田野大輔のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ナチスは良いこともしたのか?という問いに対し、
「良いこと」とされている政策には、オリジナルなものはなく、プロパガンダを信じさせる目的であり、実際に肯定的な結果を生んだものはなかった
と丁寧に説明してくれる良書でした。
印象に残っているのは、
良いこととされている政策の対象者が
"①ナチ党にとって政治的に信用でき、②「人種的」に問題がなく、③「遺伝的に健康」で、④「反社会的」でもない人々"
だという話です。
その前提をなくして「良いこと」を語ることはできないです。
「良いこと」の裏で①〜④に当てはまらなかった人たちは使い捨てられ虐殺された事実は残り続けます。
その犠牲なしにあり得なかった「良いこと」を、
悪いこともしたけど良いこともしたよね?と言えてしまう人々に虫唾が走ります。
政治家すらナチ党に見習うところもあるとか言ってしまいますし… -
Posted by ブクログ
「ナチスは良いこともした」とは私も何度か聞いたことがあるが、これが専門家の視点から確かな資料で斬られていくのは痛快の一言。
本書が私に明らかにしたナチスの実態を例えるなら、殺人鬼が捨て猫を拾っていても「善人」とは認めにくいうえ、猫のこともたいして大切にしなかった、という感覚だ。
子供の出生増加に対して、本書P80などの「実際にはナチ政府からの給付金や福祉制度は増加させておらず、イデオロギーに基づいた名誉をぶら下げただけでは子供は増えなかった」「女性に対しては家父長制的圧力、親となろうとする人々へは民族イデオロギー的圧力がマイナスに働いたのではないか」という指摘は現代の先進国の少子化対策に対する社会や政府への示唆に富んでいるのではないだろうか。
色々と現代の諸現象を考えるきっかけになった。とはいえ「ナチス」の名を引っさげて具体的な現在の勢力を批判したりするのは、何であれ陳腐になる気がする。このあたりとしたい。 -
Posted by ブクログ
あるニュースに、ドイツという国への興味を抱くことがありました
それは、国民背番号制に、DNAの親子関係を絡めて制度設計をしようと調査を始めたら、
ドイツの父子間の親子関係は、四人に一人は他人であった、というニュースでした
アメリカの占領は過酷なものですから、そのことと結びつけて考えてみたのですが、
四人に一人となると、小中高の学生から、すべての中学生が該当するぐらいの高確率です
ちょっと占領だけが原因とは思えないから、デマではないのかと何度も読んだのですが、離婚率の高さを述べる時の嘆きを帯びていて、少なくともエスプリは利いていなかったのです
そういうモヤモヤを感じていたのですが、本書を通じて、もしかしたら、これが原因なのではないのか、というドイツ特有の事情を見出すことできました
本書で語られる当時のドイツの農村の結婚事情やナチスの時代の水商売の扱いは特に面白い内容でした
掲げた理論を正しいものとして、理論的な整合性のもとナチスは正しい行いをしようとしていたのでしょうが、なんとも行き当たりばったりで無茶苦茶でした、それが今でもナチズムへの関心を保たせる色気のようなものを感じさせるのでしょうけれども
面白い内容の本なので、オススメです!
本書の内容を覚えておくだけで、ナチズム通もドイツ通も気取れると思います -
Posted by ブクログ
作家の菅野完氏はよく彼のYoutube番組で日本の右派は他人の生殖に口を出すことしかしていない(少し上品な表現にした)と語っているが、本書の前半ではナチスドイツの研究者である田野大輔氏によりナチスドイツのナチ党による他人の生殖について口を出すことについて語られている。本書を読むことでドイツと日本、戦前・大戦中と戦後80年近いという違いがあるものの、国家主義者がどんな考え方や意図を持ってどのように他人の生殖、性生活に口を挟むのかが良くわかると思うし、大戦時のナチスが言っていることと、現代の我が国の日本会議を始めとする宗教右派が言っている事は非常に似通っている事がわかると思う。共通するのは極めて頑迷な家父長制的な男性中心主義に基づき、女性を労働力・兵力としての人間の生産手段としか見なさない考え方であり、また、国家による生殖の管理を主張する点にも違いがない。本書の中にも当時のナチスドイツ政府による官制婚活パーティーが出てくるが、今の日本で行われている行政主催の婚活パーティーや官制出会い系サイトなど全く同じである。ナチスドイツに違いがあるとすれば、婚外子に関しても国の子宝として認めていたぐらいであり、ナチスの方が日本の宗教右派より寛容である(皮肉です)。国家主義とは他人の生殖に干渉したい欲望だと言っても良いぐらいである。
本書の後半は戦争と性の問題である。我が国では「従軍慰安婦」問題とされている戦地での官制売春宿の問題であるが、ドイツでも無縁ではなく、多くの占領地で(ドイツの場合には軍と親衛隊・警察により)官制売春宿が設営され、占領地の女性達が「雇用」された。ここでの雇用ではどの程度自発的なのか強制性があったのかはドイツでもはっきり全体がわかっていないようだが、かなり強制性があったのは疑いがない。もっとも兵士の性欲処理の問題はどの時代の国家においても共通した問題ではあり、それは我が国であれば在日米軍兵士による性犯罪など現代にまで続いている問題である。
ということで、雑にまとめてしまうが、性生活や生殖という切り口でも国家主義の害悪が良くわかる良書であった。 -
Posted by ブクログ
本書ではナチスの行為に対する感情的で誤った解釈をぶった切るのはもちろん、一部の若者がなぜ 「ナチスは良いこともした!」という発想に至るのか、その原因を掘り下げる視点が鋭くて読み応えがある。そうした若者たちの主張は、「学校を通じて押し付けられる綺麗事の支配への反発」だと著者は言う。これを聞いて私は、若者に適切な知識の発散の場がないからなのではと思った。もし「ナチスは良いこともしたのか?」という議題で学校の授業でディベートを行えば、多角的な視点で物事を見る力が少しはつくのではないだろうか。自分の考えを検証し、他人と意見を交換する機会に恵まれていないから、手軽くSNSで専門家に噛みついて発散してしまうのではないか。思考力を鍛え、柔軟な発想を受け入れない限り、本書を読んだところで内容の理解はできても、納得はできなさそうである。そのような人々が、甘い蜜の裏の意味に気付かず、当時のドイツ市民のように流されてしまうのではないかと思うと心配になる。
ナチスの「民族共同体」という思想は恐ろしくて、気持ちが悪い。国民の健康…というか遺伝的な優位性を厳しく管理し、はみ出るものには断種か処刑を行う。それを政府がやっているのだ。こうした事実が、「良いこと」と呼ばれかねない様々な政策とセットで展開されている。自然保護の責任者ゲーリング氏の言葉もおかしい。ドイツ人が森を歩いて喜びを得ることはわかるが、続く文章でユダヤ人を突然ディスりだす。「自分こそが選ばれた民族だとうぬぼれ、森を歩いても伐採できる木々の数量を計算することしか頭にない民族(ユダヤ人)」。自然保護とセットでユダヤ人を差別するのは文脈的におかしいし、あまりの政治臭の強さに笑ってしまう。本書では「包摂と排除がセットになっている」とあるが、これに違和感を持たない市民も相当まずい。
政府が行う誰かのための支援は、必ず「誰を対象外にしているか」を伴う。政策の良さは、意図・副作用・排除対象を隠すための包装紙になりうる。我々は、政治を「善悪」ではなく「設計思想」として読み解かないといけない。自分の頭で考える力の重要性、物事の一面だけを見ず、多面的に観察することの大切さを改めて思い知らされた一冊。読んでよかった。