あらすじ
「私が本当に地獄に落ちたのは、一月三十一日、パリに戻ってからだった」。イスラム嫌悪の諍いの裏で、ポルノ映像出演という最悪の事態に見舞われた著者が赤裸々に描く自己分析的エッセイ。
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Posted by ブクログ
ミシェル・ウエルベックはフランスの作家で、ほとんどの著作が日本語訳されているように、世界的なベストセラー作家でもある。2022年のノーベル文学賞では受賞最有力とされていた。ちなみに実際に受賞したのは、おなじくフランスの作家であるアニー・エルノーだったので、もうウエルベックの受賞はなさそうである。長生きしていればあるかもしれないが、どうにも不健康そうだし。
ウエルベックのポルノ映画事件というものがあった。くわしくは検索してもらえばいいのだが、これ自体がくだらない話である。
それと、本書の始まりはウエルベックのイスラム教への発言についても触れられる。イスラム教徒を犯罪者と同列視する発言をしたとして、炎上したものである。こちらも呆れる話である。
本書は、これらへのウエルベックの弁明である。ただの言い訳ともいえるが、すぐに話が逸れて閑話が多い。むしろそっちのほうが安心して楽しめる部分もある。
本筋の弁明に関しては、あまり賛同を得られるとも思えない内容である。そもそも事の発端である映画というのは、ウエルベックの妻とオランダ人女性との3Pをするシーンというのがあり、さらにいえば妻がウエルベックのために女性を探しているという話もある。このような生活に、あまり共感できる人はいないだろう。
百歩譲って、それをウエルベックという作家の特質に還元し納得するとしても、そのあとのウエルベックの弁明も厳しく、見苦しいものである。
ただ、ウエルベックというひとはそういうひとでもある。あまり賛同を得られないことを前提として、なるべくおもしろい文章を書こうとしているように思える。だいたい、そのようなサービス精神がなければそんな映画にも、イスラム教への発言もなかっただろうと思う。