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Posted by ブクログ
フランシスの小説はすべて好きだけど、その中でも、この時期の作品とがもっともすばらしいと思う(初期の作品も傑作が多いが)。多少スランプ気味だったフランシスが「利腕」で再起を果たし、新たなテーマを明確にして書いている頃だ。
新たなテーマとは、「内なる敵」である。「利腕」や「証拠」において、それは「恐怖」だった。本当の敵は他人ではなく、与えられた恐怖に負けそうになる自分自身なのだ。犯人を見つける、という狭い意味での推理小説の枠組みを超えて、むしろ冒険小説的な展開を見せているのは確かだが、小説としての味わいは、主人公が自らの「内なる敵」を打ち負かすところにあると思う。
本作は、前作「侵入」の続編にあたる。これはフランシスにおいてはとても珍しいことで、複数の小説に登場する主人公は、外には1人しかいない(フランシス小説の代名詞ともいえるシッド・ハレーである)。連作として描かれたのには訳がある。主人公やその人間関係が「なじみのもの」であることが、この小説の「敵」を描き出すためには必要だからだ。
この小説における「内なる敵」は「恋」である。優秀な騎手であり、闘志あふれる戦士である主人公も、自らの心の中にある「恋」、嫉妬や弱さに勝つことが出来ない。ふらふらしているし、苦しんでいる。それが読んでいてとてもリアルに迫ってくる。恋をする男は、それだけでハンディを背負っているのだ。
前作で感動的なハッピーエンドを迎えた恋だからこそ、続編のスタートにびっくりする。つらくなる。だから、主人公の「戦い」が胸に迫ってくるのである。その戦い方が、別の小説で、たとえば「恐怖」や「苦痛」と戦う別の主人公とそっくりであるのも興味深い。「何事もないかのようにやせ我慢をする」という方法である。そんなことも、今回の「敵」の場合には、かえって厳しくなるようだ。
結局、ある意味で主人公はこの「敵」に対しては、負けて、そして勝つのだけど、ラスト少し前の「敵」との対決は、胸にじんと迫る名シーンだと思う。
あ、もちろん、人間の敵も存在するし、彼との戦いが表面的には小説のストーリィ。自分にとって大切な人や物を守ろうと戦う主人公の姿も、ナミの小説以上にステキである。
Posted by ブクログ
キットを主人公とする連作の2冊目。
尊敬する馬主で恋人の伯母でもある王女一家に降りかかった無理難題を解決するために奔走するキット。
若々しく、トップに上り詰めるヒーローなのだが。
意外な苦労と弱点が…
Posted by ブクログ
競馬シリーズ25作目。
珍しく続編だった。
もちろん前作「侵入」も読んでいるので、
冒頭で主人公キットと婚約者ダニエルとうまくいっていないのに、
心が痛んだ。
今回はキットが騎乗する馬の馬主、カシリア王女が事件に巻き込まれる。
夫の共同経営者が、銃の製造に乗り出すべく、
夫を、カシリア王女を脅迫してくる。
その状況の中で馬が殺されたのはかわいそうだった。
ダニエルと趣味が合い、
カシリア王女の甥という高貴な生まれの恋敵が現れ、
心穏やかではいられないにも関わらず、
脅迫者に対しては共闘せざるを得ない。
その過程で彼を好ましく思ってしまうキットは、
その度量の深さ、公平さが素晴らしい。
面白かったのは、王女の家の「竹の間」、
貴人を泊めるのにふさわしい中国趣味の部屋をめぐって、
王女の夫の妹が噛みついてくるところ。
しかも彼女は意外にキーパーソンだった。
最後には、長年の宿敵を排除することができて、
ダニエルとはハッピーエンドになって良かった。