河崎秋子のレビュー一覧
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ネタバレなんとも言えない読後感だが、後半1/3 がとても良かったので星5つに。
初めの方は飽きてしまい、どうしてそんなに評価高いのか不思議ではあったが、淡々と読み進めると、樺戸集治監の看守中田と、大二郎と、瀬戸内巽たつみ。この3人の三者三様の生き様がよかった。
東京大学で学徒の運動員に関わり、国事犯として徒刑13年の巽。たまたま隣にいた山本大二郎と部屋も同じ、鎖で繋がれる仲になり、いい加減な軽口で嘘つきの大二郎に心を許していく。硫黄の採掘で過酷な釧路集治監へ移送される途中の吹雪では生死を分ける体験を共にして、小さな絆のようなものが生まれる。
釧路は過酷で日に何人も亡くなっていく状態…あまりの酷さに -
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明治14年、国立の監獄「樺戸集治監」が建設された。
政治犯や重罪犯が収監され、開拓のための厳しい労役を強いられた。
囚人と言っても罪の重さもそれぞれ違う。
明治18年、学生だった巽は国事犯として収監。
労役では2人1組で鎖に繋がれる。
巽の相手は大二郎という男。
ふたりを殺めた罪で収監されているというが
掴みどころがなくどのような人物なのかはっきりしない。
看守の中田もストーリーの軸となる。
過酷というひと言では言い表せないほどの労役。
河﨑秋子さんの作品は「生きる」ことへの執着が描かれる。
本作も、汗臭く泥にまみれ、労役で硫黄に侵されながらも
懸命に生きる人たちが描かれている。
本作で -
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河崎秋子『絞め殺しの樹』小学館文庫。
戦中から戦後の厳しい時代から昭和までの北海道の道東、根室を舞台にした母子二代にわたる大河小説。第一部は橋宮ミサエの物語で、第二部はミサエの息子で吉岡家に養子に出された雄介の物語という構成になっている。
健気なミサエの余りにも過酷な境遇に胸を抉られるような思いで読み進む。そして、実の母親のミサエの顔も知らぬままに吉岡家の養子となった実の息子が懸命に生きながら、自身の進むべき道を切り開いていく姿に胸が熱くなった。
時折、姿を見せる白猫。その飼い主だけが、ミサエと雄介の味方のように描かれていたのが印象に残る。
タイトルの『絞め殺しの樹』とは菩提樹のことで -
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ネタバレ舞台は北海道。
茨城からきた父と引きこもりの息子キミヤが狩猟に出かける。
引きこもりがちの息子は銃器の資格を取ったものの初めての猟。
豪放磊落な父は強引に禁猟地に入り込み熊を狙うも、
運悪く鉢合わせたヒグマに襲われる。
ヒグマと揉み合ううち野犬の群れも絡んできて
なんとか逃走することに成功
キミヤは父への屈託があったものの、
自殺を思いとどまり、父の仇のヒグマを倒すことを決意。
襲ってきた野犬のリーダーの喉に噛みつき屈服させ、群れの仲間と認められ
野犬と共にヒグマに対峙する。
父の遺体の土饅頭から遺体を掘り出して熊の怒りを買うが、
野犬と知恵と武器、自分の身体でヒグマに立ち向かう。
傷を -
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ふと手に取ったら、またも北海道を拠点にしている女性作家だった。桜井紫乃とか谷村志穂とか、そしてこの河﨑秋子とか、北海道は骨太な物語を生む女性作家が多いなという印象。
この文庫本には表題作とデビュー作の「東郰遺事」の2編が入っている。いわば平凡な主婦がふと日常をエスケープして幼時の忘れていた思い出がよみがってくる「鯨の岬」と、江戸時代に北海道に来た武士の目からこの地に住む人々を描く「東郰遺事」とは大きく赴きが違うんだけど、同じ作家の手になるとすると何だかうなずけるような感じがする。北の地に生きる人ならではの真摯で熱い感情が表れているとでもいうのか……それって北海道の外に住む者の勝手な感傷かもしれ -
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農繁期に読んで、そのままになっていた。
時間をかけないとと記録しておけない内容だったので、ここに河崎秋子作品をまとめて。
幼馴染と母親の介護の話を、鯨を絡めて語ることを、誰が考えつくだろうか。しかもその鯨は爆発するのだ。北海道の道東に住み、この景色を見て育ち、牛や羊を育て、屠り、人に出逢いながら人生を積み重ねてきたものでないとできない発想だと思う。
しかし、話はいたって穏やかにすすむ。夫も孫もいる奈津子は、普段の生活を離れて、母の施設を訪問する。札幌から釧路までの4時間を、電車の中で読書で過ごし、面会して、帰ってくる。その日常が突然、鯨の記憶によって覆る・・・。
(鯨の岬)
野付に設けられ -
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河﨑秋子『土に贖う』集英社文庫。
第39回新田次郎文学賞受賞作。北海道を舞台にした7編の短編を収録。
いずれも自然を相手に北の大地で必死に働きながらも、時代の波には逆らえずに敗者となった人びとの物語だ。いつも陽が当たる勝者に対して、敗者はいつも日陰の存在というのが世の常である。この短編集の中で、そんな敗者にも陽の光を当てようとする著者の思惑は見事に昇華されている。
やはり、河﨑秋子はただ者ではない。
『蛹の家』。明治時代の札幌で養蚕を営む一家が夢破れる過程を描いた物語。養蚕に精を出す父親の姿を見詰めながら育つ少女が少しずつ知る厳しい社会の現実。一つの産業が根付きながら、廃れ去る過程とい -
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ネタバレなんだかものすごい作品を読んでしまったぞ
言葉で解説なんてできないけど、心がすごいと言っている、そんな感じ
今から言葉で感想を書くんだけどもさ(笑
『鯨の岬』
普段ミステリを中心に読んでいるので、そういった方面からの驚きもあってびっくりした
冒頭の、鯨爆発動画を見て笑う孫とそれに嫌悪感を抱く祖母、これがミステリ的伏線だったなんて……
ふとしたきっかけで目的地とは違う行先の電車に乗ってしまうとか、そんな展開と合わせて「あーはいはい、自分の生き方を見つめる的なお話なのかな」なんて思っていたら、命のお話になるとは
……命というか、死者への祈りや自分の内面への探求とか、そんなものを感じました
冷たい