佐伯啓思のレビュー一覧
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本書は「経済書」なのだろうか、それとも「経済思想書」なのだろうか。本書を読んで、現在の世界と日本で起きている経済的事象の全体像がより鮮明になったように思えた。
1990年代からの「失われた20年」については、マスコミでよく語られるが「構造改革」は小泉政権のみではなく、歴代の政権が常に声高に叫んでいた。そう考えれば、日本経済は相当「構造が改革」されているはずなのに一向にその成果が上がっていないと疑問に思っていたが、本書は「デフレに陥っている経済に対して新自由主義政策は明らかにマイナスに作用する。一層にデフレ圧力をかける」と喝破する。なるほど、説得力がある。
「グローバル資本主義の危機」「変 -
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ネタバレ自分のことを棚に上げて書いてしまうけれども、佐伯さんはずるいと思う。
そう感じてしまう理由として、佐伯さんの評論家的立ち位置である。とりあげるどの問題に対しても、結局最後まで解決策や道筋を示すことなく、それぞれの課題に個別に取り組んでいる政治家や専門家、学者、行政等の振る舞いを批評するスタンスをとっている。
その都度、「その問題を論じること自体が目的ではない」と断りを入れて、「その背景にある○○が問題なのだ」というが、その「○○」に対する解決の道筋も示していないように思われる。
とりあげる諸問題の裏には「日本の無脊椎化」がある、と言っているが、「無脊椎化」がどんな価値観の喪失によるものな -
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本書は現代のグローバル化した経済と、それを支持する経済学的思考を批判するものである。筆者の主張は、そのような一辺倒な経済学の視点を改め、本質を見なければならないとするものである。
ワルラスらの限界革命以後、経済学は「希少性」を扱うものと定義されてきた。すなわち、無限に増加する人間の欲望に対して資源の量は決まっているため、その適切な配分を考えるのが経済学なのであった。
このような経済学の原点に対して筆者は、経済学が「過剰性」に支配されていると指摘する。モノが安価で大量に生産される社会である現代においては人間の欲望が大量生産される商品に追いつくことができない。かくて供給の過剰が発生する。また、 -
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タイトルからは分かりにくいけど、本当の「保守」とは何かを主張する本。国が豊かになり、自由や民主主義が過剰に浸透した結果としてニヒリズムが蔓延してしまった現代社会に対する処方箋が、いわゆる「保守」思想であるという。著者は、単なる進歩主義として自由や民主主義を追いかけるのではなく、地域における伝統や慣習を活用して社会秩序を継続していくことが「保守」の基本的な考え方だと主張している。全体的に専門用語が多くて、政治学の基礎を知らないと論旨をきちんと捉えることが難しいのだが、タイトルは刺激的で面白いし、実際、自由や民主主義が日本でうまく機能しているようには思えないので、提起された問題は的を得ていると思う
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著者は最近「反幸福論」などで話題を集めているが、基本的に氏の戦後民主主義に対する疑念・懸念に同じような考えを持っている。
もともとはヨーロッパからの言葉を訳した「市民」が日本においては欧州と異なる定義・意味で使われている。一般に日本では市民は「自由・平等を求め国家からの束縛・義務を回避する民」を意味している。
結局のところ端的に言えば、市民を強調する日本人は反抗期にある中学生のようなものなのである。保護され、教育され、囲われる立場にありながらしだいにカミソリのような脆い自我の目覚めを保護者との作用‥反作用によって確認していくものである。何故民主主義を明治期に導入しながら、戦後になって遅 -
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人は幸福にならなければならないという脅迫観念に異議を唱える。功利主義・権利主義・公共主義から無縁社会を論じ、家族論、宗教論、技術論、政治論を説く。読んでいて、疑問を感じざるを得ないところが多い。この感じ方の差に世代間を感じざるを得ない。
世の人が「利益」「権利」による幸福を目指しているかというと、そうではないと思う。
「利益」「権利」に縛られない幸福というのが、最近流行の「絆(俺はこの言い方嫌いだけど)」であり、社会のつながりを認識することで幸福を感じる人も多いと思う。社会的起業、ボランティア、などなど。
「利益」「権利」にとらわれた前の世代の反動が今の世代なのではないか。世代間の価値観の