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最愛の妻を急病でなくして以来、半ば死んだように生きている主人公が立ち直る話。
親から、疎まれはしなかったものの失望され、見放され、妻といる間だけが生きている実感だったワイン商。
「 妻の急死の前兆に全く気付かなかったことに罪悪感を覚え、抜け出したはずの、過去の見捨てられた子供時代の
...続きを読む呪縛に取り付かれ、砂を食むような毎日を送っている。
その彼が、ゆっくりと歩き出して語る最後の独白。
「エマ…エマ…エマ…」と叫びながら家の中を通っていった。声が壁にぶつかって反響している。
彼女を求めて叫んでいるのではなく、彼女に告げたくて叫んでいた…彼女に聞いてもらいたかった…自分がはじめてなすべきことをした。いつまでも臆病者でいたわけではないこと、私に関する彼女の記憶を裏切らなかったこと、あるいは自分自身を裏切らなかったこと…自分のあるべき姿を具現したこと…彼女に慰められ、充実感を味わい、あくまで彼女と一体なのだと感じていること、かりに今後、彼女のために泣く事があっても、それは彼女が人生の楽しみを最後まで味わえなかったこと、生まれなかった子供、に対する嘆きであって、自分が大切なものを失ったため、寂しいため…罪の意識のために泣いているのではないことを知らせたかった。」