河崎秋子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「生きることは、まだ許されている」
明治18年、樺戸集治監に収監された国事犯・瀬戸内巽。虚実混じる法螺話で場を惑わす同房の山本大二郎。
吹雪の遭難を経て送られた道東・標茶の硫黄山は、亜硫酸ガスが眼や肺を侵す酷寒の地獄だった。
当時の富国強兵のために使い捨ての部品のように削られていく囚人たち。北海道出身の作者が暗に示したかった意図が少し透けて見えるようだ。
やがて火災に乗じて姿を消した大二郎の影を、仮放免となった巽はかつての看守・中田とともに追うことになる。
過酷な囚人の人生と、それを静かに監視し仕事を全うした男。激しい物語であるはずなのに、不思議なほど心静かに読み進められる。
それは著者が余計な物語を一切作らず、ただ巽、大二郎、中田という3人の男の動きだけに削ぎ落としたからに相違ない。
安易な答えや解決といった帰結を作らない。
人の生きる道は豆腐の角のようにキレイな四角にはならず、ただそこにある現実を生きていくしかないという理。
過飾を排し、人間の生きる歩みそのものをまっすぐ見つめた、静かな深い余韻が胸に残る作品だった。 -
Posted by ブクログ
◼️ 河﨑秋子「ともぐい」
繰り返されるのかなと。既視感。熊ものは好きだけど、乗り切れなかった。直木賞。
熊、熊猟の書きもの、好きで良く読みます。星野道夫のアラスカの熊、吉村昭「羆嵐」、最近でいえば西村武重「ヒグマとの戦い ある老狩猟家の手記」。ほかもろもろ。で、インパクトがあった作品といえば熊谷達也「邂逅の森」です。自分の本懐、本当の姿は熊猟師だと信じた男の話。
この作品も似ているところがあります。思うに、熊猟という題材は日本の国に根付いているもので、猛獣の怖さ、命を賭した猟の迫力と命を守るための専門性、荒っぽさ、命と向き合うこと、自然への畏怖と理解、など何かを訴える力があるのではと思います。なので、手法やテーマを変えて取り上げられるのではないかと。
熊爪は北海道・白糠の町から歩いて1日ほどの山小屋に住む猟師。熊の肝や獣の毛皮、肉、山菜などを町で売って金を稼ぎ銃弾や必要なものを買う。大きな商家の主人・良輔は熊爪を快く迎え入れていたが、家には不穏な空気が漂っていた。熊爪はその家に住む盲目の少女・陽子と出逢う。やがて冬にも冬眠しない"穴持たず"の熊を狩ろうとして、大怪我を負ってしまうー。
予想外の展開。目の前で繰り広げられた野生に救われる主人公。そして宿願を果たす寸前で外される。
「ともぐい」というタイトルのテーマは盛り込まれていると思う。予想外の展開も好みだ。
猟師であることにひたすら徹し、人間界のことは煩わしいと思う熊爪。粗く、研ぎ澄まされる。だから感じ方も違うし、人に媚びない。孤独なぞものともしない。逆に言えば、新鮮さを生み出すためのキャラクター設定だと思う。
本読みをしていると、肯定するタームと、否定するターム、あれこれ気に入らない時期がある。最近ちょっと後者の気がある。
うまく作ろうとしているのが見える気がする。取材したものを提示したいという気配がする。この題材に既視感があるからか、物足りない。描写が足りず、簡単に済んでいるとこがあるようだと、なんか受容するのをためらっている自分がいる。自分は熊ものを知っている、と奢っているのもあるだろう。失って、そのままで、なぜか分かんないような最期を遂げて、エピローグもさらっと。
熊も熊猟も、自然への畏怖を読むのも、詳しい動植物の知識も大いにそそられ、楽しかった。しかし物語的には、集中して読んだわりに、もうひとつ、もうふたつ、私には満足感の欠ける作品だったかな。