あらすじ
グローバリズムの矛盾が露呈し、新型コロナに襲われ、ついにはプーチンによる戦争が始まった。一体何が、この悪夢のような世界を生み出したのか――
自由、人権、民主主義という「普遍的価値」を掲げた近代社会は、人間の無限の欲望を肯定する。欲望を原動力とする資本主義はグローバリズムとなり、国益をめぐる国家間の激しい競争に行き着いた。むき出しの「力」の前で、近代的価値はあまりに無力だ。隘路を脱するには、われわれの欲望のあり方を問い直すべきではないか。稀代の思想家による絶望と再生の現代文明論。
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Posted by ブクログ
あとがきにありますが、
本書は、2018年の秋から2022年の3月にかけて、佐伯氏が書き記してきた「社会時評」と「文明論」をまとめたものです。
病める時代には戦役も病疫も同居するものと著者は言う。
きれいごとが跋扈する「ポリティカル・コレクトネス」や、作り笑顔で未来の技術に希望を託するような時代精神に見合った、しかしその正義や笑顔とは正反対の現身が現れ出てくる。
これが現代文明の実際なのであろう。
私にできることは、せいぜい目を逸らさず、ひたすら凝視することでしかない。
よき傍観者であるほかはない。だがそれこそが、今日、社会や思想に関わる者に課せられた態度なのである。
ということで、
序章「ロシア的価値」と侵略
第1章 なぜ誰もがこんなに生きにくいのか
第2章 かくも脆弱だった現代文明
第3章 さらば、欲望
第4章 「民意」亡国論
第5章 ポスト・コロナ時代の死生観
第6章 日本近代、ふたつのディレンマ
佐伯氏の本をずっと読み続けているので、過去から主張されていることの一貫性があり、読みやすい本でした。
第6章で、明治維新、福沢諭吉の考え方に対する佐伯氏の主張は少し新鮮でした。
明治政府について回る暗い疑惑、攘夷の「義」と文明進歩の「利」の相克
最後の最後『グローバル世界で再演される「日本近代のディレンマ」』
長い歴史の中で、日本人がその時々に選択してきた価値について、しっかり検証しながら、未来に向かってどう対処していくのか、真剣に考えていくきっかけとしての内容でした。
Posted by ブクログ
見事なまでに民主主義の衰退を予言している。
特に近代日本の「利」による「義」の敗北の一節が印象的だった。
西洋のマネは上手だったけれど、結局そうすることで西洋との対立に向かわざるを得なかったディレンマが何とももどかしかった。
Posted by ブクログ
近代以降の現代文明について、多角的に分析されてる。「ごっこ」で成長してきた我が国もそれが行き詰まった平成時代。福沢諭吉の頃の精神を取り戻す必要はわかったけど、隘路脱出の方法はよくわからなかった。
Posted by ブクログ
欲望はアクセル、規律はブレーキ。
コモンセンスは規律の構成要素であり、つまり、他者からの蔑視がブレーキになる。逆に他者からの羨望がアクセルになる。人間社会は、概ねこうした動力により競争し、時々起こる規律の逸脱により革新を遂げて成長する。
欲望のそのものの否定は、滅びである。
規律からはみ出した欲望のみを否定すれば、恐らくは社会主義的な脱成長になるが、世界共通の規律や世界一律の実施でなければ、はみ出しモノが覇権国となるので、非現実的。
結果、欲望>社会的規律>個人 という図式は崩せず、お金などの減耗腐敗しないスコア獲得を巡る競争は終わらない。
成り立たないイデオロギーについて考えるのも良いが、これからも競争し続ける前提で、持続するために何ができるかを考えねばならない。家族主義、国家主義的な思想を捨てる事は出来ないのだから。さらば、欲望。考えさせられる。