ミシェル・ウエルベックのレビュー一覧

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    他者を避けることが最高の贅沢となった、個人主義が行き着く果てを描いた世界の物語。難解かと思いきや内容は非常に分かりやすく、絶望と諦観に彩られた筆致はリーダビリティが高い。物語性もあり、前半の観光ツアーからの出会いと性、そして欧米市場に第三世界の買春ツアーを持ち込むことで、西側世界の価値観を揺るがそうとした男女がやがて悲劇的な結末へと流れ落ちていくさまは非常に読みやすく面白かった。多くの男が感じている現代女性に対する恐怖感が、はした金で娼婦を買う方向へ流れていき、その部分のニーズや解消されない性欲を第三世界の買春で埋めるというアンサーはかなり過激である。誰しもが倫理観や嫌悪感でブレーキをかける所

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    2019年05月28日
  • 服従

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    え?え?と驚いているうちに、状況がどんどん変化していく。
    リアリティは半端ない。
    背景として人口増と共にイスラム教徒が世界で増加していることもあって、背筋が凍る思いがするディストピア小説だった。とくにジェンダーをめぐっては皮肉と真剣さがない交ぜになって、深く考えさせられる。

    最後にソ連崩壊後の世界に触れた佐藤優の解説もよい。

    ただ、イスラムへの偏見は感じる。

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    2019年04月16日
  • 地図と領土

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    ネタバレ

    芸術と資本主義とアーティストの描くきれいな世界の終わりの話。人間と機械と芸術。
    自分を自分が描く小説の中に描き出して自分を殺して、自分の死を誰かの(自分の描き出した架空の人間を)世界の終わりの思想の礎に仕立て上げたたストーリーが素晴らしかった。現実の世界と、現実の著者、そして架空の人間の架空の芸術、架空の芸術が評価されていく中に現実の著者が存在し、そしてその著者により影響を受けた芸術がまた成長してひとつの形になっていく。現実の中に架空の美があって、ページをめくり読み進めていくうちに、架空の美が本当に存在するもののような気持ちになっていく。
    文中にはものすごい量の固有名詞が登場する。この小説は「

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    2018年11月10日
  • ある島の可能性

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    ネタバレ

    一つの人間が生きて誰かを愛して愛そうと思って、老いてゆくありふれた生の中に、永遠の命を科学的に成立させられる宗教があり、そしてその永遠の命を獲得した1人の人間のコピーが一つの島の中で終わっていく話。
    ウェルベックを読むのは闘争領域の拡大に続いて2冊目。
    人によって好き嫌いが分かれるのはわかる。
    金を手に入れた人間の性への執着がすごい。やたらとセックスセックス、フェラチオフェラチオ、と語彙が並ぶ。多分ここがダメだと絶対中盤でむりだと思う。
    けど、いくらセックスをしても、足りないし満たされない。ウェルベックが話の主軸にしているのは愛なのではないか

    「いくら誰もがある程度の抵抗力を持っているといっ

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    2018年07月30日
  • 服従

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    これはただのSF小説ではない。個人・国家・自由といった概念がこれからどのような変貌を遂げるのか、ウェルベック独自の視点で読者に提示する傑作である。私の理解では、この作品のテーマは先進国における個人主義・自由主義の未来であると考える。重要なのは「服従」というタイトルで、多様性の中で自由を謳歌していた個人がその自由によって疲弊し自己を見失い、共同体的なしがらみに「服従」することで「自由疲れ」からの解放と生の実感を得るという筋書きになっている。

    「フランスにイスラーム政権が誕生!」「社会をリードする知的エリートがイスラームに服従!」という設定はセンセーショナルだが、よく読むと服従する先は何もイスラ

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    2017年12月20日
  • 地図と領土

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    2012年頃、壊疽を起こしつつも自己増殖をやめない市場経済とその中での生活に倦んでウィリアム・モリス社会主義を標榜した。同時期に発行された、作中で度々モリスに触れるウエルベックの『地図と領土』。漠として抱き続けているこの気鬱さの実体が、ものすごく精緻に暴かれたような。圧倒された。
    『服従』におけるユイスマンスや、この『地図と領土』におけるモリスなど、ウエルベックが作中で重要なモチーフとして取り上げるものと、自分がそれらに興味を持つ時期が全くかぶっていることに何か不思議さと、不健康な誇りを感じる。

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    2017年11月13日
  • 服従

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    ネタバレ

    ウェルベック・ミーツ・イスラム教。
    フランス大統領選の話だけど、政治ネタは3割くらい。セックスと食事の話が楽しい。
    宗教やユイスマンスの話は、よく分からないなりに楽しい。

    最近「一夫多妻制って制度化されてないだけで日本も実質そんなもんじゃ?結局、所得が高いやつが愛人とか囲ってるわけで」
    って事を知っちゃって、せちがらい。

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    2017年07月19日
  • 地図と領土

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    架空の芸術家の一生を描いたウェルベックのゴンクール賞受賞作。架空の図録とか、架空の美術展を描いた小説はいくつかあるが、ここまで壮大に「架空の近代芸術」を描く(予言する、というべきか?)とは度肝を抜かれた。さらにウェルベックが惨殺されるという驚天動地の展開で警察小説テイストも加わり、ボリュームたっぷり。ウェルベック特有のあからさまなセックス描写は必要最小限で控えめ…かなぁ。

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    2016年12月31日
  • 地図と領土

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    ネタバレ

    これまで読んだウェルベックの作品の中で最も面白かった。芸術(あるいは表現)とは何かということが恐らく本作のテーマではないかと思うのだが、出てくる芸術というものが奇想天外で惹きこまれた。更に、作者自身が登場人物として、ある意味芸術の犠牲になってしまうというつくりも斬新だと思う。

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    2016年06月12日
  • ある島の可能性

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    読み応えのある、読む価値を感じる作品。
    ウエルベックの作品はすべて読もう。

    著名お笑い芸人ダニエルの人生記と、それを確認し、注釈を加える2000年後の彼のクローンたち(24代目と25代目)の物語。
    ダニエルは辛口で卑猥な芸風で世間の人気を得、二人の女性を真剣に愛するものの、老いには逆らえず、愛に振り回される。カルト宗教団体エロヒム会に入り、遺伝子を残す。
    エロヒム会は独自の研究で遺伝子からクローンを作り出すことに成功し、子供を作らずクローンのみで世代を繋ぐ新しい人間を構想する。新しい人間は口から食べ物を摂取することもなく、排泄もせず、一定の期間を経て肉体が衰えると、次の世代に交代する。感情の

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    2018年11月04日
  • 素粒子

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    ネタバレ

    すごい本だけど刺戟的に過ぎる部分もあり、感想としてはめちゃくちゃだったといった感じ。ラストはちょっと賛同しかねる。
    しかし、人間への根本的な愛を感じる一作である。

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    2016年12月23日
  • 素粒子

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    相対性理論と量子力学による現代科学のパラダイム・シフトは20世紀を物質主義的価値観に塗り替えた。それは宗教的抑圧からの解放に繋がることでサド侯爵的性の快楽と同調し、しかしながらも性の自由は競争原理を呼び寄せる事で逆説的に性の抑圧へと結び付く。性への強迫観念に囚われたブリュノと禁欲的な生物学者ミシェルという異父兄弟の生涯を濃厚な性描写と情報量で描きながら、人生に対するやり切れない諦観を滲み出させている。ニューエイジの怨霊を駆逐し、ハックスリーの亡霊を21世紀に呼び寄せる本書は、打ちひしがれる様な凄い本。

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    2013年07月02日
  • 素粒子

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    相反する貞淑と自由恋愛の概念、オクシデントへの僕らの眼差しは依然として、性に対しては十分に自由な選択を彼らは行っているに違いないというものだといえるが、本書を通してみると、月並みな表現であるがなにもかもいいことづくめではないようだ。
    「恋愛先進国」(こういってよければ、そして現代において恋愛とはすなわち性行為と結婚を後に控えた個人の一大スペクタクルである)フランス作家界の旗手ウェルベックの最高傑作と謳われる今作、一般的には個人的な問題として片付けられて来たセクシュアリティを、遺伝子と先端科学というフィルターを通して、社会変革プログラムの超えるべき壁として呈示する。

    日本においても、高度経済成

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    2013年01月26日
  • 素粒子

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    一度読んでそのままだったが、最近思い出し再読。
     著者の主観が非常に強く偏見に満ちた書き方をしているので、感情移入しないで見世物として読むことを推薦します。
    母親の愛を知らずに惨めな人生をおくる兄と、遺伝子物理学の天才である異父兄弟の弟のそれぞれの生き様が描かれている。
    性に振り回され滑稽な悲劇ばかりで彼らの相方も皆不幸せな生き様ばかり。こっけいな行動は身にしみる箇所があって苦みばしった笑いしかでてこない。
    そんな描写が延々と続くのですが、哀愁ただよう表現とポエジー溢れる文章が心地良い。
    くだくだしい部分が多々ありますが好きな人にはたまらないところがある作品です。

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    2012年08月24日
  • 素粒子

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    (記憶では)兄弟がいて、兄は不細工で性欲ありありで、機会に恵まれない人。弟は天才科学者で性欲無い人。この兄弟の性的遍歴と、一族の歴史に20世紀思想史の偉人たちが絡んで、加えて量子力学の発展史も絡んで・・・・・ポストモダン全否定して・・・・・ニューエイジ称揚して・・・・・みたいな。端折りすぎですが(笑
    なにせ凄い小説です。やばい文学です。
    なんせ、ひたすら性的描写と思想史エピソードがくんずほぐれつです!!頭悪い紹介ですみません(´_`ヽ)
    最近ちくま文庫に入ったみたいなんで、よろしければどうぞ。
    作者は、ラヴクラフト論でデビューしたという変人じゃなくてユニークな方。残念ながら、ラヴクラフト論翻訳

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    2009年10月04日
  • 闘争領域の拡大

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    当時、翻訳されたウエルベック作品を大方読み、
    この処女作を買おうかどうしようか、
    古本屋を探しても見当たらず、
    ネットで買うには割と高めで。

    色々迷っていたところ、
    文庫化されて、喜んだ記憶があります。

    他のウエルベック作品より、
    性描写などは抑え目ですが、
    全ての作品に通ずる根っこはここにあったと、
    得心した記憶。

    細かい内容は忘れてしまいましたが(笑)、
    再読したい本です。

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    2025年11月11日
  • セロトニン

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    ウェルベック2冊目。この作家の文章は勢いがあってスルスルと読める。すぐそこにある社会の問題が小説の中にリアリティを持って感じられる。デカダンス、農家の問題、家族、孤独、鬱、ペドフェリア…

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    2025年11月07日
  • H・P・ラヴクラフト 世界と人生に抗って

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    ラブクラフト作品の精髄を鮮やかに構造化して示す手際はさすがである。一方で最終章の不穏なタイトルが示す通り、HPLの生涯からその恐怖譚の背後にある「思想」をえぐり出すところは激しく論争的で、これもやはりウエルベックの真骨頂というべきだろう。

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    2025年10月03日
  • ある島の可能性

    匿名

    購入済み

    我々が中世やさらに言えば原始時代の人類の生き方を本当のところでは想像できないように、進化した未来人(ネオ・ヒューマン)は現代を生きる我々の苦しみを理解することはない。近現代の人間の苦しみは人間の実存に由来する普遍的なものではなくて、歴史的条件に由来するものでその条件さえなくなればその苦しみも無くなる。
    本作から受けた印象をそのようなものだった。

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    2025年09月21日
  • 服従

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    フランスは着々とムスリム化していき各界トップも改宗していくという近未来の予言的小説。虚しさを感じている現代ヨーロッパは大きな力に跪きたがっている。十分ありえる。ファシズムかイスラムか

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    2025年09月11日