ディック・フランシスのレビュー一覧
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ディック・フランシス競馬シリーズ第40作目(全44作)。
最愛の奥様を亡くしてから6年間の沈黙の後、86歳のフランシスが自身の「再起」の舞台で主人公に選んだのは、4度目でこれが最後のシッド・ハレー。
障害競馬の元全英チャンピオン騎手という自分と同じ肩書きを持つハレーには、並々ならぬ思い入れがあったのだろう。3作品以上に主人公として登場するのはハレーのみである。
本作のあらすじは以下の通り。
敏腕調査員のハレーは競馬の八百長疑惑を調べていたが、八百長への関与を疑われた騎手が死体となって発見され、その殺人容疑で逮捕された調教師も釈放の後不可解な死を遂げてしまう。真相究明に奔走するハレーだが、謎の -
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ディック・フランシス競馬シリーズ34作目(全44作)の主人公は、唯一3度目登場のシッド・ハレー。
馬の脚が切断される残忍な事件が相次ぎ、容疑者として浮かび上がったのは、なんと騎手時代の好敵手で親友でもあるエリス・クイントだった…。
冒頭というかカバー背表紙で既に読者には犯人が判明しているのだが、それでも事件発生から真相に迫るまでの過程が面白く、全然飽きない。
今作でもやはりハレーはどん底に突き落とされるのだが、これまでの作品とはまた異なる地獄である。
犯人に気付いたハレーは苦悩と葛藤の末エリスを告発するのだが、エリスは今や国民的タレントであるので、逆に世間から執拗になじられるのだった。親し -
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今作の主人公は、ディック・フランシス競馬シリーズの中では珍しく2回目登場のシッド・ハレー。
前作で生ける屍だった彼は絶望の中から自分を取り戻し、今作ではフリーの敏腕調査員となっている。とはいえ、やはり輝かしい騎手時代への未練は捨てきれないようだ。
次々とレース生命を絶たれていく競走馬&競走馬のシンジケートに関する不正を追う中で、凶暴な悪党から壮絶な脅迫を受けるハレー。本作はそんなハレーの恐怖を軸にストーリーが展開していく。
なぜタイトルが「利腕」なのかを理解できた時、ページを読み進める手が進まなくなるほど恐ろしかった。
なんと、本作では不屈のヒーロー・ハレーが恐怖におののき悪党から一度は尻 -
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私が初めてディック・フランシスの作品に触れた記念すべき一冊。
冒頭、腹を撃たれている主人公が目を覚ます場面からぐいぐい話に引き込まれ、寝る間も惜しんで最後まで貪り読んだ。
とにかく、主人公シッド・ハレーの内面の描写が秀逸なのである。
ストイックな不屈のヒーローではあるのだが、後ろ向きな感情の生々しい描写によって生身の人間以上の人間臭さを与えられている。
例えば、
競馬レース中の事故で失った左手の機能とチャンピオン騎手人生に対する執着や、人生への絶望・無気力。五体満足でない自分自身に対する恥辱の念。執拗に自分へ危害を加えようとする黒幕への恐怖…など。
周囲の人々との関わりの中で少しずつ魂の苦し -
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ディック・フランシスのエンタテインメント「競馬ミステリ・シリーズ」
後期の充実した一作といえるでしょう。
今回の主人公は、英国ジョッキー・クラブの保安員トー・ケルジイ。
まだ29歳のイギリス人だが、18で財産を継いだと同時に天涯孤独となった大金持ちで、世界中を放浪し、馬に関係のある仕事を転々としてきた後に、スカウトされた。
競馬界を管理する権威ある組織に属する諜報部員のような存在。
もともとあまり目立たない外見で、少し変装するだけでまったく人に気づかれない特技を持つ。
イギリスで大きな不正を行ったと思われる危険人物フィルマーが、裁判では無罪となった。
フィルマーがカナダの競馬界に食い込もう -
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個人的には文句無し!
今の日本のミステリーは、8割型が女性の登場人物に「美しい」と描写して、何の変哲もない男性主人公とくっつき、肝心の謎もイマイチだったりして「何か薄っぺらい設定だな〜」って事が多いと感じてるのですが・・・この人の本は、人物の所作や言葉遣い、考えている事などから「素敵な女性なんだろうな」「カッコいい男の人なんだろうな」と想像できるのもすごいなと思った。菊池さんの翻訳の手柄(?)
もちろんミステリーとしても面白い。因みに、これはトリックが奇想天外で度肝を抜かれる系のマユツバ小説ではないよ。ハードボイルド的な行動を起こして謎を解いて行くものなので、ハラハラドキドキを堪能して下さい。 -
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フランシスの小説はすべて好きだけど、その中でも、この時期の作品とがもっともすばらしいと思う(初期の作品も傑作が多いが)。多少スランプ気味だったフランシスが「利腕」で再起を果たし、新たなテーマを明確にして書いている頃だ。
新たなテーマとは、「内なる敵」である。「利腕」や「証拠」において、それは「恐怖」だった。本当の敵は他人ではなく、与えられた恐怖に負けそうになる自分自身なのだ。犯人を見つける、という狭い意味での推理小説の枠組みを超えて、むしろ冒険小説的な展開を見せているのは確かだが、小説としての味わいは、主人公が自らの「内なる敵」を打ち負かすところにあると思う。
本作は、前作「侵入」の続編に -
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ネタバレ長年にわたり、ともにヒット作を生み出すパートナーであった最愛の妻メアリーさんの死後、5、6年の沈黙を破って、2006年に復活したディック・フランシスの、復活後、3作目。
主人公は、弁護士であり、かつアマチュア騎手。
仕事に誇りを持ち、なおかつレースに出ることを心から愛している。
「これぞ、ディック・フランシスだ」とうれしくなりながら読んだ。
そして、主人公は7年前に妻と死別しており、ともに過ごしたころを回顧するシーンもある。
レースへの思いを綴るところも、妻との思い出を綴るところも、ディック・フランシス自身の言葉なのではないかと思うくらい、自然で、そして切実であった。
小説のプロットもよく -
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フランシスの数ある傑作の中でも、個人的にはもっとも好きな作品のひとつ。もしかしたらベスト1かもしれない。
もちろんミステリなのだけど、それ以上に強く感じるのは、若者が戦い、挫折し、困難を乗り越え、そして栄光をつかむ物語としての魅力である。最初から最後まで、僕は主人公を応援しながら読んでいた。口の悪い人なら、ちょっとひねったサクセスストーリィに過ぎないと言うかもしれないけど、それでいいのだ。
恋愛の話や、主人公の置かれた境遇の話も、僕にはすとんと胸に落ちて興味深かった。そしてそれが単なる彩りの話ではなく、犯人と主人公の皮肉な共通点につながっていくあたりのプロットも心憎い。
思いの外早めに犯 -
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名作ばかりを続けて読むのは案外疲れるものだ。疲れるほどに、引き込まれてしまう傑作のひとつである。
フランシスの作品の特徴のひとつは、主人公の持つ極めて硬い意志にある。この作品の主人公が時に率直に語る「曲げられないもの」は、なんというか、まぶしすぎる感じがする。
それでありながら、敵を打ち負かす為にその自尊心が傷つけられることを耐え忍ぶ。そうして得たものを、誰かを守る為に投げ捨てる。精神的にも肉体的にも堪え難いことに耐えてきたくせに、「私は記憶力が弱くて」なんてしゃあしゃあと言う。命がけで依頼を果たして報酬を返し、「では、なぜ引き受けたんだ」と訊かれて「スリルのためですよ」と答える。嫌味すれ -
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文庫が出たので、再読。
読むものに困ったときにはディック・フランシス!
ニューマーケットで、レストランのオーナーシェフをしているマックス・モアトン。
伝統あるレースの前夜祭で料理を担当するが、腹痛に苦しむ。
客が何人も食中毒に倒れていたとわかり、料理に問題があったと疑われ、レストラン閉鎖の危機に。
ところが、レース当日、賓客を集めた客席で爆破事件が!
廊下にいたマックスは、九死に一生を得る。
テロと報道されるが、二つに事件には何か関連があるかも知れない。
独自の調査に乗り出すと、命を狙われ…?
ディック・フランシスは執筆協力者だった奥さんが亡くなった後しばらく休筆していましたが、「再起」で復 -
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何度目かの読み直しを経て、そして作者の全長編を読み終えた目で見て思うのだが、この作品は非常にレベルの高い、この作者らしい傑作なのではないだろうか。
それは、犯人という名の敵と戦うと同時に(いや、それ以上に)、自分との戦いがテーマとなっているからだ。フランシスといえば「内なる敵との戦い」というイメージは、おそらく「利腕」以降のものだと思うけれど、この作品はそれの先駆けと言っていい。まさに主人公は、あるべき自分の姿を求めて歯を食いしばるのである。
貴族であるという主人公の設定は、ある意味わかりにくい。日本人であれば、たとえば天皇家の一員が、自分と同じ職場で肉体労働のようなことをやっている -
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数あるディック・フランシスの作品の中で、5本の指に入る傑作だと思うのは、主人公の若さによるものが大きいのではないかと思う。20代前半の主人公は、若く、無鉄砲で、ロマンチックである。
だからこそ、自分の命を賭け物にしたようなことができるのだし、それをしたくなるような情熱のほとばしりが素直に納得できる。同じようなことをする中期以降のスペンサーがバカに見えるのとは対照的だ。
恋愛物としての共感度も個人的には素直に高い。特に、ミステリとして一応の解決を見てから後の展開は、かろうじてミステリ的な興味を残してはいるものの、恋と友情の物語であり、蛇足といえば蛇足なのだけど、独語のさわやかな後味には -
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競馬シリーズっていう名前に腰が引けてしまう人もいるかもしれないけれど、競馬にまったく興味のない人も楽しめる。食わず嫌いは損だっていう代表みたいな本だ。
ミステリに分類されるから、事件があって探偵がいて、犯人を突き止めるって話なわけだけど、この本の魅力はそんなことにはない(もちろん推理小説としても水準以上の出来だけど)。作者が描き出す人物が、ただひたすらかっこいいのだ。ただかっこいいと言っても、スーパーマン的なものではない。自分の弱さに悩み、傷つきながらそれを克服していく姿が、圧倒的に感動なのだ。
事故で片腕を失った主人公が、ねばり強く犯人を追いつめていく物語だけど、特にラストシーン、 -
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ディック・フランシスの小説にはかつては同じ主人公が出てこないことになっていたが、シッド・ハレーだけが例外だった。初期の作品『大穴』に出てきたあと、この『利腕』に登場した。
その後、キット・フィールディング君が二作続けて登場したが、そのあと『好敵手』でシッド君が三度目の登場となり、やはりフランシス作品のなかの存在感ナンバー1の座を印象付けた。で、このあと、最愛の妻を亡くして一度は引退したフランシスが息子の応援を得て書いた『再起』も、やはり一番人気のシッド君に登場してもらったので、シッド君は都合四回出てきたことになる。
さて、4回の登場中、もっとも好きなのがやっぱり『利腕』。
初回に登場したと