河崎秋子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
070129 #銀色のステイヤー #河﨑秋子
河﨑秋子さんのエグさやドロドロさは影を潜め、疾走感のある爽やかな物語だ。主人公はシルバーファーンというヤンチャな芦毛馬。世話する人たちを翻弄しながら競走馬として成長していく。馬に関わる登場人物がみんな魅力的だ。競馬というギャンブルの世界を描くので男性主体に思えるが、この物語は一癖ある女性たちが活躍する。生産牧場で馬を育てたアヤ、厩舎で調教を担当した鉄子、初めて馬主になった広瀬夫人、牧場のゴッドマザー千恵子の存在も忘れてはいけない。競馬はさほど詳しくないがG1レースで勝利したシーンは感動で胸が熱くなった。 -
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羊飼い、兼作家であった著者の自伝的な本。この本読んだ後、北海道産の羊(サフォーク)を買って食べた。うまかった。日本で羊がマイナーな肉になっているの、もったいないなあ。
一番印象的なエピソード、としてはズレているのかもしれないが、自称羊飼いと言われて著者がキレたところが心に残っている。自分の仕事の扱われ方に関して憤れるというのはかっこいい。ともすると、自分自身でさえ、自分の仕事をどう表現すればいいのか分からなくなることもあるというのに。
荒川弘さんの「百姓貴族」と繋がるところがあって面白かった。経済動物を飼うことのシビアさとか。そもそも経済動物という言葉自体、これらの作品を読むまで知らなかった言 -
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河崎さんの作品はいつも疾走している。
ラスト、芦毛のファーンが観客の声援を受けて。。美しい!
装丁にも惹かれた・・芦毛という競走馬で言われる用語の意味も初めて知った。
ストーリー的には競場用の馬の生産牧場が舞台。
そこに人生をかける男女~先代社長夫人、専務、調教助手、スタッフ・・そして意外な輝きを見せてくれる馬主。
男性陣より女性陣にスポットが当たっていた気がした。
競馬は無論、馬牧場の事はからっきし無知な私でも楽しめる構成になっており、さらっとした読後感。
時にはあくの強い、臭味きつい河崎ものにしては爽やか系といったところかな。
表題のステイヤー・・父馬のシダロングラン、母馬のドラちゃ -
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明治18年、北海道月形町の「樺戸集治監」に収監された巽と大二郎。凄絶な服役生活の中にあって、大二郎の明るさだけが巽の救いだった。そんな大二郎が火事に乗じて脱獄する。残された巽は割り切れない思いと怒りを抱きながらも模範囚となって服役し、12年後恩赦により仮放免される。札幌でその日暮らしをする巽の元を訪れたのは、彼らの担当看守だった中田だった。
北の開拓地での囚人たちの地獄のような苦役。死と隣り合わせの房生活。非人道的な扱いがこれでもかと描かれる前半。そんな中にあって、大二郎の憎めなさに救われる。
巽と大二郎と看守の中田、この3人の間にある立場を超えた思いが物語に深みを増す。
大二郎が隠し持 -
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明治あたりから現代に至るまでの北海道の産業の栄枯盛衰。それに携わった人々の喜びや悲哀が書かれてる短編集。
中でも、羽毛や毛皮を採るために動物を殺す職業の、動物は生きてるだけではなんの価値も無い、こうやって羽をむしって売ることで価値を付けてやってるんだという考え方。人間はどこまで傲慢なんだと思う一方で、現代だって羽毛布団を使い、革の靴を履き、蚕を殺した絹を纏っているじゃないか。なんの変わりもない。
産業の廃れによって、人知れず堕ちて行った人々。その怒りや感情や諦めた希望が、最後の「温む骨」の頭骨に宿る。
ここに集結させるという河崎秋子の筆力に感服。
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ステイヤー(stayer)は競馬用語で長距離レースの得意な馬のことだそうです。
北海道・静内の小さな生産牧場で誕生した葦毛(白っぽい毛並)の競走馬・シルバーファーンが持ち前の負けず嫌いでクラシックを制覇し、そのヤンチャっぷりで人気馬となり、6歳の引退レースまでを描いた作品。
人物像が見事。男性陣も良いのだけど、特に女性たちが良い。自ら鉄子を名乗る調教助手の大橋姫菜、生産牧場の先代の奥さんで今は専務の社長の倍おっかない千恵子、馬が好きすぎて周りと摩擦ばかり起こす従業員のアヤこと綾小路雛子、馬主でやり手の広瀬夫人。それぞれに癖があって、でも根っこで良い人。
『颶風の王』『肉弾』に代表されるような、