佐伯啓思のレビュー一覧

  • 反・幸福論

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    戦後から現在に至るまで日本社会で支配的だった「功利主義」と「リベラリズム」に向けられた懐疑。輸入された概念をそのまま模倣するだけではなく、現代日本人はいかに生きるべきか「自前の議論」をしようではないか、と著者は呼びかける。

    戦後の近代化の流れの中で日本人が失ったものは多い。
    ふるさと、家族、死を基準として生を見る死生観、習俗、自然への畏敬、無私という意味においての「他力本願」……etc.

    いずれも「近代化」や「戦後進歩主義」がもたらしたものだと著者は言う。現代人はこれらを捨て去ることによって「よりよい生活」を手に入れてきたわけだが、災害や「孤独死」に直面したとき、ほころびが生じ、矛盾は露呈

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    2013年05月28日
  • 自由と民主主義をもうやめる

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    「保守主義」の定義から始まり、日本が目指してきた「民主主義」や「自由」のどこに問題があったのかを考察する。
    欧米の「保守」が、自分たちの文化や伝統を守りながら新たなものを取り入れてきたのに対し、日本は、「自由や民主主義、市場競争によって、何を表現したいのか、どんな社会をつくりたいのか」、そのヴィジョンも、想像力もないままに、ただただ日本中を東京化しようとしてきた。
    本当の意味での「保守の精神」とは何なのか、また、日本の強さとはどこにあるのか、ただ欧米の右に倣え…では、日本の精神や国はどんどん空洞化していくばかりでなかろうか。

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    2013年04月30日
  • 「欲望」と資本主義 終りなき拡張の論理

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    ネタバレ

    資本主義の歴史とその本質がよく分かる。

    元来ポリネシアなどでみられた「交易」というものは「価値」のないものをぐるぐるまわす、その運動自体に意味があるものだった。そうすることで富を必要以上に蓄積することの危険を回避していた。しかしヨーロッパ人は違った。自分たちが持たないものを執拗に欲しがった。中国の茶、陶磁器、インドの砂糖や香辛料、南米の金、銀など。重要なのはそれらは「生活必需品」ではなく、「贅沢品」であること。つまり「欲望」が資本主義という運動をドライブさせ続けてきたのだ。あるときは武力に任せて強奪し、あるときは三角貿易によってアヘンや奴隷を介在させることで、非人道的に利潤を上げ続けた。

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    2013年04月22日
  • 日本の愛国心 : 序説的考察

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     「愛国心」=「ナショナリズム」という軍国主義的なイメージが強いが、本著書においては、「そもそも日本に国家があるのか?」と根本的な立場から問いかけている。
     日本の近代国家としての発展は、西洋をモデルとした「上からの近代化」を取り入れる中、「民主主義とは何か」といった思想・意識が育たないままに「精神の空白」をもたらすことになった。
     本当には「国」というものに対面しないまま「精神の空白」という状態を疑問にしないままの「近代ごっこ」「大国ごっこ」≒「絶対矛盾的自己同一」が現在にも続いている結果が「思想なき民主主義」であり、日本という姿の核心であるという危機感を抱いた。

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    2013年04月21日
  • 経済学の犯罪 稀少性の経済から過剰性の経済へ

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    昔のような高度成長はもはや望めない状況で、将来への選択肢として、「グローバル化や自由競争のレベルを落とし、各国におけるそれぞれの国内経済の安定化制作を可能ならしめること」を提唱している.安倍さんのやろうとしている方向はやや的外れの感がしていたが、著者の考えが妥当だと思った.

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    2013年03月24日
  • 日本の宿命

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    現代日本の混迷をとてもシニカルな視点から捉えている。日本の無脊椎化はどこからやってきたのか。敗戦は江戸時代の開国の時点で既に用意されており、その後のアメリカとの従属的な付き合い方も占領と言うプロセスを経たこと以外に説明ができる。福沢諭吉の心情の変化から三島由紀夫の予言した日本の現出まで、知識人と呼ばれる人たちの思想から無脊椎化の正体を炙り出している。
    無機質でのっぺりした日本がこうあるべきなどと声高に叫ばず淡々とした筆調はとても読みやすく好感。

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    2013年02月02日
  • 日本の宿命

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    通勤時間に読むつもりで購入しましたが、読みやすかったので、休日1日で読み終えてしまいました。
    ただ、東京裁判や開国の歴史など、ざっと読むにはもったいない内容も多かったので、時間のある時に再読しようかと思っております。
    また、私は福沢諭吉を食わず嫌いにしてきましたが、この本を読んで見直しました。学問のすすめ等、著書に手を付けていきたいと感じました。そのほか、オルテガの思想も引用されていますが、学問の幅を広げていくのに適した本ではないかと思いました。

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    2013年01月27日
  • 自由と民主主義をもうやめる

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    4年前に刊行され、当時すぐに読んだのだけど、再度読み直しました。一度読んだ本を読み直すのは非常に稀なのですが、この本はいつかもう一度読もうと思っていたもの。激動する、社会や政治の状況を一旦整理してためには非常に秀逸な著作です。これまた、すぐに読めるので選挙前にぜひ。

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    2012年11月24日
  • 「欲望」と資本主義 終りなき拡張の論理

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    ネタバレ

    「消費者」という観点から資本主義を捉える

    そこには「欲望」が存在し、距離が遠ければ遠いほど、深くなる

    読み物的かと思ったら、説得力があって、歴史を新しい視点から振り替えることができた

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    2012年11月24日
  • 自由とは何か 「自己責任論」から「理由なき殺人」まで

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    佐伯先生の講義である。
    様々な社会に対して、鋭く闊達な議論を投げかける筆者が、真っ向から「自由」を論じた本書。過去から現在にわたる「自由」に対する定義と議論をまとめた、哲学・思想の解説。
    新書にしておくのはもったいない品格のある講義だ。

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    2012年09月04日
  • ケインズの予言 幻想のグローバル資本主義(下)

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    当時の不気味な予言がまったくもっていまの日本に当てはまっていて、もう気持ち悪い。

    著者はケインズの理論について単なる善悪の二元論ではなく、現在に有効なところとそうでないところを評価していて、好感が持てる。

    経済が専門ではない私でも読み進められるほど噛み砕いて書かれていて、面白く読めた。

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    2012年08月27日
  • 自由とは何か 「自己責任論」から「理由なき殺人」まで

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    読みやすく、明快な文章だったが、同著で引用されている哲学者の著書を読むことで、より理解が進むと思われる。

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    2012年07月12日
  • 現代文明論講義 ――ニヒリズムをめぐる京大生との対話

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    あえて自身の主張はしない.
    しかしながら,根をはった思想家,哲学者たちの主張を紹介しながら,あくまで「己で考えること」を大事にさせる.
    そんな姿勢で書かれた本.

    文体は小気味良く,非常に読みやすい.
    しかしながら内容は,現代人が一度は考えたこと,感じたことのある,もやもやとした部分を照らし,「お前はどう思うのか」を問うてくる.

    最後は加速度的にのめり込んで一気に読んでしまった.
    これをきっかけにより哲学を学んで,何より自分の考えとその根を探り,再構築していきたいと思う.

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    2012年06月07日
  • 現代文明論講義 ――ニヒリズムをめぐる京大生との対話

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    サンデルの「ハーバード白熱教室」を横眼で睨みながら、それならサンダルを履いて、サンダル先生の「発熱教室」でもやろうかと持ちかけたら、本当に本になってしまった……と著者である佐伯啓思は漏らしています。

    佐伯啓思という人はちょっと珍しい思想家でして、著作は多数に及ぶのですが、毎回、同じような内容が展開されるのです。ところが、毎作、ちょっぴり違うところがある。佐伯啓思のファンは、それを楽しみに読んでいたりします。「あ、今回はここがちょっと違うぞ」  

    そして、佐伯啓思のスタイルは原則として問題設定に対して回答を用意しません。従来の西欧思想を追っかけるだけの軽薄な思想家なら「ハーバーマスはこう結論

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    2012年05月07日
  • 反・幸福論

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    「利益」「権利」の最大化が幸福をである、と考えるとたぶん人は幸せにはなれない、
    そのことを「論理」的に語っている本とも言えます。

    あと、ポジティブシンキングをボロクソいってます(笑)
    イラク戦争はブッシュ元大統領のポジティブシンキングが原因だとも。

    あと、喜怒哀楽では「哀」を大切にすべき、というのも共感しました。
    「不倫は文化だ」ではないですが、
    「哀」がなければ文化は生まれないと僕は思っているので。

    連載をまとめたもので、9章にわかれていて、それぞれの章が別な切り口で
    深く考えさせられるので、簡単には書評はかけません。

    ただ言えることは、この本を読んでなお、僕は人が目指すべきものは「

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    2012年04月11日
  • 反・幸福論

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    久しぶりの佐伯さん。読み飛ばしたくないと思いつつ先を急ぐように読んだ。
    「人は誰でも幸せになれるしなるべきだ」に異議を唱える。
    幸福は有難いこと=滅多にないことであり、プラスである。基準=通常時を幸せな状態ではなく不幸で思うようにならないこの毎日におきなさい、という。
    もちろん、お坊さんのような人生訓ではなく、思想史をたどって理屈っぽく言う。ただし、箸で重箱隅ではなく、弓矢で的とでも言おうか、スカッとした理屈なのが楽しい。
    本書の元になった連載の最中に東日本大震災があったのだけど、あの震災を挟んでも論旨をまったく変える必要がなく、むしろ、震災後のために前から書かれたと言いたくなるほどの射程の長

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    2012年04月03日
  • 反・幸福論

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    利益と権利の追求というこれまで幸福の素であったものがいまやそうではないという逆説的な反幸福論です。確かに転換期がきていることは自明の理ですが、我々個人が今後何を是とするのか考察・議論が必要です。若い人たちがどう考えているのかも聞きたいところです。

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    2012年04月02日
  • 反・幸福論

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    これからの日本の行方を考えていく上で、欠かせない一冊。日本人は一度「幸福」というものを考えてみるべきだと思う。

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    2012年03月14日
  • 反・幸福論

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    先日読んだ安冨先生とは逆の学歴の東大卒、京大教授の著作。新潮45に連載されていたものをまとめたもの。同じ事象でも見方が違えば自ずと考え方も異なってくるが、、、個人的にはこちらの方が読みやすく、納得しやすい。
    加賀乙彦先生のように、震災のような「無意味さ」から人を救い出すものは、宗教(的なるもの)P176とするのは当然の帰結か?
    まさに末梢だが、文の最後に「ですます調」以外が混ざっていて、統一感がないのが気になった。

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    2012年03月09日
  • 反・幸福論

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    五木寛之「下山の思想」の延長線上にある本。
    現代日本人の幸福観を宗教、思想から解き明かす。

    面白かったのが、「第五章 人間蛆虫の幸福論」。蛆虫と書いて、ウジ虫と読む。これが、あの福沢諭吉のことばだというのだからビックリ。

    「宇宙という広大な視点から自らを見れば、人間などは無知無力で見る影もない蛆虫のごときもので、・・・だが、この世に生まれた以上は、蛆虫とはいえそれなりの覚悟が必要である」

    あの一万円札のおじさんが自らを蛆虫と称し、蛆虫なりに生きていくことの必要性を説いている。そうか、万券ですら蛆虫なんだ。だったら、オイラは小蝿ぐらいか。何だか気分が楽になるね。小蝿なりに生きればいーじゃな

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    2012年02月10日