河崎秋子のレビュー一覧

  • 愚か者の石

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    明治時代中期の北海道石狩川沿いの刑務所での、出自も物事の基準も違う二人の囚人と看守の三人を中心にした話。殺人の罪で服役する同房の大二郎のことを、鎖で繋がれて一緒に外役をする思想犯の巽はなぜか気にして過ごします。同じく普段から冷徹な看守の中田もさりげなく大二郎を監視している様子。脱獄した大二郎の行方を休みをとった中田は、恩赦で放免となった巽を誘い探します。大二郎の最後と殺人の経緯はあまりにも愚かで、そして尊いものでした。
    河﨑さんの作品から北海道の歴史や自然を教えてもらっています。樺戸集治監の建物は、今は博物館となっているようなので覗いてみたいものです。

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    2024年09月30日
  • 銀色のステイヤー

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    一頭の競走馬の成長と、その馬に係わる人々の心情の変化(成長・挑戦)を描いた物語です。馬券を買い求める人だけではなく、生産者・馬主・厩舎・騎手の方々それぞれが馬に賭けて夢を追っているのだと思いました。二本松調教師の先見の明が素晴らしく、自分だけにとどまらず馬や周りの人たちの将来も同時に見据えていて見事です。
    華やかさだけではない、馬の体温や鼻息、そして鼻をつまむような臭いも身近に感じられるようでした。

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    2024年09月23日
  • 鯨の岬

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    内容は悪くないのですが、何を訴えているのかを匂わす雰囲気もなかったため展開が大きく変わってびっくりしました。少々読みづらいと感じました。
    それにしても辛い経験はそんなにキレイサッパリ記憶から消えるものなのでしょうか?共感は難しいと思いました。
    もう一方の短編は、なんのけじめをつけたかったのか、わからない。ただただ悲しい物語と思いました。

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    2024年09月19日
  • 愚か者の石

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    ネタバレ

    網走監獄博物館と弟子屈の硫黄山に行ったことがあるので物語の解像度がかなり高く脳内再生できた。集治監の過酷さは特にリアル。
    物語冒頭から大二郎のキャラクタ的にやむにやまれぬ事情で罪を犯したのだろうなぁと思っていたので、ラストはあまりの救済のなさに切なくなった。1人の子どもが救われたと思えば良いのだけど…
    根底にはとりあえず生きろ!と強いメッセージのある骨太なお話でした。
    一つ不満を挙げるなら本の帯で200ページ分くらいがっつりネタバレしてるのはどうなの?って思ったことくらい。火事で脱走するシーンめちゃくちゃ後半じゃん…

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    2024年09月07日
  • 愚か者の石

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    毎日帰宅が22時近くのいわゆる社畜である私が、程度は違えど囚人と同じような生活してんだな…と内容とは一切関係ない感想を抱いた序盤。
    そこから想像よりも過酷で地獄そのもののような環境におかれても、生きる事を諦めなかった登場人物達はすごいなあと感嘆した
    やっぱ生きようとする力、生命力って大事だな〜
    私なんかすぐ辞めたくなるしな〜と…。

    だからこそ最後の結末は非常にあっけなく、どうにも悲しい気持ちになってしまった。
    ずーっと暗く重たい雰囲気の本だったけど不思議と読み応えがあったので作者さんの他の本も読んでみたいと思う。

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    2024年09月04日
  • 愚か者の石

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    本の雑誌・上半期ベストから。心打たれる優れた作品ってことに異論はなし。ただ、”絞め殺し~”のときにも思ったんだけど、ちょっと疲れるんだな。年のせいで重厚な作品が読めなくなってきているとしたら由々しき事態なんだけど、今のところ、長編や時の細かさ額になる訳でもないので、本作についてはちょっと当たらなそう。ここでもやっぱり、作者との相性なのかな…。あと他に、せめて直木賞受賞作くらいは、と思うんだけど…。

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    2024年09月03日
  • 愚か者の石

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    昭和以後は観光地としてのイメージが強い北海道だが、明治の開拓期にはこんな歴史もあったのかと思わせる作品でした。
    監獄の囚人なお話しなので、基本、暗いのですが、それでもなぜか飽きずに先へ先へと読み進められるのはなぜだろう。この内容から何を感じ取ったらいいのか、時々立ち止まって考えながら読んだのですが、これがなかなか。。。

    最後は大二郎の”生きざま”にフォーカスされて終わるのですが、その点ではとても厳しいお話ではあります。

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    2024年08月31日
  • 銀色のステイヤー

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     ワクワク、ドキドキが何度か襲いかかります。
     芦毛の引き締まってツヤツヤした馬体が目に浮かびます。

    本文より
     デビュー戦で勝利。最終オッズでは十番人気からの単勝万馬券。残った記録は確かに輝かしい。
     しかしその実態は、パドックで馬っ気を出したうえ、返し馬であわや放馬というところまで暴れた。向こう正面で戦略とは思えないかかり方をした上で最後一ハロンをハナ差で抜き返し。

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    2024年08月23日
  • 土に贖う

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    明治時代の札幌で蚕が桑を食べる音を子守唄に育った少女が見つめる父の姿。「未来なんて全て鉈で刻んでしまえればいいのに」(「蛹の家」)。昭和26年、最年少の頭目である吉正が担当している組員のひとり、渡が急死した。「人の旦那、殺してといてこれか」(「土に贖う」)。ミンク養殖、ハッカ栽培、羽毛採取、蹄鉄屋など、道内に興り衰退した産業を悼みながら、生きる意味を冷徹に問う全7編。どの話も良かったのですが、個人的には「うまねむる」が一番好きかな。

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    2024年08月14日
  • 絞め殺しの樹

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    ネタバレ

    釈迦は、菩提樹の根元で悟りを開いた。そして蔦であるその菩提樹のことを別名「シメゴロシノキ」と呼ぶそうです。
    この小説はミサエという女性の一代記ですが、ミサエの孝行先の家族がとにかく酷い人たち。同じ集落に暮らす人々も同様。
    ミサエがどんなに努力家で立派な人物であっても、この環境で暮らすうちに、どんどん締め殺されていく・・・
    明るいところやカタルシスがほぼないし、長編なので疲れました。
    私は、河崎さんのリアリティ表現がとても好きなのですが、それが発揮されたのは娘の自殺を発見したシーン・・・何とも・・・
    そして血縁関係がドロドロです。横溝正史かっ!

    蔦が巻き付いて、生きながら死んでいく・・・そんな

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    2024年04月24日
  • 鯨の岬

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    孫と嫁の描写がリアルでムカムカして出だしがしんどかった。クジラが爆発した映像で笑い転げる孫に、記憶を取り戻した主人公は今後どう接するんだろう。でも、だからといって、何かが変わるわけではないんだろうなぁ。やるせない。しんどい。

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    2024年03月24日
  • 肉弾

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    02月-12。3.5点。
    大学を中退し、引きこもりの主人公。建設会社を経営する暴君のような父親に、北海道での狩猟へ連れ出され。。。

    一気読みした。高校時代の確執もあり、父親が苦手な主人公、成長物語でもある。著者の動物に対する描写が秀逸で、非常にリアル。

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    2024年02月26日
  • 鯨の岬

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    WEB本の雑誌の「オリジナル文庫大賞」の候補作の中から、大賞ではなかったが、選評を読んで良さげに思えたので買ってみた。
    200頁あまりの中にお話が2つ。

    【鯨の岬】
    札幌の二世帯住宅に暮らし共稼ぎの息子夫婦の子どもの面倒を押しつけられた生活に倦んでいる老年の主婦・奈津子が、病気の母を見舞いに行った釧路で思わず乗ってしまった電車で小学生の頃に住んでいた町を訪ねてしまうところから転がるお話。
    そこでどんどんと過去の記憶が甦ってきて、かつての捕鯨の町・霧多布での鯨の肉や油や解体や臭いや爆発などについての挿話はなかなか強烈だし、湿原や町の施設の描写には主人公のみならず読んでいるこちらまで日常から離れ

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    2023年01月25日
  • 鯨の岬

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     『〝クジラ〟強調月間始めました!』4

     第4回は、河﨑秋子さんの『鯨の岬』です。
     表題作「鯨の岬」の主人公は、初老の主婦・奈津子。孫や夫の世話等で、鬱憤が溜まっています。
     ある時奈津子は、腐敗したクジラの腹が発酵して爆発する動画を目にします。クジラの腐敗臭と一緒に遠い記憶が蘇るのでした。
     小学生時代に暮らした道東・霧多布の町、クジラの霜降り肉やクジラの油のかりんとう、優しい家族…。温かな思い出が、やがて意識の中のぽっかりと空いた空洞に埋め込まれた衝撃的な記憶につながります。
     日々の自分の生活・家族について、独りで静かに見つめ直す意味を示し、前に後押ししてくれる作品だと思えました。性

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    2022年10月29日
  • 鯨の岬

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    新しく書き下ろされた表題作に、2012年北海道新聞文学賞受賞作「東陬遺事」の2篇。

    「颶風の王」以来注目している河﨑さん。鯨が腐敗して爆発…という驚くべき現象に惹かれて手にした文庫だが、表題作よりも北海道新聞文学賞選考会で別格の力を見せつけて受賞したという「東陬遺事」の方に強く惹かれた。

    道東の野付半島を舞台に、ただ生きていくことさえ難しい厳寒の地での人の営みと、動物を含めたその地に生きるものの覚悟や諦念といったものが静かに描かれた作品。
    そこには安易な共感や感傷を寄せ付けない厳しさがある。今流行りの「生きにくい世の中」とかいうぬるま湯に浸かったような感傷などはない。
    まさに生きるか死ぬか

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    2022年08月04日
  • 肉弾

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    多少無理のあるストーリーだけど生きるか死ぬかをかけた戦いには惹きつけるものがあった。
    後半にいくにつれて良くなってきた。
    前半はちょっとなんの物語か見失いそうになったときもあった。

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    2022年04月01日
  • 肉弾

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    キミヤと熊の戦い、まさに肉弾戦!ボクは現実的な話が好きだが、人間が熊と戦う非現実的な話でも没頭して読んでしまった。人間だって、捨てられた犬たちだって、熊だって、動物たちはみんな必死に生きている。必死に命を繋いでいる。キミヤは、遭難中、体力的に過去にやっていた陸上が活きているといっていた。父親が目の前で熊に殺され、絶望…。この描写はグロテスクだった。キミヤは自分で命を絶とうとすることもあったが、左脚を熊に傷つけられそうになった時、体は反射的に回避。心は死のうと思っても、体は生きようとしている。生きようと思えた発端が陸上をやっていたことだと思うと、辛い過去があっても、やっていた意味は多いにあった。

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    2021年12月13日