと、学生時代に壮絶ないじめを受け、モテない青春時代を送ったことで、性愛に卑屈になりながら執着する文学教師の兄ブリュノ。
    兄弟の物語がそれぞれ章ごとに語られ、時に交差する様な構成となっている。兄は性に振り回され人間性が壊れた様な人物像として描かれ、一方で弟は知的だが、奥手すぎてタイミングを逃しまくる。どちらも最終的には恋仲になりそうになった人を亡くす。愛に対して全く異なる向き合い方をする兄弟が、結末では同じ様な着地を迎える点が印象的だった。
    エピローグの書き方が面白

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    2025年11月04日
  • 闘争領域の拡大

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    すごく面白かった
    一ページ目で
    『くだらない、かすの極み、フェミニズムの成れの果て』
    この文で、ああ、言いたいことを包み隠さず言う小説だと分かり、嬉しくなった

    自由は闘争という苦しみの始まりで、経済的弱者、恋愛弱者が生まれる。実際問題、教育など他の領域でも、自由の名の下闘争が広がっている

    読み終わって、闘うか敗北を受け入れるかと言う命題を、突きつけられるようだった。
    闘おう、ファイトクラブだ!

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    2025年05月10日
  • ある島の可能性

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    光合成によるエネルギー自己生成が可能となったクローンと、そのオリジナルの生き様の物語。
    オリジナルは成功者だけど、愛を知らない。
    シニカルに人を魅力する才能の裏返しで、自分は冷めている。その虚しさを紛らわすためか、極めて廃退的な生活を送る(性描写が多く疲れる)。
    そのなか、新興宗教にのめり込み、重要な立ち位置を占める。
    殺人事件を教祖転生に仕立てて逃れ、奇跡があるわけではないが、それが世間に受け入れられる。信じてDNAを保存すれば入信。代わりに死後の財産は教団に寄付となり、豊かな財源でクローン技術開発を行う。
    フィクションだが、なぜかリアリティーを感じた。
    長いし重いし疲れるし、でも読んでしま

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    2025年03月31日
  • 服従

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    イスラムの文化が現在の資本主義、キリスト教的世界に広がっていく様を、惰性や諦めと共に受け入れる主人公が印象的だった。大きな歳の差のある一夫多妻を最初は軽蔑していたのかと思ったら、最後は期待も込めて受け入れている。
    ステータスのある男性目線ならあるかもしれない。一方で、女性の教養、社会進出への抑制が強くなるが、幸福の定義次第で受け入れられる、リアリティーのある内容なのか?分からなかった。

    初めてのウェルベック作品。
    文体の印象は、性的な描写が多い村上春樹。
    なんとなく感じていたが、明文化されるとハッとする表現が多い。
    現実的で直接的。表現がシャープで遠慮なし。
    比較すると村上春樹のファンタジー

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    2025年02月10日
  • ある島の可能性

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    537P

    ミシェル・ウエルベック
    1958年フランス生まれ。ヨーロッパを代表する作家。98年『素粒子』がベストセラー。2010年『地図と領土』でゴンクール賞受賞。15年には『服従』が世界中で大きな話題を呼んだ。『ある島の可能性』など。

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    2024年12月28日
  • ある島の可能性

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    ウェルベックの短い引用に気になるものが多かったし、一応SFに分類されているということで、読んでみた。かなり哲学的な内容で、強制的に自分の今の生き方を見つめ直させられる。ウェルベックの、中年男性の悲哀を克明に描写する力はなんなんなのか。コロナ期はみんな引き籠もってオンライン通信ばかりしていただろうし、生き方を見つめ直すこともあっただろうし、かなりこの本のような状態になっていたのではないか

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    2024年10月28日
  • 素粒子

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    中年の危機を描いた小説と言われて読んだが、そんなスケールの本じゃないだろ。あるいは文明としての西洋文明が壮年期を終える苦しみを描いているとは言えるのかもしれない。読んでいて苦々しい思いになりつつ読むのをやめられず登場人物がただ愛おしい。

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    2024年06月05日
  • 滅ぼす 下

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    「何が何でも物語作品が必要である。自分以外の誰かの人生が語られていなければならない」

    これは物語終盤、主人公がある危機に陥るが、「読書」によって一時的に絶望から救われる場面。

    あまりにも絶望的?な本筋とはすこし離れるが、
    ウエルベックの読書に対するポジティブな考え方が集約されているような気もして、無性に嬉しくなった。

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    2024年01月02日
  • 地図と領土

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    ウェルベックはスキャンダラスなイメージだけが先行していて買わず嫌いだったけど、名声に負けない傑作!読んで良かった。

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    2023年10月17日
  • 滅ぼす 下

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    謎の組織によるテロ行為はエスカレートし遂に犠牲者が出る。
    その煽りを受けながら大統領選は終結する。
    家族内での不幸。もっとも若い息子が死に、体の不自由な父親は生き延びる。
    主人公は妻との関係を修復するも過酷な運命が待ち受けていた。

    上巻から物語の重要な要素と思われていたテロとの戦いや大統領選は尻すぼみに終わり、家族の話、そして主人公個人の生死をめぐる話へと収束していく。スケールの縮小。

    弟オーレリアンはともかく、妹セシルや義妹インディーは最後まで活躍するかと思ったが。イラストまで用いたテロ組織の正体は投げっぱなし。
    大統領選もあれだけ騒いでおいていざ終わればあっけない。その終わり方も味気な

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    2023年09月01日
  • 滅ぼす 下

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    作家ミシェル・ウエルベックの最新刊。時は2027年、大統領選挙を間近に控えるフランスを舞台に、経済財務大臣補佐官のポールを通して同国および世界の抱える病理と苦悩を見つめた大作。

    相次ぐ国際テロ事件、選挙に向けた候補者応援活動、そしてパラレルに進行するポールと彼を取り巻く親族の家庭問題が、筆者の皮肉やジョーク、近現代の哲学思想をふんだんに交えて展開される。

    ポピュリズムに支配される政治ゲーム、晩婚化と少子高齢化、過酷な介護の現場、メディアによる暴露など日本とも無関係ではないトピックに彩られながら、救われたいと願いつつ運命に翻弄される現代人を浮き彫りにする。滅び行く世界の中で、ポールと妻プリュ

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    2023年08月06日
  • 地図と領土

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    22.9.14〜29

    ウエルベックの作品を読むと、毎回中盤でほだされるのはどうしてだろう。主人公が語る建前の中からその奥にある感情を読み取れるようになるからなのかな。特に、この作品だと父との会話でうおーと感動して、そのままぐいぐいと読んだ。書き出しからある種のこっち側への宣言みたいに見て取れる/作家ウエルベック自身がこちらに見せかけている言葉たちも好き。カラックスのポーラXみたいだと思った。ウエルベックのなかだと一番好きかも。

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    2023年04月27日
  • 闘争領域の拡大

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    ネタバレ

    -くだらない、下衆の極み、フェミニズムのなれの果て-

    -神が望まれたのは不平等であって、不当ではない-

    -退屈というものは長引くと、退屈のままではいられなくなる。それは遅かれ早かれ、よりはっきりとした痛み、確固たる痛みの感覚に変わる-


    【性的行動はひとつの社会階級システムである】

    ・ウェルベック作品の主題は「自らとその周囲の解明」
    ・第三者目線からの観察的な記述が多い
    ・傍観者的な主人公。でも対象化には失敗している
    ・ショーペンハウアーに毒されただけの事はある


    (感想)
    現代日本に非常によく当てはまる。
    オフパコYouTuberを批判している人も多いが、彼らはこの自由主義社会のヒ

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    2021年08月03日
  • ある島の可能性

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    ネタバレ

    3年ぶりに読み返したことによって、より落ち着いて考えられた気がする。

    「仲介」(本ではインターメディエーションとなってる)として人間を捉えることができると思う。ネオ・ヒューマンは確かにダニエル1の時代の人類と、未来人を橋渡しする存在であったかもしれないが、ダニエル1も結局は「遺伝子の乗り物」という意味で、各世代を繋ぐ存在にすぎなかった。

    ダニエル1が自覚しつつも直視できない老いは、自身が「遺伝子の乗り物」としての役割を果たせなくなりつつあることを意味する。子供を捨てた経験のある彼は、生殖としての性に入れ込んでいたわけでもないが、愛と結びつく性の意味でも、機会を逸してしまった。イサベルとは愛

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    2020年07月27日
  • 闘争領域の拡大

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    ネタバレ

    ウエルベックの処女小説。批判的な描写が多く、はじめは読みづらかったけど、半ばくらいから面白くなって一気に読んだ。

    内容は、自由競争に疲れた(あるいは敗れつつある)者の独白となっている。ときどき哲学的な思弁が入ってきて面白かった。

    勝手に要約すると、経済、セックスといった自由を求める競争はさらなる戦いを生み、戦線は日々拡大している。そして、その戦いから押しやられ落ちこぼれた者たちはどこへ向かうのか――といった感じだろうか。

    つまらない街並み、退屈な仕事、派手派手しい広告、頻発するデモやテロ、実りのない異性へのアプローチ、主人公はもうなにもかもがうんざりといった様子だ。うだつの上がらない男女

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    2020年07月24日
  • 服従

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    タイトルから想像されるプロット(暴力的な場面も多いのでは?など)とはまったく違う、どちらかといえば知的な会話や主人公の内省によって展開に、やや意外な印象を受けた。読後、すべては「ぼくは何も後悔しないだろう」というラストに向かっての布石だったと知るのは、ある意味で衝撃的でさえある。
    主人公の知人の乗車がルノー・トゥインゴと記されていたが、そんな身近なもの(他には、料理、酒、スーパーマーケットなど)によって、一気にストーリーが現実味を帯びてくるということにも気付かされた。
    まるで村上春樹の小説を思わせるかのような訳文も秀逸。

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    2020年05月14日
  • ある島の可能性

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    傑作。
    ファインアートから先端科学、社会情勢、宗教、地勢学、そして人類の命題?であるところの愛について、余すところなく考えが巡る素晴らしい読書体験だった。未来からの注釈を過去を生きる自分たちが読むことになるスタイルも洒落てたし、何よりフォーカスされてる主人公が喜劇を生業にしていた点、読後に振り返ったときに拍手を贈りたくなった。

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    2019年12月07日
  • ある島の可能性

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    老いるのが怖くなる小説だった。
    人が不死の技術を手に入れて、肉体が老いてもまた新たな肉体を手に入れることができるようになり、そうした未来の可能性において人類はほとんど解脱に近い静穏な状態なのだけど、そうした描写になぜか息が詰まる。宗教SF。
    その未来のダニエルの視点で現代のダニエルの手記を見通すなかでそこに何かしらの郷愁の念があって、手記を読むという行為そのものにやはり「感情」に対する執着が描きこまれているように思う。

    そうした構造も面白いし、さらに現代ダニエルは皮肉屋のコメディアンかつ映画監督として栄華をものにし、快楽主義をつらぬいてセックス三昧。またこの性描写がたまらないのだけど、やはり

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    2019年05月31日
  • ある島の可能性

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    人生の成功者による快楽の追求。その果ての絶望を描いた傑作である。人は誰も老いには勝てない。描写は情け容赦なく、描かれた性への渇望はグロテスクである。主人公のダニエル1の若い女性に対する執着心、特に最後の無様な姿は見苦しく醜悪だが、それは単なる性欲を超えた一人の人間としての絶望の叫びだ。愛と性に対して彼はとにかく誠実で、故に、彼の絶望は痛いほどに理解できる。若者と老人は対等ではない。未来に対する絶対量が違う。性的な意味での需要の無さや性的不能がそのまま人間としての価値に直結し、それはカネではどうにもならない。若さの価値を理解していればいるほどに、この物語は悲しく映る。だからこそある島に可能性を求

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    2019年05月28日