高橋恭美子のレビュー一覧
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今年の初めに読んだのが『天使の護衛』。ご存じエルヴィス・コールの相棒ジョー・パイクを主人公に据えたシリーズ第一作品である。その後三作ほど置いてのシリーズ新作が本書、十年以上ぶりの邦訳となるが、素直にこうした機会が得られたことは喜ぶべきだろう。
ともかく、へらず口を得意とする探偵を書いている作家が、無口な相棒を主人公にここまで書ける、というところがパイク・シリーズの何と言っても味噌なのである。
ところで『天使の護衛』を出版したランダムハウス社は、最後まで侮れない海外作家出版の一角を成していたのだが突然倒産してしまった。それによる絶版の不幸にあった名作も少なくなかった。扱われていた作家たちも、その後の版権が途絶えたり移ったりしたおかげで日本国内で影響が相当にあったように思う。
ロバート・クレイスは、本国ではNWA・PWA受賞ばかりか生涯功労賞まで受けているという巨匠であるにも関わらず、シリーズ翻訳作品が日本では長らく途絶えてしまっていたから、少なくとも当該出版社の影響を受けたと言える作家だったように思う。
かく言うぼく自身、この作家を当時のリアルタイムで知ったのではなく、日本復帰作品とも言える『容疑者』で、警察犬マギーを主役に据えるという予想外な感動作と出会ったおかげで、この作家の底知れぬ実力、またその卓越した世界構築能力に驚愕しつつ、そこに生きるコールやパイクの世界にも引き込まれることになったという経緯。
今月末には、クレイスの新作『危険な男』の札幌読書会が予定されている。この作家にとてもフィットする翻訳者・高橋恭美子さん自らが参加されている翻訳ミステリーシンジケート札幌読書会は、その一点だけでも有難いことだし、ここ数年クレイス翻訳作品ブームは、間違いなく日本中で起こっていると思うので、今回もリモート読書会ということで札幌にとどまらず、多くのクレイス・ファン(パイク・ファン?)が集結してくれることを期待している。
ユーモラスで人当たりの良いコールに比べて、無口で強靭な戦闘マシーンみたいなパイク。こちらの作品は、血なまぐさかったりアクションシーンが派手だったりと、全体の緊迫感がひときわ高く、コール・シリーズを読むとき以上に緊張感が増してしまうのだが、どちらのシリーズであれ、二人のコンビネーションは崩れることなく、第三のキャラとも言える科学捜査官のジョン・チェンの独特な人間臭さも併せて、それぞれのシリーズ作品に独特なバリエーションをもたらしてくれる。
『天使の護衛』ではパイクと、彼が護衛するわがまま娘とのやりとりが見どころだったが、本書では、二人の二十代女性が彼とコールとを振り回すことになる。この辺りの日常・非日常が隣り合わせに同居したズレた感じも、この作家の特異とするところ。奇妙な人間関係と、乾いた非情極まりない現実、といったところの交互画面転換で、物語世界に奥行きと捻じれとが発する物語の厚みを、存分に感じさせてくれる。
凄腕の戦士ジョー・パイク。頭の切れるプロ探偵エルヴィス・コール。どちらの新作もいつだって待ち遠しいが、どちらの未翻訳過去作品も、この際どんどん日本語訳として陽の目を見て欲しいところだ。そのためには、この作家がもっともっと評価され着目されることを祈るばかりである。時間の問題、とは思うのだけれども。 -
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犬好きは熱くなる。犬好きじゃなくても熱くなる小説。
アフガニスタンで戦闘に巻き込まれ、相棒の兵士・ピートを喪い、自らも銃撃を受けた軍用犬のマギー。パトロール中に銃撃事件に遭遇し、マギーと同じように相棒のステファニーを喪い、自らも重傷を負った刑事のスコット。
心身共に大きな傷を負った一人と一匹の絆と再生を、緊迫感溢れる事件の様相と共に描いていくミステリーです。
冒頭からなかなかにたまらない書き出し……
銃撃戦に巻き込まれピートが倒れ、マギー自身も撃たれてしまうのに、それでもマギーはピートを元気づけようと顔を舐め続ける。しかし、ピートの体温は次第に冷たくなっていき……
さらにスゴいのが、この場面を犬であるマギーの内面と共に描いていること。
動物が語り手になる小説というと、宮部みゆきさんの『パーフェクト・ブルー』であったり、有川浩さんの『旅猫レポート』が思い浮かぶのですが、その二作以上にこの小説は、犬であるマギーの内面に踏み込んでいく印象。
それも動物の内面を単に擬人化して描くのではなく、マギーが感じる匂いや感覚を媒介に、読者をマギーの内面と同調させていきます。この描写は圧巻の一言!
作中で説明されているけど、マギーの嗅覚は人間の一万倍近くあり、その嗅覚を頼りに様々な判断を下します。そしてそれはパートナーの感情を理解することにもつながる。
人間は緊張したり不安になったり、あるいはリラックスしているときなど、そのときの感情に応じて、目には見えない発汗量などが変わり、体臭もごくわずかに変化します。
マギーはその臭いを嗅ぎ分け、スコットに寄り添っていく。
その嗅覚の描写がとても丁寧かつ、真に迫っている描写がなされるから、マギーとスコットが徐々に精神をリンクさせていく感覚が、下手に言葉や文章、描写を重ねるよりも、何十倍もリアルに感じられる。
マギーの内面を描く描写は、作中で何回か出てくるのですが、その場面ごとにマギーの穏やかな感情、興奮した感情、そしてスコットを相棒と認めていく感情が感覚を通してより伝わってくる。
おそらく生涯で、これ以上に動物の内面を的確に描く作品とは会えない気がします。
マギーとスコット、互いに銃で撃たれた後遺症を引きずり、それはPTSDに近い症状も引き起こします。夜毎悪夢にうなされるスコット。そして発砲音のような大きな音がするたび固まってしまうマギー。これは警察犬には致命的な弱点。
そのためマギーは警察犬には向かない、矯正のしようがない、と当初は評されます。しかしマギーに自分を重ね合わせたスコットは、マギーを自分に任せてほしいと頼み込む。
スコットはステファニーに関しても大きな悔いを抱えています。それは助けを呼ぶためとはいえ、「置いていかないで」と叫ぶステファニーを、置き去りにしてしまったこと。だからこそ、最後まで相棒のそばにいたマギーにより強い感情を抱く。このドラマ性といったらない!
スコットが襲われた事件の捜査が続く傍らで、マギーのトラウマを克服する様子も描かれます。
大きな音がする度にスコットはマギーを優しくなでて、声をかけたり、好物のソーセージを与えたりして、大きな音が呼び覚ます、辛く苦しい記憶を楽しい記憶で塗りかえようとします。
そしてスコットは大きな音がする工事現場に、マギーと共に足を向け、マギーを落ち着かせつつ、そこの作業員や、ホットドックの売り子とも、穏やかに言葉を交わす。
そんな過程を経て、事件後、孤独を極めていたスコットも、徐々に穏やかな感情を取り戻していき、そしてマギーの警察犬としての能力にも信頼を寄せていく。
この日常の穏やかな描写もいいし、マギーとスコットを厳しく指導しつつも、しっかりと支える警察犬隊の同僚や上司の刑事のキャラも良い。
スコットとマギーが絆を深めていく描写、スコットのマギーに対する声かけであったり、マギーの行動であったり、それら一つ一つが本当に丁寧! だからこそ、この一人と一匹の行く末を、見守っているような気持ちになっていきます。
そして、スコットが襲撃された事件も新たな展開が見られていく。事件の真相に迫っていくのに、マギーの嗅覚がちゃんと生かされているのも、ストーリーとしてよく出来ている。
そして終盤孤立無援の状況に立たされるスコットに、クライマックスの銃撃戦と、王道の展開を押さえつつ、盛り上がりのポイントもしっかりと読ませます。
自分は特別犬好きというわけでもないですが、この『容疑者』を読み終えた後だと犬に対する感情は、大きく変わったように感じます。多くの人は「犬っていいなあ」と思うのではないかな。
一人と一匹の再生を優しくも熱く描いた『容疑者』。動物が登場する小説の中でも、屈指の傑作です。 -
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「容疑者」「約束」に続く第3弾だというので、シェパードのマギーが出て来るのだと思ったら、無関係だった。
探偵エルヴィス・コールは、デヴォン・コナーから、高校生の息子タイソンが高価な物や多額の現金を持っていて怪しいから調べてくれと依頼される。タイソンの持っていたロレックスの番号から盗品だと分かる。しかも連続して金持ちの家から盗む事件があって、もしかするとタイソンはその犯人グループの一員なのだろうか。盗まれた物を追いかける悪党二人組は残忍に人殺しを続けていく・・・
マギーが出てこないという意味では東京創元社はサギじゃないかー、と文句を言いたいところだけれど、面白かったのでまあ良しとする。
コールが真相に迫ってゆく手法、ストーリー展開、人物造形、文体、どれも最高だった。 -
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この作家は女性の描き方がうまい。訳者もあとがきでそう言っている。そう。実に巧いのだ。主要登場人物のみならず、ワンシーンのみ登場するだけの脇役に至るまで、こと女性に関しては個性が際立っている。作者はよほど女性から痛い目に遭っているのかもしれない。あるいはとても優しくて女性にもてる作者の人間観察力がそうさせるのかもしれない。
さて、ともかく。スコット&マージという捜査犬シリーズを離れ、いよいよエルヴィス・コール&ジョー・パイクという作者のメイン・シリーズである。ぼくには初読である。しかも新作。二人の単独シリーズとしては何と19年ぶりとなるらしい。何故? Why? 無論、『容疑者』『約束』と、捜査犬マージの大活躍により、本シリーズのこちらも再会に至ったのだ。読者も読者だし、作者も作者である。何より、マージ様々なのだ。
女性の描写は際立っている。それに比して、コール自身はあまり色のない、地味で堅実な私立探偵である。スペンサーみたいに料理は上手だけど、恋愛中の女性は、前作『約束』で知り合った超多忙の大物警察官であり、電話二本の通話という形でしか、ここでは登場しない。食事を一緒に、という約束をして、それが仕事で流れたくらいだから、まだ深い恋愛関係にはないのかもしれない。
代わりにと言ってはなんだが、コールは猫と一緒に暮らしている。不機嫌な猫。名前すら与えられていないみたい。「猫」というように「私=コール」は描写する。その突き放した関係が、何とも独身男と猫のリアリズムである。コールにはまた、別れた妻とその子供が、ルイジアナのバトンルージュにいる。遠い。別れた妻とはうまく行っていないものの、子供は時に一緒の時間を過ごすらしい。家のテラスで、テコンドーとカンフーを組み合わせた技を、二人で伝授し合うシーンが少しだけある。コールの愛すべき人間性だ。
さて本作の事件。「悪党」としか登場人物表で紹介されていない二人のでかい男のコンビが、全編を通して暗躍する。そう、「悪党」。彼らは窃盗犯の若者トリオを捜していて、次々と関係者から情報を絞り出しては殺してゆく。残忍極まりないが、二人の道中は不思議な対話に満ちている。タランティーノ映画とも違う。もう少しフリークな感じで。病気な感じで。どこか、心底怖くなるような二人。
逃げ回る窃盗犯若者トリオのうち一人が彼らに追われる。残るは少年と少女。コールは少年の母親から捜索依頼を受けたのだ。少年の母親の個性も際立っている。強い。怒りを秘めている。少年への愛に溢れ、張り詰めてている。さらに少女アンバーの個性が凄い。アンバーの母も姉も強烈である。これでは、世界は、女たちによって振り回されているんじゃないかと思ってしまう。作者の手を離れ、暴れ出しているようにしか見えない女性たち。それを遠慮がちにガードしてゆくコール&パイクという図。
彼女らを、暴力で虐げようとするのが、件の悪党二人。勧善懲悪ならわかりやすいのだけど、コールが保護する少年少女も多重窃盗犯で破れかぶれの身なのだから、警察の出る番はほぼない。闇の中を逃げ回る者とそれを追う者、それを解決しようとするコール&パイク。三つ巴の回転木馬が回る。法の裏側で。これまた女性警察官カセットをなだめつつ、だまくらかしつつ。
からっとして残酷でタフなLA産ハードボイルドである。それでいて心が熱くなるヒューマンな物語でもある。コール独自のルールで解決に導くやり方と、覚悟。完璧に近い探偵の印象は、前作でも感じさせてくれた。過去作品にも手が出したくなる、これは実に厄介なシリーズである。
次作はまたコール&パイクらしい。しかし主人公はパイクの方のようだ。いつも暴力の側を分担する寡黙でストロングな相棒の。アメリカではこの6月に上梓されるとのこと。コールたちの世界を縦横に走り抜ける自由闊達な女性たち。彼女たちとの再会や、新しいじゃじゃ馬との出会いが、何よりも楽しみな気がしてならない。
本作では、最も壊れていながら何よりも生命感を感じさせ、終始元気だった少女アンバーに、最優秀インパクト賞を! -
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最近、ぼくの最もお気に入りのハードボイルド・シリーズがこれだ。
前作『容疑者』は作家を復活させるほどの人気を得たらしい。ぼく自身を含め相当の新しい読者を獲得したに違いない。スコット&愛犬マギーというハンドラーと警察犬コンビがたまらない。共に、相棒を銃火で失い、心と体に深い傷を負った同士の、復活と愛情の、感涙ものの傑作であった。
だから、本作で、ロバート・クレイスの本家シリーズのレギュラー・コンビ、エルヴィス・コール&ジョー・パイクが、一人と一匹のシリーズに合流するという趣向の作品が早くも登場したのも、自然な流れだと思う。何せ、コールは17年ぶり、パイクは7年ぶりの復活作品。彼らにとっても、否、作家クレイスにとっても全面復活を期する力作となったのが本書なのである。
エルビス・コールは私立探偵。LAの探偵は、ニューヨークの探偵(マット・スカダーbyローレンス・ブロック)やボストンの探偵(スペンサーbyロバート・B・パーカー)に比べて、明るくユーモラスである気がする。チャンドラーの系譜となる会話のユーモアとへらず口と自信たっぷりの態度が、見事に受け継がれている。料理も上手く、美味しそうな料理をさらっと作り、希少なビールを箱買いしてふるまってくれるコールの趣味の良さも嬉しかったりする。何よりも余計な情緒的描写を削ったからっとした一人称文体(コールの場面だけ)が、好感度抜群である。快適な読書というのはこういう小説に対して用いたい言葉なのである。
それでいてタフでハードな面も持ち合わせている。フィリップ・マーロウの比じゃない。時代がさらなるタフさを探偵やそのパートナーに課しているのだ。アルカイダの存在した時代のアメリカン・ハードボイルドには、ベトナム帰還兵、特殊部隊出身などの付加要素まで、私立探偵のプロフィルに加わっている。加えて現役のプロの傭兵を生業とするジョン・ストーン。彼の強さと信念の強さと使命感が本作品に鋼の脊椎を与えている。
ドン・ウィンズロウ作品に頻繁に登場するような近年の麻薬戦争での兵器の過激化と戦闘規模にはいつも驚かされるが、本編ではテロ用の爆薬の売り買いが扱われる。そこで元爆発物探知を任としていた探査犬マージが重要な役を果たす。
それぞれが的確な役割を果たしてゆくきっちりした仕事感も、本書を気持ちよく読ませてくれるポイントであると思う。コールたちのトリオは、武器も電子情報収集能力も駆使する私立探偵ワールドを構えている。スコットチームも、頑固と深い愛情を備えた警察犬隊指導官のリーランドの仕事っぷりも健在。マーロウの単独で優雅な調査スタイルでは、現代の探偵家業は少し営むに難いものになっているかもしれない。
まさしく今という時代を舞台にした、ネオ・ハードボイルドでありながら、マーロウのエッセンスは残し持つという探偵ヒーローを駆使し、正統なるハードボイルドの系譜を継いでいる作家として、ロバート・クレイスは、現代の若い読者をも、そして男も女をも取り込んでしまうに違いない。
次作は、コールもの。スコット&マギーの新作も用意されている気配ありとのこと。どちらのシリーズもそれぞれに競い合わせつつ、より質の高いハードボイルドの王道を、今に通じる作品価値を付加しつつ築き上げてほしいところである。
コール&パイクシリーズ新作『指名手配』は、5/11に発売予定。再会されたシリーズを、新しい読者として早速読む。とりわけ、本書のラストを飾って泣かせてくれた傭兵ジョン・ストーンの登場が個人的には待たれてならない。 -
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以前は同じ著者の作品を立て続けに読むということをよくしていましたが、最近はいろんな著者の作品を満遍なく読むようにしようと、同じ月に同じ著者の本はできるだけ読まないようにしています。しかし今月初めに読んだ『容疑者』がめちゃめちゃよくて、続編があると知ったら読まずにはいられず。それがこの『約束』。
ロバート・クレイスの作品を読むのは『容疑者』が初めてだったので、今回も刑事ひとりとジャーマンシェパード1匹が主人公だと思ったら、同著者に“コール&パイク”というシリーズもあるそうな。今回は『容疑者』のコンビと、コール&パイクのコンビの、いわばコラボ作品。ファンにとってはたまらん豪華キャストかと。
探偵のコールは失踪女性の捜索依頼を受ける。手がかりを求めて出かけた先で、殺人事件に巻き込まれ、容疑者とされてしまう。依頼人のことを話せば疑いは解けるはずだが、探偵だもの、依頼人の秘密は絶対に明かせない。現場で犯人を目撃した刑事スコットと犬のマギーは犯人一味から命を狙われ、事件を解決すべくコールに協力を求めるのだが……。
前作のようにプロローグから泣かされるなんてことはありません。無意識のうちに泣きを求めていたため(笑)、なんだ普通のミステリーじゃないかと最初は残念でしたが、なんのなんの面白い。マギーの活躍、そして私はお初のコールとパイク、そして怪しい強者ジョン。登場人物がみんな魅力的で、『容疑者』から入ったものとしてはスコット&マギーがどちらかといえば脇役なのが寂しいけれど、コール&パイクシリーズも読まなくちゃという気にさせられます。
テロに巻き込まれて一人息子を失った女性の強い悲しみも伝わってきます。最後はスッキリ、読後感よし。この著者の作品を大人買いしてしまいそうです。 -
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字ぃちっちゃいのよ、創元推理文庫。同程度の厚さでも、講談社文庫と比べたら文字数は倍くらいちゃうか。というのは言い過ぎか。老眼が来るとついつい創元推理に及び腰になってしまいます。この文字の小ささで400頁超やけど、読むのに何日かかるやろと思ったら。こんなん反則、プロローグから涙がこぼれる。
パトロール中に事件に巻き込まれ、相棒女性を亡くしたロス市警の刑事スコット。アフガニスタンで狙撃され、ハンドラー(指導手)を亡くした雌のジャーマンシェパードの軍用犬マギー。心身ともに深い傷を負った一人と一匹が出会うとき。事件から9カ月経つも挙げられない犯人を見つけようと、スコットはマギーと組み、捜査を開始する。
私は犬よりも猫派ですが、このマギーはたまらん。しばしばマギー目線で綴られる部分は、有川浩の『旅猫レポート』を思わせます。大切な人を失って、悲しみのどん底にいたマギーがスコットと心をかよわせる過程が良い。また、ミステリーとしても非常に面白く、一言多いけれど人情味のある上司や、そのほか警察関係者も個性豊か。犯人との対峙のシーンは「お願い、スコットもマギーも死なないで」と思わず祈りました。
猫派の私でもやられましたから、犬派の人はもっとたまらんことでしょう。人間を喜ばせるか救うかのためにしか動かない犬たち。べっぴんマギーに私も惚れ込みました。海外ミステリーはなんだか読みづらくて手が伸びないとお思いの方にもお薦めです。 -
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抜き差しならない状況に追い込まれた恐怖を描くことで人間の本性をあぶりだすのがキングという作家。キングの描く「抜き差しならない状況」というのは死に直面することだ。自分の命が危うい恐怖からさらにエスカレートして、相手の命を奪わなければならない状況に陥ったら・・・汗。
勧善懲悪の時代劇でもなく現代は法治国家であるなかで、この本に納められている2編では最終手段をとってしまう。相手はそうされても当然なのですが、なにか引っかかる描き方。どんな理由であれ、相手の命を奪った者が味わうことになる恐怖は「FullDark,No Stars」前半を収めた「1922」に描かれています。これで、無間地獄のようにもとに戻ってしまうという巧妙な構成にもなっており、もうキング凄すぎ!
「悪の行い」を法で裁こうとすることにより、さらに犠牲になってしまう人々をどうしたら良いのか?まったく恐ろしいシチュエーション。 -
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前に読んだ『1922』の分冊。「ビッグ・ドライバー」と「素晴らしき結婚生活」の2編収録。
「ビッグ・ドライバー」は講演の帰りに大男に拉致され暴行を受けた作家が復讐を決意するという話。「素晴らしき結婚生活」は30年近く連れ添った夫が連続殺人鬼であると知った妻の行動の描く話。
どちらも普通の生活を送っていた女性が突如異様で狂気に満ちた状況に身を落とすという点で共通している。そしてどちらの女性も自分ひとりで決断し、きっちり行動に移す。
超常現象はないしホラー要素にしてもさほど強いわけでもない。その分、異様な状況におかれた人間の姿が濃密に描かれていて圧倒される。良い具合にキレのあるキングだった。 -
Posted by ブクログ
久しぶりに,一日で読み終えなかった本。キングは昔から好きだが、これはキングが精神がかなり上にいったのでは?と思うくらい。私の歳くらいだとバンバン出てくる映画やらなにやらは、すっと出てくるが、あまり見ない人は比較が?になりそう。でも多分誰でも知っている範囲とは思うが…
一編一日ずつ読んだ。なかなかえぐさもあるのだが、多分現実からはそう遠くない感情だろう。映画やドラマじゃきれいごとになりそうな。しかし、ヒントを得たところがそれぞれあるとはいえ、これはフィクションだし。私が特に感心するのは、キングが男なのにここまで女性心理を書けること。わかったつもりで書く作家は多いがその域を出ない人がほとんどの中、キングらしい力量だ。
本当に彼の感性は素晴らしい。
相変わらずスピード感ある小説で、一気に読ませてくれる。
また私の中の神経が鋭くなり、ネガティブにもポジティブにもプラスになったそのことは良いのか悪いのかは答えを出さずにおいておこう。