ディック・フランシスのレビュー一覧

  • 大穴

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    勝って当たり前。圧倒して当然。
    こういうのは難しいですね。
    ディック・フランシス。邦題は漢字二文字。競馬業界がらみの、大人の男性向け極上ミステリー。
    更にその中の、引退した騎手が探偵として難事件に挑む、シッド・ハーレー主人公モノ。
    更に、その中の「大穴」(1965年)。
    定番中の定番の、名作中の名作。

    読んだことなかったんです。
    こういうのは難しいですね。却って。自分の中でも妙にハードルが上がってしまって。

    と、読み始めてしばらくは思ったのですが…。
    いやあ、さすが。面白かったです。
    無論こと、まあ、犯罪ミステリーという以上のものではないような小説ですけど、でも面白かった。馬鹿にしたもんじゃありません。
    犯罪ミステリーとか、ハヤカワミステリーとか、刑事もの、探偵ものっていうのは全部そうですが、
    意外に名品となると、なまじブンガクだとか難しい小説よりも、よっぽど深い。コクがあります。
    というか、ブンガクだとか言われるものでも、面白いものは、要は犯罪ミステリの要素がたっぷりあったりします。「罪と罰」だって「こころ」だってそうです。

    うまいなあ、いいなあ、と思ったのは。
    主人公はシッド・ハーレー。元騎手。チャンピオンまで行った人なんですね。
    (まずどうやら根本に、イギリスでは「競馬」という文化が日本より強く広く浸透していて、さらには、「紳士/上流階級の社交にもなるスポーツ」だ、ということのようです)
    さて、ハーレーさん。多分まだ30代。レースで大事故。左手を醜く損傷してしまって、不自由になり引退。
    その後は探偵社に勤務。競馬にまつわるトラブル専門の部署がある探偵社なんですね。そこでまあ、お飾りみたいに働いていました。

    要は、生きがいを急に失った。奥さんとも離婚。
    どうにも人生抜け殻っていう時期なんですね。ハーレーさん。

    このハーレーさんが、覚醒していく。
    とある競馬場を不当な手段で株式買い占めして暴利を得ようとする悪者に立ち向かう。
    きっかけは、あくまで偶然。そして、途中からは探偵社の正式な仕事として。
    元騎手ならではの知識や経験をベースにして、立派な名探偵ぶりを発揮します。

    そして、そんなこんなの途中で、
    「醜い左手を人に見られるのが恥ずかしい」
    という気持ちを、どう乗り越えていくか、という気持ちの問題が描かれます。
    情報を得るために近づいた、株屋の秘書の女性が顔に傷を負っています。この女性がサブキャラなんですけど、とっても素敵な感じ。
    この女性との交流。
    そして、ハーレーが「元チャンピオン騎手」という過去から「競馬ビジネス専門の現役探偵」へと、果敢に人生をやり直していく。
    それがとっても素敵なハードボイルド。
    事件の段取り、解決への苦労もなかなかの説得力。

    確かにディック・フランシス。「大穴」。うーん、素晴らしい。
    とりあえずは、ハーレー三部作(なのかな?)は、安全牌の娯楽ミステリーとしてストック完了、という気分。
    こういうのは、読書の快楽ですねえ。

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    2015年12月31日
  • 興奮

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    20131119 久しぶりに読んでみた。男らしさとは何か。読んでいてついもういいからと言いたくなってしまう。現実から逃げたくなった時にお勧め。

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    2013年11月19日
  • 本命

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    最後の最後のページまでハラハラさせてくれる。そして、最後の最後の一行までグッとくる。
    こんなカッコいい主人公、今のミステリー小説にいない。星を一つ減らしたのは、ヒロインがちょっと気になったから。

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    2013年09月01日
  • 大穴

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    ネタバレ

    家にある数少ない本のうちの一冊。父に進められて読んだら止まらなくなった。
    シッド・ハレーが超かっこいい。

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    2013年07月09日
  • 興奮

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    明らかにおかしな興奮を示して勝った馬が連続したが、薬がどうしても検出できない。

    このにひょんなきっかけから挑むことになった素人スパイの物語。

    スピード感はないかわりに、意外なトリックや、馬丁の暮らしぶりなど、実際に騎手だったという作家の経歴が生かされた、丁寧な描写が輝く。

    じっくり読ませる、なかなかの名作だと思った。

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    2013年07月23日
  • 密輸

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     馬を運送する会社の社長が主人公。といっても大きな会社ではなく、10人くらいの従業員を抱え、必要があれば自分でも運転をする男だ。彼は、元騎手で引退してこの会社を興した。業務は順調であるが、主人公自身の胸にはまた騎手である若い自分への「未練」が残っていて、そこがちょっと泣かせるところである。本当はもうひとつ泣かせる設定があって、とっくにそれが読後に大きな余韻を残すのだけど、それについてはここで書かない方がいいだろう。

     そういった要素もあり、使用人を雇っている立場であるということもあり、いつになく大人の雰囲気を漂わせている主人公である。それがなかなかの魅力で、恋愛シーンひとつにしても抑制が利いていて味わいが深い。それでいて、犯人を追いかける部分や自分の生き方に対するこだわりなどは、いつものフランシスの主人公らしく、秘めた情熱のようなものが感じられて、いつも以上に魅力的な主人公像だと思う。

     物語はまさにタイトルどおりで、誰が、何を、どうやって密輸しているかが次第に明らかになっていく。それにつけても、フランシスという作家の勉強熱心なことには頭が下がる。時代を丁寧にふまえながら、新しい要素を丁寧に勉強し、これしかないという形で物語に生かしている。元騎手という作者のプロフィールをみれば、競馬の世界に造詣が深いのは当然だが、それと同じようにまったく別のジャンルの知識を組み込んでいて、驚くしかない。

     それほど派手な作品ではないけれど、じっくりと読ませる傑作である。

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    2013年02月02日
  • 大穴

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    異色のヒロインが印象深い。...くっついて欲しかったな。にしても、あいかわらず登場人物がみんなカッコ良くて渋いねぇ!

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    2012年12月23日
  • 標的

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     以前読んだ時にはあまり印象に残らなかった作品。読み返してみるとなかなかの傑作でびっくりした。初読時を思い出してみると,サバイバルの専門家である作家が主人公ということなので,バグリイの「原生林の追撃」とか,フランシスなら「本命」のような,マンハントから逃げ回るような派手な設定を期待していたから,肩すかしをくらったような気持ちになったのではないかと思う。大間違いである。

     主人公は作家である。今までパンフレットのようなものを書いていたので,小説家としては駆け出しで,極貧の生活をしている。ある人物の伝記を住み込みで書くことになるのだが,その人物の周辺で巻き起こる愛憎にあふれた人間模様と犯罪が,この物語の内容である。ずばりと犯罪が描かれていくまでに少し時間がかかるのだけど,そのぶん少しドロドロとした愛憎劇にたっぷりつきあうことができる。なかなか興味深い。

     主人公がサバイバルの専門家であり,実は優れた作家であることが,物語の中で大きな意味を持つ。作家であることは,観察力,洞察力,想像力を生かした「目」としての役目と係わるのだけど,優れた「目」でなければ,この物語が描き出す人間模様がくっきりと見えなかったに違いない。

     サバイバルの専門家であることは,この物語のアクション的な要素を大きく係わる。いくつかある「危機からの脱出」シーンは,かならずしもアクションとして派手ではないのだけれど,描写に優れていて胸が重くなる。最後の山場の盛り上がりに向けて,少しずつ流れをつくっていく様は,さすがに名人芸である。

     サバイバルは心の持ち方である。これが主人公の考え方のひとつである。それが大きく試されるのが最後の山場である。アクションとしてはやはり派手ではないのだけれど,じっくりと描かれている主人公の「闘い」は,中期フランシスの名シーンのひとつではないだろうか。「利腕」で明確になった「戦う相手は心の中にいる」というテーマの,設定におけるひとつの頂点なのではないかとさえ思う。

     ただ,物語として考えると,真相の後味の悪さが辛かった。さわやかな結末を望む方には,どうもお勧めできないなと思ってしまう。

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    2012年11月15日
  • 直線

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     ずいぶん久し振りに読んだけれど、思った以上に充実した傑作で実は驚いてしまった。初読の時にあまり印象に残らなかったのはなぜだろう。

     急死した兄の事業の整理(それだけではないのだけれど)を心ならずもすることになった騎手の物語である。騎手自身は仕事上の事故で足を骨折していて、それが物語としても大きな陰影を与える。行動上のハンディであったり肉体的な弱点になると同時に、精神的な面でも印象的である。

     多くの謎が主人公の騎手の前に立ちふさがる。知っているはずのものが急に死んだことで結果的に謎になってしまったこともあれば(今僕が急死したら例えば僕のPCの起動はできなくなる)、犯罪に関係した謎もある。そういう点では、多くの事件が平行して進行するタイプのミステリといえなくもない。

     人間というのは多かれ少なかれ謎をはらんでいる。騎手は次第に自分の兄の人間像を詳しく知っていくのだけど、その人間像がなかなか魅力的で、「もっと早くからたくさん知り合っておけばよかったのに、もう取り返しがつかない」と騎手が嘆くのが切ない。前半部分では特に、生と死についてさまざまなことが心に浮かんできて、作品としての深みを感じさせる。

     ミステリとしてはやや小品で、初期の作品の変奏曲のような印象を持った。しかし、この作品の持ち味は、犯罪がありその犯人を捜すということではなく、もっともっと普通小説に近いものだと思う。ただ、サスペンスはさすがで、手に汗を握るようにして読み進められる。主人公に与えられる肉体的な苦痛も、シリーズ中屈指かもしれない。彼が感じる恐怖も。

     ただ残念なのはタイトル。直訳の日本語タイトルだけど、この単語の意味を「直線」といってしまうのは間違いといってもいいくらいだと思う。この単語は主人公の形容として使われていて、「まとも」とかいうような意味合いに、かなり深いニュアンスを込めているのだと思う。もう少しうまい二字熟語がほしかったなぁと残念に思うのである。

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    2012年10月20日
  • 大穴

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    とにかく痛い!と叫びたくなるくらい主人公は受難の日々。落馬事故で騎手生命を断たれた主人公、シッド・ハレー。ずっしりと重いけど不思議と軽やかな読後感で、競馬好きの方も、競馬を知らない人も楽しめる競馬ミステリの金字塔。

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    2012年07月21日
  • 審判

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     ディック・フランシスが一度ぺンを折った、いやさ、折りかけたのは、メアリ夫人の逝去が、ディックの心に投げかけた痛手が重すぎ大きすぎたためだろうと思われていた。それ以上に、メアリ夫人はずっとディック作品に共著とされてもおかしくないほど作品に深く関わっていたと伝えられる。

     ディックの作品には、毎作毎に異なる職業の主人公が据えられるが、その職業に応じて作品世界は彩色される。いわば競馬界とミステリ界しか知らない(おっと、飛行機の世界も精通していたっけ!:「飛越」参照)ディックという作家が、世界の様々な職業、別の舞台に小説の題材を求められるのも、メアリのリサーチによるものだったと言われる。

     画家、カメラマン、保険調査員、ネゴシエイター、運転手、映画人、鉄道マン、銀行マン……数限りない職業を描いていたディックが、ついに本書では法曹界に目を向けた。しかもメアリ夫人の手助けなしで。

     しかも驚いたことに、いやこれこそがディックという作家の誇りでもあるところなのだが、ロウヤー(法律家)にとっては法に基づく行動を取ることがいかに誇り高き行為であることなのかまでをも描き切ってしまうところである。下手なリーガル・サスペンスが書き切っていない尊厳に値する場所をまで描き切るところである。この作家、息子との共著となり、メアリ夫人を失って以降も、少しも変わらず、唸らせてゆくのである。全く!

     本書には、ディック・フランシスのピーク時そのものがそのままの姿で詰まっているように思う。理不尽な敵。執行される暴力と威嚇。脅え、そして戦おうとするが、更なる暴力に曝される罪のない犠牲者たち。法を曲げろと脅迫される主人公は、敵への攻撃に転じてゆく。暴力はまた振るわれエキサイトしてゆく空気の中で、尊厳と誇りを闘志に変えて。

     そうした人間の行動、方向、意志力といったものを軸に馬力を放ちながら、ディックの作品はトラックを走り抜けてゆく。障害を飛び越える。時には落馬や転倒によって大きな深手を負うことがあるが、それでも意志力により負傷は癒える。そうして、複雑に絡み合う陰謀の構造に小説は辿り着く。そのミステリとしての要素もしっかりと小説の核になってゆく。

     ミステリとハードボイルドを兼ね備えた作品の完成度は、今も全く一歩も譲らぬ妥協のない産物として保障されており、年に一度だけ世界に向けて出荷される。職人が丹精込めて作り上げた食材のように。世界の読書グルメが、果実のように作品を頬張る。満悦の笑みがこぼれる。

     エクセレント!

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    2012年07月01日
  • 罰金

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    名作揃いのフランシス作品の中で、ベストとは思わないけれどもかなり気に入っている作品であった。今回本当に久しぶりに読み直してみて、頭の中にあったイメージよりもずっとずっと「異色作」であったことに驚いた。

    事件としては、そう珍しいものではない。主人公は清廉潔白とは言い難い新聞記者である。彼の友人が自殺し、その背景を主人公が探るうち深入りしてしまい、敵の執拗な攻撃に遭う、というプロットは、フランシスの場合むしろよくある話だ。敵の脅迫に屈しない主人公の闘志も、いかにもフランシスらしい。

    例外的なことのひとつは、主人公の「家庭環境」である。前シリーズの中でももっとも印象的と言っていい。そして、そのことが主人公の心理に与える大きな影響は、読んでいてハラハラしてくるほどだ。一人称の物語の場合、どうしても主人公の視点で物語を見ていくのだけど、それを少し批判的に読んでいくと、ますます苦みが感じられる。

    そういうことを背景にした、主人公の振る舞い(ネタバレにならずに書くのはきわめて難しい)は、まさにシリーズ中では異色中の異色で、全作品を読んだ後で改めて読み直すと、本当にびっくりする。それが心理的な意味でも彼を追い詰めるわけであるし、彼が戦う相手が自分自身であるという点で、中期の作品の(毛色の変わった)先駆けなのかもしれない。

    ただし、最後の数行はいただけない結末で(すごくわかるけど)、一年後くらいにやってくる次の悲劇をどうしても想像してしまう。男って、悲しいね。

    どうも読み直してみると思うのだけど、僕にとってこの作品が魅力的だったのは、強い男のどうしようもない弱さのため、そしてラストに近いところにあるゲイルという女性の言葉のためだろう。全体としてはそれほどの傑作ではないかもしれないが、僕にとっては妙に気になる作品である。

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    2012年05月30日
  • 反射

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    久しぶりに読んで驚いたのだけど、なかなかの名作である。前作「利腕」があまりにも有名なので、その影に隠れていたきらいがある。

    主人公のフィリップ・ノアはプロの騎手であり、アマチュアのカメラマンである。友人の父親でプロのカメラマンが車で立木に激突して命を落とし、そのことに関わり合う中で、奇妙な出来事に巻き込まれていく、という物語と、母親から半ば見捨てられて孤独に育った彼が、敵対している祖母の依頼でまだ見ぬ妹を捜すという物語が、平行して進行する。

    家族環境とでたらめとしか思えない母親のおかげで、他人の間を転々としながら成長した主人公が、波風を立てぬように、他人と敵対しないように人の顔色ばかりをうかがいながら生きてきた感じがしみてくる。そして、そういう彼が新しい人生観を見つける姿は感動的だ。また、騎手という職業に関する、特に、自分が好きな仕事を続けられなくなるとき、人はどうしていくのかという問いかけは、胸に迫ってきた。

    結局のところ、彼自身に才能があるわけで、その辺はフランシスの小説らしいところであるのだが。

    ミステリとしては、謎解きの要素もあるものの、それほど重きを置かれている感じがしない。それどころか、結末に至るまで読んでいくと、もしかしたらかなりの異色作なのではないかという感じがする。「デス・ノート」ばりの、私的な正義と読めなくもないのだ。ただし、そのこと自体が、主人公の人生の在り方を大きく関わり合っていくので、後味は悪くない。

    主人公の恋人役、僕はかなり好きな女性像である。

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    2012年01月09日
  • 侵入

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    互いに何世紀もにわたって対立し、時には殺し合ったふたつの家が背景にある。まるで「ロミオとジュリエット」そのままに、両家の男女が憎しみを超えて愛し合うようになり、やがて結婚する。主人公は、「ロミオ」でも「ジュリエット」でもなく、ジュリエットの兄で騎手である。

    かなり成功した騎手だ。名誉も名声も手に入れている。なんといっても王女の持ち馬に乗っているのだ。このあたりは、自身も「女王陛下の騎手」であった作者の経験が生かされているのだろう。なにせ、主人公であるキットは、あのシッド・ハレーをのぞけば唯一、2作に登場した人物なのだから。お気に入りのはずである。

    成功した騎手であるということは、失うものもたくさんある。そういえば、先日再読した「度胸」も、いわば人為的な風評被害に騎手たちが襲われる話であった。今作も、当面の相手がマスコミであり、無責任な記事により危機に突き落とされるという点は似ている。ただし、被害を受けるのは主人公の妹夫婦だ。

    だから、この物語は、妹夫婦の危機を救うために、悪意に満ちたマスコミと戦う物語なのである。まさに、白馬の騎士として主人公は戦う。ただし、最初に書いた家の対立と、マスコミの悪意の理由が物語を複雑にし、一種独特の陰影をこの物語に与えている。途中から、主人公にとって誰が敵なのかを見失いそうになるのである。

    長い時間積みかなさった負の感情や、何人かいる悪役たちの憎らしさを和らげてくれるのは、王女との温かい交流と、ヒロインとの恋愛である。思想の馬主のように描かれている王女の素敵さは、この作品にとても優しい色合いを与えてくれる。でも個人的なことで言えば、それ以上に好きなのはヒロインとの恋愛物語の側面である。

    ヒロインは、さっそうとしたキャリア・ウーマンとして登場する。ふたりがプレゼントを交換するシーンが、僕は大好きだ。そして、最後の1行も。心が通じ合うということに対して、すっきりとわかりやすく、でも感動的に描き出していると思う。やや、強引な設定があるにしてもね。

    そういうわけで、実にお気に入りの1冊。今回、初めて文庫本で読んだのだけど、(当たり前だが)単行本にはない解説エッセイがあって、それもまた楽しめたのであった。

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    2011年11月06日
  • 興奮

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    障害レースで大穴が続くという波乱には、隠された意図と不正があるのではないか…
    一連の不正について証拠すら出てこない疑惑の解明を、障害レースの理事より依頼されたのは、牧場経営者のダニエル・ローク。

    ストイックに依頼を遂行するロークの所作と決して弱音を吐かずに困難に立ち向かう姿に、ハードボイルドな男の生き方を感じました。


    本作は、ハードボイルドでありながらミステリとしても一級です。いかにして競走馬に興奮剤を与えたのか、しかも一切の証拠の残らぬように…。

    思いもよらないトリックの着想と、不正を行う人間の残忍さと手強さを強烈なまでに印象づける描写が、本作の完成度の高さを物語っています。


    本作を通じて印象に残るのは、やはり主人公・ロークのタフな精神と正義感の強さでした。
    彼の内面が主観的に度々描かれているのは、ロークが様々なシチュエーションで自分を演じていた為でしょう。

    本作の重大な鍵を握る『恐怖』というものにローク自身が立ち向かう姿は、お手本のような凛々しい姿として、私の目に映りました。

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    2011年10月20日
  • 反射

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    この本も「読み返す本」「捨てられない1冊」。心から打ち解ける関係を必要とせず、求めもしなかったノアが、自分に妹がいると知らされ 天涯孤独だと思っていたのに 急遽親族の存在が出てくる。Dフランシスの小説は、裏表紙の説明や 紹介文を読んでも良さは伝わってきません。文と文の隙間にあふれる言葉のやり取りや 主人公の心の変化 周りを取り囲む人たち 推理への引導 駆け引きが面白いのです。でも「XX」という漢字二文字のタイトルは 読んだか読んでいないか 覚えられない私です

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    2011年10月08日
  • 興奮

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    個人的には久々の推理もの。
    前出の児玉清氏の対談本で名前がよく挙がってた、ディック・フランシスの本です。
    最初、競馬ものと聞いてあまり気が進まなかったのですが、
    読み始めたら、これが進む進む!
    競馬が全然わからなくても、普通の推理小説としてバッチリ楽しめます。

    最初の展開は、ありえねぇ!と思っちゃいますが、
    気づけば一緒にハラハラドキドキ。

    競馬シリーズとして、たくさん出されているようなので、
    ながーく読破していきたいシリーズです。

    気が早いが、秋の夜長におすすめ。

    0
    2011年09月02日
  • 興奮

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    ネタバレ

    最近イギリスの障害レースでは思いがけない大穴が十回以上も続出した。番狂わせを演じた馬には興奮剤投与の形跡が明白であったが、証拠が発見されなかった。そこにはどんなからくりがあるのか? 事件の解明を依頼された牧場経営者ロークは、厩務員に身をやつして、黒い霧の調査に乗り出した!


    薦められて読んだ本です。元が洋書でしかも結構前のものなので、ちょっとわかりにくい表現や、イメージしにくい物の描写等がありましたが、それを差し引いても面白かったです。

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    2011年08月14日
  • 審判

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    ディック・フランシスによる競馬シリーズの41作目で、息子であるフェリックス・フランシスとの共著2作目になります。
    一度は筆を置いたディック・フランシスが前々作の『再起』で復活しました。
    そして前作からは息子さんと共著となったようです。
    競馬シリーズは主人公の職業は毎回様々で、でも何がしか競馬界と関係をもっているというのがお約束で、今回の主人公は弁護士でアマチュア騎手です。
    この弁護士が仲間のプロ騎手の殺人事件の裁判に巻き込まれていきます。そして弁護を担当して必ず裁判に負けるように様々な圧力がかけられます。
    この圧力に屈するのか…それは、是非読んでみてください。
    今回の主人公はいまいちタフな感じが無いのですが、正義を貫く姿勢が良かったです。
    共著という事、翻訳の方が変わった事、これらによる若干の違和感は無くも無いですが、作家さんの世界ではあまり聞かないですが世襲に近いものになっていくように思います。
    話の終わり方については賛否両論ありそうです。納得は出来ませんでしたが、ある意味スッキリはしました。

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    2011年06月15日
  • 煙幕

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     主人公が映画俳優というのにはかなり意表をつかれた。相当売れっ子の俳優だけど、実に人間的で友達になりたいタイプの男である。スキャンダルを求めたり、広告塔として振る舞うことを求めたりする業界の人たちや、登場人物のキャラクターと俳優の人柄を混同する人たちのおかげで、主人公の魅力が引き立っている。わずかなシーンでしか登場しないのに存在感が大きな家族たちも、主人公人間像を魅力的なものにしていると思う。

    犯罪捜査の話でいうなら、途中の微妙などんでん返しが印象的だった。それがあるから犯人の邪悪さがはっきりと見える。このあたりは、さすがにうまいなあと唸る。

    主人公が俳優であることが大きく意味を持つのは、最後の山場だ。それを抜きにしても、シッド・ハレーものに匹敵するくらいの、 迫力のある設定で、読んでいて苦しくなる。だからラストの爽やかな友情がフワリと読者の心を打つのだと思う。

    全体としてあまりによくできた話であり、「味わい」という点では名作にはなりきれない作品なのかもしれないが、爽やかで気持ちよく読める傑作だと思う。

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    2011年06月15日