河崎秋子のレビュー一覧
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ふと手に取ったら、またも北海道を拠点にしている女性作家だった。桜井紫乃とか谷村志穂とか、そしてこの河﨑秋子とか、北海道は骨太な物語を生む女性作家が多いなという印象。
この文庫本には表題作とデビュー作の「東郰遺事」の2編が入っている。いわば平凡な主婦がふと日常をエスケープして幼時の忘れていた思い出がよみがってくる「鯨の岬」と、江戸時代に北海道に来た武士の目からこの地に住む人々を描く「東郰遺事」とは大きく赴きが違うんだけど、同じ作家の手になるとすると何だかうなずけるような感じがする。北の地に生きる人ならではの真摯で熱い感情が表れているとでもいうのか……それって北海道の外に住む者の勝手な感傷かもしれ -
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農繁期に読んで、そのままになっていた。
時間をかけないとと記録しておけない内容だったので、ここに河崎秋子作品をまとめて。
幼馴染と母親の介護の話を、鯨を絡めて語ることを、誰が考えつくだろうか。しかもその鯨は爆発するのだ。北海道の道東に住み、この景色を見て育ち、牛や羊を育て、屠り、人に出逢いながら人生を積み重ねてきたものでないとできない発想だと思う。
しかし、話はいたって穏やかにすすむ。夫も孫もいる奈津子は、普段の生活を離れて、母の施設を訪問する。札幌から釧路までの4時間を、電車の中で読書で過ごし、面会して、帰ってくる。その日常が突然、鯨の記憶によって覆る・・・。
(鯨の岬)
野付に設けられ -
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河﨑秋子『土に贖う』集英社文庫。
第39回新田次郎文学賞受賞作。北海道を舞台にした7編の短編を収録。
いずれも自然を相手に北の大地で必死に働きながらも、時代の波には逆らえずに敗者となった人びとの物語だ。いつも陽が当たる勝者に対して、敗者はいつも日陰の存在というのが世の常である。この短編集の中で、そんな敗者にも陽の光を当てようとする著者の思惑は見事に昇華されている。
やはり、河﨑秋子はただ者ではない。
『蛹の家』。明治時代の札幌で養蚕を営む一家が夢破れる過程を描いた物語。養蚕に精を出す父親の姿を見詰めながら育つ少女が少しずつ知る厳しい社会の現実。一つの産業が根付きながら、廃れ去る過程とい -
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ネタバレなんだかものすごい作品を読んでしまったぞ
言葉で解説なんてできないけど、心がすごいと言っている、そんな感じ
今から言葉で感想を書くんだけどもさ(笑
『鯨の岬』
普段ミステリを中心に読んでいるので、そういった方面からの驚きもあってびっくりした
冒頭の、鯨爆発動画を見て笑う孫とそれに嫌悪感を抱く祖母、これがミステリ的伏線だったなんて……
ふとしたきっかけで目的地とは違う行先の電車に乗ってしまうとか、そんな展開と合わせて「あーはいはい、自分の生き方を見つめる的なお話なのかな」なんて思っていたら、命のお話になるとは
……命というか、死者への祈りや自分の内面への探求とか、そんなものを感じました
冷たい -
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河﨑秋子『鯨の岬』集英社文庫。
表題作で書き下ろしの『鯨の岬』と第46回北海道新聞文学賞受賞作の『東陬遺事』の2編を収録した作品。
河﨑秋子は個人的に注目している作家の一人である。静謐な文章の中に感じる不思議な自然の力と人間の運命の機敏。そんな作品を描き続ける河﨑秋子から目が離せない。
『鯨の岬』。安穏で無為な日常と幼い頃の記憶。どこかでねじ曲げられた記憶が再び甦る時、全てを知ることになる主人公に驚愕させられた。見事なプロットと結末。札幌に暮らす主婦の奈津子はある時、孫からYouTubeで鯨が腐敗爆発する動画を見せられ、幼い頃の鯨の血の臭いを思い出す。後日、釧路の施設に居る母を訪ねる途中 -
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ネタバレ北海道 道東の酪農家で育ち、羊飼いをしていた著者が描く、馬をめぐる骨太な物語。
6世代に渡る物語だが、章立ては明治の開拓移住前の女、昭和のその孫娘、平成のそのまた孫娘と3人の女性を中心に書く。
家族と馬の物語であり、根室の土地の物語でもある。
道東のあの土地に暮らした生活体験に根ざした魂が感じられ、非常に読み応えがあった。
人間は自然のちからに「及ばぬ」。及ばぬ、と思うのは常に人間が自然に挑んでいるからこそであって、他の動物はそうではない……というのが、キーになっている。著者はインタビューで生活から感じたことと述べており、なるほど書き方が実感あってのものと見え、とても魅力的だった。
6世代分 -
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河崎秋子『肉弾』角川文庫。
第21回大藪春彦賞受賞作。過激な自然との闘いを通じて一人の青年の再生していく姿を描いた作品である。『颶風の王』も良かったが本作も非常に良かった。
羆物ジャンルの新たな傑作と呼んでも良いだろう。しかし、本作はただの羆物には止まらず、さらなる物語を秘め、他の羆物を超えるリアリティと深さがある。
暴君のような父親のせいで人生に躓き、大学を休学し、ニート生活を送っていた貴美也は父親に北海道での鹿撃ちに連れ出される。山深く分け入った二人は突然、羆の襲撃を受け、父親が貴美也の目の前で撲殺される。その時、野犬の群が羆に襲いかかり、さらに野犬たちは貴美也を襲う……
羆の恐怖 -
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河崎秋子『颶風の王』角川文庫。
久し振りに良い小説、正統派の小説というものを堪能した。中編ながら長編大河小説のような読み応えのある作品だった。また、忘れかけていた先祖への尊敬の念を思い出させてくれると共に、今の自分が在ることの理由を考えるきっかけを与えてくれた。
明治期の東北で許されぬ関係となったミネと吉治は牡馬アオと共に村から出奔する。吉治は追手に撲殺され、山越えの道中でアオと共に雪洞に閉じ込められた妊婦のミネは正気を失い、生きるためにアオを食べる。奇跡的に救出されたミネは捨造と名付ける男の子を出産する。そこから始まるミネの末裔一族と馬の関わり……後に捨造は1頭の馬を伴い北海道に渡る。時 -
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お父様への想いが伝わってくる。
お父様が大好きなんだろうな。
介護がいかに大変だったか、全くクドクド書かれてないけれど、文字に起こして語らなくても、大変さや葛藤が伝わってきた。
変わってしまったお父さんを受け入れるのに、きっと時間がかかったのだろうと思う。
あの時、ああしていれば・・・私も何度も後悔がループする時ある。
この本は、お父様へ向けて書かれた本なのだろう。
私と河﨑秋子さんの共通点、共感点がたくさんあって、何だか感激しつつ、現実を見ると「羊飼い」の「直木賞作家」さんと同じ土俵に上がれないことに気がつく。そして、私と河﨑秋子さんの才能の落差に唖然とする。
仕方がない、遺伝っ