佐伯啓思のレビュー一覧
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素晴らしい。新自由主義の課題をこんなにわかりやすく的確に書いてあるものを読んだことがなかった。
まず、流動性にとける生産要素と製品の区別。製品は流動性を上げても良いが、土地、雇用者などの生産要素はある程度安定化させないと生産が不安定となる。また雇用者の流動性についても、技能適応などが必要で時間もかかる。単純に流動性を上げれば良いというものではないとの点。議論において、生産要素と製品を分けて市場の話を聞いたこともなく、基礎的ながら理解できていなかった。
次に財政出動したところで、実体経済や生産要素への投資でなく、金融商品への投資(投機)であれば、雇用は産まず景気も回復しない。
小泉改悪で土 -
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先に読んだ 「欲望」と資本主義 という本が面白かったので連続してこの人の本を読んだ。民主主義から主権、憲法へと流れる論考は大変スムーズで、これまでの憲法議論をバカバカしく思わせてしまうようにも受け止められるが、決してそうではなく批判をせずに自身の論拠を述べている。僕にとってはとても読みやすく、気持ち良く読めた。
【日常生活の中でわざわざ「自由」や「平等」、「権利」などという言葉を使わずとも、他人との会話の仕方、喧嘩のおさめ方、権威あるものとの接し方、金銭の使い方など、ほとんど習慣となった形でやりくりするのです。こういうことは特に政治的な主題になるわけではありません。しかしある社会における政治の -
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1993年刊だから、今から32年も前の本だ。日本が繁栄しているという前提で書かれているので、今読むと隔世の感がある。しかし、特に7章・資本主義の病理に書かれているような、自己増殖するという資本主義の本質を確認し、産業社会の行き詰まりから、人間が文化への欲望に目覚める方向にかけたいと語る著者の想いには共感する。残念なことに30年たっても、世界はあまりその方向には行ってないのだが。SNSの登場で欲望は、ルッキズムとお金により向かっている。文化も消費されている。生成AIの登場で、技術的には正確性ではなく偶然性に支配されているが、利用方法としては産業が欲望を加速させる方向に加速している。
さて、本書 -
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資本主義、欲望の拡張、大衆社会、消費に対する批判を体形立てて整理してくれる本で非常に読みやすい。
拡張を至上命題とする資本主義のもとで、欲望を生む「距離」が、外部から人間内部へと取り込まれ、メディア・情報によって開発され、現在の自分が他人からどう見られているかにしか関心がなくなっている。
東浩紀が言っていたが、資本主義はまさに災害ですね。無論、その恩恵も被っているわけですが。
全く詳しくないので印象論にすぎないが、欲望を文化的なイマジネーションの世界に取り戻すという点については、むしろ文化的なものすらも資本主義に取り込もうという動きが進んでるのではないかと、現代アートのオークションなどを見 -
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あとがきにありますが、
本書は、2018年の秋から2022年の3月にかけて、佐伯氏が書き記してきた「社会時評」と「文明論」をまとめたものです。
病める時代には戦役も病疫も同居するものと著者は言う。
きれいごとが跋扈する「ポリティカル・コレクトネス」や、作り笑顔で未来の技術に希望を託するような時代精神に見合った、しかしその正義や笑顔とは正反対の現身が現れ出てくる。
これが現代文明の実際なのであろう。
私にできることは、せいぜい目を逸らさず、ひたすら凝視することでしかない。
よき傍観者であるほかはない。だがそれこそが、今日、社会や思想に関わる者に課せられた態度なのである。
ということで、
序章「 -
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第8章「死」とは最後の「生」である
214頁から215頁で、佐伯啓思氏が伝えたかったことが書いてあります。
それを紹介します。
本書で私が提起した問題。つまり、現代人の死に方、という問題について、本書は何かしらの結論めいたものを提出したわけではない。
ただ、「死生観」という観念からこの問題の困難さを洗い出し焦点をしぼろうとしただけである。
あるいは、現代人の死の困難の背後には「死生観」という問題がある、といいたかっただけである。
そして、死生観は、倫理観と同様に、多くの場合、論理的に導出できるようなものではなく、その国の歴史が積み上げてきた文化のなかに何層にもわたって重なりあい、ま -
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ずっと佐伯節を読んで来た私にとっては、一気に読める内容でした。
現代日本人が日々漫然と受け取る世界の情報と言えば、戦後やむなく組み込まれたアメリカを中心とする西側諸国の価値観に基づく情報だろう。
余程意識して多面的な情報を入手しようとの心がけがなかったら、一面的で、薄っぺらでステレオタイプの情報に洗脳されてしまう。
現在展開されているロシア・ウクライナ問題、イスラエル・パレスチナ問題の裏側に潜む掘り下げた問題意識を持てるきっかけになる一つの見識だろうと思う。
佐伯啓思さんの考え方の「ものさし」、ギリシア哲学、ユダヤ・キリスト教を基盤とし、そして、西欧社会の過去・現在・未来を分析・予言 -
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自由にまつわるジレンマから説き起こし「個人の自由」について相対化した見方を提示した本。
自由と一口にいってもいろいろある。
・自然権として自由と国家の存在を前提とした市民の自由
・共和国を前提とした普遍的自由と多文化社会を前提とした多元的自由
そもそも自由というのが自由な言葉なので、XXの自由といえば、様々なところで互いに対立が起きるのは当然なのだが、問題は、自由という名のもとに、自由が抱えている規範がおそろかになってしまうということだ。
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と最後まで読んで、自由が個人の選択の自由であることを認めたうえで、実は、その背後に価値の問題を二層想定することがポイントであるいうのが斬新で -
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著者・佐伯啓思氏は、経済学が経済を扱うには、経済現象は複雑過ぎると言い、経済学が扱っているものは、経済学が『経済』と定義しているものに過ぎないという。
また、経済学が政治に介入し、経済現象を形作っているとも。
『経済学の思考法』というタイトルだけあって、経済学の哲学面、考え方に重きを置いている。
目次
第1章 失われた20年 構造改革はなぜ失敗したのか
第2章 グローバル資本主義の危機 リーマン・ショックから
第3章 変容する資本主義 リスクを管理できない金融経済
第4章 『経済学』の犯罪 グローバル危機をもたらす市場中心主義
第5章 アダム・スミスを再考する 市場主義の源流にあるもの
第 -
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執筆のきっかけを「(現代で掲げられる『自由』に対し、)あまりに違和感や不気味な感じを持たざるを得なかった」とし、その違和感の根源を「自由」への議論を通じて探った本。佐伯啓思2冊目。
冒頭、現代では人類共通の目標のように掲げられる「自由」に対して、イラク戦争を「フセイン政権からの解放(自由化/民主化)」とし正当化したアメリカを持ち出すことで疑問を提示する。
そこからリベラリズムの根幹である、何事も個人の自由を侵害すべきではないとする思想に対し、背景を探っていく。
君主による抑圧の時代において、自由は「抑圧からの解放」を目的とし推進されてきた。
概ね抑圧は去った現代でも、万人が理解しうるその背景 -
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資本主義は
国外のフロンティア
→国内の大衆消費者
→人々のアイデンティティ
→広告で作られた実態のない「好奇心」
の順に欲望を拡張してきた、と言う話。
最近までを綺麗に書いてるなぁと思ったが、読み終わって奥付を見たら1993年出版でびっくりした。
日本の成功は、同質な品を大量生産する米国的製造から、より細かいニーズに添う生産にいち早く変えたから。
その後は「個々人」に寄り添うことが出来ず、広告代理店が「好奇心」を煽り実態のない消費を作った。
いまIT企業がイケイケなのは、テクノロジーで個々人に寄り添うことを実現したからか。
小麦の罠と一緒で、豊かになって増えるからより作らなきゃいけない。