河崎秋子のレビュー一覧
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明治18年、北海道月形町の「樺戸集治監」に収監された巽と大二郎。凄絶な服役生活の中にあって、大二郎の明るさだけが巽の救いだった。そんな大二郎が火事に乗じて脱獄する。残された巽は割り切れない思いと怒りを抱きながらも模範囚となって服役し、12年後恩赦により仮放免される。札幌でその日暮らしをする巽の元を訪れたのは、彼らの担当看守だった中田だった。
北の開拓地での囚人たちの地獄のような苦役。死と隣り合わせの房生活。非人道的な扱いがこれでもかと描かれる前半。そんな中にあって、大二郎の憎めなさに救われる。
巽と大二郎と看守の中田、この3人の間にある立場を超えた思いが物語に深みを増す。
大二郎が隠し持 -
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明治あたりから現代に至るまでの北海道の産業の栄枯盛衰。それに携わった人々の喜びや悲哀が書かれてる短編集。
中でも、羽毛や毛皮を採るために動物を殺す職業の、動物は生きてるだけではなんの価値も無い、こうやって羽をむしって売ることで価値を付けてやってるんだという考え方。人間はどこまで傲慢なんだと思う一方で、現代だって羽毛布団を使い、革の靴を履き、蚕を殺した絹を纏っているじゃないか。なんの変わりもない。
産業の廃れによって、人知れず堕ちて行った人々。その怒りや感情や諦めた希望が、最後の「温む骨」の頭骨に宿る。
ここに集結させるという河崎秋子の筆力に感服。
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ステイヤー(stayer)は競馬用語で長距離レースの得意な馬のことだそうです。
北海道・静内の小さな生産牧場で誕生した葦毛(白っぽい毛並)の競走馬・シルバーファーンが持ち前の負けず嫌いでクラシックを制覇し、そのヤンチャっぷりで人気馬となり、6歳の引退レースまでを描いた作品。
人物像が見事。男性陣も良いのだけど、特に女性たちが良い。自ら鉄子を名乗る調教助手の大橋姫菜、生産牧場の先代の奥さんで今は専務の社長の倍おっかない千恵子、馬が好きすぎて周りと摩擦ばかり起こす従業員のアヤこと綾小路雛子、馬主でやり手の広瀬夫人。それぞれに癖があって、でも根っこで良い人。
『颶風の王』『肉弾』に代表されるような、 -
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ネタバレ芦毛の馬は昔から好きで、何で好きなのか考えるとやはり目を引くからだと思う。そして、ドラ夫と同じようにヤンチャで気まぐれな乗馬クラブにいた芦毛の馬を思い出して懐かしくなった。
大人しくて言うことをよく聞いてくれる優等生な馬ももちろん可愛いが、ヤンチャで騎乗者を無視するが負けん気は強くやたら人間らしい馬(ドラ夫)はもっと可愛い。手のかかった子ほど可愛いと言うのは、こう言うことなのだろうか。
馬だけでなく、登場人物も良かった。ドラ夫の生産牧場のオーナーは良い馬を生産したいという飾らない気持ちを持っているのが良い。問題児のアヤはオーナーにも楯突くし、なかなか大変な性格ではあるが、間違いなく馬が好き -
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「肉弾」で大藪春彦賞受賞後の作品。実はその作品は余りいい読後とならなったので、今回は・・と恐る恐る頁を捲る。
よかった・・・
北海道を訪れるたびに目にする自然の、遠景、そして情趣の背後にちらちらする滅びて行ったかつての産業。無論、朽ちて行った自然のみならず、国の殖産興業の掛け声のもとにぼろ布のような扱いを受けて去って行った人々の命も脳裏をよぎる。
7つの短編は種々の雑誌に掲載されたもの。
40歳代かかりの筆者が資料駆使のみならず、耳で聞き、目で確かめて地歩を固めて綴って行った珠玉の煌めきを持つ掌品の手触り。
養蚕、競走馬、渡り鳥、薄荷、煉瓦、野幌土・・題材は動植物にとどまらず、生きる人々 -
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河﨑秋子さんの初期の作品ということで、興味を持ち読んでいる間に直木賞受賞となりタイムリー?な読書でした。
「鯨の岬」は出だしからもう磯の匂いや魚の匂いがゴメの声と共に立ち上ってくるような描写。五感を刺激されるようなつかみ。
主人公がショートトリップに出向いた展開からなにか楽しい展開になるのかななどとのんびり読んでいたけれど、最後には思いもよらないところへ連れて行かれて絶句。こんな始まり方の河﨑さんの作品が、そんなのんきな小説であるはずないのに。それにしても…。鯨の肉を目にしたらこれからはこの小説を思い出しそうです。
「東陬遺事」北海道文学賞を受賞されたということでずっと読んでみたかった一作。