河崎秋子のレビュー一覧
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河﨑秋子『鯨の岬』集英社文庫。
表題作で書き下ろしの『鯨の岬』と第46回北海道新聞文学賞受賞作の『東陬遺事』の2編を収録した作品。
河﨑秋子は個人的に注目している作家の一人である。静謐な文章の中に感じる不思議な自然の力と人間の運命の機敏。そんな作品を描き続ける河﨑秋子から目が離せない。
『鯨の岬』。安穏で無為な日常と幼い頃の記憶。どこかでねじ曲げられた記憶が再び甦る時、全てを知ることになる主人公に驚愕させられた。見事なプロットと結末。札幌に暮らす主婦の奈津子はある時、孫からYouTubeで鯨が腐敗爆発する動画を見せられ、幼い頃の鯨の血の臭いを思い出す。後日、釧路の施設に居る母を訪ねる途中 -
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河崎秋子『肉弾』角川文庫。
第21回大藪春彦賞受賞作。過激な自然との闘いを通じて一人の青年の再生していく姿を描いた作品である。『颶風の王』も良かったが本作も非常に良かった。
羆物ジャンルの新たな傑作と呼んでも良いだろう。しかし、本作はただの羆物には止まらず、さらなる物語を秘め、他の羆物を超えるリアリティと深さがある。
暴君のような父親のせいで人生に躓き、大学を休学し、ニート生活を送っていた貴美也は父親に北海道での鹿撃ちに連れ出される。山深く分け入った二人は突然、羆の襲撃を受け、父親が貴美也の目の前で撲殺される。その時、野犬の群が羆に襲いかかり、さらに野犬たちは貴美也を襲う……
羆の恐怖 -
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『ともぐい』で直木賞を受賞した河﨑秋子のファミリーヒストリー(『青春と読書』2023.9〜2024.8に掲載したものに加筆修正)
十五年間ずっと寝たきりである父親のことを中心に、河﨑家の400年に渡る歴史をたどった著者。北海道民の通例として、先祖は本州から来ているが、ルーツは加賀藩や大阪にあった。
加賀藩では加賀八家(はっか)本多家に仕えていたそう。
また、祖父は満州から引き上げた後、どういうわけか、酪農家を目指して大阪から北海道に渡るのだが、そのわけは最終章で腑に落ちる。
365日1日たりとも休めない、過酷な労働である酪農業。最近はヘルパー制度というものもできたそうだが、経営も難しく、 -
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金沢で武士だった先祖は維新後、主家が愛媛県で知事になったので一家で西条に移住した/祖父・昇は川﨑家に養子に入り薬剤師となり旧満州に移住し、大連のお嬢尾様育ち祖母と結ばれ、戦後幸運に4子を含む一家無事に帰日でき、大阪に居を構えたが、長男次男が高校卒業する頃、北海道で営農したいと思ったようで、男兄弟三人を帯広畜産大学に進学させた/卒業後、長男・章は農業機械会社に就職、三男・繁は農業の勉強をしにアメリカへ。次男・崇は、公務員だが農業改良普及員。数年おきに道内での転勤があるが、畑作地域なら、果樹栽培ある道南、酪農地帯ならと、そのたびに勉強し直さなければならないなかなかハードな仕事である。
著者は子 -
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主に北海道で、厳しい環境を生き抜くために生き物たちの生命を奪い利用していく人々の功罪ある生き様と、時代の流れに抗えず消えていく生業の姿を描く短編集。蚕、ミンク、ハッカ、農耕馬と、人間たちによって北の大地に移入された生命は共生のような形で繁栄してやがて衰退していく。
未開の原野だからこそ、無尽蔵とも思える自然資源から換金性の高い生産物を栽培する開拓民たち。貧しさからやがて泡のような豊かさを得て、それが滅びへの萌芽となる。人間の業とも呼べる様は儚くも悲しい。他の生命を貪って生きる人間たちは、現代社会に生きる我々も例外ではなく、罪悪感を漂白する仕組みが整っているだけだ。
土から離れ、死からも遠く -
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「私たちは命をいただいている」とかよく言われるけど、それを実感できている人ってどれくらいいるんだろう。
そんなことを言われる時って、感謝しなければいけないってニュアンスが多分に含まれている気がするけど、このエッセイでは動物の肉を食べることが人間の性の営みの中で行われるごく自然な作業として描かれている。
感謝をしていないということでは決してなく、あらためて感謝せずとも日々の食べる行為の中に自然に感謝の思いが寄り添っているというか。
家畜や農作物を育てることと食べることの距離が近いと、生きることがシンプルになる気がした。
実際はとても大変な作業なんだろうけど。 -
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作家河﨑秋子さんが『父が牛飼いになった理由』を知るのと同時に、自らのルーツについても調べながら、日々の暮らしや酪農農家の現状や想いを綴るノンフィクションとなっております
これね、河﨑秋子さんファンの人に是非ともおすすめしたい
小説のあの骨太な文章からは一切想像できない、軽くてユーモラスな語り口
言葉選びもおしゃれなんだわ〜
もちろん素の河﨑さんはこっちなんだろうけど、ギャップ萌え必須w
このルーツ探しが、なんていうか自分を知る旅って感じなのよね
当たり前なんだけど自分の血肉ってご先祖様たちから出来てるんだろうなぁなんてことを思ったのと
あらためて亡くなった父との共通点に思いをはせるわたく -
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明治18年…樺戸集治監
瀬戸内巽の牢獄での地獄が始まった
物語の大半は監獄生活の描写なのだが、外役と言う厳しい労働、僅かで粗末な食事…キツい(꒪⌓︎꒪)
そんな過酷な中で出会い共に生き抜いてそれなりに心を許し合ったと思っていた大二郎が脱獄!
何故?何も気づかなかった…
大二郎にとって自分は何だったのか?
そして後半で大二郎の行方を探すことになってからが俄然面白くなる‹‹\(´ω` )/››
看守の中田が二人の担当として登場するのだけど
すごく良い!
巽、大二郎、中田のキャラが良いから、キツくて暗い話もサラッと入り込む。
ラーゲリのニノを思い出してウルウルしたり
大二郎の軽さがゴールデンカ -
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『ともぐい』が強烈だったので、どんな方が書かれたのか興味があった。
北海道の酪農家の家で育ち、一人で羊飼いを数年やった…動物の解体・精肉をこなすことができる。なるほどそうか、そういう方が書かれたのだなぁと納得がいった。
NZに羊飼い修行に行くなどものすごいバイタリティの持ち主。父親の介護、フルマラソン、小説執筆。そして羊飼い廃業。
河崎さんは、小学生が家畜を飼い、成長させてやがて食に供する「いのちの授業」に強烈な違和感を抱くという。
p191 食育としてもクラスの団結のためにも良い取り組みのように思える。しかしだ。少なくとも、現行の日本の義務教育学校の仕組みで、その理念がゆがまずに子どもたち