河崎秋子のレビュー一覧
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明治時代中期の北海道石狩川沿いの刑務所での、出自も物事の基準も違う二人の囚人と看守の三人を中心にした話。殺人の罪で服役する同房の大二郎のことを、鎖で繋がれて一緒に外役をする思想犯の巽はなぜか気にして過ごします。同じく普段から冷徹な看守の中田もさりげなく大二郎を監視している様子。脱獄した大二郎の行方を休みをとった中田は、恩赦で放免となった巽を誘い探します。大二郎の最後と殺人の経緯はあまりにも愚かで、そして尊いものでした。
河﨑さんの作品から北海道の歴史や自然を教えてもらっています。樺戸集治監の建物は、今は博物館となっているようなので覗いてみたいものです。 -
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ネタバレ釈迦は、菩提樹の根元で悟りを開いた。そして蔦であるその菩提樹のことを別名「シメゴロシノキ」と呼ぶそうです。
この小説はミサエという女性の一代記ですが、ミサエの孝行先の家族がとにかく酷い人たち。同じ集落に暮らす人々も同様。
ミサエがどんなに努力家で立派な人物であっても、この環境で暮らすうちに、どんどん締め殺されていく・・・
明るいところやカタルシスがほぼないし、長編なので疲れました。
私は、河崎さんのリアリティ表現がとても好きなのですが、それが発揮されたのは娘の自殺を発見したシーン・・・何とも・・・
そして血縁関係がドロドロです。横溝正史かっ!
蔦が巻き付いて、生きながら死んでいく・・・そんな -
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WEB本の雑誌の「オリジナル文庫大賞」の候補作の中から、大賞ではなかったが、選評を読んで良さげに思えたので買ってみた。
200頁あまりの中にお話が2つ。
【鯨の岬】
札幌の二世帯住宅に暮らし共稼ぎの息子夫婦の子どもの面倒を押しつけられた生活に倦んでいる老年の主婦・奈津子が、病気の母を見舞いに行った釧路で思わず乗ってしまった電車で小学生の頃に住んでいた町を訪ねてしまうところから転がるお話。
そこでどんどんと過去の記憶が甦ってきて、かつての捕鯨の町・霧多布での鯨の肉や油や解体や臭いや爆発などについての挿話はなかなか強烈だし、湿原や町の施設の描写には主人公のみならず読んでいるこちらまで日常から離れ -
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『〝クジラ〟強調月間始めました!』4
第4回は、河﨑秋子さんの『鯨の岬』です。
表題作「鯨の岬」の主人公は、初老の主婦・奈津子。孫や夫の世話等で、鬱憤が溜まっています。
ある時奈津子は、腐敗したクジラの腹が発酵して爆発する動画を目にします。クジラの腐敗臭と一緒に遠い記憶が蘇るのでした。
小学生時代に暮らした道東・霧多布の町、クジラの霜降り肉やクジラの油のかりんとう、優しい家族…。温かな思い出が、やがて意識の中のぽっかりと空いた空洞に埋め込まれた衝撃的な記憶につながります。
日々の自分の生活・家族について、独りで静かに見つめ直す意味を示し、前に後押ししてくれる作品だと思えました。性 -
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新しく書き下ろされた表題作に、2012年北海道新聞文学賞受賞作「東陬遺事」の2篇。
「颶風の王」以来注目している河﨑さん。鯨が腐敗して爆発…という驚くべき現象に惹かれて手にした文庫だが、表題作よりも北海道新聞文学賞選考会で別格の力を見せつけて受賞したという「東陬遺事」の方に強く惹かれた。
道東の野付半島を舞台に、ただ生きていくことさえ難しい厳寒の地での人の営みと、動物を含めたその地に生きるものの覚悟や諦念といったものが静かに描かれた作品。
そこには安易な共感や感傷を寄せ付けない厳しさがある。今流行りの「生きにくい世の中」とかいうぬるま湯に浸かったような感傷などはない。
まさに生きるか死ぬか -
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キミヤと熊の戦い、まさに肉弾戦!ボクは現実的な話が好きだが、人間が熊と戦う非現実的な話でも没頭して読んでしまった。人間だって、捨てられた犬たちだって、熊だって、動物たちはみんな必死に生きている。必死に命を繋いでいる。キミヤは、遭難中、体力的に過去にやっていた陸上が活きているといっていた。父親が目の前で熊に殺され、絶望…。この描写はグロテスクだった。キミヤは自分で命を絶とうとすることもあったが、左脚を熊に傷つけられそうになった時、体は反射的に回避。心は死のうと思っても、体は生きようとしている。生きようと思えた発端が陸上をやっていたことだと思うと、辛い過去があっても、やっていた意味は多いにあった。