田野大輔のレビュー一覧
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ナチスの政策の中で「それでもこれは良いことだった」と言う人のいるもの(経済、家族、環境、健康政策など)について考察を加えた本。それらについても、ナチスの大目的である「戦争による国土の拡大」「選ばれた民族だけによる共同体の構築」に特化された歪んだものだったことがわかる。そして「おわりに」が必読。人々が「良いこともあった」と言いたくなるのはなぜか、それに対して専門家はどう関わるべきか、について書いている。これはすべての学問分野について深く考えるべき話。
その上で、この本のタイトルは「良いこともしたのか? いや、していない」という意味だと解釈されるのが普通で(実際そういう内容)、そうやって全否定され -
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ブックレットなので読みやすいが、ナチズムに関する骨太な研究が背後に横たわっている。
なぜ「ナチスは良いこともした」と言いたがる人が跡を絶たないのか?実態を調べたのか?調べもせず「信じたい」気持ちだけで「良いこともした」と言いたがるのは知的怠慢である。
これもバックラッシュの一種なのだろうか。
ナチズムを擁護する、自分の頭で考えない、歴史的事実や背景との関連を調べようとしない、そんな人間が日本でも増えている。それで何を得たいのか?かりそめの安心感か?よく考えろ、ナチズムの名の下に行われた残虐な行為の数々を。そして実際に「良いこともした」とされたそれぞれの事柄について検証された本書を読め。せめて -
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自粛警察や SNS での誹謗中傷など、人は大義名分を得ると集団となって他者を抑圧するような行動をとることに抵抗がなくなるようなことをよく聞くので、ファシズムの体験でも同じようなことが起きるのかなと思って手に取ってみた本書
ファシズムの体験教室で学生の行動や心理を色々と説明してくれたが、ちょっと同じ説明が多い気がして途中は少し読み飛ばしてしまった
最後の方に自粛警察にも触れていて、コロナの時に著者が帰国時に隔離生活を送ったという話があった。そのときに、弁当の質があまり良くなくてそれをSNSなどで訴えたが、ネガティブな反応も多かったらしい。
実は最初自分が読んだときも、写真を見て「コンビニ弁当くら -
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しばしば見かける「ナチスは良いこともしていた」論に対して、歴史学の観点から検証を行う。①オリジナルの政策なのか(ナチスだからこそできたことなのか)②政策の目的は何だったか③成果を上げていたのか、の3点から成果として主張されることの多い経済政策、労働政策、家族支援、環境保護政策などを簡易で明快な論理で否定していく。要はオリジナルは無いし、目的は排除を前提とした包摂と戦争に帰結し、成果も大きく評価できるものはない。「良い面もあれば悪い面もある」という一見中立や公平を装った態度は歴史解釈に限らずさまざまな分野で見られるが、本当に中立や公平な態度であるのか、をどのように受け止め考えれば良いかということ
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ネットでもたまに見る「ナチスの政策にも良い部分はあった」という言説を検証・否定する本。
その言説を発信する人たちがことごとくアレなので特に信じてもいなかったんだけど、調べもせずに否定していたら調べもせず肯定しているのと変わらないかなと思って読んた。これで堂々と否定できる。
そもそもナチスの細かい政策を調べたことがなかったので、ナチスに関する書籍の入門編としても分かりやすくて良かった。
結局こういうことを言い出す人って、中二病とか反対思想への反発が根底にあるんじゃないかな。中高生くらいなら教師や親の綺麗事への反発心からそういう考えに傾倒することもあると思うけど、いい大人が言ってるのは危険だ -
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ナチスが「良いこと」をしたかどうか。
この問いは、レイシストのように偏見に満ちた危険な差別主義的視点だ。ナチスだから、何もかも悪いわけないじゃないか。ユダヤ人だから全てが悪いという構文が成立しないように。物事は二元論ではなく、もっと複雑だ。戦争を全てナチスのせいにして、ナチスの存在だけが反省点だからと、思想背景や構造を反省しないならば問題だ。
私はナチス肯定派ではない。ただ、これを狂気の免罪符とするのに反対で、人間は過ちを犯しうるものとして警戒し、政策の良し悪しは当然あっただろうし、寧ろその良いと感じる魅力的な政策によって、悪しき思想が覆い隠される危険性がある、とする立場だ。だから、「ナチス -
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ネタバレ世の中のことにとても疎いので読んでよかった。
印象に残ったワード「全体主義」「差別」「ファシズム」「水道法改正」「種苗法改定」「カジノ」「歴史修正主義」
コロナ禍だからこそ伝えたい「自由」と「権利」と「多様性」
p19「自由や多様性を守る」ということは、(コロナ禍で)マスクをしない人も、バーベキューをする人も、同じ社会で暮らす仲間として尊重するということ…せめて糾弾したり排除したりしないということ…自分たちの安全のためにどうしても行動を変えてもらう必要があるならば、その人の人権や生活が損なわれないよう、民主的な手続きを守りながら、理性的にお願いするということ
p17〜18 社会を民主的 -
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甲南大学においてファシズムの恐ろしさを体験させる「社会意識論」という授業という興味深い内容。ナチスを想定させて、「ハイル・タノ」と敬礼させ、田野帝国と読んで、統一した制服まで着せ、ワッペンを付けさせるという。そしてナチス式の足踏行進、「リア充」を敵視した行動。確かにこのことにより集団化の怖さは体験できるだろう。しかし、周りの学生、教職員から見たら実に異様な集団に見えるだろう、正にナチスそのもの。大学当局に事前許可を取っていたことは当然のこと。あまりにもセンセーショナルな授業であり、確かにファシズムの怖さ、そこにのめり込んでいく高揚感を感じさせる有効な方法だと思う一方で、「ミイラ取りがミイラに
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歴史社会学が専門で兵庫の甲南大で「社会意識論」という社会学の講義中に行われた「体験学習」の実践記録。独裁とはどういう状態か、何が独裁を成立させるのか、独裁の中で民衆はどういう行動をするのか、という点についてヒトラーやナチズムの例での解説とともに、現代のポピュリズムがファシズムに繋がっている例を、コロナの「自粛警察」など日本で見られる最近の実例も含めて解説されている。
ポイントは「ファシズムが上からの強制性と下からの自発性の結びつきによって生じる『責任からの解放』の産物だということ」(p.193)で、「指導者の指示に従ってさえいれば、自分の行動に責任を負わずに済む。その解放感に流されて、思慮