田野大輔のレビュー一覧
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あるニュースに、ドイツという国への興味を抱くことがありました
それは、国民背番号制に、DNAの親子関係を絡めて制度設計をしようと調査を始めたら、
ドイツの父子間の親子関係は、四人に一人は他人であった、というニュースでした
アメリカの占領は過酷なものですから、そのことと結びつけて考えてみたのですが、
四人に一人となると、小中高の学生から、すべての中学生が該当するぐらいの高確率です
ちょっと占領だけが原因とは思えないから、デマではないのかと何度も読んだのですが、離婚率の高さを述べる時の嘆きを帯びていて、少なくともエスプリは利いていなかったのです
そういうモヤモヤを感じていたのですが、本書を通じ -
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ナチズム研究の専門家が、巷で言われる「ナチスは良いこともした」論について検証する。 一般によく言われるナチスの先進的な政策である、経済政策、労働福祉政策、家族支援政策、環境保護政策、健康政策について、いずれもナチスが特段優れた政策を実施したわけではない。ワイマール体制下の政策が実を結んだものが多い。また、「民族共同体」の訴えに基づいて行われた諸々の政策だが、裏を返せば「民族同胞」として包摂されなかった人(ユダヤ人、共産主義者、障害者、同性愛者等)を排除することを目的としていた。
「ナチスは良いこともした」論を唱えることは、ナチズムが実際にどんな体制であったかを無視した暴論である。 -
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本書の感想からやや離れる。
筆者のSNSのプチ炎上をリアルタイムで見ていた。「本筋の研究者によく物を言えるな」と驚いた覚えがある。筆者を批判しているツイートで目立ったものは共通して『上から「学者にわからせてやる」口調(当然敬語ではない)』『アカデミックなものに対する敵意』、俺は論破などされないというスタンスからはいる一連のツイートは胸に来るものがある。というのも、本書のような、その指示の専門家が書いた素人にもわかるよう記した本でも、彼らは納得しないだろうと思ったからだ。
各章のナチスの政策と、それが『良いこと』だったか、の是非は私のような素人にもわかりやすく大変勉強になった。中でも自分が一番心 -
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よいことをしたといわれるが、結局は独自のものではなく前政権からの引き継ぎで効果を上げていたり、他国と同じことを幾分か徹底的に行ったり、名目は立派だったけど結局は戦争のための、戦争による経済だった。つまり自転車操業だった。そもそもよいこととされる政策の対象はいわゆる健常なドイツ人のみであったため良いこととは言いきれない。そしてだんじょかんで強く家父長制的価値観が強く押し出されているので政策の内容が変わるものもあった。
移民が増えている日本は当時のドイツとやや似た状況になってきているため、ナチ政権のようなことはしないようにしつつ、けれども日本を守るにはどうすればいいか考える必要があると思わされる。 -
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作家の菅野完氏はよく彼のYoutube番組で日本の右派は他人の生殖に口を出すことしかしていない(少し上品な表現にした)と語っているが、本書の前半ではナチスドイツの研究者である田野大輔氏によりナチスドイツのナチ党による他人の生殖について口を出すことについて語られている。本書を読むことでドイツと日本、戦前・大戦中と戦後80年近いという違いがあるものの、国家主義者がどんな考え方や意図を持ってどのように他人の生殖、性生活に口を挟むのかが良くわかると思うし、大戦時のナチスが言っていることと、現代の我が国の日本会議を始めとする宗教右派が言っている事は非常に似通っている事がわかると思う。共通するのは極めて頑
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ナチスは極悪非道な政権であっただけでなく、良いこともした、という意見は、ちらほら見聞きしたことがあり、私が聞いたそれは、自然保護、健康増進のための研究、という側面から語られていました。
本書は、ナチスの研究者による、それら(他には、経済回復、労働者向けの福利厚生措置の導入、少子化対策)の政策が、どのような社会情勢の中で、どのような目的で行われ、どのような結果をもたらしたのか、そして、どのような二面性もそこには含まれていたのかも合わせて描き出されています。
「良い」「悪い」の意見を持つ、言う前に、多方面から俯瞰して考えることの大切さを感じました。
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Posted by ブクログ
数年前からちょこちょこ「いや、いうてナチスも良いことしてるじゃん?」みたいな言説をよく目にするようになり、それを(ほんとか~?)と思っていたのだけどナチスやナチズムに関する本は膨大で「ナチスは良いことをしたのか否か」をピンポイントで検証している本を探せずにいた。
だからこそこの本が出版されたときはタイトルが知りたいことズバリのもので嬉しかったし、必ず読もうと思っていた。
具体的なナチスの政策を検証するだけではなくなぜ「ナチスは良いこともした」という言説が出て回るのかというメカニズムやSNSなどに反乱する歴史的な言説を巡るあれこれも解説がなされており、それはナチスに限らず魅力的な歴史のあれこれに -
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アウトバーンの建設やレジャーの提供、少子化対策、環境保護、健康推進などナチスの政策には「良いこと」もあったという主張がネット空間などにあるが、専門家の立場からそれらの俗説を徹底的に批判している。経済政策やアウトバーンの建設は前政権からのものであるし、レジャーの提供や少子化対策、環境保護、健康推進などは「民族共同体」としてのドイツ国民の意識を高め戦争を遂行するためのものであった。何よりも、結局成果があがっていない。それどころか、ユダヤ人からの収奪、占領地の人々の強制労働などによる収入をドイツ人に分配しただけであった。「最初は借金で生活し、次には他人の勘定でくらした」のである。
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Posted by ブクログ
タイトルとテーマの着眼点が秀逸。
巷にはびこるナチズムへの俗説の否定を固い意志を持って推敲してやるという心意気に感銘を受ける。
局所的に見れば肯定的に見えるナチスの製作も、「民族共同体」というイデオロギー確立の道具にすぎずその背景にはおぞましい略奪や差別・ホロコーストに代表される大領虐殺がある。その前提をもって、「良いこと」であるとは到底断言できるものはない。
あとがきに著者が述べている、ではなぜこのような謬説が流布してしまうのか。社会からある種押し付けれられる「ポリコレ」へのバックラッシュであると。あまりにも正論を振りかざされるとなんでもいいから反動したくなる衝動が背後にあるのである。